インタビュー
【GT25周年】ポリフォニーデジタル山内氏メディア合同インタビュー
山内氏が25周年を迎えた「グランツーリスモ」シリーズに込めた想いとは!?
2022年12月23日 00:00
- 【グランツーリスモ】
- 1997年12月23日発売
この2022年12月23日は初代「グランツーリスモ」が発売されてから25周年を迎える記念すべき日。今回行われたポリフォニー・デジタルのスタジオツアーでは同社代表取締役プレジデントであり、「グランツーリスモ」プロデューサーである山内一典氏によるメディア合同インタビューも開催された。
メディアからの一問一問に丁寧に答えていく山内氏。ほぼNGなしで真摯に答える姿はとてもおだやかでもあり、1980年のPCカルチャーから醸成され「グランツーリスモ」シリーズを作り続けてこられた山内氏の物事に対する姿勢の一端をうかがわせる。
では早速、インタビューの内容をお届けしていきたい。山内氏自身に関すること、「グランツーリスモ」に関すること、ポリフォニー・デジタルに関することなど盛りだくさんの内容になっているのでお見逃しなきよう最後までご覧いただきたい。
まずは山内氏のあいさつから
山内氏: 一言で言うと本当に感謝しかないんですけれども、グランツーリスモってすごく実験的なタイトルで、それを今の『グランツーリスモ7』(以下『GT7 』)に至るまで、実はあまり変わっていないんですよね。常に何かをチャレンジしています。
そういう実験的なタイトルが25年間も続いたというのは、それは支えてくださるユーザーの皆さんがいたからなので、ユーザーの皆さんには本当に感謝したいと思っています。グランツーリスモのコミュニティを支えてくださっている皆さんですね。もちろん、メディアの皆さんにもこの25年間のサポートは感謝していますから、ほとんど感謝しかないという感じですね。
あとはポリフォニー・デジタルのスタッフ。もともと5人ぐらいから最初の『グランツーリスモ』の制作がスタートしているんですけれども、今250名いて25年間にわたって「グランツーリスモ」シリーズを作り続けてくれたポリフォニー・デジタルのスタッフのみんなにもすごく感謝の気持ちでいっぱいです。
山内さん自身について
――山内さんがの車を好きになったルーツはいつから?
山内氏: 「グランツーリスモ7」シリーズプロデューサー 山内一典氏(以下、山内氏):僕は3歳ぐらいですね。記憶しているところで言うと、うちの父が自営業だったんですけれども僕を助手席に乗せてあっちこっち車で配達に行ったり、そういうことをやってたんですよ。僕はずっと助手席に乗りながら父があの車はあれだ、あの車はこうだと教えてくれるわけですね。あれがセリカだとか、あるいはクラウンだとか、あるいはベンツだった。3歳くらいの時にはほぼ街を走っている車の名前は全部言えました。その辺がルーツですよね。その後、車のメカニズムであったり、ドライビングであったり、チューニングであったりというところに中学生ぐらいで目覚めていく。そういう時代でしたね。
――クルマのどこに魅力を感じるか?
山内氏: 僕はとてもシンプルで「遠くへ行けること」ですね。やっぱり免許を取った日のことや、初めて車に乗った日のことって覚えています。何かもう世界が一変して、その気になりさえすればどこでも行けるじゃないですか。車というものはパーソナルなデバイスで、しかも状況によっては危険なものですよね。それが世界的に免許という制度はあるにしても、自由に走らせていい。となっていることの奇跡みたいなものをすごく感じました。たぶん、人類が歴史的に作り上げてきたものだと思いますけれどもあれだけたくさんの人が車を運転していて、社会が回っているのはそれはある種の奇跡というか人間ってすごいなというふうに思いました。と同時にこういうものが自由として与えられているということが本当にありがたいなと思います。すごく特別だと思います。世の中にあるさまざまな商品の中で、たった一度の事故で取り返しがつかない状況になる事もある訳ですから。そんなものを普通にみんな乗っていて社会が営まれている、凄いと思いませんか。
――クルマに求めるものは?
