インタビュー
【GT25周年】「グランツーリスモ」クリエイター 山内一典氏インタビュー
25周年を迎え孤高の進化を遂げる「GT」。その“奇跡の25年”をお祝いする
2022年12月23日 00:00
- 【グランツーリスモ】
- 1997年12月23日発売
「グランツーリスモ(GT)」シリーズがその誕生から25周年を迎えた。「GT」シリーズといえば、同作の生みの親であり、国内有数のビジョナリストである山内一典氏は切っても切り離せない存在だ。今回、その山内氏と単独インタビューを実施する機会に恵まれた。
筆者による山内氏へのインタビューは、2021年9月以来、約1年3カ月ぶり。この間、ご存じの通り、シリーズ最新作「グランツーリスモ7」がリリースされ、eモータースポーツ「グランツーリスモワールドシリーズ」のオフラインイベントが再開。クルマメーカー発の「GT」であるビジョン グランツーリスモも、ポルシェ、ジャガー、スズキに続いて12月にはフェラーリが登場。久々に「GT」界が活況に沸いた1年となった。
山内氏とは久々に直接話す機会となったため、合同インタビューでは聞けないような、踏み込んだ質問も幾つか行なった。ゲームデザイン、eモータースポーツ、ビジネスモデル、そして「GT」の未来について。本インタビューでは、山内氏との約束で、その一部のみを掲載する。
「グランツーリスモ」は、言うまでもなくすべてがオリジナルデータで構成されたインディゲームではなく、主役のクルマやコースなど、その多くのデータをパートナーから許諾を得て使用しているタイトルだ。また、プレイステーションプラットフォームを代表するAAAタイトルとして、高いクオリティが求められるだけでなく、当然ビジネスとしても成立させなければならないという高度な綱渡りを求められ続けているタイトルでもある。
今回、何気なく問い掛けた質問の幾つかは、筆者が想定していなかった回答が返ってくることもあり、その深い理由に、レースゲーム界が置かれている厳しい立場に改めて気付かされた。
振り返れば、筆者が「バーチャレーシング」(1992年)や、「リッジレーサー」(1993年)、「デイトナUSA」(1994年)、「スーパーハングオン」(1995年)といったリアル系レースゲームを、ゲームセンターで財布をすっからかんにしながらひたすら好タイムを目指していた時代は、“レースゲームこそがゲームのメインストリームである”という若さがゆえの楽しい錯覚に浸ることができた。あれから30年が経過して、当時あれほど隆盛を誇っていた日本のレースゲームは跡形もなく消え失せ、“もはや「GT」しかない”という戦慄すべき状況に陥っている。
我々レースゲームファン、クルマファンは、「GT」、そしてレースゲームというゲームカルチャーを、どう守り、育て、次に繋げていくのか。山内氏との単独インタビューは、そのことを気付かせてくれる貴重な機会となった。全文掲載できないのが申し訳ないが、ぜひお楽しみいただければと思う。
「GT」25周年と、高評価を受ける「GT7」。ここまでの受け止め
――改めて25周年おめでとうございます。この25年、いろいろなことがあったと思いますが、一番楽しかった思い出、辛いなと思ったことなど、まずは25周年の想い出から聞かせて下さい。
「グランツーリスモ7」シリーズクリエイター 山内一典氏(以下、山内氏): そうですね。ゲーム制作は常に楽しいです。もちろん、仕事はハードですが、辛いと思ったことって実はないです。マスターアップが近づいてくると、作業的にはどんどん大変になっていくんですけど、むしろどんどん楽しくなっていくんですね。それがやっぱりもの作りのおもしろさなんじゃないかなっていう気がしていますね。
――今回25周年というのは以前からわかっていたわけですけれども、メディアツアーこのタイミングにしたのは何か理由があるんですか?
