【特別企画】

いよいよ発売される「ファルコム・アーリー・コレクション For X68000」とは一体何なのか

従来のアドベンチャーゲームにはなかった“アイコン選択方式”を採用した「太陽の神殿」

 アドベンチャーゲームではあるものの、コマンド入力でなければコマンド選択方式でもないというのが「太陽の神殿」だ。当時はパッケージに“New Type Adventure Game”と記され、それまでのアドベンチャーゲームとは違うぞ! という雰囲気を醸し出していた。

 そのタイトル画面には、大きく描かれた“太陽の神殿”の下に「ASTEKA][」と記されているのが見えるが、これは前年に「アステカ」というアドベンチャーゲームが同社より発売されていたから。舞台は「アステカ」と同じメキシコだが、今作ではチチェン・イッツァの遺跡を中心として、どこかに隠された太陽の鍵と太陽の神殿を探し出すのが目的となっている。

オープニングでは、画面内の遺跡が右から左へとスクロールしていく。約20分程度で1周するという、凝った仕掛になっているのだ。ここで流れるBGMは、「イースII」にてレアにハーモニカを返却した時に聞ける曲のオリジナル版。ほかにも、「イース」に登場する“マスクオブアイズ”の元ネタになったアイテムが出てきたりもするので、「イース」シリーズや「イースI&II ~Lost ancient kingdom~」をプレイした人には、ぜひ遊んでほしい

 シナリオを手がけたのは、当時のパソコン雑誌などで“黒魔術師”の名前を冠して紹介されていた、宮本恒之氏。「太陽の神殿」以前には誌面に黒ローブ姿で登場していたことなどもあり、読者に多大なインパクトを与えていたのも特徴だ。プログラマは、後にイースのメインプログラムを担当することとなる橋本昌哉氏で、グラフィックは山根朝郎氏と大浦孝浩氏と、翌87年に「イース」を手がける面々が関わっている。

当時の「太陽の神殿」の広告にも、スタッフの名前が掲載されていた。これは、「ログイン」1986年12月号より

 アドベンチャーゲームと言えば、従来は英語で“TAKE MEMO”や、カナ入力で“メモ トル”などのコマンドを入力していく方式が主だった。ところが、この方法では制作者が決めた単語をプレイヤーが探すといった方向になりがちで、本当の意味での謎解きに注力できないという欠点がある。

 そこで登場したのが、アスキー(当時)から発売された「オホーツクに消ゆ」や、リバーヒルソフト(当時)よりリリースされた「殺人倶楽部」などでお馴染みとなった、コマンド選択式。この方式であれば、コマンドを選んで入力するため、単語探しという余計なことに煩わされずに済んだ。

 これはこれでコマンドを総当たりしてしまえばクリアできる、という弊害がでてしまう。とはいえ、その組み合わせが多ければ多いほど総当たりは現実的ではなく、結局は推理を働かせた方がスムースに進めるということで、今ではコマンド選択式が当たり前となった。こうした経緯をへて、アドベンチャーゲームは進化してきたのだ。

 「太陽の神殿」が採用したアイコン選択式も、コマンド選択式の一種。プレイヤーは主人公を操作し、画面内に描かれた遺跡などで反応する部分に入り、そこでアイコンを選び各種行動を起こして謎を解いていく。このおかげで、アドベンチャーゲームでありながらセーブロード時を除けばジョイスティックでプレイできるという、ユニークなシステムに仕上がっていた。

マニュアルにも、ジョイスティックでの操作方法が掲載されていた

 各シーンへの移動方法は、コマンドで移動先を選ぶものではなく、主人公をテンキー(数字の2、4、6、8)で直接動かすようになっている。ただし、どこにアドベンチャーパートがあるのかは、歩き回って探さなければならない。また、あちこちの場所でのギミックが複合的に絡み合っているため、一カ所クリアできたからといって先に進めるようになるとは限らないのだ。

ゲーム開始直後、主人公は広いフィールドに位置している。テンキーで移動させると、枠が表示される部分が見つかるので、そこでスペースキーを押すとアドベンチャーパートへと移行する仕組みだ。どこで枠が表示されるのかは、歩き回って探す必要がある
なお、全体マップは15×15の225場面あるのだが、実際に行かなければならないのは数カ所のみ。あまり遠出してしまうと、迷ってしまい戻れない事態に……
アドベンチャーパートでは、アイコンが動詞で、画面内の対象物が名詞と考えると分かりやすい。例えば、この場面でアイテムのモザイクタイルを取るには、物体を掴んでいるアイコンを選んでスペースキーを押す。すると画面内にカーソルが表示されるので、これをモザイクタイルに移動させてリターンキーを押せば“モザイクタイルを取る”となり、それに対しての反応が起きるという仕組みだ

 本作では総当たりしていけばクリアできるという事態を防ぐためか、“ハマり”が何カ所かに設けられている。このため、アイテムを使用する順番を間違えたり、通るべき道順を誤ってしまうと、最終的にクリアできなくなってしまうのだ。しかも、道中で「ハマりました。ゲームオーバーです」といった表示が出るわけでもないため、最後の最後で涙を呑んだ人もいるかもしれない。筆者もその一人で、「ここから抜け出せばクリアだ!」というシーンまで進んだにもかかわらずハマり状態に陥り、泣く泣く最初からやり直したという記憶がある。

この場面では、さまざまなアイテムを取ることができる。ところが、黄金の鏡を取ってやるべき事をやらないうちに金の台座をゲットしてしまうと、後にハマってしまう。本作にはこういった仕掛が何カ所かに設置されており、ほとんどの場合は以前にセーブしたシーンからやり直すことになる

 しかし、そんなショックを吹き飛ばしてくれたのが、プレイ中に流れる美しい楽曲。本作は、アドベンチャーゲームとしては初となる全編にBGMが流れる作品となっていて、これらを手がけたのは阿部隆人氏だった。荘厳なオープニングから始まり中南米を感じさせるゲーム中の曲、そして、すべての冒険が終わったことを耳から感じさせてくれるスタッフロールBGMと、数は少ないながらも名曲揃い。難易度は高かったもののワンランク上の完成度を誇ったアドベンチャーゲーム、それが「太陽の神殿」だった。

ゲーム中は、BGMがずっと流れている。後々、祭壇でお香を焚くことができるようになるのだが、そのときはまた違った楽曲に。どの曲も素晴らしいので、ぜひスピーカーに繋いで聞いてほしい