【特別企画】

「ドラッグ オン ドラグーン」本日20周年! 赤目の病にかかってしまった人々が続出、東京タワーが紅く染まった日

【ドラッグ オン ドラグーン】

2003年9月11日 発売

 スクウェア・エニックスより2003年9月11日に発売されたプレイステーション 2用アクションRPG「ドラッグ オン ドラグーン」(以下、「DOD」)が、本日発売20周年を迎えた。

 本作は「ニーア レプリカント/ゲシュタルト」(以下、「レプゲシュ」)、「ニーア オートマタ」(以下、「オートマタ」)などで知られる鬼才・ヨコオタロウ氏がディレクターを務めたタイトルで、「レプゲシュ」、「オートマタ」の前日譚。「ニーア」シリーズに連なる物語の、実質上第1作目となる作品である。

 本稿では、20年前に、見事ヨコオ氏の策略にハマり、赤目の病にかかってしまった筆者が「DOD」について振り返りたい。なお本稿はネタバレだらけのため、念のため「これからまだやるかもしれない」という予定のある人は、注意してほしい。

「ニーア」シリーズとはどのようにつながっているのか?

 本作が、「ニーア」シリーズに連なる作品だということを知っている人は多いと思うが、正確な繋がりは知らない、という人が多いのではないだろうか。もしかしたら「今さらだよ~」という反応もあるかもしれないが、ここでは本当に簡単に、「DOD」と「ニーア」シリーズのつながりについて語っていく(一部の関連作品や出来事は省略)。

 西暦1099年、「DOD」の世界はここからスタートする。だが、その前提には、西暦856年にイベリア半島で起こった「大災厄」というものがある。大災厄によって、「DOD」の世界は様々な分岐が存在する世界になった。大災厄が起こる前の「DOD」の世界は、モンスターも亜人も魔法も全く存在しておらず、大災厄以降、ドラゴンや魔法の存在するファンタジー世界へと変わっていっているのだ。「ニーア」シリーズと「DOD」シリーズは大分雰囲気の違うゲームだが、全てはこの「大災厄」が関係していると言っていいだろう。

 そして「DOD」にも「ニーア」シリーズ同様多数のエンディングが存在し、そのエンディングの中のひとつ、Eエンドが通称「新宿エンド」とも呼ばれているエンディングだ。「新宿エンド」で舞台は一気に西暦2003年の東京へと移る。新宿エンドからつながり、その先、西暦3361年の世界が「ゲシュタルト」、西暦3465年の世界が「レプリカント」、そして西暦11945年の世界が「オートマタ」となっている。

 このように、「DOD」(のEエンド)は、全世界で一大ムーブメントを引き起こした「オートマタ」につながる原点の物語となるのだ。

多くのプレイヤーを色んな意味でどん底に叩き落した作品(誉め言葉)

 「DOD」はドラゴンを操る竜騎士となり、上空・低空・地上で戦う3Dフライング&剣戟アクションRPG。あまり類を見ないアクションゲームではあるが、「DOD」といえば、まずは「とにかく狂った世界観」という一言に集約されるのではないだろうか。

【スクリーンショット】

 AエンドからEエンドで構成される5つのエンディングはいずれも狂気的。前述のEエンドこと新宿エンドについては知っている人も多いと思うのだが、A~Dエンドのいずれもプレーヤーをどん底に突き落とす内容が印象深かった。

 どん底に突き落とすというのは、つまり「救いがない」ということである。言ってしまえば「後味の悪い」エンディングが続くのだが、このダークな要素がハマってしまう人にはピタリとハマってしまい、あまりにもおかしな狂った世界から抜け出せなくなる……そういった人を総称して「赤目の病に侵された者」とも呼ばれている。

 そんな本作の物語は封印と契約の物語。ある日、連合軍側の女神であるフリアエの居城が帝国軍に襲撃され、フリアエの兄でもある主人公カイムがフリアエを守るために、戦いに参戦するが瀕死の重傷を負ってしまう。そこでカイムはレッドドラゴン(アンヘル)と出会い、お互いの心臓を交換して「契約」する。

 だが、カイムは契約と引き換えに声を失うこととなる。人語を理解するアンヘルとは心の中で会話できるうえ、カイムの心をアンヘルが代弁してくれるということもあり、カイムが声を失ったという出来事は一見、物語上あまり重要な意味はないように感じられる。だが、カイムが声を失ったからこそ、様々な解釈を可能とした演出などもあり(小説版でひとつの解釈として答えが提示されているものもあるが)、声ひとつに非常に重要な意味が込められているであろうことを、プレーヤーは知ることとなる。