山内氏: 12月23日が「グランツーリスモ」の本当に誕生日ですから、その時期に近い時期だったということですね。本当の意味での25周年というのは、12月23日なんですよ。
――山内さんのプレゼンテーションは、メディア向けながら結構開発の裏側みたいな情報も見せていましたね。開発者向けに行なわれたCEDEC以上に公開されていた印象もあります。今までどちらかというと、そうした裏側の部分は、意図的に伏せているというか、理屈じゃなくて感じて欲しい、というのを私は感じていたのですが、あえて今回一気に見せた理由について教えてください。
山内氏: 今回25周年ということもあったので、例えばコース製作であるとか、車製作であるとか、そういうことに関して1度まとめておきたかったというのがあります。
――その中で、ポリフォニー・デジタルが目指す理念を語られていましたが、現在、どれくらいまで実現できているのでしょうか?
山内氏: どれくらい……、いや、まだまだじゃないですか(笑)。まだまだ全然じゃないですか。やっぱり世界は複雑で、不可知ですよね。分からないことが多い。ただ確実に、少しずつは前進しているので、それ自体が励みにはなりますね。
――私も初代(グランツーリスモ)から、遊ばせていただいていますが、以前は、山内さんの理念に技術が追いついていないところがあって、この辺りのギャップで苦しんでいる印象もありました。現在は、当時に比べると比較的表現できているような印象ですが、まだ制限の中で努力をしている部分があるのでしょうか?
山内氏: はい、それはいつもそうですよ。ビデオゲームを作ることって、大体やりたいことの1/10くらいしかできないんですよ。どうしても制約はあるので。ハードウェアの制約であったり。そこはあまり変わっていないですね。爪に灯をともすような感じでビデオゲームって作るんですよね。
――山内さんは外から見るとかっこよくクールに作っているように見えるのですが。
山内氏: それはとてもありがたい言葉なのですが、実際はそうではありません(笑)。ただ、楽しいですけれどね。この25年間、「うー、辛い」と思ったことは1度もないですね。
――The Game Awards 2022でも、ベストスポーツ・レーシングゲームを「GT7」が受賞し、業界的にも高い評価を受けています。これらについてどのように受け止めていますか?
山内氏: そうですね。例えば「グランツーリスモSPORT」というのは、非常に実験的なタイトルで、ある意味で、ユーザーの皆さんの期待とは違うものを提案したというのはあります。ですから、リリースした時のバックラッシュ(反動)は結構すごかったです。
だから「GT7」に関していえば、「グランツーリスモSPORT」で切り拓いた新しい要素は入れつつも、これまでの「グランツーリスモ」ユーザーの皆さんが、本当に待っていたようなものを作りたいという思いがあったので。そういう意味ではちゃんと伝わったかなと思っています。
――「GT7」について付け加えるとすると、こういうと少し失礼かもしれないですが、今回延期をせずに、すんなりリリースされたことにファンのひとりとして驚きがありました。
山内氏: ありがとうございます(笑)。本来、スティーブ・ジョブズではないですが「できました」と完成してから発表、発売するのが理想的なんですけど。
――以前のインタビューでは、このままではクルマ好きがいなくなってしまうという危機感から、ゲームを通じて新しいクルマ好きを増やしたいと、大胆な野望を口にされていたと思いますが、「GT7」はそこに繋がった、また実現できたと思われていますか?
山内氏: そうですね。できることは全部やりました。
――手応えはありますか?
山内氏: それは実際に、もう少し深くお子さんなども含め幅広い年齢層のユーザーの皆さんに会ってみないとわからないところがありますね。
――なるほど。もう少し時間が経たないと見えてこないのではないかと。
山内氏: ただ、国体・文化プログラム(国民体育大会、ここではその文化プログラムとして開催された「全国都道府県対抗eスポーツ選手権」の「グランツーリスモ7」部門を指す)などをやっていると、子供たちがとんでもなく上手で、上位に勝ち上がってきたりしているのを見ています。25年も作っていると、親から子供へという世代交代が起きるんですよね。そういうものを実感として体験できるのは、割と幸せなことではありますよね。
――私も初代「GT」を遊んだときは、まだ若かったですけど、昔と今を比べると、小・中学生が「グランツーリスモ」を手にする率は高まっているでしょうか?
