インタビュー

「マーベル ミッドナイト・サンズ」Firaxis開発者インタビュー

「Marvel XCOM」に“ならなかった”理由とは? オリジナルヒーローを生んだ経緯なども聞いてみた

【マーベル ミッドナイト・サンズ】

開発元:Firaxis Games

販売元:2K

ジャンル:シミュレーションRPG

発売日:12月2日(PS4、Nintendo Switch、Xbox Oneは未定)

価格:
PC:8,250円(税込)~
PS5/Xbox Series X|S:9,350円(税込)~

 いよいよ発売目前の「マーベル ミッドナイト・サンズ」。マーベルコミックスを題材としたゲームでは初となるプレーヤーの分身が主人公となって操作できるシミュレーションRPGだが、レビューのために事前にプレイしていた筆者にとっては開発者に聞いてみたい質問も多く生まれていた。

 本作を開発したのは、あの難易度超ハードな過酷なシミュレーション「XCOM」を生み出したFiraxisなのだが、純粋なシミュレーションというよりは、カードゲーム的要素が非常に強く、フィールド画面のビジュアルは類似する点もある一方で、「XCOM」のシビアさは全く感じないソフトな作りになっている。

 それでいて、簡単すぎない適度な難易度でこちらのヒーローたちは何度も窮地に陥ってしまうが、最後はヒーローらしくギリギリのところできっちり勝利する絶妙のバランスのよさ。この発想はどのあたりから得られたのだろうか?

 また、アベンジャーズのメンバーたちのようにメジャーなヒーローがメインではなく、「ミッドナイト・サンズ」という日本では比較的マニアックなコミックスをチョイスをした理由はなんだろう? 全体ではどんなヒーローが登場するのだろう? そもそもオリジナルヒーローを主人公にした理由は?

 多くの疑問が浮かぶ中で、幸いにも今回、Firaxis Games「マーベル ミッドナイト・サンズ」クリエイティブ・ディレクターのジェイク・ソロモン氏にメールにてインタビュー出来る機会を頂けたので、そのやり取りについて紹介したい。

主人公の顔や髪型、髭、服装などカスタマイズ項目が豊富な「マーベル ミッドナイト・サンズ」の主人公、ハンター。カットシーンや戦闘中もカスタマイズした顔でプレイできる
多くのヒーローが登場する本作だが、最終的にどんなキャラクターが登場するのか。発表されているヒーロー以外のサプライズはあるのか?
これまでにないカードゲームとシミュレーションの融合というユニークなシステムの発想はどこからきたのだろうか?

「XCOM」とは違う、マーベルヒーローらしいシミュレーションRPGを打ち出す

――マーベルタイトルはアクションゲームが多い中、「マーベル ミッドナイト・サンズ」ではシミュレーションRPGというジャンルを選択しました。これを待っていた!という人も多いかと思います。そんなシミュレーションRPGを待っていたファンに一言お願いします!

ジェイク・ソロモン氏:理想のスーパーヒーローゲームについて構想をめぐらすとき、2つのポイントがありました。1つは戦闘です。スーパーヒーローとして戦い、力を発揮し、敵を撃破し、蹴散らす。多くのゲームでは、それがとてもよくできています。しかし、スーパーヒーローにも別の側面があります。スーパーヒーローたちはどのように日々の生活を過ごしているのか? マーベルファンにとって、ヒーローたちが戦いの場で何をするかということと同じくらい、それ以外で何をするかも興味があるはずです。

 私たちは皆、スパイダーマンが大好きです。彼がアクションを繰り広げる姿はもちろんのこと、ピーター・パーカーとメイおばさん、メリー・ジェーンとの関係、デイリー・ビューグルでの仕事などを見ているからこそ、その愛が生まれるのです。私たちはプレーヤー体験を念頭に置いてゲームをデザインしています。スーパーヒーローの一人として、毎朝起きてトニー・スタークに挨拶したり、ロビー・レイエスとゲームしたりできるようにしたかった。そのためには、ハンターというオリジナルキャラクターを作ること、またハンターを“肩越し”の三人称視点で操作し、マーベルの世界に入り込んだような感覚を味わえるようにすることが重要でした。


ドクター・ストレンジとトニー・スタークがボードゲームに興じている!? このようなスーパーヒーローたちの日常を楽しめるのも本作の魅力の1つだ
ハンターの外見を自在にカスタムすることで、この世界観に自分が入ってコミュニケーションするような感覚が楽しめる
カットシーンでもカスタムしたハンターの姿で楽しめる。自分のこの手でスパイダーマンを助けられる日がやってこようとは……