山内氏: 乗り味は常に気になります。例えば、ステアリングフィールに関して言うと、ポルシェとかBMWはやっぱりいいですね。この間、モナコで新しい911 GT3 RSを試乗する機会があって、モナコの山の上まで行ってきたんですけど、とてもそういう場所で乗る車ではなくて、本来ならニュルブルクリンクを飛ばすクルマなんです。けど、でもすごくいいクルマでしたよ。僕は割とガチガチの、サーキットを走るクルマのほうが好きですね。
――アイデアはどこからインプットされる?
山内氏: もう30年近く「グランツーリスモ」シリーズを作り続けているので、どういう「グランツーリスモ」を作るかということはほぼ毎日考えているんですよね。ちょっとしたきっかけでアイディアが落ちてくるみたいなことっていうのはある。例えば『GT7』でいうと、ミュージックラリーという新しいゲームモードを作りました。あるいはミュージックリプレイという新しいリプレイのモードを作りましたけど、それは例えばその2つに関して言うとそれは音楽を聴きながらこの音楽を伝えたいなって、その時にどういうゲームシステムが必要だろう。例えば、そういう発想ですね。それから着想する時というのは、音楽を聴いている時、あるいは本を読んでいる時、あるいは車を運転している時。もちろん他のビデオゲームを遊んでいる時、いろんな時に着想はありますけれども、それは突然やってくるというか、そういうものですね。
――1980年代のPC文化が今にどうつながっているのか?
山内氏: 当時のPC・マイコンのゲームは、非常に実験的な作品しかなく、あまりウェルメイドなものってなかったですよね。その後ファミコンなどの家庭用ゲーム機が出てきて、ある種のお行儀のいいゲーム等がどんどん増えていきます。PCゲームは今でいうと本当にインディーズしかない状態で、さまざまな試みが行われており、必ずしもビデオゲームクリエイターという職業も自明ではなかった時代です。ですから、いろいろな業界の人がゲームを作っていたんですよね。科学者だったり、物理学者だったり、精神科医だったり、そういう人たちが作っているものはすごく面白くて。「グランツーリスモ」が今でも実験的な作品であることの理由は、その辺りの影響が大きいですよね。
「グランツーリスモ」シリーズの変化について
――25年経って「グランツーリスモ」ユーザーの遊び方はどう変わったか?
山内氏: 今「グランツーリスモ」には大きく2つのユーザーのピークがあり、世代的に言うと比較的壮年層の方の山と若い人達の山が2つある感じです。壮年層の方の山は恐らく最初の『GT』から遊んで下さっている中で主にオフラインモードとキャリアモードでとにかく「グランツーリスモ」で走り続けてクレジットの中で車を買って…という遊び方をされるトラディショナルな「グランツーリスモ」ファンの皆さんがいらっしゃいます。あともう一つがわりとオンラインネイティブな世代の若者たちがいて、彼らの遊び方を見ているとログインして起動してオンラインのレースをいくつかやって、あるいはロビーで囲んで比較的短い時間でプレイを終わらせるっていうプレイスタイルの方が多いですね。
――フォトモードとかリバリーエディターはどうでしょう。
山内氏: 一部のユーザーの皆さんは、もう本当にそれだけをひたすらやっていらっしゃる方も多いですね。実は「グランツーリスモ」で撮影を覚えたという方はすごくいらっしゃると思います。「グランツーリスモ」のフォトモードは相当高度なことができるので、それで写真に興味が出て実際にカメラを買って本物の写真を撮り始めたという方も結構たくさんいらっしゃいます。
――25周年で進化したところは?
山内氏: 進化というか変化は実は毎タイトル起きていて、ビデオゲームってハードウェアの進化に合わせて進化していくものなんですけれども、作り方って毎回変わるんですよ。それが例えば映画制作と比べると全然違うところで映画制作って50年前からカメラとフィルムで撮って編集してっていうツールは変わっても根本のシステム自体があまり変わっていないですよね。ビデオゲームの場合って、コンピューティングパワーが大体初代のPSからPS5で3桁とか4桁という位に性能が向上しているわけですけれども、それぐらい変わってくると実はワークフローそのものも変わるし、制作環境そのものも変わるのでやはりかなりその作り方に関してはスクラップアンドビルドをするのが日常的になっています。ですから、どこかにターニングポイントがあったというわけではないんですけれども、同じチームが同じ会社で作っていてもその作り方は毎回結構変わります。それがゲーム制作の面白さでもあり、大変さでもあります。
――特に印象深い出来事だったり、ターニングポイントになった出来事みたいなものは?
