【特別企画】

「XenobladeX(ゼノブレイドクロス)」が本日で8周年! 探索にオーバード戦、澤野弘之氏による音楽——名作オープンワールドRPGが生まれた日

【XenobladeX(ゼノブレイドクロス)】

2015年4月29日 発売

 任天堂が2015年4月29日に発売したWii U用RPG「XenobladeX(ゼノブレイドクロス)」(以下、「ゼノクロス」)が、本日発売8周年を迎えた。

 「ゼノクロス」はその名の通り「Xenoblade」シリーズなどを手掛けるモノリスソフトの作品だが、システムの一部などは「Xenoblade」シリーズを踏襲しているものの、物語上のつながりはない全く独立した作品となる。だが、「Xenoblade」と共通する単語などは登場する。

 総監督は前作に続き、「Xeno」シリーズの生みの親である高橋哲哉氏。キャラクターデザインは「ゼノギアス」などを手掛けた田中久仁彦氏。そして音楽は「機動戦士ガンダムUC」、「進撃の巨人」等の劇伴で活躍する澤野弘之氏が担当した。

 本稿では本作に約1,000時間を費やしたものの、USBメモリが突如壊れてデータが吹っ飛び、全てが無に消えた悲しい筆者の話をしたいと思う。お付き合いいただければ幸いだ。

【XenobladeX 紹介映像】

オープンワールドながらも特色豊かな世界作りに心奪われた

 「Xenoblade」がリニア式なのに対して、完全なオープンワールド型のゲームとなったのが、本作のまずひとつ目の大きな特徴と言えるだろう。

 本作は西暦2054年7月が舞台。地球の上空で突如異星文明同士の争いが勃発し、宇宙を放浪から2年が経ち、地球から脱出した移民船「白鯨」が不時着した「惑星ミラ」に作られた街「ニューロサンゼルス(NLA)」を拠点にしながら、異星人「グロウス」との戦いを描かれている。

 このNLAを出られるようになってからは、様々なエリアにほとんど自由に移動できるようになる。陸地面積は400平方kmと広大なフィールドになっており、非常に探索のし甲斐があった。探索のし甲斐があったからこそ、探索やバトルに役立つ兵器「ドール」を手に入れられれば簡単に探索できるであろうという場所でも、とにかく生身で「行けるところまで行ってやろう」という、謎のやる気を高めさせられた作品だった。

「ドールラインセンス認定試験」に合格すると乗れるようになる「ドール」。空中飛行もできるようになる

 「登れる限界まで登る」、「海を泳いで渡り切る」など、その自由度は本当に素晴らしく、物語そっちのけで探索に勤しんだものだ。

 NLAが不時着した大陸である「原初の荒野」は、実際には荒野というよりも緑豊かな草原地。惑星ミラの中でも地球に近い環境だが、凄まじい断崖や浮遊島など、地球では決して見られない光景も多く、まずはここでひたすらに崖を登った。

【原初の荒野】

 原初の荒野の西側にいくと、大陸「夜光の森」。森、という名の通り、大陸そのものが密林のようになっている。そして夜になると幻想的な光を発するという特徴もあった。本作には「オーバード」と呼ばれる強力な原生生物が登場するが、最強のオーバードが潜んでいたのもこの夜光の森だった。

【夜光の森】

 原初の荒野から東にいくと、大陸「忘却の渓谷」。一面砂漠が広がる大陸で、こちらの体力を奪ってくる電磁嵐も起こる。一方で、かつてそこにあったと思われる古代文明のような遺跡が点在しており、それが「忘却」の名に繋がったのだろうと彷彿させる。

【忘却の渓谷】

 原初の荒野から北の海を渡ると「白樹の大陸」。白樹となっているが、雪原を思わせる真っ白な砂と植物で埋め尽くされた大陸。夜光の森とはまた違った幻想的な雰囲気がある大陸で、オーロラが出ることもあった。

【白樹の大陸】

 白樹の大陸から北東にいった海の上にぽつんとあるのが、「黒鋼の大陸」。こちらは大陸のほとんどが火山地帯で、惑星ミラの中でも一番殺伐とした大地が広がっている。グロウスの基地などがある場所で、敵のレベルも高くなっている。

【黒鋼の大陸】

 ……という5つの大陸で構成されている惑星ミラだが、5つのうち「原初」、「夜光」、「忘却」の3つは実質、陸で繋がっている。繋がっているのだが、違う大陸に近づくにつれ、徐々に景色が変わっていく。この景色の移り具合が実に素晴らしく、全く違和感なく次の大陸へと進むことができるようになっていた。そして気が付いた時には完全に、その大陸の景色に変わっているのだ。

