インタビュー

「サイバーパンク エッジランナーズ」プロデューサーインタビュー

「エッジランナーズ」によってさらに飛躍していく「サイバーパンク2077」の世界

 2つのクリエイター集団が「いかに面白い作品を作るか」という命題に対して、激しくぶつかった「サイバーパンク エッジランナーズ」は魅力的なアニメ作品となった。その"掴み"といえる、序盤のオススメシーンを聞いてみた。エルダー氏は「2話の月のシーン」と答えた。全10話の中でもお気に入りのシーンの1つだという。

 「『サイバーパンク2077』の世界には他人が見た記憶を共有できるブレインダンスという技術があり、デイビッドはルーシーの夢である月の世界を一緒に体験するのですがその2人がとてもかわいい。このかわいらしさはゲームにはなかったのではないかと思いますが、アニメで表現され、ちゃんと世界に溶け込んでいる。『サイバーパンク2077』の世界が広がった瞬間じゃないかと思っています」とエルダー氏は語った。

魅力的なヒロイン・ルーシー

 エルダー氏はTRIGGERから提出されたこの月のシーンのプロットを読んで、最初は「いかにもアニメの手法そのもので、この世界から浮いてしまうのではないか?」という心配をしたのだが、実際の表現を見てその心配が吹っ飛んだという。まさに「サイバーパンク エッジランナーズ」という作品を表現しているシーンではないかと、今では思っているとのことだ。

 「TRIGGERさんは宇宙に行きたがるんですよ(笑)。他の人が見た記憶を自分のものとして追体験できるブレインダンスはゲームでも効果的に使われていますが、本作ではTRIGGERさんの宇宙への想いを昇華するのにうまく使えました。この設定は他でもうまく取り入れられています」と本間氏は補足した。

 アニメを見ていると、「サイバーパンク2077」のプレーヤーにとって、しっかりとゲームの要素がアニメに取り入れられていることがわかる。交通機関、様々なインターフェース、街の風景、サイバーパンク達が使う武器……。これらは、膨大な資料をCD Projekt RED側からTRIGGERにあらかじめ渡しているから統一できたという。ゲームの3Dデータはカーチェイスシーンなどで効果的に使われているとのこと。電話の呼び出し音や、機械の作動音などサウンドの素材もしっかり共有されている。ハッキング画面など、ゲーム要素を細かくチェックするのも楽しみ方の1つだ。

 このゲーム要素を取り込むのにも苦労があった。「アニメ制作時にTRIGGERさんの方から『どうしてもゲームを体験したい』ということになったんですよ。だけどその時にはまだゲームができていない。まだ外部には出してはいけない時期だったので、私がゲームが入っているノートパソコンを持って、何度もTRIGGERさんのところまで行きました。制作陣が見守る中、今石監督がひたすらゲームを遊ぶ楽しい期間がありました」とエルダー氏は当時を振り返った。このゲームプレイはいわば"ロケハン"であり、ゲームプレイでのスクリーンショットがアニメの構図に活かされている。

 「アニメのシーンはゲームのマップ上で追える様に作られています。デイビッドの家はここで、事故に遭ったところはここ、だから建物がこう見える、といった細かい整合性も考えている。アニメを見た後はゲーム内で『聖地巡礼』したくなると思います」と本間氏は語った。

 アニメ制作のノウハウのないCD Projekt RED側では、どのような作品ができるのか、不安も大きかったとエルダー氏は語った。全く違う手法で作られる「サイバーパンク エッジランナーズ」がどのようなものになるか、形が見えてくるまでわからないことが多かった。しかし「絵」が具体的に見えてくると、CD Projekt REDの社内の盛り上がりは目に見えて変わってきたという。

 「我々はゲーム会社なので、ゲームであれば目指すところの絵が見えるんです。開発初期段階でも、どんな作品になるか予想ができる。しかし我々はアニメの素人ですからキャラクターデザイン、脚本、コンテでの段階でも、どんな作品になるか想像ができないところがある。そして2Dアニメの場合、完成してしまってからの修正は難しい。このスケジュールと手法を理解するのは大変でした。『まだ形が見えないけど、本当に大丈夫なのか?』、上層部からの理解を得るために、我々プロデューサーも頑張りました」と本間氏は語った。

