【特別企画】
「PCエンジン」生誕37周年! カートリッジではなくHuCARDを採用。コンシューマ機世界初のCD-ROMにも対応
「ボンバーマン」の対戦マルチプレイモードはPCエンジンが元祖
2024年10月30日 00:00
- 【PCエンジン】
- 1987年10月30日 発売
日本電気ホームエレクトロニクス(以下NEC-HE)が1987年10月30日に発売したコンシューマーゲーム機「PCエンジン」が本日生誕37周年を迎えた。
PCエンジンは、任天堂の「ファミリーコンピュータ」より4年2か月ほど後、セガの「セガ・マークIII」より約2年後に発売されたコンシューマーゲーム機。これら2製品の競合製品として登場したが、後述するDuoシリーズや携帯機のPCエンジンGTやPCエンジンLTなども登場し、長く愛されたゲーム機である。
本稿では、初代PCエンジンからCD-ROM2、マルチタップ、PCエンジンDuoと一通り購入した筆者が、PCエンジンの先進性と魅力、当時のゲームファンに与えた衝撃、筆者が熱中したゲームソフトなどを紹介していきたい。
据え置き型コンシューマゲーム機で最もコンパクトで軽い筐体を実現
PCエンジンは、他の機種で一般的だったカートリッジでゲームソフトを提供するのではなく、HuCARDと呼ばれるカードでゲームソフトが提供されていた点が特徴だ(なお、セガ・マークIIIでは、カートリッジだけでなくカードタイプのマイカードでもソフトが提供されていた)。
HuCARDのサイズはほぼクレジットカードサイズで、厚さも2.5mm程度なので、ソフトを複数持ち歩いてもかさばらないことが利点だ。PCエンジン向けのゲームソフトのパッケージは、CDケースを流用したもので、CD収納用ラックにもそのまま収納することができた。カートリッジに比べて小さく薄いHuCARDを採用したことによって、本体も小型化されており、サイズは140×135×40mm、重さ約350gと、据え置き型コンシューマゲーム機の中では、他のメーカーの製品も含めて最もコンパクトで軽いことも魅力だ。
また、電源スイッチはHuCARDのロックを兼ねており、電源をオフにしないとHuCARDの抜き差しができないようになっているのも、コンシューマゲーム機としてよく考えられている。
筆者は、中学生から高校生にかけて、ファミコン、SC-3000、スーパーファミコン、PCエンジン、マスターシステム、メガドライブと次々にコンシューマゲーム機を購入し、ゲーム三昧な毎日を送っていたが、大学時代に遊んだゲーム機として一番印象に残っているのは、PCエンジンなのだ。前述したようにPCエンジンはコンパクトで軽く、ソフトも薄くてかさばらないので、本体とコントローラー、ソフト数種類を気軽に友人の家に持っていくことができたのだ。広い部屋に下宿していた友人の家に友人達と集まり、「スーパー桃太郎電鉄」や「ボンバーマン」、「モトローダー」などを夜を徹して何度もプレイしていた覚えがある。
大型キャラが話題を集めた準ローンチタイトルの「THE 功夫」と2本に分けて発売された「R-TYPE」
PCエンジンは、当時のコンシューマゲーム機としては破格の高性能を実現していた。CPUはファミコンと同じ6502互換CPUに独自命令を追加したカスタムCPUを採用。クロック周波数が7.16MHzで、ファミコンの4倍の速度で動作した。また、音源も波形メモリ6音で、PCM音声の再生にも対応していた。グラフィックス性能も高く、512色中最大481色表示に対応、最大64個のスプライトの表示が可能で、横方向にスプライトを最大16個まで並べられるなど、後発製品だけあり、ファミコンやセガ・マークIIIなどを遙かに上回る性能を誇っていた。こうした基本スペックの高さが、アーケードゲームの高品質な移植を可能にし、後述するCD-ROM対応もあわせ、発売後約12年もソフトが出続けることになったのだ。
PCエンジンのローンチタイトルは「上海」と「ビックリマンワールド」の2本である。本来は「THE 功夫」という格闘アクションゲームもローンチタイトルとして発売予定だったが、発売直前に不具合が判明し、発売が11月21日へと3週間ほど延期されたのだ。「THE 功夫」は、高さが画面の半分くらいにもなる大きなキャラクターがダイナミックに動くゲームで、小さなキャラクターが動き回るファミコンのゲームしか知らなかった当時のプレイヤーを驚かせた。
初期のPCエンジン用ソフトの中でも、特に有名なのは「R-TYPE」であろう。「R-TYPE」は、元々アイレムがアーケードゲームとして開発した横スクロールシューティングゲームであり、画面に入りきらないような巨大なボスの登場や溜め撃ちできるシステムにより、ヒットとなったゲームだ。