山内氏: 親世代から伝わりますね。
――それはつまり、ゲームライフの延長線上に「GT」というのはない。まだちょっと遠いのでしょうか。
山内氏: 今の子供たちってゲームに限らずなんでもそうですが、まず最初にモバイルなどから入るじゃないですか。家庭用ビデオゲームコンソールで「グランツーリスモ」を手に取るということはそんなに自明じゃないですよね。ただ、親御さんたちから、きちんとそれが継承されているというのが一番表現としては正しいのかなと思います。
山内氏のビジョンと、ユーザーニーズのズレについて
――業界から高い評価を受ける一方で、古くからの「GT」ファンを含めたゲームファンからは、「GT7」に対して厳しい評価も散見されます。クレジットの稼ぎ方、それに付随してのクルマの高額さなどはその一例ですが、私自身も同じレースゲームコミュニティに属していて感じるのは、山内さんの理念とユーザーが求めていることが、少しずれてきているのかなと思うのですが。
山内氏: そうですね。そこは、常に合致しているとは思わないんですよ。「グランツーリスモ」は実験的な作品であると申しましたけれども、そこはむしろ、常にずれているくらいが健全です。そういう感じはします。
――ただ、現状においては、「GT」ファンの間とコミュニケーションエラーが起きているとは思われていないと。
山内氏: はい、そうですね。むしろ、25年間続いているのは本当に奇跡みたいなもので、僕自身はいつなくなってもおかしくないと思っていますよ。
――毎回、ギリギリのところでゲームとビジネスのバランスを取りながらリリースされているということですね。
山内氏: そうです。「GT6」以降のオープニングムービーをご覧になっていただくと分かると思うのですが、これで最後になっても良いという作りになっています。
――確かに「GT7」の「碧いノクターン」を使ったオープニングも、これが本当に最後!という感じは受けました。
山内氏: そう、そこでまさに僕の考えと、ユーザーの意見がずれているんです。まさにそこですよ。つまり、ユーザーの方は「グランツーリスモ」は非常に安泰で、未来永劫続くだろうと思っていらっしゃる。僕は明日なくなってもおかしくないと思って作っていると。そのズレはあります。
――よく分かります。たとえば、クルマの制作についても、270日という非常に膨大なコストをかけて、1台1台、フルスクラッチで作っている。以前に比べると開発コストは比較にならないぐらい高くなっているのに、ユーザーは、「『GT6』よりも車種が少ない」と単純に数だけの評価をしてしまう。この辺りの苦しさはありますか?
山内氏: 苦しくはないのですが。例えば、「グランツーリスモ・ソフィー」が、こういうAIエージェントとしてできましたという発表をすると、その返答で「チェイサーを入れて欲しい」とか。そういうすれ違いはいつだって起きています。ただそれが、ユーザーのマジョリティだとは思わないです。
――加えて、「ビジョン グランツーリスモ」についても、発表される度に話題となる存在になりましたが、そればかりじゃなくて、一般向けの新車も追加してくれという意見も多いですよね。
山内氏: そこも同じです。クルマの文化というものが今後も続くというのを自明視しているからなんだと思うんですね。だから、「そんな新しい車を作っている暇があったら、俺の好きなランエボ4(ランサーエボリューション4)を入れて欲しい」、という話になると思うんですけど。それをやっていると、多分終わります、簡単に。全然未来に繋がっていかないです。
――精鋭化しすぎたカルチャーは衰退の道を辿る。
山内氏: 本当にそうなんです。結局、どんどんマニアックで、先鋭化していくとも言える。なんと言えばいいのか、すごくトリビュアルな知識に、どんどん没入していっちゃうわけです。それは僕も好きだからわかるんだけれども、それだけをやっていると、本当に簡単に終わります。
だから、ちゃんと未来への投資というのは、多少軋轢があってもやっておかないと、続かないですね、本当に。それはまさに自動車メーカーもやっていることです。だって古い車だけで良いのであれば、それで良いじゃないですか。だけど、それでは絶対に続かない。
――確かにそうですね。個人的にはアクアのような身近なクルマが増えてくれると嬉しいなと思いますが、未来へ繋がる投資も大事ですね。
山内氏: はい、そうですね。
――「ビジョン グランツーリスモ」以外の新車について、今後注力していきたい分野は何かありますか?
