【特別企画】
ユーザーの自主大会を促す、ゲーム会社が策定すべき「ゲーム大会用ガイドライン」案内【CEDEC2024】
安心して大会を楽しむための押さえるべきポイントとは
2024年8月25日 06:00
- 【CEDEC 2024】
- 会期:8月21日〜8月23日まで
- 会場:パシフィコ横浜ノース
ゲームに関するドキュメントは既に様々存在する。よく見かけるのは、利用規約に、プライバシーポリシー、特定商取引法に基づく表記、資金決済法に基づく表記、配信ガイドラインあたりだろうか。そして近い将来、新たに「ゲーム大会用ガイドライン」が加わるかもしれない。
実のところ、「ゲーム大会のガイドライン」はほとんど存在しないのが現状である。しかし、任天堂は2023年に「ゲーム大会における任天堂の著作物の利用に関するガイドライン」を発表した。このガイドラインは、ユーザーが非営利で実施するゲーム大会の開催に関する詳細な規定を含んでいる。
だが、そもそもゲーム大会用のガイドラインを、ゲームメーカーをはじめとするコンテンツホルダーは作成する必要はあるのだろうか? シティライツ法律事務所弁護士の前野孝太朗氏は、ガイドラインの必要性はコンテンツホルダーの判断によるとしつつも、個人的な見解として何らかのガイドを示すことが望ましいと考えている。
その理由はガイドラインの存在によって、ユーザーである大会主催者がより容易に大会を実施できるようになること、そしてガイドラインに法律に抵触しないようなルールを明記することで、ユーザーが意図せずに違法行為を行うリスクを軽減できるからだ。
それでは、ユーザー向けのゲーム大会用ガイドラインを作成する場合、どのような内容が求められるのだろうか。CEDEC2024において、前野氏による講演が行われた。
ゲーム大会に関連する4つ法律
まず大前提として、ゲーム大会を主催する場合は以下の4つの法律に注意を払う必要がある。
第一に著作権法が挙げられる。ゲームは当然著作物であるため、大会を開催する際にはコンテンツホルダーから許諾を得る必要がある。許諾を個別に取るのか、ガイドラインで許諾を得るのかという種類はあれど、許諾を取るのは必須だ。
次に、刑法(賭博罪)。参加者から参加料を集めて、賞金を出すと賭博行為に該当する可能性があるという。そのため、参加料を無料にするか、すべて運営費に充てるといった必要がある。賞金に関しては、スポンサーからの提供などにする必要がある。
第三に、風営適正化法にも注意を払う必要がある。物理的な施設でテレビゲーム機を設置してプレイさせる行為が、風俗営業(ゲームセンター等営業)に当たる可能性がある。例外として、完全オンラインの開催や、PCやスマートフォンなどゲーム機ではないものはあたらないという。
ただ、業界団体と警察庁の折衝により、参加料を大会設営費用のみに充てれば、ゲームセンター等営業に当たらないと確認されているので、これを遵守すれば問題ない。
最後に、景品表示法が挙げられる。コンテンツホルダー以外が大会を開催する場合は基本的に関係ないが、コンテンツホルダーが自ら大会を開く場合は注意が必要だ。この場合は賞金や景品が「自社商品・サービスの景品」となり、大会に参加するユーザーが「高額賞金につられて有料ソフトや課金する」といったことに繋がると、これが景品表示法に触れるからだ。第三者の主催であれば、特に配慮する必要ない。
コンテンツホルダーが策定するガイドライン策定のポイント
ここからはゲーム大会用のガイドラインの内容について検討する。配信ガイドラインに「ゲーム大会ができる」という文言と、「ゲーム大会を開催する場合、刑法、風営適正化法等の法令及びガイドラインを遵守し、適法に行うこと」と記載すれば良いという考え方もある。
