【特別企画】

「ティアキン」スクラビルドは“12万通り”全組み合わせを手作業チェック! 「ムリでは?」から始まる実装までの道のり【CEDEC2024】

【CEDEC2024:『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』のスクラビルドができるまで】

8月22日10時50分~11時50分 実施

 本日8月22日で2日目を迎えた開発者向けカンファレンス「CEDEC2024」。本稿では、任天堂の藤林秀麿氏と廣瀬賢一氏によるセッション「『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』のスクラビルドができるまで ~準備のために準備する~」の模様をお届けしていく。

 2023年5月に発売されたNintendo Switch用アクション・アドベンチャーゲーム「ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム(ティアキン)」では、主人公・リンクの新たな能力「スクラビルド」が登場。モノとモノをくっつけると、新たな装備やアイテムを作り出すことができる能力で、ハイラルでの冒険に新たな楽しみが生まれていた。

 セッションでは「ティアキン」のディレクターを務めた藤林氏と、ゲーム開発時のサービス・インフラを整備する“ゲーム開発インフラ担当”の廣瀬氏が登壇。無限にも思える組み合わせが可能な「スクラビルド」がどのように実装されていったのか、様々な面から語られた。

画像左が藤林秀麿氏、右が廣瀬賢一氏
藤林氏は2005年に任天堂へ入社。これまで「ゼルダの伝説」シリーズに携わってきた
廣瀬氏は2018年に任天堂へ入社。ゲーム開発を支えるインフラを整備している
「スクラビルド」はどのようにして実装されたのだろうか

 まず「スクラビルド」がどのように発案されたかだ。前作「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」に登場した「ラー・クアの祠」で槍を使って樽を壊すギミックのほか、モノにくっつけて浮かばせることができる「オクタ風船」がスクラビルドの原案になっていて、“何かをくっつける遊び”には高いポテンシャルを感じていたと藤林氏は語る。

 「ブレワイ」と「ティアキン」は“面白いことが起きる仕組みを作る”ことが共通しており、その一環として「スクラビルド」が生まれた。だが、くっつけるだけではなく、くっつけてどうなれば面白いのか、どのように形にしていったのかという流れが明かされた。

【「スクラビルド」の原案】
「スクラビルド」のアイデアは前作「ブレワイ」の時点で存在していたという。画像は「ラー・クアの祠」で槍を使って樽を壊すギミック
「オクタ風船」をくっつけてオブジェクトを浮かび上がらせるのも原案の一つだった
「ティアキン」と「ブレワイ」で共通している“面白いことが起きる仕組みを作る”こと
その延長線の末に生まれたのが「スクラビルド」だった
ではその「スクラビルド」をどのように形にしていったのだろうか

 藤林氏は「ゼルダの伝説」シリーズを推理・実行・結果を楽しむゲームだとしており、このうち推理と実行の幅が広くなれば、さらにゲームが面白くなると語った。「スクラビルド」は特定のモノとモノを組み合わせてどのようなことができるのかという推理と実行ができる。その中で「絵が機能を表す」ことが重要だという。

 例えば「木の棒+岩=斧」のようなシンプルかつわかりやすいビジュアルを目指し、「A+B=C」ではなく、「A+B=AB」であることが「スクラビルド」のキーになっていると藤林氏は語る。一方で「スクラビルド」は面白いアイデアだが、モノとモノの組み合わせは膨大な数になり、エンジニアやアーティスト、サウンドデザイナー、ゲームデザイナーから様々な課題が上がった。

【「スクラビルド」実装までの課題】

 普通に考えると「スクラビルド」の実装は全員一致で「ムリでは?」となるが、ここで落ち着いて“問題を分解”することで「スクラビルド」実装までの道のりが整理された。まず様々な課題が上がった「スクラビルド」だが、まだ仕様が固まっていないふわっとした状態だったため、内容を詰めるところから始まった。

 ここで「スクラビルド」は推理・実行に不可欠な仕様となる「ブランリスト」と希望や願望が並べられた「ウィッシュリスト」にわけられる。まずプランリストでは、複数くっつけたときの効能、膨大な見た目チェック、どう音をつけるか、武器の名前といった仕様を一つずつ決めていき、次に“やらない事”を決めていく。そうすると新たなプランが浮かびあがり、これならウィッシュも実現できるといった流れが出来上がっていく。

 これによって、唯一「12万通りある見た目の不具合チェック」という課題はあるが、やり方次第で「スクラビルド」は実装できるという方針に至ったのだ。

【「スクラビルド」の課題をどう解決していったのか】

 この「12万通りある見た目の不具合チェック」という問題をどう解決するかに“ゲーム開発インフラ”に関わってくる。ここで廣瀬氏にバトンタッチし、この問題をどう効率化していったのかが語られた。

 「スクラビルド」の遊びの面白さは検証済みだが、モノとモノの組み合わせは12万通りに及ぶ。ここで妥協して「スクラビルド」の数を減らしてしまうと、ゲームが面白くなくなるため、効率化して12万通り全てをチェックする方向に動いた。

 問題には「くっつき方がおかしい」、「見た目と名前が合っていない」が上がり、これらを素早く確認&修正していく必要がある。ここで検証時に撮影した「撮影済み画像」を「画像掲示板」で共有して、素早く確認が取れるようにし、問題がある場合はすぐに報告できるシステムが構築された。このシステムで大幅にチェック作業が効率化されただけでなく、実装段階でのバグの発生時期もわかるようになり、ゲーム開発側にも役立ったという。

【「スクラビルド」12万通りある組み合わせのチェック作業】

 また開発側では社内で使用する「掲示板」をティアキン仕様にカスタムした「ルピー掲示板」を使って、テストプレイでの情報を書き込み、集まった情報を精査するという開発サイクルを円滑化。ここでは「スクラビルド」が発動するまでの手順が圧縮された経歴もあり、テストプレイ時には発動まで5手あったが、「ルピー掲示板」での情報をもとに3手まで圧縮された。

 この「ルピー掲示板」も“ゲーム開発インフラ担当”が手掛け、ゲーム開発者が「ティアキン」で面白いことが起きる仕組みを作るのであれば、ゲーム開発インフラ側は「開発者が自由に発明できる仕組みを作る」ことが役目であると廣瀬氏は語たった。

【ルピー掲示板】
【ゲーム開発インフラ担当の役目】

 藤林氏をはじめとする「発案する人」が問題を解決し、廣瀬氏をはじめとする「サービス/インフラを作る人」が作業を効率化して、エンジニアやアーティストといった「実装する人」がいることで、遂に「スクラビルド」がリンクに与えられた。最初は「ムリ」と考えていても、冷静になって問題を洗い出し、その問題を効率よく解決することで、「スクラビルド」は実装に至ったのだ。

 本稿では「スクラビルド」実装までの道のりの一部を紹介してきた。セッションではより詳細に「スクラビルド」実装までの流れのほか、どのようなサービスが開発・使用されたのかが語られている。「CEDEC2024」のオンラインパスを購入すれば、9月2日10時までタイムシフト視聴が可能なため、気になる方はぜひご覧いただきたい。

□CEDEC2024「『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』のスクラビルドができるまで ~準備のために準備する~」のページ