【特別企画】

「ドラゴンクエストIII そして伝説へ…」発売35周年。ロト伝説の完結編は大フィーバーを巻き起こした伝説のRPGとしてプレーヤーの心に刻まれる

【ドラゴンクエストIII そして伝説へ…】

1988年2月10日 発売

 本日2月10日は、今から35年前に「ドラゴンクエストIII そして伝説へ…」(以下、「ドラクエIII」)がエニックス(現スクウェア・エニックス)から発売された日だ。ファミリーコンピュータでリリースされたコマンド入力式RPG「ドラゴンクエスト」シリーズ第3弾にして、「ロト伝説」3部作の完結編でもある。

「ドラゴンクエストIII そして伝説へ…」のゲーム画面。画面は前作とさほど変わらないが、冒険はより長く、奥深いものとなった
こちらは戦闘シーン。本稿の画像は全てファミコン実機と筆者自前のソフトを使って撮影したものだ

 「ドラゴンクエストII 悪霊の神々」(以下、「ドラクエII」)から約1年後に発売され、前作の内容を大幅に上回るボリュームとプレイバリューを誇り、バッテリーバックアップによる「冒険の書」のセーブ機能も搭載された。1988年の発売日には各地の店頭で大行列が発生するフィーバーぶりを見せ、最終的な国内出荷本数は380万本とされる。

 以前「ドラクエII」の周年企画にて、同作を発売日に購入できなかったこと書かせていただいた筆者だが、この「ドラクエIII」はちゃんと発売日に購入し、前作以上に熱中したタイトルでもある。今回も引き続きその思い出を綴らせていただきたい。

購入整理券のために徹夜で並ぶ覚悟を決めた筆者。だがミッションは意外な形で完了

 筆者がこの「ドラクエIII」の情報を見たのは、「ドラクエII」のときと同様に「週刊少年ジャンプ」に掲載された「ファミコン神拳奥義」のコーナーだった。同コーナーの復刻単行本を見てみると、その初回ですでにプレーヤーキャラクターに職業があることが披露されており、次の号ではバッテリーバックアップの仕様や新たな呪文などについて言及されている。今見てみるとボツになったモンスターが結構いたことも興味深いところだ。この単行本(ホーム社刊「週刊少年ジャンプ秘録!! ファミコン神拳!!!」)は現在も入手でき、資料としても貴重な内容なので、懐かしいと感じた人は読んでみることをオススメする。

 「ドラクエIII」の発売日は1988年2月10日と決定し、前作に続き平日(水曜日)の発売となった。都内のとある大型量販店は、平日に行列ができないよう事前に整理券を配布することになっていて、その情報を得ていた筆者は同級の悪友と「整理券を確実に手に入れるために、前日から並ぼう」と画策していた。思えば当日は真冬であり、かなり無謀な計画だったが、余計なことはあまり考えていなかった。

1988年2月10日の発売日に購入した筆者自前の「ドラクエIII」のゲームソフト。35年前のものだが、なんと冒険の書のバックアップが生きていた

 ところがこの計画は前日にあっさりと完了してしまう。並ぶため訪れた店頭で整理券の行列はどこかと尋ねると、店員がその場で整理券を渡してくれたのだ! 我々が学生だったことを気遣ってくれたのか、単に混乱を避けたかったのか理由はわからないが、これがあれば発売日に確実に手に入る。悪友とほくそ笑みながらその日は帰宅し、無事発売日当日の学校帰りに入手できたのである。

 その後のフィーバーぶりは、当時からのファンならご存じの通り。各地の量販店前に大行列ができ、そのことはTVや新聞でも報道された。多くの学生が学校をずる休みして買いに走って補導され、さらに買ったゲームソフトを奪われる恐喝事件が発生するなど社会問題にも発展。メーカーもこのような事態を懸念し、以降のシリーズは週末の土日や祝日に発売されるようになった。

説明書は前作よりも大判になり、職業や呪文などについても詳しく説明している。謎解きの難易度が高いと判断されたのか、アイテム「愛の思い出」の使い方もヒントとして書かれていた

“職業選択の自由”が実現した旅の仲間達。転職によってさらに強くなれる育成要素も強化された

 そんな顛末で手に入れた「ドラクエIII」は、容量不足によって簡略化され実に寂しい見た目となってしまったタイトル画面がいきなり衝撃だったが、これから始まる冒険に向けて高まる気持ちに影響はなかった。

