【特別企画】

神奈川の綾瀬でGALLERIA GAMEMASTERを7分で組み上げるマイスターに出会った

ドスパラで販売している全てのPCが製造されている「製造エリア」

 そのまま飯生氏に促されて、今回の取材のハイライトである製造エリアへ。田名後氏率いる綾瀬事業所のノウハウがもっとも詰め込まれているエリアだ。ここからはサードウェーブのスタッフのみとなり、門外不出のエリア、かと思ったら写真撮り放題だった。

【製造エリア】
ケースとキットボックスのシマの奥に広大な製造エリアが広がっている

 製造エリアに足を踏み入れると、同行していただいていた田名後氏がおもむろに口を開き「リソースを集中させることで効率が良くなります。カスタマイズ、情報の蓄積、練度の向上です。2011年以前、我々が松戸にいた頃は通販と製造がわかれていました。これが綾瀬で一緒になったことで50%ほどコストカットできました。やはり分かれていてはダメだよねという反省がワンストップを生み出しました。現在8年目ですが、『日々の改善の積み重ねがイノベーションを起こす』をスローガンにワンストップオペレーションのさらなる改善に努めています」とワンストップの意義について改めて解説してくれた。

 ただ、筆者が製造エリアを一望して最初に驚いたのは、製造準備エリアと同様に、ほぼ手作業で製造が行なわれていたことだ。自動車のようにある程度、小規模なベルトコンベアでオートメーション化されていて、1人目はマザーボード、2人目はケーブル、3人目はストレージだけという具合に流れ作業で作っているのではないかと思っていたが、全然違っていた。

「将来的にはそういったことも考えていますが、まだ早いと思っています。1つは、1,000台程度の量で自動化をやってもコスト的なメリットはないこと。もうひとつは飯生がご説明したように、ここでは1台1台作るモノが違います。これをロボットに作らせるのは無駄が多いんです。まず、スペースがこれでは足りません。ロボット用として人間の倍のスペースがいります。そして、やっぱり人間の方がフレキシビリティが高いんです。ロボットは導入すればすぐできるというわけではなく、ティーチングコストが掛かります。ビデオカードのサイズ1つとってもどんどん変わります。それを毎回教え込むのは効率が悪いんです」(田名後氏)。

 先ほどから筆者の軽はずみな質問に対して、パーフェクトに回答されるという展開が続いている。当然この後も容赦なく続くわけだが、やはりこういう現場は、実際に行って、話を聞いてみなければわからないことだらけだと改めて痛感した。

 製造は2つのセクションで構成されており、1つが「ライン」、もう1つが「セル」だ。ラインは、5~6人で1台のPCを組み上げるセクション。セルは、1人の熟練工が1台のPCを作るセクションとなる。

【製造エリア】
こちらが製造エリア
「ライン」と呼ばれる複数人で1台のPCを組み上げるセクション
こちらは「セル」。1人のマイスターが1台のPCを組み上げる
こちらはノートPCエリア

 ラインは比較的筆者が想像していたものに近かったが、すべて手作業で、1人が自分の担当分野を終えると、手動でガラッと横にずらしている。扱っているPCも千差万別で、スムーズに流れているように見えない。なぜGALLERIAならGALLERIAだけで1つのラインを構成しないのだろうか?

 飯生氏は待ってましたとばかりに「それができないのがBTOビジネスです。同じGALLERIAでも、ケースが同じでも中身が違います。中身が違えば、結局作業時間は一定になりません。ですから待ち時間が発生してもこの形が一番効率がいいんです。実際には待ち時間が発生しても、他の作業ができるようになっていて無駄な時間はできるだけ発生しないようになっています」。うーん、なるほどなあ!

 セルは、今回の取材でもっとも驚きがあったエリアだ。サードウェーブには、マイスター制度(職業能力資格制度)があり、専門のトレーニングを受け、平均6年以上の実績を積み、スキルレベルを認められたスタッフのみがマイスターを名乗れる。セルには、このマイスターが常駐し、1人でPCを作り続けているという。ちなみに今回の取材ターゲットであるGALLERIA GAMEMASTERは、すべてこのマイスターの手によって生み出されている。

 マイスターというと「アルプスの少女ハイジ」のアルムおんじのような印象を持っていたが、120%違っていて、まず女性が多く、しかも若い女性が目立つ。

「女性は男性より手が小さいため、器用できめ細かい作業が得意。着実にこなしてくれます。もちろん、男性にも巧いマイスターはいますが、女性の方がコツコツとスキルを積み上げてマイスターになるケースが多いですね」(飯生氏)。

 そしてここで登場したのがサードウェーブ1のマイスター村松氏だ。マイスターは、1台のPCを10分から長くても20分以内に組み上げる。正確な上に速い。これがマイスターだ。

 ところが村松氏は、サードウェーブが扱うPCの中でも特に難易度が高いGALLERIA GAMEMASTERを7分で組み上げるという。「では、さっそく作ってみて貰えますか?」と無茶振りしたところ、今日はもう注文をすべて片付けたため断わられてしまったが、作業風景は見せて貰うことができた。右手で電動ドライバーを操りながら、左手でネジ袋からネジを取る、という何の変哲もない作業だ。

「実は組み立ては難しくないんです。ケースそのものが新設計されていて、通常のGALLERIAと比較して内部のエアフローから考えられているので、配線が裏側にまとめられていて、表側がスッキリしているので、慣れればむしろ組みやすいんです。コツは頭の中に作業工程をたたき込んでおくことと、手の動きを止めないことです。今無造作にネジを取りましたが、6本です。次の作業に必要な本数です」(村松氏)

【マイスター松村氏】
PCの自作が好きだという松村氏。趣味は組み上がったPCをバラすこと

 今回、一番出会いたい人についに巡りあえたという感じだ。“ミスターGALLERIA GAMEMASTER”。ある意味、彼は日本でもっともGALLERIA GAMEMASTERに精通しているわけだが、その魅力は何だろうか?

