インタビュー
「CLAP HANZ GOLF」開発者インタビュー
特許取得の「アナログフリックショット」は”チャー・シュー・メン”からの脱却
2021年4月23日 00:00
- 4月2日 配信開始
- 利用料金:月額600円(税込、Apple Arcade)
4月2日、Apple Arcadeにて配信が開始された「CLAP HANZ GOLF(クラップハンズゴルフ)」は、国民的ゴルフゲーム「みんなのGOLF」シリーズを手がけた、クラップハンズ初の自社パブリッシュタイトルだ。
「CLAP HANZ GOLF」は、指一本で様々なショットを打ち分けられる、「アナログフリックショット」を最大の特徴とするゴルフゲーム。得意とするクラブが異なるほか、固有のスキルを持ったキャラクター達も多数登場するなど、クラップハンズが培ってきたノウハウと、意欲的な操作方法が詰まったタイトルとなっている。
しかし、これまでプレイステーション向けのゴルフゲームを手掛けてきたクラップハンズが、今回iPhone向けのサブスクリプションサービスに乗り出したのは、どういった理由や背景からなのか。
そこで今回、横浜にあるクラップハンズのスタジオにお邪魔してProducer&Directorの村守将志氏、Lead Artistの二見圭介氏、Lead Programmerの桑原利行氏、Lead UI Artistの高嶋俊介氏にインタビューを敢行。iPhoneでリリースした経緯やゲームの特徴、今後の予定などをいろいろと聞いてきた。
初めてのプラットフォームでも、制作はそこまで苦労せず
――クラップハンズといえば、プレイステーションの「みんなのGOLF」シリーズを手がけている会社、という印象の人が大多数だと思います。そんななか、今回はプラットフォームをiPhoneに変えてゴルフゲームをリリースしたわけですが、その理由はなんでしょうか?
村守氏:我々、長い間コンシューマ機でばかりゲームを制作していたので、スマホゲームを手がけたことがなかったんです。果たしてスマホでは、どれくらいのものが作れるか?という探求をしてみたいというのがありました。ただ、今回はサブスクリプション(サブスク)という特殊なパターンだったため、昔から作っていたコンシューマ機寄りのデザインのままでもいけるというところがあって、凄く作りやすかったですね。
――今回はサブスクでの配信ですが、従来との大きな違いはありますか?
村守氏:まだ実感はないですけれど、違いは大きいと思います。サブスクに加入する人の動機としては、良いタイトルがたくさん揃っていることなので、作品全部が頑張って人をドンドン呼ぶ、そんな活動をしているという面もありますね。
――やはり、パッケージで売るのとは感覚が違うのでしょうか?
村守氏:そうですね。ただ、普段ガンガン課金している人ならば、かなり安く済むと思います。
桑原氏:しかもiCloudセーブ(Appleのクラウドサービスの一つ)なので、Mac、iPhone、iPad、Apple TVと、どのハードでプレイしても、同じセーブデータで遊べます。
――iPhoneでのリリースということで、これまでとは開発環境が違ったわけですが、戸惑いはありましたか?
桑原氏:戸惑いは、終わるまでありましたね(笑)。初めてだったというのと、Unityも初ということもあって、慣れるまで全スタッフ調べながらの作業でした。そういった部分に関しては、大変だったというのがありましたね。
――開発はしやすかったですか?
桑原氏:しやすかった面としづらかった面、両方ありました。デバイスの種類が多いので、Unityを使わずに一から作っていたら、もっと時間がかかっていたかと思います。そこは、Unityのおかげで助かりました。反面、かゆいところに手が届きづらいところもあり、その辺りでは少々苦労しました。
――iPhoneも機種によって解像度がまちまちですが、その辺りは大丈夫でした?
桑原氏:そういう部分はUnityが吸収してくれたので、何とかなりました。
高嶋氏:Appleさんは定期的に新機種をリリースしていますけれど、新しいiPhoneなどでカメラが内側に出っ張っている場合、そこを避けてユーザインタフェースを配置するルールがあります。
――そうそう、出っ張っているノッチの部分には、ユーザインタフェースを置いてはダメなんですよね。ノッチといえば、iPhoneはどの機種から対応しているんでしょうか?
桑原氏:iPhone 6s以降ですね。SEも大丈夫です。
村守氏:どうしても下位機種のスペックに合わせて開発するので、その苦労はありましたね。
桑原氏:下位機種では簡易表示に変えたり、影の処理を落としたりしています。iPhone 6sとiPhone 12では見た目が完全に同じではないので、できれば美しい画面になる上位機種でプレイしてほしいです。
従来にない操作方法“アナログフリックショット”は、シンプルなのに難しい!