山内氏: 特にこれだというのはないんですよね。「グランツーリスモ」の制作ってめちゃくちゃ大変なんです。1タイトル1タイトルが本当にこう、そうですね…命をかけて作っているところがあるのでそれぞれに思い出はあるんですが、どちらかというと、常に未来を見て生きているところがあり過去のことはどんどん忘れて行くところがあります。なので「改めて振り返ってみる」というのはこういう25周年の企画みたいなものがなければ多分なかったと思います。
『グランツーリスモ7』の音楽面について
――BGMの美しさを達成するために特に重視した点は?
山内氏: 美しいか美しくないかというのは、美学的な判断で結構主観的だったりもするじゃないですか。僕らはやっぱり”世の中にはこういういい音楽があるよ”と思うものを僕らの基準で選んでそれを「グランツーリスモ」に収録しているところがあります。クラシックも入っていますし、ジャズも入っており、いろんなジャンルの音楽が入っています。でもその中でも例えばジャズでスタンダードなナンバーは結構たくさん入っているんです。というのもゲームってどんどん世代交代していきますから、例えば僕の世代でも出ている“100年後も残るいい音楽”みたいなものは、やはりちゃんと紹介してあげないと次の世代につながっていかないところがあると思うんですよね。だから、後世に伝えていきたい気持ちで収録しているところはありますね。
――推しの一曲は?
山内氏: 例えばオープニングに使われている「蒼いノクターン」は僕の大好きな曲でピアノで聴いたりもしますが、ああいう曲もほっておくと多分忘れられてしまうみたいなことって起きるんですよね。名曲であったとしても。だからいろいろな機会にそういうものを改めて紹介し直すというか。例えばあの曲も全部レコーディングし直したんですよ。古い音源で1970年代の曲ですけれども、それを改めて全部オーケストラで録音し直して新しい音源を作ったりもしているんです。だからそういうところがちょっと文化事業的な側面もありますよね。ミュージックラリーの最初の曲「フックト・オン・クラシックス」という曲、あれも1980年代に大ヒットしましたけれども、ああいった曲も改めて紹介しないとたぶん忘れられていっちゃう曲なのかもしれないんですよね。だからそういうものを「いや、世の中にはこういういい曲があるのか」というのをやっぱり伝えたいなって思いが出てきます。
――「グランツ―リスモ」にとって「Moon Over The Castle」とは?。
山内氏: やはり「グランツーリスモ」のソウルだと思います。ただどうしても僕ら作り手からすると、制作期間もいれると30年間「グランツーリスモ」を作ってきたわけですから、これが定番だって分かりながらも別の提案もしてみたい。みたいなことってどうしても生まれてしまう時があるんです。なので、別のオープニング楽曲が使われる事があるのはそういう理由なんですよね。ただ、僕はユーザーの皆さんはあの曲が流れないと僕の「GT」じゃないという気持ちなのはすごくよくわかるので。なるべくちゃんと「Moon Over The Castle」をいろいろなアレンジで使うようにしています。やはり安藤まさひろさんの本当に一番いい時代に一緒にお仕事できたなという感じがしています。最初の『GT』の時にあの出だしのイントロはオーケストレーションで始まって、そこからロックに繋がるという構想もあったわけですよ。それをどなたにお願いするのかって。そういう中でその当時ソニー・ミュージックに所属されていた安藤さんに出会うわけです。それは何て言うんでしょうね、本当に偶然と言えば偶然の出会いなんですよね。でも、結果としてああいった名曲が生まれたというのは幸運だったと思います。
クルマについて
――収録台数の目標は?