 オープンワールドで各所の雰囲気をガラリと変えるのはなかなかに難しい上に、陸続きながらもその景色をいつの間にか一変させるのはさらに難しい。だが「ゼノクロス」は、その難題を非常にうまくやり遂げた作品である。

 また、時間経過の概念や天候の概念もある。時間経過で敵の配置が変わったり、天候によってプレーヤーに様々な影響を及ぼすこともあったり、この時間と天候が合わさることによって同じ大陸でも全く違った顔を見せてくれるのだ。

 ドールに乗り空を飛べるようになってからは、一層それを深く感じることとなる。上空から見下ろす景色の雄大さ、そして移り変わり。他のオープンワールドゲームではなかなか感じられない体験ができたのは魅力だった。

【【XenobladeX】ドール】

 また、「探索したくなる」というプレーヤーの心を掻き立てたのが、「フロンティアネットスポット」と呼ばれるランドマークだ。

 本作はマップが「セグメント」と呼ばれる六角形のエリアに細分化されており、それぞれのセグメントに「トピック」が設定されている。トピックにはオーバードの情報や、トレジャーの情報、クエストの情報など様々なものがあるが、中でも探索欲を煽ったのが「フロンティアネットスポット」(以下、FNスポット)と呼ばれる場所。FNスポットを開放してやることで周囲のセグメントの情報がわかるようになり、調査率が上がるという場所で、なおかつ、ある程度物語が進むとファストトラベル地点としても使えるようになるのだ。

 そのため、何はともあれFNスポットを目指し、調査率を上げつつ周囲のセグメントの情報を手に入れ、ファストトラベルの箇所を増やしたい、というプレーヤーの心理を突く、良い塩梅の構成だった。

 これにより、「オープンワールドをくまなく探索する」という本作の魅力は、最大限に活かされた。そして「FNスポットさえ開けてしまえば」というプレーヤーの心に火を点け、FNスポットを目指して原初の荒野からいきなり黒鋼の大陸を目指すようなプレーヤーもいたのだった。

 しかもこのFNスポットが、隣のセグメントにあることはマップで解っているのに、高低差などでそう簡単に見つからない場合もある。そうなると「なんとしてもこのFNスポットを開けてやる」という気にさせられる。

Wii U GamePadでマップを見ることができた

 ぶっちゃけると大抵はドールを手に入れれば解決する話なのだが、まだ徒歩での移動手段しかできない段階でも、とにかくセグメントを開放したいという想いに囚われてしまう。その絶妙なバランス感が、「ゼノクロス」の一番の魅力であったと言えるだろう。

 そして試行錯誤をしまくって、結局「これは後で来るしかないのだな……」と諦める場合もあれば、「あともうちょっとで届きそうなんだ……!」と、諦めずに徒歩のままで挑み続けるプレーヤーも続出したのだ。「メインストーリー? 何それ? 美味しいの?」状態である。だが、間違いなく本作はオープンワールドをくまなく探索させるということに成功した作品だった。

クリアしてからが本番でした

 本作は、メインストーリー自体はさほど長くない。そのため、「『ゼノクロス』こそJRPG至高の傑作のひとつ」と考えている筆者でも、ストーリーが薄いという点については甘んじて受け入れよう。しかもストーリーが完結していない。だが、それを上回る魅力が本作にはあったのも、代えがたい事実である。

 まず、充実のサイドクエスト的なものについては、「Xenoblade」を遥かに超える大容量ぶり。確かにメインクエストだけを追っていこうとすれば若干早めに終わってしまっていた。しかし、「ゼノクロス」の真骨頂はやり込み要素にあった。ちなみに冒頭で述べた通り、筆者はこのゲームに1,000時間近い時間を次ぎ込んだ(そしてデータが吹っ飛んだ)。これは周回プレイをしていたのではない。1周のプレイで、ここまでの時間を費やしていたのだ。

 それだけやり込み要素を充実させるならメインストーリーを完結させてほしい、というのは全くごもっともな意見だと思う。だが、とても広いオープンワールドという世界をこれだけ活かしきった作品はなかなかにないと言っても、過言ではないくらいなのだ。

 本作は、主人公はいわゆるアバターということもあり、メインストーリーでは主人公の存在感が若干薄いという欠点もあった。どうしても名前とボイスがついた固有サイドキャラクターの存在のほうが際立っていたのだが、サイドクエストのほうでは主人公が主人公らしい活躍を見せる場面も多く、その点でもサイドクエストの存在がかなり際立った。