 村松氏が「ビデオカードですね」と真顔で答えたところで、飯生氏は後を引き取り「冷却です。新設計のケースで、配線がすべて背面に回っていて、空気の流れが通常のケースと違います。ケーブルを全部後ろに隠すことで、空気の流れを変え、冷却効率を最大限に上げています」。

 実際に通常のGALLERIAと比較したところ、内部の配線構造がまったく異なっている。これならエアフローは確実に改善されているだろうし、パーツ換装や、パーツの拡張がしやすそうだ。

【GALLERIAとGALLERIA GAMEMASTERの違い】
左が通常のGALLERIA、右がGALLERIA GAMEMASTER。GALLERIAがベーシックな構造で、幅広い拡張性を備えているのに対して、GALLERIA GAMEMASTERはケーブルのほとんどが背面に回され、eスポーツ向けとして冷却効率、メンテナンスしやすさをあげている

400台を同時に検証可能な検査エリア。リモート監視で全台検査を実施中

 製造されたPCは、そのまま梱包されて発送されるわけではなく、キチンとPCとして動作するか全台検査を受ける。それを行なうのが製造エリアのすぐ隣にある検査エリアだ。ここも製造に引き続きサードウェーブのスタッフのみが担当している。

 検査エリアは、できたばかりのピカピカのPCがラックに並べられ、有線ネットワークに接続された状態で、リモート監視で、何やら動作試験が行なわれている。同時に400台検証可能で、すべてリアルタイムで監視しているという。OSのセットアップや、プリインストールソフトもこの過程でインストールされる。

 検査時間は2時間から48時間。時間がかなり違うのは、ターゲットとなる顧客が異なるためだ。たとえば、シンプルな構成のビジネスPCは2時間、法人向けのサーバーは顧客の要望に応じて48時間程度。我らがGALLERIA GAMEMASTERはスペック次第。というのは、SLIの有無、メモリの本数など、構成によって異なるためだ。構成が複雑になればなるほど検証時間は伸びていく。

 この工程を経てPC製造は完成となる。検査エリアの上部にはモニターが設置され、デスクトップPC、ノートPC、モバイルの3つで生産数が出ている。

【検査エリア】
ズラリと並べられたGALLERIAたち。7台1組で検査が行なわれている
背面を覗いたところ
こちらはノートPC。リモート操作で検査が進められている
こちらはサーバーのテスト
タブレットPCも当然検査する
これはわかりにくいが、ラック下部にあるスティック型PCをテストしている

エンブレム貼りにも熟練の技あり! 梱包出荷エリア

 検査を終えたPCは、ようやく完成品として出荷される運びとなるが、その手前の段階として、エンブレム貼りという、なかなかやっかいな工程が残っている。PC本体に張ってあるCPUやGPUのエンブレム、あれは当然世代ごとにデザインが異なっており、PCパーツは複数世代にまたがって扱っているため、その数は20種類近くにも及ぶ。

 エンブレム貼りも製造準備段階と同じように、注文票に従って貼るべきエンブレムが手元のモニターに表示され、リサイクルシールなど特定のモデルにのみ貼られるレアものに該当するケースは警告音が発せられる。

 もう1つ警告音を発するケースは、マザーボードにオンボードGPUの機能を持ち、ビデオカードを積んでいる場合。この場合は間違ってオンボードGPU側にモニターケーブルを挿さないようにビデオキャップで塞ぐ。薄々分かっていた話だが、やはりこういう作業は1つ1つ職人の手で手作業で処理されているのだ。

 またその隣では、製造準備の過程で登場したキットボックスに、各種シートを入れ込む作業が行なわれている。

【出荷準備エリア】
ズラリと並べられたエンブレムシール
スタッフが手作業で1つずつ貼っていく
こちらはマニュアル等の紙の添付物を準備するエリア
キットボックスに中身を詰めるエリア

 それらのプロセスを経るとようやく出荷可能な状態となる。出荷直前にあらためて本体全体を乾いた布でふき、PCのモデルに応じて適切な段ボールケースを用意して、1台1台手作業で梱包していく。ビニールで包んだり、発泡スチロールを用意するのもすべて手作業。担当者は手慣れた手つきで1台あたり数分程度でテキパキこなしていたが、これはなかなか大変な作業だと思った。

 トータルでの感想は、GALLERIA GAMEMASTERを含めたサードウェーブのPCは、すべて手作業で生み出されている! ということだ。果たして将来、ロボット技術やAIの進化によりPC製造が自動化されるのかどうかはわからないが、PCは極めて複雑な工程を経て1台ずつ製造されており、まだしばらくは手作業での製造が続いていくのだろうなと感じた。

【梱包も手作業】
PC全体を乾いた布で拭く
PCにビニールと緩衝材を手慣れた手つきで被せていく
そしてPCごとに異なる段ボールに収納する
1台1台、オーダーした顧客の元へ発送していく
発送を待つPCたち