山内氏: そこは何とも言えないですね。一番多かった時でやっぱり1,000台を超えていた時がありました。ただその頃は、外見はほとんど同じでグレードだけ違うものも存在していたので、あの当時の1,000台というのと今の400台というのはだいぶ勝手が違うんですけども。それともちろんそのモデルの精度も含め僕らは大体月5台ぐらいのペースで作っているんですよね。だから年間60台ぐらいのペースということになりますけれどもそのペースはそんなに悪くないと思っています。内装も含めて今のPS5でも明らかにオーバースペックなぐらい細部まで作り込まれていますから、もう一度作り直す必要はもうないと思ってるんですよ。なので、あそこまで精度高くモデルが作られていて、内部のフィジックスであったり、あるいはサウンドも録ってますから恐らく文化的な遺産になっていくとは思っています。5台ずつアップデートで追加されるとは限らないんですけれども、今のところ、おおむねそれぐらいのペースで僕らは作っています。
コースについて
――コースをレーザースキャンで制作するにあたっての苦労は?
山内氏: 今でこそLIDARというのはある意味よく見かけるようなものにはなりましたよね。例えばGoogleが街をスキャンしたりとか。でも僕らがLIDARを使い始めた時期というのはまだそこまでポピュラーになっていなくて、非常に高価でもあったけど大きかったんですよね。それを全世界の取材の時はばらして運ぶんですが、運んでまた向こうで組み立て直したりとか…、そういうのはとにかく大変でしたね。ある意味冒険みたいなところがあります。本当に体力勝負ですし、他に天候との関係とか実際に危険なところにも行きますし、そういう苦労はありました。
――市街地コースの拡充やヒルクライム復活は?
山内氏: 市街地コース制作の一番の難点は、シリーズを追うごとにどんどんモデルの精度が上がっていますよね。市街地コースは非常に複雑な形をしていてかつ完全にそこにしかないユニークなものですよね。一つとして同じ建物はないわけです。そういったものを『GT7』のクオリティで作るのはものすごく手間が掛かります。例えば市街地コースを一つ作るコストでパーマネントコースを5つぐらい作れたりするので、そういうコストパフォーマンスという意味で市街地コースが若干敬遠されがちなところもあります。ただ、その辺はコースの作り方・車の作り方のプレゼンテーションでお話しした様に常にイノベーションが起きているんですよ。ですので今考えられる手間のかかる方法で今後も作り続けるとは限らなくて、何らかのイノベーションがあれば一気にそういうものが実現する可能性はあります。
――オリジナルコースはどこを重点的に作るのか?
山内氏: 「グランツーリスモ」は実は最初の『GT』で実在コースが一つも入っておらず、全て架空のコースなんですね。だから今でも『GT』に入っているハイスピードリンクであるとか、トライアルマウンテン、あるいはディープフォレストみたいなコースは初代『GT』からずっとアップデートを続けてきて今に至るんですけれども、架空のコースはまずコース図を書くところからスタートします。そこから例えばここは丘になっている、ここは谷になっているとか、アップダウンの情報を加えていって、それを実際に作ってみて走ってみて、例えばバンク角はどうだ、コーナーのRはどうだ、みたいなことを調整しながら、僕は線形と呼んでいますけれどもレイアウトを決めていきます。レイアウトが決まってから周囲の景観を作り込んでいくみたいなプロセスを取るんです。走ってみないと全然分からないコース制作を行っていますから、最初はベルト状のものを作ってそれだと物のスケールがわからないので、植林を植えたりとか、建物を実際置いてみたりしてスケールが分かるような状態にして、コース形状を詰めていくことになります。
「フェラーリ ビジョン グランツーリスモ」について
――「フェラーリ ビジョン グランツーリスモ」の評価は?