山内氏: 注力というのではないのですが、車の種類も今だいぶ変わってきています。ミニバンが増えたというのももちろんあるのですが。今、車好きの方はSUVに乗っていることが多いです。かつて、車好きの方はスポーツカーに乗っていました。当時スポーツカーに乗っていたような人たち、かろうじて車の運転に興味があるような人たちは、今はSUVタイプに乗っていることが多いんですね。そういう車もカバーしていかないといけないとは思っています。
――現在「GT7」には400数十台のクルマが収録されていますが、「GT5」や「GT6」では、1,000台を超える台数を収録していました。「GT7」も最終的にはそこを目指していくのでしょうか?
山内氏: 目指すというか、いつの間にかそうなっているんじゃないですか。現在の制作ペースはだいたい年間60台くらいですね。ただ、それが「GT7」というライフタイムに収まるかどうかはわかりませんが。
――現在、月一ペースでアップデートを重ねていますが、このサイクルは来年2023年も変わらないのでしょうか?
山内氏: 特に、月に1回と決めているわけではないです。たまたま、今、月に1回出ているだけです。
――そうなんですね。では、今後は短くなったり、長くなったりする可能性もあると。
山内氏: はい、あります。
――これから新しい車だけでなく、新しいモードなどのそういった新しい遊びを追加する予定はありますか。
山内氏: どうでしょうね。
――個人的な要望としては、レース中に寂しさを感じることがあるんですね。自動で実況解説を付けてくれるとより楽しいのかなと思ったりします。他社さんのタイトルになりますが、自動で実況解説をしてくれるような格闘ゲームが開発されていたりします。それと同じように、走行中の演出面での工夫があってもいいのかなと思いました。技術的には問題ないと思いますが、何か障害はあるんでしょうか?
山内氏: 障害は特にないです。ただ、おそらく格闘ゲームに比べると複雑かなとは思います。
――わかります。ただ、間違いなくそういう需要はあると思います。
山内氏: それは僕もそう思います。そういう需要があるのを認識しています。
――特にゲームサイクルの後半になればなるほど、無味乾燥で作業に近い雰囲気が強くなってきて、潤いがなくなってくるというか。そこを変えていきたいなというか、変えていくべきではないかと、私は感じます。
山内氏: そうですね。そこは、オンラインに行けばボイスチャットをしながらレースもできますし。結局隙間ですよね。オフラインとオンラインの間の話ですよね。
――ドライビングホイール(ハンドルコントローラー)の話をさせてください。以前から山内さんはドライビングホイールに対してこだわりを持たれています。私も最近、ロジクールさんの「PRO RACING WHEEL」で「GT7」をプレイしたら、体験の質が一段上がってより楽しくプレイできるようになりましたが、ホイールまわりについて、新しい計画があれば教えて下さい。
山内氏: 現状、僕らはThrustmaster(スラストマスター)とFanatec(ファナテック)で、ステアリングホイールを作っています。その関係は今でも続いているので。それ以上でもないです。
――では今具体的に何か新しい話が進んでいることはないのですか?
山内氏: ないですね。僕は、ステアリングに関してはとにかく安いものを作ってほしいですね。ハイエンドホイールはあっても良いですが、もっと皆さんが手に取りやすいものが必要だと考えています。
――では、今のダイレクトドライブ偏重、高額化の流れというのは?
山内氏: 僕は、あまり好きではないです。もちろん、それで良い体験が得られるのはわかるのですが、みんなが買えるものでもないですから。例えば、最初に出した「GT FORCE」。これはロジクール製ですけれども、あれはかなりの台数が出たんですよね。それはやっぱり安かったからです。
僕は、そこの部分をすごく大事だと思っていて、社内ツアーで「GT家具」をお見せしましたけれども、結局FanatecとかThrustmasterとかロジクールもそうですけれども、ダイレクトドライブのモーターのステアリングホイールを固定しようと思うと、あれぐらいしっかりした机が必要になってくるんですよね。それをみんなに求めるというのは間違っていますよね。だからきちんとサポートはしていきます。そういうシミュレーシングの世界があることもわかっているので。ただ、それはマジョリティではないですよ。
――なるほど。山内さんとしては、「GT FORCE」と同じぐらいの価格帯(9,800円)で遊べるようなホイールの登場を期待していると?
