【特別企画】

【G-STAR】「Lies of P」、美少年「ピノキオ」とイケおじ「ゼペット」が生まれた理由とは

“奇妙だが美しい”ビジュアルの秘密を「LoP」アートディレクターが解説

【Lies of P】

2023年 発売予定

価格:未定

 「Lies of P」のアートワークは「奇妙だが美しい」というコンセプトで作られているのだと、「Lies of P」アートディレクターのノ・チャンギュ氏は語った。

 NEOWIZから2023年に発売予定のソウルライクアクション「Lies of P」は、カルロ・コッローディによる「ピノッキオの冒険」をストーリーのベースにしながら、19世紀フランスを舞台としている。しかし世界は華やかさとは無縁で、雰囲気は暗く重く、実に殺伐としている。

 「G-STAR 2022」では、NEOWIZの開発スタジオ「Round 8 Studio」に所属するノ氏による「Lies of P」のカンファレンスが実施された。内容は本作のアートワークを解説するというもので、ノ氏は企画の成り立ちから丁寧に説明してくれた。本稿ではその内容をご紹介したい。

 なお「Lies of P」に関してはデモ版のプレイレポートとインタビューも掲載してる。こちらも参考にしていただきたい。

【Lies of P - Gameplay Reveal】
「Lies of P」アートディレクターのノ・チャンギュ氏

ゴシックホラー+サイエンス=「ベル・エポック・パンク」

 「Lies of P」の企画が動きだしたのは2019年春のこと。当初は漠然と「ホラージャンルで、ソウルライクをやる」とだけ決まっていて、ほかは何も決まっていなかったそう。

 その後、ホラージャンルに合いそうな19世紀ヨーロッパと時代を設定。ただし今の「Lies of P」にある「ピノキオ」というテーマはまだ出て来てない。案としては、錬金術師が登場するストーリーなども考えられていた。

 そこでノ氏が思い至ったのは、ノ氏の好きなSFジャンルを取り入れること。しかも、「ブレードランナー 2049」や「ウエストワールド」、「GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊」など、人間ではないキャラクターや人間からかけ離れていくキャラクターが登場することで、“人間の本質”に迫るようなものがいい。そこでノ氏がたどり着いたのが、「ピノキオ」だった。

機械人形が多く登場する「Lies of P」

 ただし明るい物語ではなくダークな雰囲気に振り切った上で、人間になりたいと願う人形の物語にする。未来的なSFではなく、19世紀ヨーロッパに合うような過去の時代の作品にする。これでテーマに一本筋が通りそうだ。そんなことをノ氏が考えていると、統括ディレクターのチェ・ジウォン氏も同じように「ピノキオ」の企画を持ってきたのだという。

 ノ氏は「ピノキオ」をモチーフとすることに運命を感じ、実際プロジェクトチームはそれに向かって動き出していく。

 「Lies of P」が原作としているのは、カルロ・コッローディによる「ピノッキオの冒険」。内容そのものは明るくて、皮肉や風刺が効いている。ノ氏は「偉大な物語」だと表現したが、これを大胆に脚色する勇気も必要だったとした。

モチーフとなっているカルロ・コッローディ「ピノッキオの冒険」

 これらをどう脚色し、「Lies of P」独自のスタイルに落とし込んでいくかを考えたとき、合致するのが19世紀フランスで起こった「ベル・エポック」の流れだった。「Lies of P」に登場する街はかつて栄えていたところを随所に感じさせるが、その多くは崩壊しており、危険な機械人形がそこら中にうごめいている。美しいだけでも、陰鬱なだけでもない「奇妙だが美しい」というビジュアルのコンセプトは、ここから生まれてきたという。

 ノ氏は、「Lies of P」はゴシックホラーとサイエンスが結合した作品だと語る。参考にしているのは、「フランケシュタインの怪物」や「スリーピー・ホロウ」、「パンズ・ラビリンス」、「クリムゾン・ピーク」といった映画や、「バイオショック」や「Dishonored」といったゲーム作品など。開発チームが目指したのは、「ベル・エポック・パンク」と呼ぶ退廃したビジュアルだ。

「奇妙だが美しい」をキーワードとした「ベル・エポック・パンク」がすべてのビジュアルを彩っている
「Lies of P」のアートワーク

 建築物にはオスマン様式、ロマネスク様式、バロック様式などから、ロマンティックだけど暗くて重い雰囲気を取り入れている。具体的には、柱や金属のアーチを多く使っており、特に金属はホラーの冷たい雰囲気と金属自体の冷たさでイメージを重ねている。

 また19世紀の暗い部分を表現するため、仕事を奪われた労働者によって機械が打ち壊された「ラッダイト運動」や、当時のサーカスのイメージをストーリーやビジュアルに用いている。

その息遣いはゲーム内のオブジェクトなどにも活かされている。流れる電撃はテスラコイル的なイメージだろうか

Pは「奇妙な世界を生きる美しい少年」

 「Lies of P」では、主人公の「P(ピノキオ)」をはじめ、印象的なキャラクターが多く登場する。

 まずPは、「奇妙だが美しい」を体現するキャラクターで、奇妙な世界を生きる美しい少年、というイメージで作られている。これから成長していくことを予感させるために、幼さをあえて残している。

Pのビジュアル

 またゼペット爺さんはピノキオに関わる重要な人物として、より背を高くするなど対比的に描いている。モデルとなったのは、ノ氏の義父。ノ氏の奥さんはコロンビア人で、義父はスペイン系の血筋だそう。

 「Lies of P」開発中に義父に会う機会があり、ゼペット爺さんのイメージにぴったりだったため身なりや印象、ヘアカラーなどを参考にしている。つまりはモデルということだが、ノ氏がスライドで紹介してくれた義父とゼペット爺さんはそっくりだった。

ゼペット爺さんのビジュアル。後で確認したら、スライド中にある「ベテランの巧」は義父の誤訳だそうだ(「義父」と「職人」は韓国語で同じ発音なんだとか)

 ほかにも本作では、原作で男性だったアントニオを「Antonia」という女性として登場させたり、ブルーフェアリーを「Sofia」というキャラクターにするなど、原作をベースに登場人物を大きく脚色している。

 また敵キャラクターでは警察は憲兵人形、サーカス団長は巨大な団長人形になるなど、「Lies of P」らしさを存分に打ち出している。また原作で登場した棺を運ぶ4匹のウサギは、BlackRabbit Brotherhoodという4人組の人間として描くなど、細かいところまでこだわりが伝わってくる。

緻密に脚色されたキャラクターたち。どのキャラクターも特徴的であり印象的

 ビジュアルに関しては、ブリーチバイパス(銀残し)という彩度低め、コントラスト強めの色合いを意識して重厚感を出し、反射面や光の当たり方、また時間と天候の移り変わりも入れることで、「Lies of P」ならではの空間を構築している。

 本作はまだ発売前であるが、こうした緻密な世界観とキャラクター構築の影響もあり、世界中からファンアートが発信されている。ファンアートが作られるということはそれだけファンの心に響いたということであり、ファンに感謝するとともに非常に嬉しかったそうだ。

 現段階では公開されているアートワークは一部であり、ベル・エポックらしい様々なデザインも数多く登場するという。どっしりとした企画のもと立ち上がった「Lies of P」がどのような完成度になるのか、ノ氏の話を聞いてますます期待が高まるような講演だった。

色合いは「ブリーチバイパス」で引き締まったビジュアルに。さらに光表現にもこだわり、「Lies of P」世界の雰囲気を盛り上げている