山内氏: フェラーリのチーフデザインオフィサー:フラビオ・マンツォーニさんがおっしゃってたんですが、ちょうどモナコでアンベールする直前に小声で僕に伝えて下さったんですが、彼は“Most beautiful ferrari car ever.”(これまでで最も美しいフェラーリ)って言ってたんですよ。その感覚が僕はすごくよくわかっているんですね。もちろん、これまでのフェラーリの形とは随分違いますけれども、あれは複雑な面を持っているんですけれども、でもデザインのされ方としてはとてもシンプルにクリーンで作られていて、それとシド・ミードの影響を受けている感じがします。ちなみに「シド・ミードの影響を受けていますよね。」という話をマンツォーニさんにしたら、やっぱりマンツォーニさんは実はシド・ミードが大好きで。だからそういうところで例えば同じような車を挙げると、ピニンファリーナが作ったバードケージとかですね。ああいう車と一緒で恐らく今後100年の自動車デザインに影響を与えるマスターピースの一つになるだろうという気はしています。
「グランツーリスモ・ソフィー」(以下「GTソフィー」)について
――なんのためのAIなのか?
山内氏: もともと「グランツーリスモ・ソフィー」って速く走るってことは目標にしていなかったんですよね。あくまでも通過点として速く走ることを達成しようと思っていたんですけれども。と同時にどうしてもこれまでのインゲームAIのやり方、つまりルールベースのAIというのはできることに限界があります。というのはこういう状況の時にこういうことをしなさい、という育成プログラムは延々と書いていくわけですね。それは人間が書かなければいけないわけで、それってすごく限界があるんです。例えばそれを100万行書くって物理的に無理じゃないですか。ニューラルネットワークを使うと、言ってみればそういう人間ならとても書ききれないような「こういう状態でこうする」、という様なそういったルールがある意味無限にネットワーク層の中に生成できるんですよね。
そうすると何が起きるかというと、人間のAIだとこういうポジション取りをしたらちゃんと譲ってくれるだとか、こういうポジションとしては絶対に抜けるとか、そういうことを人間は読めちゃうわけですが、そういうことが起きなくなります。ものすごく臨機応変にプレイヤーの車とのインタラクションが可能になるので。速さとは別に。僕も「GTソフィー」と何度もレースしているんですけど、ほとんど人間とプレイしている感覚と一緒です。もちろん速さも変えられますから、そうすると、いろいろなレベルのユーザーにフィットするんじゃないかなと思っています。「GTソフィー」は人間と走りながら学習していくわけじゃなく、あくまでも「GTソフィー」対「GTソフィー」で戦いながら学習していくので、何を学習させるのかというのは報酬関数の設定次第なところがあり、例えば楽しいと感じてくれるのかとか、どう振る舞ったらフェアだと感じてくれるのかというところの報酬関数の設計の問題になってきます。
eモータースポーツについて
――年配者向けにシルバーカップ的なものは?
山内氏: 恐らく色々な形で大会の開催は可能だと思うんですね。例えば、12月18日には「GT College League 2022」という全国の大学対抗選手権の決勝をやります。そこでは大学の自動車部の若者が戦うわけですけれども、これって例えば公式世界大会の「グランツーリスモ ワールドシリーズ」と比べると全然違うレースになるんですよ。「GTワールドシリーズ」は数百万人近いオンラインのコンペティターの中のトップ12人が争うレースなので異様にレベルが高いんです。でも一方で例えば大学の自動車部という枠組みで見た場合というのは、ほのぼのとしたレースになるんですよ。ですから、そういったことを企画してくださる方がいらっしゃるなら、多分色々なことが可能なんですよね。
ただ、「GT College League」は主催が朝日新聞社ですけれども、「GTワールドシリーズ」を年間を通じて私達が運営・開催するだけで、もう大変な作業量なので。新しい選手権をするのであれば、例えばそういうことをやりたいって言っていただける方が現れれば、恐らく可能だと思います。主体としてポリフォニー・デジタルからやるわけではなくて、ということです。現在、実は結構な数の全国の自治体や老人会の方々ですとかからそれこそ国体・文化プログラムの「GT」の競技を見られて、「若者がやっている、ああいうeスポーツ、eモータースポーツを自分達でもやりたい」「自分達の町でもやりたい」みたいなお問い合わせをいただき許諾をしてイベントを皆さんで運営頂く、という例も非常に多いんですね。国体・文化プログラムでの「eスポーツ選手権」では現在、「一般の部」と「U-18の部(6~17歳以下)」に分かれていますけれども、もしかすると先に「シニアの部」をつくってもいいんじゃないかなという気はしますよね。
開発について
――福岡スタジオとの共同作業を行っているのか?