――開発スタジオのFiraxis Gamesの手掛けた「XCOM」シリーズは近未来SFです。マーベルヒーローにはSFの世界観の物語も多くありますが、ミッドナイト・サンズという魔法や異世界といった要素中心のヒーローをチョイスしてその世界観を舞台にした意図は何でしょうか? ミッドナイト・サンズは90年代の日本では比較的マイナーなタイトルに思えるが、そちら(米国)ではかなりの人気作品なのでしょうか?

ジェイク・ソロモン氏:なんと嬉しいご質問をありがとうございます! というのも「ライズ・オブ・ザ・ミッドナイト・サンズ」は90年代の隠れた名作で、何十年もコミックを読んでいるファンしか覚えていないはずですから。

 マーベルから彼らの世界観でゲームを作らないかと持ちかけられたとき、どんなストーリーで作りたいのか聞かれました。シナリオディレクターと私は、当時読んだ素晴らしいストーリーやコミックについて夜な夜な話し合い、私たちのお気に入りの作品の多くに「スーパーナチュラル(超自然)」という共通のテーマがあることに気づきました。私のお気に入りは「インフェルノ」とゴーストライダーの重要な作品である「スピリット・オブ・ヴェンジェンス」。そしてこれらの作品は、史上最高の超自然がテーマのコミック「ライズ・オブ・ザ・ミッドナイト・サンズ」に結実していると言えるでしょう。

 この物語を、特にミッドナイト・サンズを知らないような観客に伝える機会を得たことは、私たちにとって大きな喜びでした。ひとつひとつここに記載することは致しませんが、新キャラクター、特にハンターはマーベルで初登場となりますし、他にも様々登場する予定です。

――カードゲームのような要素も持ち合わせているのは実にユニークなアイディアですが、どのような発想からシミュレーションゲームとカードゲームの融合というこの組み合わせに行きついたのでしょうか?

ジェイク・ソロモン氏:「マーベル ミッドナイト・サンズ」は、「Marvel XCOM」のようなものを作ろうと思ってスタートしましたが、死に物狂いでエイリアンの侵略から生き残ることと、スーパーヒーローとして戦場を圧倒するというのは、方向性としてはほぼ真逆でした。そのため、「マーベル ミッドナイト・サンズ」では戦闘におけるいくつかのシステムを削除しました。カバーなし、確率による命中判定なし、パーマデス(死亡したキャラクターが復活しない要素)なしなど。「XCOM」のシステムからそれらを引いただけではプレイしていて楽しいとは思えず、まったく別のゲームプレイデザインが必要になりました。

 タクティクスゲームは本質的にはパズルのようなもので、パズルは何度遊んでも面白い複雑さを持ち合わせている必要があり、そうでなければ戦闘はいつも同じ展開になってしまい退屈です。「XCOM」には命中率が設定されていましたが、「マーベル ミッドナイト・サンズ」には別のメカニズムが必要でした。そこでプレーヤーにアビリティをランダムに与えることを考えついたのですが、そこにカードゲームという要素がぴったりとハマったのです。カードゲームがどのような物かは誰もがすでにある程度理解しているのも利点でした。重要なのはカードを引き、ランダムで手に入れ、それをプレイするという点です。


「XCOM」シリーズと異なり、カードを使う事でシミュレーションの難しさよりも爽快感が楽しめるシステムに仕上がっている
攻撃時の演出もしつこすぎず短めながらもカッコいいビジュアルのため、プレイしていて飽きさせない作りになっている

――マーベルゲームでは初のゲームオリジナルヒーロー「ハンター」! しかも既存ヴィラン、悪魔リリスの子供という大胆な設定には衝撃を受けましたが、オリジナルヒーローを新たに生み出した意図は何でしょうか?