――操作方法として、新たにアナログフリックショットを採用しましたが、その経緯を教えてください。
村守氏:アナログフリックショットは特許を取った操作方法なのですが、実は一番最初は、ゲームコントローラのジャイロを使ったショットから始まっています。しかし、市販のコントローラの中にはジャイロを内蔵していないものもあったので、次はスティックでプレイしてみましょうと。そして最後に、スティック操作をタッチパネルで再現するにはどうしたら良いのかということで頭をひねらせ、最終的にはスティックの操作が指の動作になったという変遷です。
桑原氏:一瞬だけですが、iPhoneを手前から奥に振る操作もありました。
村守氏:ありましたね(笑)。短期間のテストを行なったのですが、画面も一緒に移動してしまうのでゲームプレイが難しいということからボツに。
――曲げて打つ時などはスマホを手前から奥や斜めに振ることになる形でしょうか。それも直感的ではありますね。
村守氏:傾けたらそちらの方向に飛ぶとか、ジャイロを使っていた時は、そんな検出の仕方をしていました。ただ、ジャイロを搭載していないコントローラも結構多く、結局はスティックでも操作できないとダメとなったので、ジャイロ→スティックという流れになり、最終的にはタッチパネルへ落とし込むためにアナログフリックショットになったという変遷です。
――操作方法の確立までには、どのくらいかかりましたか?
村守氏:ベースになる部分は4カ月くらい?
桑原氏:そうですね。4、5カ月くらいはかかっていますね。他の部分を作りつつ、操作方法も洗練させていったという感じです。
村守氏:アナログフリックショットは、操作は簡単なんですが、指をただ下げて上げる中でも、バックスピンやフェード、スライスになるなど、そういった操作方法を入れ込むのが一番のテクニックなところだったので、それが上手くできてホントに良かったです。
桑原氏:指を下げて上げる、それだけなんですけど、そこに今まで作ってきたゴルフのショット入力操作がすべて含まれているというのがキモかなと思います。
村守氏:バックスピンも、ヒューっと引っぱって、ちょっと戻すだけなんです。でも、その際に指がブレると、バックスピンショットもブレてしまう。そこも駆け引きとしての要素で、リスクを冒してまでバックスピンを使う? 使わない? という選択になってくるということです。おそらくバックスピンのリスクは、歴代の「みんなのGOLF」シリーズよりも高いですね。
桑原氏:そうですね。リスクは高いですね。
村守氏:ただし、そのリスクはバックスピンの強さに比例して高くなるよう、例えるならグラデーションのような設定にしています。
桑原氏:ゴルフゲームって、打つ時はとりあえずバックスピンをかけますよね。でも、本来はそういうものではないし、本作はそういうわけにはいかない。必要なところだけで使うことになると思います。
村守氏:要所要所でリスクを背負うので、打ちたいショットがある時は、ある程度ブレのリスクを覚悟しながら入力するとなっています。今回は、とにかく駆け引きを楽しませたい。ハイリスクハイリターンで、そのバランスを大事にしていますから、そこは凄く気にして作りました。恩恵のあるショットを打つにはリスクも伴うよ、と。
――タッチパネルデバイスは指でのスライド操作で、Apple TVはコントローラでの操作ですが、Macで遊ぶ場合はどうなります?
桑原氏:Macでプレイする場合は、指の代わりにマウスですね。もちろん、コントローラでも遊べます。
二見氏:Mac OS側がコントローラを認識していれば操作方法解説でコントローラーの絵が出てきますし、マウスであればマウスカーソルの絵になります。
桑原氏:もちろん、トラックパッドでもできます。
多数登場するキャラクターを有効活用するために、チーム制を採用
――今回、ゴルフゲームとしては珍しい1ホール=1キャラクター担当というシステムを採用しています。これはなぜでしょうか?
村守氏:スマホゲームは、キャラクターが多数登場しますよね。過去の「みんなのGOLF」シリーズでは、多くて十数体くらいで完結していました。そこで、それ以上キャラクターを出演させて、盛りだくさん賑やかにするにはどうしたら良いか? と考えた時に、じゃあチームで! というアイデアが出たんです。ゴルフでチーム形式というのはあまりメジャーではないですが……野球の打順ではないですけれど、1番バッター2番バッターというような形で9番バッターまで置いてプレイすると、キャラクターの成長要素もあるので面白いのでは? ということで現在のシステムになりました。
――各キャラクターには、それぞれ得意技が設定されていますね。
村守氏:これは、各キャラが持っている固定スキルです。例えば、1打でホールインワンを狙えるような距離の場合、それを越えるクラブが得意であれば、ホールインワンを狙えるかもしれない。でも、ピッチングウェッジが得意なキャラクターであれば、1打目では届かないので得意スキルを活かせない、という感じです。ホールの距離に合わせてキャラクターを設定できれば、“次はショートホールなのでこのキャラを”という感じで担当させるという戦略が取れます。でも最初は、このキャラクターが好きなので成長させたい、というのでも良いと思います。プレーヤーのなかで不人気なキャラクターは育たないで残り、好きなキャラはどんどん延びていく、そんな案配になると思います。
――どのくらいのキャラクター数が登場するのでしょうか?