アーケード版の登場から約8か月後に登場したPCエンジン版「R-TYPE」は、高い再現性でPCエンジンの初期のキラータイトルとなったのだが、初期のHuCARDは容量が最大2Mbitまでだったため、R-TYPE全8面を1つのソフトとして収録することができず、1面から4面までを収録した「R-TYPE Ⅰ」と、5面から8面を収録した「R-TYPE II」という2つのソフトに分けて発売されたのだ(「R-TYPE II」は、「R-TYPE Ⅰ」発売の約2か月半後に発売された)。HuCARDも、技術の進化により大容量のものが作れるようになり、最大20Mbitまで登場した。なお、容量が大きいHuCARDは端子側の黒い部分の面積が大きくなっている(黒い部分にROMチップが入っている)。
コア構想による高い拡張性とCD-ROM登場の衝撃
PCエンジンは、NEC-HEとハドソンの共同開発によるものだが、「コア構想」と呼ばれる拡張性を重視した設計になっていることも特徴だ。PCのように、本体がコア(核)となり、さまざまな周辺機器を接続して拡張するという構想で、機能拡張用に本体背面に拡張バスが用意されていた。
拡張バスに接続する周辺機器としてさまざまなものが発売されたが、その代表的なものとして、「天の声2」や「バックアップブースター」などのセーブ用外部メモリ、初代PCエンジン用の「AVブースター」などがある。初代PCエンジンは、ファミコンなどと同じくRF出力だったが、AVブースターを拡張バスに接続することで、コンポジット出力(ビデオ信号)への対応が可能となる。なお、初代PCエンジンのモデルチェンジ版として1989年12月8日に登場した「PCエンジンコアグラフィックス」では、映像出力がRF出力からコンポジット出力に変更されている。同時に、表示能力が2倍になった上位モデルの「PCエンジンスーパーグラフィックス」も発売されたが、こちらは専用ソフトもあまり出ず、主流にはならなかった。
当時、コンシューマゲーム機でゲームをしていた方々は、「PCエンジンといえばCD-ROM」という印象を持っている人が多いのではないだろうか。PCエンジンは、当初からCD-ROMを記録媒体として使うことを前提で設計されており、本体発売から約1年1か月後の1998年12月4日にPCエンジン用CD-ROMドライブ「CD-ROM2」が発売された。PCエンジンとCD-ROM2を合体させることで、CD-ROMで供給されるソフトを利用できるようになる。コンシューマーゲーム機で、CD-ROMに対応したのはPCエンジンが世界初なのだ。
CD-ROM2は当初、CD-ROMユニットとインターフェースユニットが別売りになっており、合計価格は5万9,800円と、ゲーム機としてはかなり高価だった。PCエンジン本体の価格は2万4,800円であり、合わせると8万5,000円程度になる。
CD-ROM2によって、PCエンジンのソフトは最大540MBという、当時としてはほぼ無制限ともいえる記録媒体を利用できるようになった。HuCARDの最大容量が20Mbit(2.5MB)なので、最大容量のHuCARD216枚分の容量を持つことになる。ただし、実際はCD-ROMをすべてプログラムの記録媒体として使うのではなく、一部を生音を記録できるCD-DA(音楽CDと同じ規格)として使うことが一般的であった。
PCエンジンのCD-ROM2対応ソフトには名作がたくさんがあるが、やはり「イースⅠ・II」は外せない。特に「イースII」のオープニングムービーの素晴らしさには度肝を抜かれた。「イース」はもともと音楽が素晴らしいのだが、CD-ROM2の「イースⅠ・II」では、多くの曲が本体の音源ではなく、生音を録音したCD-DAで再生されているのだ。「イースII」のオープニングムービーでも、セリフ付きのCD-DAによる壮大な音楽に合わせて、高品質なアニメーションがグリグリと動く。音楽とアニメーションの同期も素晴らしく、本当に感動した。オープニングムービーは、オリジナルのPC-8801mkIISR版を遙かに上回る完成度であり、ゲーム中のBGMのクオリティ向上とあわせて、オリジナル版をやりこんでいた筆者も、大枚をはたいてCD-ROM2を買った甲斐があったと、深く印象に残っている。
マルチタップで最大5人の同時プレイが可能。「ボンバーマン」の対戦マルチプレイもPCエンジンが元祖