山内氏: 福岡スタジオ側と東京スタジオ側で同時にPS開発の開発機を起動して同じ絵を見ながらビデオ会議をしながら絵を詰めていったりみたいなことをやります。モデルやコースにしても一緒にここ(東京スタジオ)でレビューしたりとか、開発はここ(東京)と福岡でやっています。それ以外にLAとアムステルダムにスタジオがありますけれども、そこはどちらかというとは他の企業とのパートナーシップ業務を行うメンバーが常駐しています。
――コードが正しいんだけど動かないといったことの対処は?
山内氏: それは幾らでもありますが、その過程というのは何て言うのかな、特にゲームがそうですけど非常にローレベルでハードウェアを使いこなすんですよね。ものすごい最適化を行うので、時にはCPUメーカーGPUメーカーもわからないようなハードウェアのトラブルに遭遇するみたいなことはやっぱりあります。そういう場合は本当にありとあらゆる手を尽くしてテストコードを書いたり、ソフトウェアに問題はないか。ハードウェアに問題がありそうだみたいなところまで突きつめた上で、例えばハードウェアのベンダーさんだったり相談してここで初めてハードウェアのバグがわかったりみたいなことも起きます。
――初代のPSの頃から難しくなってきているか?
山内氏: そうですね、複雑にはなってきてますからそれはそうかもしれないですね。ゲーム業界に限らずですけれども、ソフトウェアの開発環境とかデバッカーだとか、そういったものも進化はしているので、一概にどんどん難易度が上がっていくとは言えないところもありますけれども。
ユーザーの声
――プレイヤーから拾えたもの拾えていないものはあるか?
山内氏: 要望は常にたくさんあります。毎月アップデートを現在もしていますけれども、例えば僕がツイッターでアップデートの告知をしたらそれに対する返信で「あそこをこうしてほしい」、「あの車を入れてほしい」、「このコースを入れてほしい」とコメントを頂きます。日々それは僕らはウォッチしていて、その中で実現できるものは実現しているという感じですね。なのですがユーザーさんからの重大なフィードバックがあったが残念ながら入らなかったとかそういうことは特にないです。やはりユーザーの皆さんが感じていらっしゃることというのは僕らも同じく感じているので。
「グランツーリスモ」のコアスタッフについて
――長く続けられている理由は?
山内氏: シリーズが始まった頃のコアメンバーは今でも第一線でやっていますので、同時にそのコアメンバー自体もどんどん増えているんですよね。新しい世代のメンバーがどんどん加わってきていますから。なぜそういうことが可能だったのかというのは、一つには多分この会社のカルチャーというか、やっぱり一つのファミリーみたいな感じなんですね。「グランツーリスモ」シリーズの歴史25年間というものを振り返ってみると、別の言い方をすればどんどんファミリーを大きくしていったというそういう時間でもあって、ポリフォニー・デジタル自体もファミリーとしてこうして大きくなってきましたし、同時に各自動車メーカーであったり、それ以外のさまざまな会社の方々であったり、あるいは「グランツーリスモ ワールドシリーズ」の選手達も含めて、わりと巨大なファミリーを形成しているところがあります。だからそれは何て言うんでしょうか、そういう文化だったからなんだと思います。
――COVID-19で開発に難しさがあったか?
山内氏: COVID-19による影響というのは、概ねどの会社でも起きていることと似たようなものだとは思います。特に僕らの会社だけで何か特別なことが起きたわけではないんですが、先ほど「ポリフォニー・デジタルは一つのファミリー」みたいな例をお話ししましたけれども、そういう基盤があるので、リモートワークが増えた結果何か問題が起きるといったことはなかったですね。リモートワークに移行するメンバーが出ても問題は少なかったです。またリモートワークしているのは比率としては半分以下ぐらいだと思います。
WTCシリーズなどのロングレース時に
――チーム無線などの実装の予定は?