村守氏:現在は全部で21体ですが、これ以降は追加のキャラクターをスタンバイしているので、まだまだ出ます。長期での運営を考えているのですが、あとはユーザーさんからの要望次第ですね。それに合わせて、可能なものはバージョンアップ時にフィードバックしていきたいと思っています。
――キャラクター制作にあたっての苦労はありました?
村守氏:ゴルフゲームなので老若男女、小さい子からゴルフをまったく知らない人にも触ってもらいたいというのがあったので、超リアル系ではなくデフォルメ系を選びました。ただし、デフォルメといっても過去の「みんなのGOLF」シリーズのようにすると日本寄りになってしまうので、全世界を対象にするためにピクサーなどCGアニメ映画のキャラクターを意識しました。
二見氏:最初は、「みんなのGOLF」シリーズの流れを汲んだキャラクターが多数を占めていたのですが、途中からどんどん変えていきました。今は、多少名残が残っているキャラクターが後半に少しいるくらいです。
――衣装に関しての苦労はありましたか?
二見氏:大きく変更を求められた部分は、ほぼ無かったです。あらかじめ、社内で調整していたことが功を奏しました。
――キャラクターは数が増えるだけでなく、成長もしますよね?
村守氏:お気に入りのキャラクターばかり成長して、顔が気に入らないキャラは全然使わず倉庫に眠りっぱなしみたいな(笑)、あの感覚をゴルフでも試せたらいいな、というのが一つ。もう一つは、最初は少ししか飛ばなかったけど成長して飛距離がでるようになったので、その実力を試してみたいという感じで、次のラウンドに対するモチベーションが変わってくるという期待もあります。いつまでたっても能力が同じだと“どうせさっきのラウンドと一緒じゃん”となってしまいますが、成長すると“ステータスがアップするので、今まで届かないところにも飛ぶのでは”と、手触りが良くなりますよね。その2点があるので、成長要素を入れました。
――ラウンドすると、経験値が溜まっていくんですね。
桑原氏:そうですね。ラウンドが終わると、プレーヤーの成績によって経験値が入る仕組みになっています。それが一定以上溜まるとレベルが上がり、パラメータも増えていきます。良い成績を残すと入る経験値の量も増えますので、効率よく育てたければいいスコアを目指してプレイしてもらうという形になっています。
村守氏:キャラが成長していくと、対戦相手となるNPCのランクが上昇し、それに伴い相手のスコアも良くなるため、経験値が大量に入る代わりに難易度も上昇するというバランスになっています。
桑原氏:基本的にはツアーモードで優勝しなければいけないんですが、そのときに2位とのストローク差が大きいほどボーナスがたくさんもらえる仕組みになっていますので、とにかく少ない打数で回ることがコツです。
――経験値の入るモードは、どれになるでしょうか?
桑原氏:ツアーモードとスコアアタックモードだけになっています。
村守氏:オンラインプレイ(ローカルマルチモード)とサバイバルでは経験値が入りませんが、オンラインプレイはむしろ、普段育てているキャラクターのお披露目の場という感じです。
二見氏:オンラインプレイは基本、短距離通信なので、オフ会のように知ってる人と遊ぶ感じになります。なので、まったく顔を合わせたことのない初対面の人と遊ぶということは、そうないはずです。
村守氏:コンシューマ機で例えるなら、オンラインプレイはマルチタップで本体に接続したコントローラを持った4人で同時に遊ぶ、という感覚ですね。
全世界で配信されるために、タイトル決定に際してはさまざまな苦労も
――開発に際して、苦労した部分というのは?
桑原氏:文字ですね。例えば、単位表示は数字が左で右に単位が配置されますが、アラビア語ではそれが全部反転したりしています。文字が、右詰だからという話でもありますが。ただし、バックボタンの位置などが反転したりすると右利き左利きの関係にも関わってくるので、ゲーム的な配置に関しては維持しています。
村守氏:看板の内容など全部を変えるのは難しいので、そこは英語で統一しました。
――ちなみに、言語はいくつ用意してあるのでしょうか?