PCエンジンは、多人数プレイへの対応も先進的であった。本体には1つしかコントローラーを接続できないのだが、オプションのマルチタップを使うことで5つのコントローラーを接続できるため、最大5人での同時プレイが楽しめるのだ。
この多人数同時プレイを活用したゲームの代表が、1989年2月23日に発売された真上視点のカーレースゲーム「モトローダー」と1990年12月7日に発売された「ボンバーマン」だ。
「ボンバーマン」といえば、多人数でのバトルが熱いゲームだと思っている方も多いだろうが、ファミコンで発売された初代「ボンバーマン」は、多人数対戦プレイには対応しておらず、1人でプレイするゲームであった。「ボンバーマン」をPCエンジンに移植する際に、マルチタップを活かした最大5人での対戦プレイモードが新たに追加され、みんなでワイワイパーティゲーム的に楽しめるようになったのだ。PCエンジン版「ボンバーマン」の登場が、その後の「ボンバーマン」の方向性を決めたといってもよい。筆者も大学の友人達と友人の下宿で「ボンバーマン」の対戦プレイを延々とやっていた記憶がある。PCエンジン版「ボンバーマン」は人気を博し、その後も「ボンバーマン'93」「ボンバーマン'94」と合計3作品がPCエンジン版として登場している。
CD-ROM2と一体化されたDuoやポータブルで遊べるGTも登場
CD-ROM2登場以降、CD-ROM2で供給されるゲームソフトが増えたこともあり、1991年9月21日にCD-ROM2(正確には強化されたSUPER CD-ROM2)をより気軽に楽しめるCD-ROM2一体型の「PCエンジンDuo」が登場した。PCエンジンDuoの当時の価格は5万9,800円であり、PCエンジン本体とCD-ROM2を買うよりはかなり安くなった。PCエンジンDuoはデザイン的にも洗練されており、筆者もPCエンジンDuoを追加購入した。PCエンジンDuoは、さらにマイナーチェンジ版のPCエンジンDuo-R、PCエンジンDuo-RXが発売され、価格もそのたびに下がっていった(PCエンジンDuo-Rは3万9,800円、PCエンジンDuo-RXは2万9,800円)。
PCエンジンは、携帯ゲーム機が発売されたこともユニークだ。ソフトの記録媒体としてコンパクトなHuCARDを採用しているからこそ実現できたといえるが、1990年12月1日に「PCエンジンGT」が発売。当時の価格は4万4,800円で、据え置き型コンシューマ機と互換性がある携帯ゲーム機の発売は、こちらも世界初であった。
後継のPC-FXは不発だったが、PCエンジン miniで復活
PCエンジンは、ナムコやアイレム、タイトーといった当時ゲームセンターで人気のアーケードゲームメーカーの移植タイトルが続々と登場し、ゲームセンターになかなか行けない中高生にはありがたいゲーム機であった。筆者も、ナムコの「ドラゴンスピリット」や「パックランド」、「オーダイン」などをよく遊んだ記憶がある。
1990年代半ばには、「プレイステーション」や「セガサターン」、「NINTENDO64」などの3Dポリゴンがバリバリ動く新世代機が登場したため、次第にPCエンジンはCD-ROM2の大容量を活かしたアドベンチャーゲームに活路を見出すようになっていった。
PCエンジンの後継として1994年12月23日に「PC-FX」が発売されたが、3Dポリゴン機能を搭載せずPCエンジンの延長的な設計であったため、前述の新世代機との競争に敗れ、NEC-HEはコンシューマゲーム機から撤退することになった。
しかし、PCエンジンのファンは多く、レトロゲーム機復刻ブームに乗って、2020年3月19日に、コナミデジタルエンタテイメントからAmazon専売で「PCエンジン mini」が発売された。PCエンジン miniは、初代PCエンジンを約85%に縮小した形状であり、PCエンジンの人気ソフト34本が収録されている(ゲームの追加はできない)。若い頃にPCエンジンを愛用していた筆者も、PCエンジン miniを購入していくつかのゲームをプレイしてみたところ、当時のさまざまな思い出が蘇った。
改めて振り返ってみると、PCエンジンは、2Dベースのコンシューマ機の頂点というべき完成度の高い製品だったといえる。一時期はスーパーファミコンに次いで国内2位の販売シェアを獲得したこともあるPCエンジンは、国内コンシューマ機の歴史に残る名機であることは間違いない。だが、その完成度の高さ故に後継機での3D対応が間に合わなくなり、次世代機競争に敗れてしまったと考えるのは、筆者のうがちすぎだろうか。
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