【特別企画】
「ギルティギア」シリーズ、輪郭線を自在に操る「背面法」実装テクニック【CEDEC2024】
ペン画のようなビジュアル表現の秘訣とは
2024年8月22日 20:15
- 【CEDEC 2024】
- 会期:8月21日〜8月23日まで
- 会場:パシフィコ横浜ノース
アークシステムワークスが1998年より展開している対戦型格闘ゲーム「ギルティギア」シリーズ。そのグラフィックスに関するモデリングを担当する本村・C・純也氏による講演「3Dでキレイな線を引くために。ギルティギアシリーズのトゥーンライン制御テクニック」がイベント「CEDEC 2024」にて行なわれた。
「ギルティギア」シリーズは個性豊かなオリジナルキャラクターたちが派手に闘う格闘ゲーム。漫画のようなビジュアルや独創性のあるBGM、爽快なコンボシステムなどが特徴的で、その独特な世界観によって国内外にて多くのファンを持つ。
今回の講演では「ギルティギア」シリーズのビジュアルを支えるモデリング技術のテクニックが紹介されたので、本稿ではその一部をお伝えする。
なお、「CEDEC 2024」での講演はオンライン配信も実施されている。リアルタイムで視聴ができなかった人でも、受講登録を済ませている人であればタイムシフト配信を利用可能。タイムシフト配信はセッション終了の翌日に公開され、会期終了後でも9月2日10時まで視聴できるので、ぜひ利用していただきたい。
「ギルティギア」シリーズにおける背面法実装の工夫
「背面法」とはアウトラインを作成する技術の1つ。細かい説明は割愛するが、ポリゴンの表側と裏側を重ね、はみ出した部分を輪郭線として利用する、というのが基本原理となる。
「ギルティギア」シリーズではこの背面法に多種多様な工夫をすることで、クオリティアップや効率化を図っているという。その1つとして、カメラの距離や視野角など、どんな構図でも安定した線の太さを実現する方法が紹介された。
昨今のゲームではキャラクターの通常の立ちシーンのほか、アップや遠くからの引きシーンなど、様々なアングルから目標を捉えることがよくある。格闘ゲームにおいても例外ではなく、必殺技を撃つシーンや特殊なKOシーンなど、特別な場面でそのキャラクターがズームアップされるといった演出を目にすることがよくあるかと思う。
こういったカメラの距離や視野角を考慮せず、輪郭線を一定の太さの背面法アウトラインだけで済ませようとすると、アップにした際に線が太すぎたり、引きの場合は線が細すぎたりする。そのため、「ギルティギア」シリーズでは視点からの距離に応じて背面メッシュの押し出しを調整したり、視野角に合わせた適切な線の幅を求める三角関数を用いることでこの問題を解決しているという。
そのほか、「ギルティギア」シリーズならではのペン画のような強弱のある線の表現を行なうため、頂点カラーによる調整といった工夫を行なっているとのこと。ユーザー側としては普段何気なく目にしている演出だが、違和感なくみせるための細かな調整が行なわれていることがよくわかる。
背面のずらし、飛ばし、閉じテクニック。線を任意の場所に出す、出さないが重要
キャラクター表現を行なう際、アウトラインをしっかり出すことと同じくらい、意図しない部分に出さないことも非常に重要だと語る本村氏。背面法のアウトラインはシェーダー(陰影付けや質感、凹凸、表示色を決定するプログラム)次第で表示をいじることができるため、キャラクターの任意の部位のアウトラインを出したり出さなかったり、あるいは一番外側の輪郭部分だけに線を出す、といった設定ができるという。例えば、アウトラインの描写深度を調整(奥にずらすなど)することで、髪の毛の一番外側の輪郭だけを残し、ほかのアウトラインは描写されないようにする、といったことが可能となるわけだ。
この“背面メッシュをずらす”というテクニックは、キャラクターの顔において特定の表情、特定の角度、特定の距離など、思わぬタイミングで余計なラインが出てしまうといった問題を回避することにも使用可能。さらに、衣装の裏地のアウトライン用メッシュが表面を貫通して汚いビジュアルになってしまうといった問題も、頂点カラーの編集で裏地の部分のみアウトラインを奥に飛ばすなどすることで予防することができるとのこと。
逆に意図して線を出すテクニックとして、線が浮いてしまいがちな谷部分などは背面を閉じることでラインを綺麗に整理できることや、手袋、衣服のソデ、スソなど筒状構造の開口部に近い部分で安定したラインを引くことができることなども紹介された。
様々なテクニックや、「ギルティギア」シリーズならではの工夫などが紹介されたが、本稿ではそのごく一部のみを抜粋させていただいた。講演のフルバージョンが気になる方はタイムシフト視聴を利用していただければと思う。
ゲームをプレイする側としては当たり前の違和感のなさも、こういった技術、工夫の積み重ねによって実現されていることがよくわかる講演となった。普段プレイしているお気に入りのゲームなど、たまにはじっくりとそのグラフィックスの奥深さを研究してみるのもいいのではないだろうか。
(C) ARC SYSYEM WORKS