桑原氏:17ですね。英語でもイギリス英語、オーストラリア英語、そしてオランダ語、トルコ語、ロシア語など、いろいろ選べます。
――これらの言語が使われている国で配信される、ということでしょうか?
二見氏:Apple Arcadeの対象地域全般で配信されますが、ゲーム内で言語変更もできるので母国語や勉強している言語でプレイができます。
――ローカライズに伴う苦労は、やはり多いんですね。
高嶋氏:そうですね。これまでの「みんなのGOLF」シリーズでは、多くても8言語くらいでしたので。
――苦労したといえば、タイトル選定も悩んだのではないでしょうか?
村守氏:最初は「チームアップゴルフ(仮)」でしたが、日本だけでなく海外も共通のタイトルにしなければならないので、新しくタイトルを考えて商標登録をしてみると、既に登録されていることが多いんですよ。あれもダメこれもダメこれもダメこれもダメ……ことごとく候補が潰れてしまい、最終的に「じゃあ、もう“クラップハンズ”という会社名を付けてタイトルにしますか。これなら絶対に登録されていないでしょ!」となり、これならドヤッ!ということで付けたのが、本作のタイトルです。
――ちなみに、ボツになったタイトルで面白いものはあります?
村守氏:フランス語っぽいですが、“チームdeゴルフ”という名前を付けた時は、「アメリカ人から見たら、それって意味がわかりません」と言われて、そうですかと(笑)。ダジャレっぽいのは一切ダメ、というのはありました。
――「CLAP HANZ GOLF」なら、全世界的に商標登録は問題なかったんですね。
村守氏:そもそも、“クラップハンズ”自体が造語なんですよ。“Hand”の複数形は“Hands”ですけれど、うち(クラップハンズ社)は“Hanz”にしているんです。英単語としては存在しないので、商標登録が問題なく進んだのは、そこが大きかったかもしれません。
これからは、パブリッシャとしてもソフトをバンバン出していく……かも!?
――今回は、これまで通りの開発だけでなく、自社パブリッシュとしています。その理由はなんだったんでしょうか?
村守氏:「みんなのGOLF」シリーズを作ってきた経験はありますが、名前を使えるわけではないので、文字通り0からのスタートでした。自分たちの中でも「みんなのGOLF」シリーズとはしっかり差を付けないといけない、という意識を持ちながら作っていました。だからこそ、ショット方法を大きく変えた。似せないもの、似ていないものを作りたいという気持ちが大きかったかなと思います。それに、ここ20年くらい“チャーシューメン”と言われる3回押しショットを続けてきたので、そろそろ一時代の区切りとして、新しいプラットフォームには新機軸の入力方法を採用したいという考えもありました。さらに、3回押しの限界も感じていましたので。「みんなのGOLF」シリーズも途中、操作方法にさまざまな要素を取り込みましたが、やっぱり20年は長すぎたかなと。
――これを機に、パブリッシャとしてソフトをバンバン出していくことになるのでしょうか?
村守氏:どこでどういう契約をするかによっても変わってきますが、その可能性も大いにありますね。
――ある意味、ディベロッパからパブリッシャへの飛躍になるかと思います。
村守氏:そうですね。とはいえ、少しずつ慣れながら、ですかね。今のところは、作品が1本完成したので一段落、というタイミングではあります。
――スマホ向けタイトルは、リリースが第2の始まりですよね。バージョンアップもありますし。
村守氏:本作を遊んでくれるユーザーさんは純粋に楽しさを求めてくる方々なので、アップデートでより楽しさを引っ張り上げ作品の魅力を高めていく、そんな形にしていきたいと思っています。
――登場キャラクターやプレイできるコース数も増えるのでしょうか?
村守氏:そうですね。それはみなさん期待しているでしょうし、その辺に関してはもう少し待っててくださいという感じですね。
――そういえば、「CLAP HANZ GOLF」がリリースされた4月2日は、創立23周年の記念日だったということで、おめでとうございます。
村守氏:ありがとうございます。もっとも、これは偶然だったんです。たまたまAppleさんが決めた配信日時が当社の創立記念日だったというだけなんですが、できすぎてますね(笑)。もちろん、松山英樹選手がマスターズで優勝したのが本作のインタビュー日と重なった(※本インタビューは4月12日収録)のも偶然です(笑)。でも、ああいった出来事は間違いなく追い風になりますので、ゴルフゲーム作ってる側としては嬉しい限りです。
――これは確実に、ゴルフゲームブーム到来の予感ですね! 今日はありがとうございました。
©2021 Clap Hanz Limited/Produced by Apple.