インタビュー
ノックバックワークスの「ゲームリノベーション事業」とは?秋山社長&松本取締役インタビュー
ゲームIPの再活用事業を通じて各国の開発メーカーのネットワークを構築!
2020年11月10日 00:00
- 10月 収録
- 【カートゥーン大戦争】
- 配信中
- 価格:無料(アイテム課金制)
ノックバックワークスは11月2日、新たに“ゲームリノベーション事業“に取り組むことを発表した。
「ゲームリノベーション」とは聞き慣れない言葉だが、リノベーションとは一般的に家屋など建築物に対して使われる言葉だ。古い建物に手を入れて快適さや見た目を向上させ、新たな価値を生み出すことを指す。ノックバックワークスは、この言葉通り、既存のゲームタイトルを分析、検証し、再生する事業に乗り出した。既に第1弾のタイトルとして「カートゥーン大戦争」をローンチしている。
今回はこの“ゲームリノベーション”についてより深く探るべく、同社の代表取締役社長 秋山隆利氏と取締役 松本恒彦氏にインタビューを実施。ノックバックワークスの取り組みや今後の野望、そして同社のもうひとつの軸となる「License AD Network」についても話を聞けたので、その内容をお伝えする。
「失敗した」とされるゲームに手を加えて再生
「ヒットしなかったゲームタイトルが必ずしもダメなゲームとは限らない」
リノベーション事業の対象になるタイトルに関して、秋山氏が語った言葉だ。
ヒットに至らなかった背景には、ユーザーが期待している内容とゲーム体験が一致しているか、ユーザーが望む通りの操作性が実現できているか、ゲーム内容やテーマに新規性があるか、広告宣伝が十分なされていたかなど、いくつもの要因が考えられる。
ノックバックワークスはこうした“失敗”に至る要因や市場動向などを分析、検証し、手を加えて新たなゲームタイトルへと作り替えるわけだ。たとえばゲームシステムは優れているが、グラフィックスに魅力がなければ世界観やストーリーなどの設定とともにグラフィックスを差し替え、操作性が悪ければそれを改善するのである。
つまり、失敗の要因を的確に分析することこそがゲームリノベーション事業の成否を大きく左右するが、この点について、同社は大きな自信を持っている。
秋山氏はゲームオンやハンゲーム、ネットマーブルなどのオンラインゲームでプロデューサーを務めた後、セガのモバイル部門でゲームタイトルの運用をしていたほか、Pearl Abyssが開発した「黒い砂漠 MOBILE」の日本における運営に携わるなど、ゲーム業界において豊富な経験を持つ。
同社には秋山氏以外にもオンラインゲーム、モバイルゲームで成功した経験を持つプロデューサーが多数在籍している。分析力に対する同社の自信は、秋山氏をはじめとする同社スタッフの知見に裏打ちされているのである。
各国のメーカーと共同事業としてゲームを再生
秋山氏らの経歴は、ゲームリノベーション事業において、もうひとつ大きな役割を担っている。リノベーションの素材となるゲームタイトルの確保だ。
リノベーションの素材となるタイトルは、ビジネス的に残念な結果を迎えたもの、あるいは旬を過ぎ、動きがまったくなくなってしまったものが中心だ。同社は今まで取引のあった日本をはじめ、韓国や台湾、中国などのゲームメーカーからこうしたタイトルの提供を受け、それを再生していくのである。
素材となるタイトルについて、その開発会社と共に市場を検証、それに合わせたプロデュース、手直しやPRの方向性を相談しながら決めていき再びリリースをする。基本的に各タイトルのリノベーションは「共同事業」という形で進められていく。具体的な開発作業についてはノックバックワークスが担うケースもあれば、元の開発メーカーが担うケースもある。
この共同事業という形態もまたゲームリノベーション事業の特色のひとつ。関係するメーカーがタイトルの枠を超え、ノックバックワークスをハブとした事業グループとして機能するのだという。
たとえば韓国A社が韓国国内に向けて開発したBというタイトルがあったとする。検証した結果、そのタイトルが「実はヨーロッパの市場にマッチしている」となれば、同じようにリノベーション事業でパートナーを組むヨーロッパのC社にローカライズを請け負ってもらうといったことも可能になるわけだ。
ハイパーカジュアルゲームを中心に展開
ノックバックワークスでは、「リノベーション事業の対象となるのはハイパーカジュアルゲームから、ミッドカジュアルゲーム」としている。具体的にどのようなゲームを指すのかと秋山氏に質問してみたところ、以下のような答えが返ってきた。
「ざっくりと例えると、ファミコンかスーパーファミコン、あるいは初代プレイステーション程度の内容のものを考えています。単純でもしっかりとしたゲーム性をベースに、ストーリー性などエンターテインメントとしての楽しさも付加したものですね」