ジェイク・ソロモン氏:ハンターは、プロジェクト開始当初からプレーヤーが自分の姿になりきってゲームのストーリーを体験できるようなオリジナルの新キャラクターが必要だという考えから生み出されました。

 アイアンマンやスパイダーマン、キャプテン・アメリカを操作キャラにするとそのヒーローのゲームになってしまうので、プレーヤー自身がヒーローとして物語を体験するためのキャラが必要だったのです。「マーベル ミッドナイト・サンズ」は、マーベル・ユニバースの隅々からヒーローが集結するクロスオーバー作品として、コミックにインスパイアされたイベントのようなものにしたかったのです。

 なぜハンターがリリスの子供なのかというと、これはコミックの「Rise of the Midnight Sons」に登場するオリジナルのリリスの物語にさかのぼります。そこでは、リリスにはリリンと呼ばれる、不気味なキャラクターの子供たちがたくさんいました。しかし、彼女は母親として本当に彼らのことを愛していました。それが記憶に強く残っていて、「マーベル ミッドナイト・サンズ」では母親の愛というテーマを軸にしたいと考えたのです。

――シンプルなシミュレーションのみに留まらず、オープンワールドのような探索性も持たせた仕組みは、我々の睡眠時間を大いに奪う結果となっています(最高!)。また、他ヒーローとの交流イベントや友好度といったユニークな仕組みはプレーヤーを大いに悩ませますが、これはゲームで新たに登場したオリジナルヒーローである「ハンター」の背景や性格をより深く掘り下げるための作戦でしょうか?

ジェイク・ソロモン氏:ハンターにバックストーリーを持たせつつ、プレーヤーが自分なりのハンターになれるような柔軟性を持たせることが重要でした。アイアンマン、キャプテン・アメリカ、ニコのような非常にパワフルな魔女、“バッドアス”なブレイドまで、膨大な数の伝説のヒーローを率いているという事実も、その一因です。ハンターにバックストーリーを持たせることで、これらのヒーローが何故ハンターに関心を持つのか、また何故、闇の勢力との戦いに率先して参加するのかわかるでしょう。


圧倒的な強さを見せる悪魔の母、リリス
ハンターの夢の中に人間の姿のリリスが!ストーリーを読んでいると隠されたハンターの秘密など、かなり練り込まれたバックボーンがあることが予想できる。果たして母親の愛というテーマがどこに隠されているのか?
スパイダーマンやブレイド、ドクター・ストレンジと共闘するプレーヤーの外見をした主人公のハンター。確かに馴染みのスキンヘッドさんが画面内にいるととても落ち着く

――ズバリ、現在公開されている以外に追加を予定しているヒーローやヴィランはいますか? 2人のゴーストハンターについても気になるし、X-MENのほかのメンバーが登場するのかも興味深いところです。私はサイクロプスの大ファンですし、マグニートーのような強敵も参戦するのかは興味深いと思っています。

ジェイク・ソロモン氏:DLCとして、さらに4人のヒーローが追加される予定です。「おしゃべりな傭兵」ことデッドプール、ミッドナイト・サンズのオリジナルメンバーであるモービウス、死を呼ぶ守護者ヴェノム、そしてX-MENの最高のリーダー(と私は思っています)であるストームが登場します。各DLCヒーローによって、大聖院に個別のミッションとアップグレードが追加されます。発売後もお楽しみをたくさんご用意しています。

――DLCなども用意されていますが、悪魔リリスとの激闘以外のエピソードも検討していますか?

ジェイク・ソロモン氏:各DLCヒーローにはそれぞれミッションが用意されており、ゲーム本編にシームレスに組み込まれています。他のヒーローと同様に、友情を育んだり、能力をカスタマイズしたりすることができます。

――最後に「マーベル ミッドナイト・サンズ」を楽しみにしている日本のファンに一言!

ジェイク・ソロモン氏:日本のファンの皆様には、日頃の感謝を申し上げるとともに、本作を作るにあたって、多くの日本のRPGにインスパイアされたことを伝えたいと思います。日本のゲームは昔から人間関係をゲームにするのがとても上手いと思います。是非私たちのゲームも楽しんでいただければ嬉しいです。

【「マーベル ミッドナイト・サンズ」発売記念トレーラー】
先日公開された「マーベル ミッドナイト・サンズ」発売記念トレーラーより。ここではハルクの後ろ姿が描かれているが、別のカットでは明らかに敵のようなビジュアルでも登場しており、敵か味方か分からない……
同じく「マーベル ミッドナイト・サンズ」発売記念トレーラーより。ミラーテーブルを囲む中にはみんな大好きキャプテン・アメリカの姿も!
キービジュアルにはすでにウルヴァリンの姿も描かれているほか、「マーベル ミッドナイト・サンズ」発売記念トレーラーでは彼らの活躍するビジュアルも紹介されていた