インタビュー

緻密な歴史考証に裏付けられた「キングダムカム・デリバランス」開発者インタビュー

最も資料が乏しかったのは"人々の生活"!?

4月20日~29日 収録(日本時間)

 DMM GAMESは、7月18日にプレイステーション 4/PC用オープンワールドRPG「キングダムカム・デリバランス」日本語版を発売する。

 「キングダムカム・デリバランス」は1403年のボヘミア地方(現・チェコの西部・中部地方)をリアルに再現したタイトルだ。鍛冶屋の息子である主人公ヘンリーは、村が突然焼き討ちに遭うという悲劇に見舞われ、そこから戦乱の時代を生き抜いていくことになる。

 DMM GAMESとチェコ観光局により4月末に行なわれたメディアツアーでは、実際に「キングダムカム・デリバランス」の舞台、チェコを訪れ、Worhorse Studiosの見学や本作日本語版の試遊、インタビューなどを行なうことができた。そこで本稿ではWarhorse studiosの創設者であるMartin Klima氏とViktor Bocan氏に対するインタビューの模様をお伝えする。

 インタビューでは「キングダムカム・デリバランス」がそもそも何故リアルな中世を舞台にしたゲームになったのか、主人公はなぜ極々普通の一般人である必要があったのかなど、ゲームの根幹に纏わる話を聞けたので、是非お読みいただきたい。

Worhorse Studiosのファウンダー Martin Klima氏
同Viktor Bocan氏

Viktor氏「"基本的にはなんでもできる"ということが立脚点」

――本日はよろしくお願いします。まず、「キングダムカム・デリバランス」を徹底したリアル志向のタイトルとして開発したのは何故ですか?

Martin氏:アナログのボードゲームやストラテジー系のゲームではファンタジーよりもリアルをモチーフにしたゲームのほうが有名だったりするんですが、RPGではファンタジー系のものが非常に多いので、逆にそこに可能性を感じたからです。

Viktor氏:もともと私達はRPGを作りたかったんです。しかしRPGは"ゲームジャンルの王"で、誰もが作りたいと思う半面、1番難しいジャンルでもあります。なので歴史に忠実でリアルなRPGを作るということに挑戦したかったんですね。

――本作の舞台を1403年のボヘミアに設定した理由を教えてください。

Martin氏:大きな理由の1つはスタジオから地理的に近いということです。衛星地図なども容易に入手できますし、現地に赴くことで歴史などについて直接ヒアリングすることもできます。歴史的な文書などへのアクセスも簡単ですしね。

Viktor氏:世界的にあまり知られていないんですが、15世紀はフス戦争が15から20年ほど続いたりと、歴史的に大きな動きがあった時代なのでRPGのストーリーとしては面白い時代です。なので1403年に設定しました。

――主人公のヘンリーは鍛冶屋の息子……つまり一般人ですよね。彼をこうした出自に設定したのは何故ですか?

Martin氏:"勇者がドラゴンと戦いに行く"というゲームは既に世の中にたくさんあります。例えば勇者がレベル0から80になったところで、どうなっているのかは容易に想像が付きますよね。ただ、何も知らない一般人ならレベルが上がって、できることが増えた瞬間に成長を実感することができます。だからこそ何もないただの鍛冶屋の息子を主人公に据えて、物語にちゃんと入り込めるようにしていきました。

Viktor氏:中世の戦争を一般人の視点で体験してもらいたかったというのもあります。戦時中の生活がどれだけ大変だったのか、生き残るのがどれだけ大変だったのか、そしてどうやったら生き残れるのかということを体験できるという意味では、一般人のほうが面白いですよね。

主人公は素朴な青年ヘンリー

――本作を一本道のRPGではなく、行動の自由度が高いRPGにしようというのも設計段階から決まっていたんでしょうか?

Viktor氏:"基本的にはなんでもできる"ということが立脚点としてありました。もちろん大筋でのストーリーラインは用意していますが、自分の選択によってそのストーリーに大きな影響を与えることができます。プレイで見ると例えば誰も殺さずに進むというのもひとつの選択ですし、そういった自由度を用意しているのがポイントです。

 また、自分の行動に対しては責任を持ってもらいたいというのもあって、例えば悪事を働くとそれを周りの人たちは覚えているわけです。なので悪事を働いた人間が町を訪れると、ガードを呼んで排除しようとしたり、新しいクエストがもらえなかったりということが起こるんですね。逆にその町にとっていい人だった場合は、クエストの進行をサポートしてくれたり、ヒントをくれたりします。自分が起こした行動にゲームの世界が反応する、そういう設計になっています。

――選択肢が多く、行動の自由度が高いということは、それだけ開発の際のQA(品質保証)も大変そうです。

Martin氏:NPCに対しては選択肢だけではなく、そのときにヘンリーが何を着ているか、どういうスキルを持っているか、時刻は朝なのか昼なのか夜なのか、そういった要素によっても反応が変わってくるので、中身はかなり複雑です。簡単に解決できる問題ではありません。

 実は社内だけではなくてコミュニティに対して早めにビルドを提供してテストプレイをしてもらったりしていますし、最新のDLCでは外部のQA会社に依頼をしています。特にコミュニティに遊んでもらうというのは様々なPC環境でテストができるということでもあるので、有意義なフィードバックを得られることもあります。

 ただ、コミュニティにQAをしてもらうというのは難しい部分もあって、「QAをする」というのと「ゲームを遊ぶ」というのは全く別のことなんですね。QAでは例えば同じことを10回繰り返してバグの検証をして、バグを直したらまた同じことを10回繰り返す……といった作業が必要です。それをコミュニティにやってもらうのは無理なので、そういった部分は自分たちで検証する必要があります。

Martin氏「資料がなくて困ったのは"人々の生活"」

――本作の開発には歴史家も参加していると伺っていますが、初期段階で声をかけたときにはどんなリアクションでしたか?