もちろん例として挙げられたファミコンやスーパーファミコンといった環境でも、じっくり腰を落ち着けてプレイするようなタイトルはある。しかし、ここでは比較的小規模で、空き時間を利用して繰り返し楽しむような、シンプルな内容のゲームを考えているようだ。
ご存じのように現在のゲーム市場、特にモバイルにおいては何年もサービスが継続しているようなロングヒット作か、PCや家庭用ゲーム機にもひけを取らない内容のAAAタイトルがランキングの上位を占めている。
その一方で、ビジネスの規模としては大きくないものの、空き時間に気軽に楽しめるような小ぶりなタイトルも広く好まれている。ノックバックワークスの狙いは、こちらだ。
「ゲームリノベーション事業で扱うタイトルは、必ずしも世界のあちこちで売れるものである必要はないと思っています。ニーズのあるエリアに的確にタイトルを投入し、確実に利益を上げていけばいいという考えです」(秋山氏)
人、金、時間と多大なコストを必要とするハイリスクハイリターンなビッグタイトルではなく、小規模なタイトルを中心に据えるのがゲームリノベーション事業の当面の戦略なのである。
アニメ作品などの版権ゲーム専用の広告モデルサービス「LAN」
ノックバックワークスはゲームリノベーション事業と並び、もうひとつ軸となる事業を持っている。それが「License AD Network(LAN)」だ。
これは同社が行なっている事業で、アニメ作品などを中心としたライセンス作品を用いてハイパーカジュアルゲームを制作し、専用の広告モデルを搭載して管理するという仮想的なポータルで、いわゆる「版権もの」ゲーム専用の広告システムである。
アニメ作品などのライセンスを持つ会社はゲームとしてそのIPを再活性化することができ、ゲーム制作会社はそれらのIPを活用した作品を低コストでタイトルを開発できるメリットがある。
LANでは顧客の嗜好や属性を管理することで、各ユーザーのゲーム的な好み、IP作品への好みなどを把握する。そのデータをもとに、各ユーザーに対して「刺さる」ようなゲームタイトルやIPの広告を的確に提示することが可能だ。
LANではもとよりアニメ作品などを好むユーザーをターゲットとしているために顧客のセグメントがはっきりしている。そのことから、広告媒体としての価値は高く、多くの広告出稿が期待できるうえ、「傘下にあるライセンスゲーム間で相互に送客することが可能」であると秋山氏は語る。
現在の取り扱いIPは約220タイトルに及ぶ。一方、参加ゲーム会社は20社以上、ゲーム企画は30本以上があり、すでに制作済みのゲームが4タイトルあるそうだ。
今後、ライセンス提供メーカーとライセンス作品が増えていけば、それらの作品のファンを取り込むことで、LANのユーザー数は増加。これによってターゲットとなるエリアや相互送客能力はより拡大していくことが望めると秋山氏は試算している。
3つの事業で目指す「エコシステム」
実はゲームリノベーション事業とLANは密接に結びついている。ノックバックワークスはゲームをリノベーションする際に、LANで取り扱うIPのライセンス作品としてリメイクすることも考えているのだ。
それだけではない。2021年下半期以降、LANはそのサービスを東アジアを中心に海外へと展開していく予定だ。ゲームリノベーション事業では参加している各ゲームメーカーがグループとして機能するものであることを述べたが、これはある意味、ノックバックワークスが韓国、台湾、中国にそれぞれ開発部門を抱えているようなもの。ローカライズをはじめとした部分で海外展開に役立つわけだ。
また、LANが獲得しているユーザー数が順調に増加していけば、IPの知名度次第では、コアゲームやハイエンドタイトルを投入してのより大きな成功も期待できる。開発タイトルの規模が拡大した際にも各社の協力を取り付けることで対応できるのも大きなメリットと言えるだろう。
ノックバックワークスではゲームリノベーション事業やLANで制作したゲームタイトルの情報を中心に、自らがYouTuberとして情報を発信していくことも予定している。ゲームリノベーション、LAN、そしてYouTubeを活用したオウンドメディアと、これら3つの事業を同社は「3本の矢」に例え、各事業が相互に弱点を補完し合うことで事業を成長させていくとのことだ。
3つの事業とも既存のゲームシステム、IP、プラットフォームなどを活用し、なるべく低コストで効果を上げることを狙っているところがユニークだ。同社はこれを「ゲームエコシステム」と表現している。
まずはリノベーションタイトルの第1段として、10月26日より「カートゥーン大戦争」のサービスが開始されている。ここからはじまるノックバックワークスの今後に注目していきたい。