シリーズ第3弾の大作にしてこのタイトル画面は衝撃的。後のリメイク版では、豪華な演出のタイトル画面が用意された
バッテリーバックアップは楽な反面、デリケートで冒険の書が消えるハプニングも。実は筆者のソフトも、最初期に遊んだデータは消えていたりする……(涙)。キャラ名は学生時代のセンスで付けたものなのでご容赦いただきたい(笑)

 本作の新要素にしてゲーム進行のカギとなる冒険の仲間を集う作業は、勇者としての旅立ちを促されるオープニングの後すぐに訪れる。アリアハンの酒場にある「冒険者の登録所」と「ルイーダの店」で、シリーズ初となる「職業」の概念を取り入れた個性の異なるキャラクターを仲間にする仕組みだ。職業がキャラクターの特徴を選ぶゲームシステムは前年の1987年末に発売された「ファイナルファンタジー」や「ウィザードリィ」などにも取り入れられていて、この頃からファミコンのRPGが大きな進化を遂げていたことが伺える。

 職業は主人公の「勇者」除いて7種あり、筆者はその中で「武闘家」に注目していた。戦士とともに最前線で戦う職業で、全職業の中で最も素早さが高く、戦闘でイニシアチブを取れる。前作でローレシアの王子の素早さの低さに苦渋を舐めた記憶があり、前述の「ウィザードリィ」のプレイなどを経て、RPGの戦闘における先制攻撃の重要性を知った。本作の武闘家は素早さの高さに加え、レベルが上がるほど「会心の一撃」が出る確率が高くなり、装備にあまりお金がかからないのも魅力だった。何より、当時連載中だった「ドラゴンボール」のテイストを感じられたルックスにグッと来た人もいたのでは?

アリアハンの酒場。ルイーダの店は仲間を呼び出すカウンターで、新規に仲間を作るときは2階の登録所で行う。カタカナ名は最初から登録されている仲間のみとなる
武闘家は筆者お気に入りの職業。専用の武器以外を装備すると弱くなってしまい、前編通して装備品の種類が少ないというデメリットもあった

 冒険の途中で立ち寄る「ダーマ神殿」で行える「転職」の仕組みも「ドラクエ」シリーズのファンにとっては新しかった。転職は仲間のレベルが20を超えるとできるようになり、転職後レベルは1になるがパラメータは転職前の半分になるだけで、呪文も習得していた分は使えるという絶妙な設定。“武闘家の素早さを継いだ戦士”や“呪文を使える商人”といった、プレーヤー好みの仲間を作ることができた。また「賢者」は転職でしかなれない職業である。

ダーマ神殿を訪れるのは物語の中盤ぐらい。入口にいる人物が記録をしてくれるので、ここを拠点に冒険を進めた人も多いと思う

 最終的に僧侶・魔法使いの全ての呪文を全て覚えた戦士や武闘家を作るのは当時のやり込みプレイのひとつの目標となり、筆者もゲームクリア後にリムルダール周辺に現れるはぐれメタルを狩る日々が続いたことを思い出す。魔法使いの武器「どくばり」や「ドラゴラム」の呪文などが頼りになった。

転職はレベル20以上になってから。ダーマにたどり着いてすぐ行うのはちょっと早いかも!?

 職業や転職の概念は以降のシリーズでも定番となったが、キャラクターをイチから作って仲間にするシステムは、ナンバリング本編では2009年発売の「ドラゴンクエストIX 星空の守り人」まで採用されていない。以降のシリーズは仲間キャラクターとシナリオが密接に関係する内容になっていく傾向にあったのがその理由だ。

ロト伝説の完結編だが、その展開は徹底して伏せられていた。おかげでエンディングの感動もひとしおに……

 本作は初代「ドラゴンクエスト」から続く「ロト伝説」の最終章に位置付けられるタイトルであったものの、発表当初はそのことを明らかにしておらず、説明書などでも触れられていない。プロローグやワールドマップにも前作を匂わす気配はなかったが、筆者はあまり気にせずプレイしていたように思う。

