【特別企画】

「塊魂」ボーカル楽曲は“禁じ手”戦略だった。制作の秘密が20年を経て明かされる【CEDEC2024】

「作家×歌い手×ジャンル」で揃えた高クオリティ楽曲たち

【CEDEC 2024】

会期:8月21日〜8月23日まで

会場:パシフィコ横浜ノース

 2004年に発売されたプレイステーション 2「塊魂」は、その独特なゲームプレイと音楽で多くのファンを魅了し、続編やリマスター版も発売されるなど今も愛されている作品だ。

 人気の理由として、塊を転がして大きくするというゲームシステムや、独特なグラフィックデザインなど、様々な点が挙げられる。イベント「CEDEC2024」ではその中でも、これも人気の高いサウンド面に焦点を当てた講演が行われた。

 登壇したのは、バンダイナムコスタジオの矢野義人氏と、MIYAKEYUU STUDIOの三宅優氏。「塊魂」の楽曲制作という側面から、その過程と成功の秘訣について語った。本稿ではその要点をまとめていく。

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転がるゲームの前に設定した課題

バンダイナムコスタジオの矢野義人氏(左)とMIYAKEYUU STUDIOの三宅優氏(右)

 現在も高い評価を得ている「塊魂」と、そのシリーズ、そしてそのサウンドだが、三宅氏はサウンドディレクターとして様々な要素や状況を元に課題を設定し、それらをクリアしていく形で方向性やプランを設定したという。

 会社からの指示としてあったのは、ワールドワイドな展開、特に北米やヨーロッパ市場を意識した制作をする、というもの。同時に当時の課題として、ライトユーザー(一般層)への訴求や、新しいIPを成功させることも求められていた。

 課題はまだまだある。三宅氏個人としては、幼少期の頃から「挿入歌」が不要だと思っていたことがあったり、他部署と協力するために、音を聞いただけで「あ、塊魂だ!」と思えるような楽曲にすること、さらに法務部門やマーケティング部門と開発初期から連携を取りたいなど、多くの課題を当時は抱えていたという。

 さらにはサウンドチーム全体の課題として、才能あふれるチームメンバーの能力を最大限に活かし、歌モノも作れることなど、もっと世間にアピールしたい、という思いもあった。

設定したサウンド面に関する課題

サウンドチームが仕掛けた解決策

 三宅氏らは、上記の課題の中から、ライトユーザー(一般層)への訴求、新規IPの立ち上げ、挿入歌の必要性という3つの主要課題に焦点を当てた。

 これらの課題に対し、三宅氏らは声という最も訴求力の高い音色を使い、メロディーを担わせた楽曲をゲーム中にちりばめるアイデアを思いついた。誰もが知っているボーカリストをなるべく多く起用することで、目立たせることを目指したという。

 さらに、ゲームの特性に連動する形で、他に類を見ないサウンドの仕掛けを実装することも検討されていった。三宅氏個人としても、かねてから抱いていた「コンテンツとマッチする挿入歌」のチャレンジをしたかったのだという。

 そこから出てきたのが「日本人なら誰もが知っているような10人のボーカリストを起用して、インゲームミュージックとして実装する」という企画だ。

 具体的には、クリスタルキングの田中昌之氏や新沼謙治氏、水森亜土氏など、幅広い年代の有名な歌手を起用するというアイデアだ。

 しかし、この企画は当時「禁じ手」とも言えるものだった。今ではそうしたゲームタイトルも見られるようになってきたものの、インゲーム中の声や歌詞は、当時はコンテンツの邪魔になるとされており、「普通なら却下される」ものだったという。それでも、ディレクターの高橋慶太氏の理解やプロデューサーとの信頼関係が偶然にもあったことで、この企画が承認されたのだという。

 しかし、禁じ手を採用するからには、楽曲そのものに相応の高いクオリティが求められる。目指すところは、「プランナーも『今回はこれでOK』と言えるほどの良い楽曲」、「有名ボーカリストが歌っても恥ずかしくないレベルの楽曲」、そして「ユーザーが友達に勧めたくなるような魅力的な楽曲」。高いハードルではあるが、ここに三宅氏らは挑んでいくこととなる。

 この高いハードルを乗り越えるためにとった戦略が、「作家×歌い手×ジャンル=ハネを狙う」というものだ。

 作家には「誰にも負けない専門性を持つ」人材を選び、得意分野で自由に勝負してもらった。歌い手は「作家が作業しやすく、歌い手自身のモチベーションも高まる」ように相性も考慮しながらマッチングを見ていくことにした。

 そして楽曲のジャンルは、三宅氏自身が様々なジャンルの楽曲を流しながらゲームをプレイし、ひとつずつ“合う”かどうかを選定していった。その結果、「これから流行が来そうなアーリーアダプター向けの先進的な楽曲から、一般層に向けた王道な楽曲まで」幅広い楽曲ジャンルが採用されることとなった。

 そこから実際の制作作業に入ることになり、結果として三宅氏の読みが当たり、期待を超えるような質の高い楽曲が数々生まれることとなる。もちろん、特に著名なボーカリストとは粘り強く交渉したり、モチベーションが上がるような工夫をしたり、時には譲歩したり、様々な苦労もあったそうだ。

 こうして生まれた「塊魂」のサウンドは、海外を含め各方面から高い評価を得た。特にサウンドトラックCDの売り上げは異例の売り上げ枚数になったのだという。楽曲の質を高められたことで、ボーカリストを知らないであろう海外のユーザーにも届くようなものにできたのでは、と分析していた。

輝きつづけるために必要なのは「愛のあるモノづくり」

 最後に矢野氏と三宅氏は、講演のテーマである「20年間輝きつづけるために必要なもの」について語った。

 企画としては「作家×歌い手×ジャンル=ハネを狙う」の狙いが上手くいき、「塊魂」そのものが類を見ないゲームシステムだったという理由もあるとした上で、成功の理由は決してそれだけではないという。

 三宅氏は制作中、自身も周囲も「いつの間にか作品に対する愛情のようなものが芽生えていた」ことを実感していたという。チームのひとりひとりが「塊魂」に愛情を持つようになったことで、商業作品にもかかわらず、商業作品かどうかは関係ないところで、本当に良いものを制作しようとする姿勢があったのでは、と振り返った。

 結論として提示されたのは、日々重ねた「愛のあるモノづくり」。聴講者にとって製品と共に輝き続けるヒントになれば幸いだとして、矢野氏と三宅氏講演を締めくくった。

 ほかにも講演では、矢野氏と三宅氏による「ロンリーローリングスター」の詳細な音楽理論解説や、サウンド制作における生音へのこだわり、さらには、ボーカリスト選定の具体的な基準なども披露された。

 これらの興味深い内容の詳細は、ぜひタイムシフトで見ることができるので、気になる方は合わせてご覧いただきたい。