【【XenobladeX】アバターメイク】
プレーヤーは自身の分身となるアバターを作成する

 サイドクエストの内容は歴代「Xenoblade」シリーズ同様、苦難に立ち向かうもの、惑星ミラに住む異星人との交流、ほんわか心が温まるものなど実に多様性があり、「全く知らない土地に、全く違う文化のひとたちが集まったらこういう問題が起こるだろうな」と感じさせる内容になっていた。そのため、NLAの状況や惑星ミラに関する様々な出来事についてはメインストーリーが完結しておらずとも充分に知ることができ、また「Xenoblade」シリーズお馴染み、仲間とのキズナを強める「キズナクエスト」、「キズナトーク」などといったキズナ要素もあったため、そちらでさらに掘り下げられているのだ。

 そしてやり込み要素の内訳は、豊富なクエストばかりではない。強力なオーバードを倒すための準備、そして実際に倒すまでのバトルなども多くのプレーヤーを夢中にさせた。さらには全オーバードを倒すという目標も、自然と掲げられるようなゲーム作りとなっていた。

 恐らく「Xenoblade」シリーズを遊んだことがある人には言うまでもないと思うが、オーバードとは、要は通り名を持つユニークモンスターのことであり、その強さも千差万別。初見で勝てるようなものから、ラスボスより強いオーバードも多々おり、本作はラスボスより強いオーバードの数が多かった。

 中でも「終焉のテレシア」は本作最強の敵として数々のプレーヤーを駆逐してきた。一方で、「秘奥のジョーカー」など、体よく経験値稼ぎに使われてしまうレベル90帯のオーバードも……。

【【XenobladeX】オーバード】

澤野弘之氏による音楽が至福

 本作の音楽は冒頭で述べた通り、「進撃の巨人」などの映像劇伴で有名な澤野弘之氏が担当している。ちなみに筆者はもともと、作曲家として澤野氏の音楽を最も愛しており、本作が氏の初のゲーム音楽担当作品となることに衝撃を受けたのはもちろんのこと、非常に嬉しかったのを今でも覚えている。

 重厚感のあるオーケストレーションにデジタルサウンドやバンドサウンドが重なる、いわゆる”澤野節”が吹き荒れており、クラシック音楽とモダンミュージックが融合した個性的なサウンドが、本作でも遺憾無く発揮されている。特に原初の荒野でかかる「N周L辺A」や、忘却の渓谷でかかる「亡KEI却KOKU心」などは、その色が強い。

一部の音楽は公式サイトで聞くこともできる。曲名は#01が「no9=MONOX (0rCH-SUITE"X")」、#02が「The key we've lost」、#03が「NEMOUSU秘OUS」、#04が「no1=CODENAMEZ (0rCH-SUITE"X")」

 さらに氏の得意とするボーカル曲も忘れてはならない。戦闘曲で「Black tar」が流れた時は、思わず体がぶるりと震えるものがあった。オーバード戦で流れる「Uncontrollable」は小林未郁さんとmpiさんのツインボーカルとなっており、前半の静かな展開からサビの部分で一気に爆発するような曲の流れは、澤野氏ならでは。また、ドール飛行時の楽曲「Don't worry」、オーバークロックギア発動時の「Wir fliegen」など、他にも数々の名ボーカル曲を残した。

 そんな本作のオリジナルサウンドトラックは面白い構成となっており、一曲の中に2つのシーンの曲が混ざっていたりする。普通ならば「○○した時の曲」で一曲となっていると思うが、本作のサウンドトラックでは、前半はAのシーンの曲、後半はBのシーンの曲となっているものが非常に多い。例えば「z37b20a13t01t08le」などは前半はエネミーに感知された曲、後半がグレンナー戦などのボス戦闘曲となっており、全く違うシーンの曲が1曲となってまとまっている。

 以上のように、ゲームを盛り上げる音楽も非常に至福の塊であり、音楽が本作のゲーム体験を一層豊かにしたのは言うまでもない。

 色々と課題を残す内容だったことは否めないが、筆者は今でも「XenobladeX」という作品が大好きで大好きで仕方がない。Wii Uの液晶パネルを有効に使うゲーム性だったことからも移植はなかなか難しいのかとも思うが、今でも移植と、そして続編を望んでやまないゲームである。いつか、筆者の吹っ飛んでしまった1,000時間に及ぶプレイ時間が報われることを祈りたい。