 さて、この狂った世界を支えたのは一癖どころか何癖もあるキャラクターたちである。

 主人公のカイムは序盤で声を失ったことにより、基本的に物語の冒頭で少し喋る以外はあとはアンヘルがその心を代弁していく。どちらかというとプレーヤー投影型の主人公にも思えるが、帝国軍によって両親をブラックドラゴンに殺され、復讐のために連合軍に加わり、敵を斬り続ける、殺戮人形のような存在である。

【カイム】

 アンヘルは、1万年以上生きている竜の末裔。性別はメスのため、実質本作のヒロインとも言われている。竜の中でも最上位に位置する存在のため、性格は自信家で、人間を愚かな生き物と捉えている節もある。カイムと心を通わせることで、徐々にその心に変化が訪れる。

【アンヘル】

 カイムの妹のフリアエは、本作の裏のヒロインと言ってもいいだろう。人類滅亡を防ぐ封印のひとつ、「女神」でもある。ある日彼女に女神に「オシルシ」ができたために、女神となってしまった。ゲーム中ではそのオシルシがどこにできたかは明かされていないのだが、その場所が実は子宮であるという設定からも、いかにもヨコオ氏らしさが感じられる。また、カイムの幼馴染であるイウヴァルトの婚約者であったが、女神となったため、結婚は破談。そしてフリアエ自身はカイムを兄としてではなく、ひとりの男性として愛している。

【フリアエ】

 イウヴァルトは前述の通り、カイムの幼馴染でフリアエの元婚約者。フリアエを心から愛しているため、結婚が破談になったことを不満に思っている。フリアエを独占するカイムには内心嫉妬している。

 帝国軍との戦争で、イウヴァルトはフリアエを守って帝国軍に捕縛されてしまう。そこで「天使の教会」の司教マナによって洗脳を受け、赤い目のウイルスに感染。帝国軍のブラックドラゴンと契約する。契約の代償は、イウヴァルトが得意だった、歌。フリッアエッ。

 お次は「DOD」を語る上で最も欠かせないとも言えるキャラクター・レオナール。レオナールは幼い男児にしか性的興味を持てないという、これまたヨコオ氏らしい設定を持ったキャラクター。小説版では夜中に家を離れて自慰に耽っていた隙に帝国軍の襲撃にあい、最愛(性的な意味で)の幼い弟たちを殺されたことから、ファンの間では「オナ兄さん」の相性で親しまれている(?)。絶望から自殺を試みるもその勇気が持てないところで、フェアリーと契約をし、視力を失う。

【レオナール】
画像はAndroid/iOS用「サーヴァント オブ スローンズ」より

 アリオーシュは目の前で帝国軍に夫と子供を殺されたことから心が病んでしまったエルフ。子供を殺された反動から子供に対して執着があり、その反動で子供を惨殺して食し続けるという異常殺戮者。契約モンスターはウンディーネとサラマンダーで、子宮を失う。何よりも子供を欲するものが子宮を失うという、これまたなんとも皮肉な契約内容である。

【アリオーシュ】
画像はAndroid/iOS用「サーヴァント オブ スローンズ」より

 セエレは、「天使の教会」の司教マナの双子の兄。契約モンスターはゴーレムで、時間を失っているため幼い少年の姿から成長をしない。そのため、子供を欲するアリオーシュや、幼い男児に性愛を抱くレオナールからは、邪な目で見られている。これだけ癖の揃ったメンバーの中では非常にまともに見える登場人物であるが、嫌われないために良い子であることを装って、表面上だけの綺麗事を並べる。

 マナは、セエレの双子の妹で「天使の教会」の司教。実母から愛されて育ったセエレとは真逆で母親から虐待を受けて育ち、セエレを深く憎んでいる。マナは幼い少女の声で話すが、時折「神の声」として野太い男性の声を発することがある。生まれつき赤い目を持っている。「DOD3」に登場するワンの子孫である。ラララララララ……天使、回る回る。

 以上、狂った世界で狂った登場人物が闊歩するのが「DOD」である。

狂ったエンディングと狂った楽曲

 「DOD」では様々な条件を満たすことで5つのエンディングへと到達する。このエンディングが、いずれも狂っている(誉め言葉)。

 いくら現行機種ではプレイできないゲームとはいえ、これからまだプレイする機会がある人もいるかもしれないので、ここではあえてEエンド(新宿エンド)にだけ深く触れ、他は流す程度でいきたい。

Aエンド

 人間を見下していたレッドドラゴンが、カイムのために世界の封印になることを申し出るエンディング。このエンディングでレッドドラゴンは己の真名が「アンヘル」であることを告げる。本作で一番救いのあるエンディングである。続編「ドラッグ オン ドラグーン2 -封印の紅、背徳の黒-」に繋がるエンディングでもある。

