【特別企画】
いよいよ発売される「ファルコム・アーリー・コレクション For X68000」とは一体何なのか
2022年2月25日 00:00
従来のアドベンチャーゲームにはなかった“アイコン選択方式”を採用した「太陽の神殿」
アドベンチャーゲームではあるものの、コマンド入力でなければコマンド選択方式でもないというのが「太陽の神殿」だ。当時はパッケージに“New Type Adventure Game”と記され、それまでのアドベンチャーゲームとは違うぞ! という雰囲気を醸し出していた。
そのタイトル画面には、大きく描かれた“太陽の神殿”の下に「ASTEKA][」と記されているのが見えるが、これは前年に「アステカ」というアドベンチャーゲームが同社より発売されていたから。舞台は「アステカ」と同じメキシコだが、今作ではチチェン・イッツァの遺跡を中心として、どこかに隠された太陽の鍵と太陽の神殿を探し出すのが目的となっている。
シナリオを手がけたのは、当時のパソコン雑誌などで“黒魔術師”の名前を冠して紹介されていた、宮本恒之氏。「太陽の神殿」以前には誌面に黒ローブ姿で登場していたことなどもあり、読者に多大なインパクトを与えていたのも特徴だ。プログラマは、後にイースのメインプログラムを担当することとなる橋本昌哉氏で、グラフィックは山根朝郎氏と大浦孝浩氏と、翌87年に「イース」を手がける面々が関わっている。
アドベンチャーゲームと言えば、従来は英語で“TAKE MEMO”や、カナ入力で“メモ トル”などのコマンドを入力していく方式が主だった。ところが、この方法では制作者が決めた単語をプレイヤーが探すといった方向になりがちで、本当の意味での謎解きに注力できないという欠点がある。
そこで登場したのが、アスキー(当時)から発売された「オホーツクに消ゆ」や、リバーヒルソフト(当時)よりリリースされた「殺人倶楽部」などでお馴染みとなった、コマンド選択式。この方式であれば、コマンドを選んで入力するため、単語探しという余計なことに煩わされずに済んだ。
これはこれでコマンドを総当たりしてしまえばクリアできる、という弊害がでてしまう。とはいえ、その組み合わせが多ければ多いほど総当たりは現実的ではなく、結局は推理を働かせた方がスムースに進めるということで、今ではコマンド選択式が当たり前となった。こうした経緯をへて、アドベンチャーゲームは進化してきたのだ。
「太陽の神殿」が採用したアイコン選択式も、コマンド選択式の一種。プレイヤーは主人公を操作し、画面内に描かれた遺跡などで反応する部分に入り、そこでアイコンを選び各種行動を起こして謎を解いていく。このおかげで、アドベンチャーゲームでありながらセーブロード時を除けばジョイスティックでプレイできるという、ユニークなシステムに仕上がっていた。
各シーンへの移動方法は、コマンドで移動先を選ぶものではなく、主人公をテンキー(数字の2、4、6、8)で直接動かすようになっている。ただし、どこにアドベンチャーパートがあるのかは、歩き回って探さなければならない。また、あちこちの場所でのギミックが複合的に絡み合っているため、一カ所クリアできたからといって先に進めるようになるとは限らないのだ。
本作では総当たりしていけばクリアできるという事態を防ぐためか、“ハマり”が何カ所かに設けられている。このため、アイテムを使用する順番を間違えたり、通るべき道順を誤ってしまうと、最終的にクリアできなくなってしまうのだ。しかも、道中で「ハマりました。ゲームオーバーです」といった表示が出るわけでもないため、最後の最後で涙を呑んだ人もいるかもしれない。筆者もその一人で、「ここから抜け出せばクリアだ!」というシーンまで進んだにもかかわらずハマり状態に陥り、泣く泣く最初からやり直したという記憶がある。
しかし、そんなショックを吹き飛ばしてくれたのが、プレイ中に流れる美しい楽曲。本作は、アドベンチャーゲームとしては初となる全編にBGMが流れる作品となっていて、これらを手がけたのは阿部隆人氏だった。荘厳なオープニングから始まり中南米を感じさせるゲーム中の曲、そして、すべての冒険が終わったことを耳から感じさせてくれるスタッフロールBGMと、数は少ないながらも名曲揃い。難易度は高かったもののワンランク上の完成度を誇ったアドベンチャーゲーム、それが「太陽の神殿」だった。