剣士オルテガの息子の主人公は16歳となって、仲間とともにバラモス討伐へと旅立つ

 ワールドマップは地球の世界地図をモチーフとしていて、地域ごとに異国情緒があり、そこで発生するイベントもドラマチックで、長い冒険を飽きさせない作りだ。アリアハンの旅の扉で向かった先のロマリアではモンスターの格闘技場に興奮し、夜のアッサラームのぱふぱふ娘に翻弄され、呪文がかき消されるピラミッドの地下で発見した「黄金の爪」の恐ろしい効果(持っていると敵とのエンカウントが激増する)に戦慄した。

初代「ドラゴンクエスト」から存在するぱふぱふ嬢。夜のアッサラームにいる
「黄金の爪」はピラミッドの深部で見つかる。エンカウントが激増するので、持ち帰るのも大変だ
ジパングは日本そのもの。町のBGMも印象的だ

 個人的には、仲間の商人を置いていくことで発展する○○○○バーク(○○○○には商人の名前が入る)の町で起きるイベントがセンセーショナルだったことが印象深い。このようなイベントをファミコンの簡素なドットキャラクターとメッセージだけで表現していた堀井雄二氏のセンスと手腕が本作でも存分に発揮されていた。

仲間の商人を1人置いていくと発展する商人の町。ゲームの進行とともに町の様子が変わっていくイベントは斬新だった

 後のシリーズの名物キャラクターとなった盗賊カンダタとその一味や、ブレスの2回攻撃が恐ろしいジパングのやまたのおろち、サマンオサの王様に化けているボストロールの痛恨の一撃など、トラウマもののモンスターもたくさんいた。しかし、冒険の自由度が上がり、転職などで仲間を強くする余地もあったことで、同じ場所で経験値稼ぎに明け暮れる必要がなくなり、ゲーム全体の難易度もちょうどいいバランスでまとまっている。

インターフェイスが進化し、味方への攻撃なども攻撃も可能となった戦闘シーン
はぐれメタルにはドラゴラムが効く、といった戦術も多彩だ
シリーズに引き継がれている多くの呪文は本作で生まれたものだ

 ストーリーは後半に入った頃から怒濤の展開を見せていく。6つのオーブによって蘇った不死鳥ラーミアに乗ってたどり着く居城で対峙するバラモスは単なる中ボスにすぎず、真の敵は別に存在することが判明する。バラモスと戦闘時、BGMが通常の戦闘と同じだったので「これは最後じゃないな」と認識はできたものの、世界の地下にアレフガルドが「闇の世界」として存在していて、そこが最後の冒険の舞台になるとは考えもつかない展開だった。闇の世界で流れる「アレフガルドにて」は、「ドラクエII」で聴いた「広野を行く」とはアレンジも印象もまるで違っていた。

シリーズ初の空を飛ぶ移動手段として登場したラーミア
地下にある闇の世界として存在したアレフガルド

 真のボスである大魔王ゾーマのトラウマものの強さに何度も絶望させられ、レベル上げを兼ねてラーミアに乗ってあてもなくマップ上をさまよっていたとき、偶然足を踏み入れてない場所(竜の女王の城)があることに気づき、そこで手にしたアイテムを使ってみると、それまでの苦労が嘘のようにあっさり倒すことができたという顛末もあった。この出来事は筆者の中に「ゲームを自力でクリアするのは最高に気持ちがいい」という考えを植え付け、今も同じ気持ちを持ってゲームを遊んでいる。

前作をプレイしていることがヒントになるようなイベントや仕掛けもあった

 ゾーマを倒した後のエピローグでは、タイトル画面で流れなかった「ロトのテーマ(序曲)」とともにロト伝説がここから始まることが語られ、「そして でんせつが はじまった!」のメッセージとともにエンディングテーマ「そして伝説へ」が流れ、エンドロールへと繋がっていく。「ドラゴンクエスト」という作品の素晴らしさとRPGの面白さを改めて噛みしめた瞬間であった。

 こうした体験をリアルタイムで味わえたことは、筆者のゲーム人生の黎明期における大きな経験値として蓄積された。手持ちの「ドラクエIII」のバッテリーバックアップがいつか切れてしまっても、この経験は決して忘れないよう、心の中の冒険の書にしっかりと記録しておきたい。

ロト伝説3部作のパッケージ。この並びはグッとくるものがある。ことのほか綺麗に保存していた自分を誉めたい