Martin氏:歴史家を雇ったりもしていますし、色々な研究をしている方に話を聞きに行ったりもしたのですが、彼らは普段研究者の間で話をすることが多いようで、全く違うゲーム業界から歴史について質問されるということに関しては非常に好意的に捉えていただいたようです。

 歴史家の方々は皆さん慎重に歴史を捉えているので、様々な可能性を考慮しています。なので、この時代はズバリこう、という答えを貰えることは少なくて、いくつか教えてもらった可能性のなかから自分たちで正しいと思うものをゲームに取り込んでいく必要がありました。

――歴史といえばゲーム内の「写本(歴史の資料などが参照できるコンテンツ)」の情報量もものすごいですよね。

Martin氏:彼女(歴史家)は5年ほど前にWarhorse studiosに入ってから色々なことをやってきていて、博物館や美術館などで正しい情報を収集して開発にフィードバックを行なってきました。写本はその仕事の集大成です。

Viktor氏:開発のための歴史資料は膨大な量になっていて、もちろんこの資料を元にゲームを作っていったんですが、それだけではもったいないなと。なのでコンテンツとしてユーザーさんにしっかりお見せすることにしました。

収集された資料は「写本」としてゲーム内で読める

――格闘技などの"動き"の資料は文章にしにくいということもあって、収集しにくいようなイメージがあります。このあたりはどのように解決しましたか?

Viktor氏:ヨーロッパでは中世の剣を使ったマーシャルアーツは、銃社会になったときに一度失われています。皆剣を捨てて火器を使うようになったんですね。実は中世で失われてしまったマーシャルアーツを再現しようという動きが15年ほど前からあって、その関係者たちと話をしながら当時の絵や文章を元に、検証を重ねて当時の技術を再現しています。

Martin氏:日本は過去の技術の資料がしっかり残っているので、そこは羨ましいなと思いますね(笑)。

――その他に「資料がなくて困った!」ということはありませんでしたか?

Martin氏:戦争や天変地異、王が変わったときなどの大きなイベントについては文章で残っているのですが、一般人の生活については資料が乏しくて苦労しましたね。例えば職業としての鍛冶屋が何をしているか、はわかっても、人々が朝起きて何をして……という毎日の生活は資料として特別なものではないので、あまり残っていなかったんです。ちなみに、このゲームの50年後には印刷機、さらにその50年後には蓄音機が発明されているので、この時期の資料は豊富に残っています(笑)。

Viktor氏「『キングダムカム・デリバランス』は日本のゲームの影響を受けている」

――遂に「キングダムカム・デリバランス」の日本語版が発売されます。初めてPC版をローンチしたときは、日本での展開は考えていましたか?

Martin氏:当時日本のメーカーにも説明に行ったりしましたが、最終的にはローンチまで至りませんでした。その後Koch Media(ドイツのパブリッシャー)とパブリッシング契約をしたときに、日本のパートナーを探してほしいというお願いをして、今回のDMM GAMESさんとの契約に至りました。

――ちなみに、日本のタイトルでお好きなものはありますか?

Viktor氏:Warhorse studiosのスタッフは皆日本のゲームのファンです。私も「ファイナルファンタジー」はシリーズを通してプレイしていますし、「デモンズソウル」からフロムソフトのタイトルは全てプレイしています。もちろん「SEKIRO: SHADOWS DIE TWICE」もやってますよ!

Martin氏:私は「ソウルキャリバー」や「戦場のヴァルキュリア」シリーズはずっとプレイしてますね。「ファイナルファンタジー」もやっていますし、「テイルズ オブ ヴェスペリア」も好きです。

Viktor氏:「キングダムカム・デリバランス」の開発には日本のゲームからインスパイアを受けている部分もあって、「メタルギアソリッド」や「ドラゴンクエスト」、「ファイナルファンタジー」などのストーリードリブンのゲームが大きな影響を与えています。

――最後に、日本のファンにメッセージをお願いします。

Martin氏:もともと日本でもローンチしたかったということもあって、日本語版の発売で日本のユーザーに遊んでもらえるというのは我々にとって喜ばしいことです。チェコの中世という時代をぜひ楽しんでいただければと思います。

Viktor氏:ファンタジーではないリアルな中世ヨーロッパ、というのはある意味体験したことがないのではないかと思いますので、是非飛び込んで面白い体験をしていただければと思います。

――本日はありがとうございました。