山内氏: 予定はないんですけれども、おっしゃっていることは僕もすごくよくわかります。「グランツーリスモ」って最終的にどういう遊び方に重きを置くかというとドライビングの身体性なんですよ。ゲームシステムの中のここでクレジットが稼げるとか、ここでチューニングパーツを買うとかというところを通り過ぎた後って、例えば運転しているドライビングというある種のフローステートにあること自体が快感になってくるんですよね。「グランツーリスモ」って最終的に身体で楽しむゲームなんですけれども、おっしゃるとおり本当に例えば気がついたら1時間とか2時間コースでタイムトライアルしているじゃないですか。そういう時に、確かに誰かに何か言ってほしいなという気持ちはわかります。
レースのルールについて
――ユーザーにわかりやすく周知できるか?
山内氏: 『グランツーリスモSPORT』の時もありましたし、今回『GT7』もそうですけれどもスポーツモードを始めるときに必ずスポーツマンシップについてのビデオを見ることになっています。「こういうことはやっていい」、「こういうことはやってはいけない」ということをきちんとクリアした人しかオンラインのコンテストに参加できないようになっているので、そこは実際のリアルなレースと一緒ですよね。例えばグランプリのワールドシリーズみたいなライブイベントの舞台ですと本当に数百万人の中から選ばれたトップの12人がレースしますから、ものすごく繊細なことが起きるんですよね。何か起きた時というのは、やっぱりどっちが良い悪いみたいなことを簡単に決められないことって多くて、そういう時はやっぱり他のスポーツと同様最終的にはスチュワードが判断していくことになります。簡単には全部明示的なルールにはできないことが多いですね。
「グランツーリスモ」の難易度について
――初心者向けに何かちょっとアレンジして優しくなるような心遣いはあるか?
山内氏: 『GT7』自体は恐らくそれほど難易度の高いゲームにはなっていないので、特に最初のエンディングを見るまでの部分というのは難易度は低めに設定されていると思います。例えば新しく追加されたミュージックラリーの様な音楽を1曲聴き終えるまでただ走ってみるなど、「グランツーリスモ」のマニアではなくとも例えば子どもでも楽しめるモードなどでしょうか。実際にどれぐらい各ゲームをどれぐらいコンプリートしているのかというのは僕らはわかるんですけれども、ミュージックラリーは非常にコンプリート率が高いです。飽きずにやってもらえているので、作って良かったなと思います。
未来について
――未来の展望はありますか?
山内氏: 今この場で未来の何らかのお話をするのはちょっと早いかなとは思っています。僕自身はわりと常に未来でやりたいことってたくさんあるんですけれども、ただまだ『GT7』を発売してからそんなに時間が経っていないので、その時点で未来のことを話すのはちょっと時期としては早いかなという感じがしています。30周年に向けての目標みたいなのものもないんですね。むしろ「世界がどう変化していくのか」ということにすごく興味があります。その中でビデオゲームがあるいは「グランツーリスモ」がどういう形で関わっていくのか、ということに今一番興味があります。ゲーム業界がという事ではなく、今、世界的に、多分100年ぶりぐらいの大きな社会変化が起きると思うんですね。
――イノベーションを起こすための目標とか抱負は?
山内氏: 一つはセンサーの技術がとにかく欲しいです。キャプチャリングの話をしましたけれども、今イメージセンサーとレーザースキャナーでデータキャプチャしていますけども、もっともっといろんなセンサーを使いたいです。そういったセンサーのイノベーションがあると、当然そこで得られたデータをどういうふうに計算するのかというところにもイノベーションが起きるので、そういうイノベーションを心待ちにしているということと、あとセンサーの技術と対になるのはデータをどう処理するかというデータ処理技術なんですけれども、これはどちらかというとソフトウェア側の世界なんですが、これも例えば「GTソフィー」の場合AIを使っていますが、今後はそういう形で得られたデータをどのようにプロセスするのか、コンピュートするのかみたいなところの開発は、多分延々と続いていくんだと思います。
『GT7』のPC版のウワサについて
山内氏: あれは明らかに事実と異なる記事でした。開発者としてすべての可能性を常に考えている、という話だったんですよね。具体的に何かをしているかと言えば、何もしていない。なので、お話しできることは何もないんですよ。
――ありがとうございました!
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