山内氏: そうなって欲しいと思っています。
――私はどちらかといえば、山内さんは質の高い体験を大事にしたい、守っていきたいと思っておられるのかと思っていましたね。
山内氏: いえいえ、そんなことはないです。僕はたくさんの方に遊んでほしいと思っているんです。もちろん、良いハイエンドホイールはあった方が良いと思いますよ。そこに関しては、理想的なホイールはどういうものかという想いはあります。でも、安いステアリングホイールでも、同じタイムが出ますからね。そこはハッキリ申し上げておきたいです。
――SIEさんから、新しいステアリングホイールが出るってことはないのでしょうか?
山内氏: どうでしょうね。
――サードパーティー製は軒並み高額化しているのが現状だと思います。
山内氏: いずれにせよ非常に狭いマーケットですね、シミュレーシーングという世界は。コックピットも同じです。先ほどのスタジオツアーの際に、コックピットを長々と紹介しなかったのは、そういう理由からです。要するに、ああいう狭いけれど濃い世界というのがあるのですが、そこにばかり注力しているとマーケットとして終わってしまうので。
――eモータースポーツについてお伺いします。2022年シーズンは終了しましたが、今年の手応えと来年度の展望についてお聞かせ下さい。
山内氏: 来年のお話はまだできないのですが、今年に関して言えば、ライブイベントを再開したのがすごく大きくて。2019年のシーズン、2020年の第1戦のあとCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)がやってきて、一気にライブイベントがなくなったのですが、その時までの勢いは凄かったんですよ。おおむねフォーミュラE(FIA フォーミュラE世界選手権)くらいまで到達してきたんです。そこでCOVID-19が来てライブイベントがなくなってガクンと落ちて、もう1回、再出発をしたのが今年なんです。当時のように年間6戦をすべてオフライン開催というのはできなくて、今年、年間でオフラインでのイベントは2戦やりましたが、やっぱりリアルライブイベントは盛り上がります。見ている方も含めて。だから、それをもう1回リブートして来年もやっていきたいなとは思っています。
――それから海外メディア「GTPlanet」のインタビューを起点に、「GT7」がPC版で出るのではないか? とコミュニティの間で話題になりました。山内さんは今回「事実ではない記事」と明確にその存在を否定されましたが、コミュニティのPC版への期待をどのように受け止めていますか?
山内氏: 本当にそういう期待が集まっているのでしょうか?
――私はそう思います。基本的には「The Last of Us」など、プレイステーションのファーストパーティ、セカンドパーティタイトルがどんどんPC版がリリースされる流れになっています。だったら「GT」が出てもおかしくないという希望的観測に基づいた記事だと思いますが、PCゲーマーから一定のニーズがあるのは間違いないと思います。レースゲームとそのコミュニティは昔からPCプラットフォームが最大勢力で、ある意味、「GT」だけが特異点でした。そうした中で「GT」というとても特別、かつ大きな存在がPCでリリースされれば、これはもうレースゲームファンとしては満願成就なわけです。
山内氏: わかりますよ。逆に言えば、それ以上のものではない。いくつかのビデオゲームが向かう未来というのがあって。例えば、ハイエンドゲーミングの世界は、PCやコンソールの世界なんです。それ以外にモバイルの世界があって。「グランツーリスモ」はその表現からして、ハイエンドゲーミング向けのゲームですから、当然それはPC版も入っています。作る側からしてみると、ビデオゲームコンソールとPCというのはかなり近いので。そこであえて、PCとゲームコンソールに線をひく必要はないという話だと思います。ただ、だからPCで出しますという単純な話ではありません。
――山内さんも仰っていましたが、今、自動車業界にとって100年に1度の大変革期を迎えています。そうした中で「GT」シリーズはどのような存在でありたいと考えていますか?