 アニメが見えてきた瞬間、CD Projekt RED社内でも"大逆転"が起こる。アニメ制作中はちょうど「サイバーパンク2077」が完成直前だったため、社内での注目度は低かったが、アニメの1話と2話が社内で共有された瞬間、エルダー氏の元に社内からおびただしいメッセージが送られてくる。「アニメはこれからどんな話になるのか?」、「自分たちの国でもこのアニメに関するプロモーションがしたい」……。まだまだアニメが公開されるのは先の話なのだが、「良い物を作ればきちんと良い評価がある」という実感を得られたとのこと。

 「ここのポスターは、時系列的にはこのポスターに差し替えるべきだ」といった開発者ならではの意見なども出たとのこと。こういった社内の反応もある部分は活かし、ある部分は調整しアニメの完成へ向けて調整する、そういう作業もエルダー氏と本間氏の仕事だった。「お互いの文化が違う中で理解を深め、日本のコンテンツの面白さをしっかりと認めてもらうという経験は、私は初めてでしたしかなり楽しかったです。とても幸せな経験でした」とエルダー氏は語った。「『サイバーパンク エッジランナーズ』というアニメの制作に携わってみて、日本のコンテンツの面白さを海外に届けるという喜びはこれまでのローカライズ業務と広い意味で同じだと感じました」。

ハッキング画面、ビークル、サイバーウェアやギャングなど、「サイバーパンク2077」のプレーヤーはアニメから濃密にゲーム要素を見つけることができる

 「もちろん『サイバーパンク エッジランナーズ』はTRIGGER制作のアニメですが、『サイバーパンク2077』と同じ世界の物語である、というのはわかっていただけると思います」と本間氏は語った。

 「サイバーパンク エッジランナーズ」そのものは今回で完結し、直ちにシーズン2などの展開を予定しているわけではないという。しかしゲーム以外のメディアミックスは今後も考えており、英語圏ではコミックなどが既に多数出版されている。「ウィッチャー」においてはCD Projekt REDはゲーム関連の版権しか持たないため展開は限られている。一方、「サイバーパンク2077」はCD Projekt REDが完全に権利を持っているオリジナルIPであり、今後も様々なメディアで活用して行きたいという。

 その中で今回、「日本のアニメ会社とコンテンツが制作できた」ということはとても大きな意味を持つ。ノウハウを学んだエルダー氏と本間氏は、実現するかは別としても、「サイバーパンク2077」と日本のクリエイターのコンテンツ制作を今後も推し進めたいと考えている。

 一方ゲームは2023年に予定される拡張パック「仮初めの自由(Phantom Liberty)」によって大きな変化が訪れる。主人公Vとジョニー・シルヴァーハンドの新たな物語が描かれるこのDLCで世界がどう変わるかも興味深いところだ。

 最後にユーザーへのメッセージとしてエルダー氏は「『サイバーパンク エッジランナーズ』はこれでもかというバイオレンスと、エッチな要素も盛りだくさんな作品です。家族と一緒に見る作品ではなく、1人でこの世界に浸りきって楽しんでいただきたいです」と語った。

 本間氏は「私としてようやくお届けできたという想いがあります。『サイバーパンク2077』のコンテンツを日本のアニメとしてお届けできる、それは優れたクリエイターが多数いる日本だからこそできた特別な展開です。日本のファンにこそまずその文化の融合、異なる手法でのストーリーテリングを堪能していただきたいです」と語った。

【サイバーパンク2077 x サイバーパンク エッジランナーズ - エッジランナーズアップデート】

 筆者は「サイバーパンク2077」が好きだ。その上でTRIGGERの作品も何作か見ていてお気に入りもある。「サイバーパンク エッジランナーズ」は、まさにTRIGGERでしか描けない「サイバーパンク2077」のアニメ作品であるという実感を持った。全く文化が異なるプロ集団が正面からぶつかり合い、「面白さ」という最高の目標に向かって取っ組み合った果てに生まれた作品である。2国のクリエイターの情念が詰まったこの作品をぜひ見て欲しい。