【ドラッグ オン ドラグーン2】

Bエンド

 物語終盤で登場する「中に入った人間は救われる」とされている「再生の卵」エンディング。ギョロアエという単語が生まれるほどのトラウマエンディングのひとつ。エンドロールで流れる曲「尽きる」では、フリアエのCVを務めた初音映莉子さんがフリアエらしい淡々としたボーカルを披露し、これもまたトラウマ感を増長させた。

Cエンド

 ドラゴンたちが人類を殲滅しようと動き始め、アンヘルもまたドラゴンとしての本能に逆らえなくなってしまうエンディング。

Dエンド

 巨大な妊婦の姿をした「母体」が降臨するエンディング。

Eエンド(新宿エンド)

 「母体」は時空の狭間へと消えてしまう。カイムとアンヘルが「母体」を追って時空の狭間を抜けたその先は、異世界(現代)の西暦2003年6月12日・新宿上空だった。新宿の真ん中で「母体」は、滅びの歌を歌い始め、それを阻止するために最後の戦いが始まる。この最後の戦いが、「DOD」名高き「唐突に始まるリズムゲー」であり、このリズムゲーをオマージュしたバトルは「DOD3」のラストバトルにも登場した(余談だが、「FINAL FANTASY XIV」の「ニーア」シリーズコラボ「YoRHa: Dark Apocalypse」でも、新宿エンドに関するオマージュシーン・オマージュギミックがある)。

【YoRHa: Dark Apocalypse】

 リズムゲーもとい激闘の末に母体を倒し、見事世界を救ったカイムとレッドドラゴンで、いよいよ最後の最後で救いのエンディングに到達するかと思いきや――現代の世界においてドラゴンは戦闘機のミサイルで爆撃を受ける。

 カイムとレッドドラゴンは墜落していき、スタッフロールの後、東京タワーに突き刺さるレッドドラゴンの姿と共に、本作の物語は全て幕を閉じる。

【サーヴァント オブ スローンズ × ドラッグ オン ドラグーン: コラボティザームービー】
新宿エンドを思わせる「サーヴァント オブ スローンズ」とのコラボムービー

 「レプゲシュ」は、このエンディングから1000年以上がたった未来が舞台である。

 そして本作の物語を盛り上げた楽曲について、少しだけ触れておきたい。

 本作の音楽はいずれも「音楽」らしい楽曲ではない。そのほとんどは、クラシックの名曲の一部を逆再生したり、執拗なまでに同じフレーズを繰り返したり、ひずんだエフェクトをかけまくったり……といった手法で作られている。なので、「DOD」の音楽を口ずさめ、と言われても、どんなに何回も聞いた曲ですらまともに口ずさむことはできない。これは「音楽」ではないからだ。

 唯一歌えるのはボーカル曲の「尽きる」くらいだろう。その「尽きる」ですら、あの抑揚も力もない声を表現できるかと言われたら難しい。あくまでメロディラインをなぞることができるだけで、「再現」はできないといっても過言ではない。「音」だけれど、「音楽」ではない。それが「DOD」を彩る楽曲を表すのに相応しい表現なのではないかと思っている。

 それらの元となったのはドヴォルザークの交響曲第九番「新世界より」や、ホルストの組曲「惑星」、チャイコフスキーの組曲「白鳥の湖」、「くるみ割り人形」 など、ちょっと聞けば「あ、知っている」となるほどの名曲らである。その名曲らを、聞く者を発狂させかねない楽曲に仕立て上げるなど、まさに狂気の沙汰である。言ってしまえば、彼ら名作曲家への冒涜とも受け取れかねない。恐らくクラシックに詳しい人ほど、そう思えてしまうだろう。だからこそ、本作のサウンドトラックは非常に賛否両論どちらもあるのだが、筆者はこの音に囚われてしまった者のほうである。この狂った世界に似合うのは、こんな狂気の音の羅列なのではないか。そう思えて仕方ないのである。

「DOD」20周年でそろそろ移植を……

 さて、ここまで長々と語ってきたが、改めて赤目の病の皆さん、改めましてこんにちは! こうして赤目の病の皆さんと「DOD」20周年をお祝いすることができて、筆者は非常に嬉しいです! でもどんなに布教がしたくても、現行機種で遊べないゲームってオススメしにくいですよネー。

 と、ここまで書けば、言わずもがな。スクエニさん!「DOD」の移植待っています! 20周年という節目に、ぜひお願いします(この原稿で何度「狂ってる」と言ったかわからないですけれど、全部誉め言葉です)。

 ここまで読んでくださった赤目の病の皆さん、ほんとうに、ほんとうにありがとうございました。