しかし、前野弁護士はこの方法を避けるべきだと指摘している。「賭博罪」「風営適正化法」の記載だけだとユーザーにとっては具体的にイメージしづらいため、かえって大会で意図せず法令違反を犯す可能性が高まってしまう。一度法律に触れると「犯罪に使用されたゲーム」というレッテルもついてしまうため、リスクが非常に高い。これはユーザーが萎縮する原因にもつながり、大会そのもののが開催されにくくなってしまう。
そこで、著作権法に関する許諾を与えつつ、任意で刑法(賭博罪)や、風営適正化法対応を含むルールの設定、そしてその他の遵守すべきルールの設定に関するガイドラインを作った方が良いと考えているそうだ。だが、そうなるとかなり細かいガイドラインになるので、場合によっては「個別に問い合わせてもらう」とするのも選択肢としては十分考えられる。
そのうえで、もしガイドラインを策定する場合、そのポイントについて前野弁護士は以下のように説明する。
まず「参加料は大会設営費用のみに充てる」ことは盛り込む。参加料はすべて大会の設営費用に当て、景品に充当してはいけない。これは賭博罪と風営適正化法上の理由なので、もしガイドラインを作るのであれば、絶対に書いたほうが良い。
景品や賞金の提供については、そもそも許可するか禁止するかが論点になる、と指摘した。景品を提供しない場合は自由に大会開催できるが、提供する場合はケースバイケースのため、「個別の問い合わせ」とするのも選択肢として考えられると話した。
また、許可する場合は景品の条件として、ユーザー間の軋轢を生むような高額な賞金をさけるために「金額は〇〇以下」と指定したり、具体的に禁止のものを指定する(違法や公序良俗に反するもの)ことが大切だと述べた。
大会主催者が得られる対価についても検討が必要なポイントだ。広告収入や、物販などからの収入はあり得るが、そうなると営利目的の開催も認めることになる。ガイドラインがユーザーが自主大会を楽しむためのであるならば、その目的と齟齬が発生する可能性があるので注意すべきだろう。
また、収益化配信の可否や、許可する場合はプラットフォームや、収益性を高めすぎないために、得られる収益の上限などの条件を決める必要もある。
そして大会名や告知に関する規定も必要だ。ゲーム会社が協賛していないことを明確にし、誤解を招く大会名称の使用を禁止するなどをあらかじめ決めておく必要がある。
またゲームの知的財産権の使用範囲についても明確に定める必要がある。大会での使用許可は明記すべきだが、大会活動や告知における使用の可否、および「いつ」「何が」「どのように」使用できるかを明確に定める必要がある。
加えて、承認制の導入も検討すべき点である。選択肢としては、完全な承認制、ガイドライン準拠での届出制、ガイドラインに準拠している場合は自由開催や、またはこれらの組み合わせが考えられる。運用の負担との兼ね合いもあるが、実際の運用方法としては、法人や営利目的の利用は承認制とし、一般ユーザーによる大会は自由開催とするなどの方法が考えられるという。
さらに「営利目的での開催」や「法令違反の大会」など、明確に禁止したいものがある場合は禁止事項を入れる必要もあるという。
弁護士任せではない、ユーザーにわかりやすいガイドラインを!
ガイドラインの目的は、ユーザーがゲーム大会を開催しやすくすることにあると強調する。法的要件を満たすことは大前提だが、それ以上にユーザーが理解しやすく、不安なく大会を開催できるようなものにすることが重要だからだ。
さらに、「弁護士のみに作成を任せると複雑になる可能性があるため、事業者の視点も取り入れて作成することが望ましい」とアドバイスし、ユーザーにとって分かりやすく、かつ法的リスクを適切に管理できる内容を目指すべきだとしている。
講演後行われた質疑応答では、「参加料と観戦料の取り扱いの違い」や、「著名プレイヤーを招待する際の渡航費や宿泊費の扱い」などについても見解が語られた。これらの内容を含めた、詳細についてはタイムシフトをチェックしてほしい。