山内氏: 僕が先ほど申し上げた100年に1度の社会変革というのは、必ずしも自動車業界、ゲーム業界だけを指しているわけではなくて、僕らが生きているこの人間社会自体が大きく変わろうとしていると思うんですね。そんな中で僕がどういう立ち位置というのは、そんな大それたことは申し上げられないという感じです。
――「GT」というプラットフォームを通じて、そこに影響を及ぼしていくという、そういう大それたことにチャレンジし続けているのが山内さんだと、私は思っています。
山内氏: おそらくなのですが、気がつけば25年経っていて、気がつけば最初の「GT」を遊んでいたプレーヤーは25才年をとっていて。例えば、今回「フェラーリ ビジョン グランツーリスモ」が出ましたけれども、そのプロジェクトを率いているエグゼクティブの方はみんな「グランツーリスモ」の「1」からのファンなんです。つまり、何が今起きているのかというと、最初のジェネレーションの「グランツーリスモ」のファンが自動車産業の中枢を担っているんです。だから、今後「グランツーリスモ」と自動車メーカーが協力して自動車の魅力を伝えていくということは、どんどん起きていくと思います。それは最初の「グランツーリスモ」を作っていた頃とは、環境が全く違いますね。
――そういう意味では、今後より深い、エキサイティングなコラボレーションが期待できそうですね。
山内氏: そこは、一緒に知恵を絞って考えていくしかないと思っています。自動車文化がなくなって困るのは、もちろん僕らだけではなくて自動車メーカーのみなさんだってそうです。そこは一緒に知恵を絞って未来を作っていくということだと思います。
――次の25年後はどういう25年にしたいですか?
山内氏: わからないです。今25年後のことなんて、絶対想像できないですよ。3年後のことだって難しいのに(笑)。
――社内にライブラリーがありましたが、「ツーリスト・トロフィー」(PS2用オートバイレースゲーム)が目にとまりやすい位置にあったのが、とても印象的でした。個人的なお願いなのですが、「ツーリスト・トロフィー」の新作を作っていただきたいです。今のテクノロジーで「ツーリスト・トロフィー」を作れば、めちゃくちゃおもしろいと思うんです。
山内氏: (笑)。おそらく、コントローラーをどう開発するのかが肝になると思います。
――バイク独自のピーキーな操作をどう実現するかですね。
山内氏: そうです。クルマと比べると、圧倒的に身体を使うので。
――「ツーリスト・トロフィー」もそこに苦労されていたタイトルでしたね。
山内氏: ただ単純に、以前のような操作に応じてバンク角が変わるようなものだったら、もちろんすぐにできるんですけれども、多分そういうレベルでは、おそらく満足できないでしょうから。となると、バイクってブレーキングの前に走行しながら重心の位置を変えたりするじゃないですか。そういうことを自然にできるコントローラーを同時に開発しないと難しいです。“なんちゃってバイクゲーム”であればすぐ作れるでしょうけれども。
――それでは山内さんの中では満足できないと。
山内氏: と思います。
――うーん、となると、実現までかなり時間がかかりそうですね(笑)。
山内氏: そうですね(笑)。「グランツーリスモ」の挙動エンジンで、実はバイクのモデルも動くので。「GT7」のコースを「ツーリスト・トロフィー」と同じクオリティで、バイクを走らせることはすぐにでもできるのですが。
――でもそれは山内さんの中では「なんちゃって~」になってしまうと。
山内氏: そうですね。なってしまいますね、今の所。
――ただ、可能性はゼロではなさそうですね。
山内氏: ゼロではないと思いますけれども(笑)。ただ、ものすごく大変です。
――山内さんが満足できるバイクレースゲームを作れるのは山内さんしかいないと思うので。是非、よろしくお願いいたします。最後にファンに向けてメッセージをお願いいたします。
山内氏: 今どんどんクルマ好きの方が減っているので、クルマ好きの方がきちんと次の世代にクルマの魅力を伝えていかないといけないと思うんです。ともに自動車文化を後世に伝えるために協力してそういうことができたら良いですよね。ゲームはゲームで1つの仕組みなので、コミュニティの皆さんの存在があって、はじめてそれがなんらかの社会的な力を発揮していくものだと思います。クルマ好きがどんどん増えるような方向で、一緒に努力できたら良いなと思いますね。
ゲームファン、「グランツーリスモ」シリーズファンの皆さん、多くは自動車好きの皆さんだと思いますけれども、繰り返しになりますが、この25年間、こういった実験的なタイトルを支えていただいてありがとうございます。ということと、きちんと「グランツーリスモ」の神髄を守りながら、今後も新しい提案をしていくと思います。それを楽しみに待っていてください。
――期待しています。ありがとうございました。
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