インタビュー
「SEGA AGES スペースハリアー」インタビュー
アーケード不朽の名作がここに! 新モード「コマイヌ・バリア・アタック」って何だ!?
2019年6月26日 00:00
セガの名作を“こだわり満載”で復刻する「SEGA AGES」。Nintendo Switch用ソフトとして配信するシリーズ第10弾は、「SEGA AGES スペースハリアー」(以下、「スペースハリアー」)だ。今回もGAME Watchでは発売に先立ち、恒例の開発スタッフインタビューを実施してきたのでたっぷりお届けしよう。
「スペースハリアー」は、1985年に発売されたアーケード用3Dシューティングゲーム。ドラゴンランドを舞台に、主人公の超能力戦士ハリアーを操作して、全18ステージのクリアを目指すという設定で、圧倒的なスピード感、カラフルで美しいグラフィックス、個性的かつ大きなキャラクター、軽快なBGMのどれを取っても素晴らしく、ハリアーの動きに合わせてプレーヤーが乗り込んだ筐体が前後左右に大きく動く、ムービング筐体を採用したことで当時のプレーヤーの度肝を抜いた、掛け値なしにゲーム史上に残る傑作と言える作品だ。
今回のインタビューにご登場いただいたのは、セガゲームスのリードプロデューサー/ディレクターの小玉理恵子と、開発を担当したエムツー代表取締役の堀井直樹氏。さらに、九州在住でニンテンドー3DS版「3Dファンタジーゾーン オパオパブラザーズ」など、多くのエムツー開発の作品で企画・ディレクションを担当した古賀恵介氏にも、Skypeを介してご参加をいただいた。また、フルタイム参加はできなかったが、多忙なスケジュールの合い間をぬってご登場いただいた、セガゲームスのシニアプロデューサー下村一誠氏にもお話を聞くことができた。
2012年に配信されたニンテンドー3DS版「3D スペースハリアー」や、2014年に発売された「セガ3D復刻アーカイブス」に収録された「3D スペースハリアー」のVer.2にも、さまざまなこだわりの演出が盛り込まれていたが、今回のNintendo Switch版では、はたしてどんな進化を遂げているのだろうか?
今回はニンテンドー3DS向けに特化した“コードの解読作業”が最大の難関に
――今回も、お忙しいなかお時間をいただきありがとうございます。まずは、新生SEGA AGESにおいて「スペースハリアー」を配信しようと決めた理由からお聞かせください。
下村氏: 「スペースハリアー」はこれまでに何度も移植をしてきましたが、それにはもちろん理由がありまして、やはり本作はセガを代表するタイトルであるということですね。我々の手で新生SEGA AGESを立ち上げるにあたって、やはり”セガの顔”とも言うべき作品を出さないわけにはいかないだろう、これを避けて通ることはあり得ないということで、自然とラインナップに入ったのではないかと思います。エムツーさんも、きっと同じ考えをお持ちだと思いますし、「スペースハリアー」は我々スタッフ自身もすごく愛しているゲームですので、モチベーションも高い状態で開発を進められたと思っております。
――「スペースハリアー」は”セガの顔”とのことですが、そんな看板タイトルを最初ではなく、全19タイトルを配信するSEGA AGESにおいて、あえて11番目に登場させたのは何か狙いがあってのことでしょうか?
下村氏: いいえ、特に深い意味はありません。ユーザーの皆さんをお待たせすることがないように出来上がった順番にどんどん出していこうという方針ですね。本当は、いつ売るのかというタイミングを計画的に考えて出すべきなのかもしれませんが、逆に言うとこのタイトルは、ラインナップ上の最初であろうと最後あろうと、どのタイミングで出してもユーザーの皆さんの期待を裏切るようなことはないだろうなと思っています。
――本作の開発にあたり、下村さんはどのような形でお仕事に関わられたのでしょうか?
下村氏: 私のほうからは、弊社の小玉にもエムツーの皆さんにも、「好きなように、いいカンジに作ってください」としか言っておりません(笑)。
堀井氏: そうですね。信頼されていると言いますか、コイツらは勝手にやらせて暴走させておけばいいんじゃないかと思っていただけているのかなあと(笑)。
下村氏: 「ここは、こうしたほうがいいんじゃないの?」などと私がヘタに言うよりは、もう好きにやってもらったほうがエムツーさんの力が一番発揮できるだろうと、そう信じております。
――小玉さんは、アーケード版「スペースハリアー」のグラフィックスデザインをご担当されていたのでしょうか?
小玉氏: 私は関わっていないですね。確か、先輩と同期が参加していた記憶があります。今回のSEGA AGES版は、セガ側のディレクターとプロデューサーで参加致しております。
堀井氏: ですから、「こっちのゲームは上がって来たけど、まだこっちのほうは出来上がっていないじゃないの!」というお話が、小玉さんのほうから日々私のほうに来るわけですね。いやあ、毎度毎度で本当に申し訳ないのですが(苦笑)……。
下村氏: でも、今ではエムツーさんのほうでもSwitchの開発にこなれてきたと言いますか、最初の頃は生みの苦しみのようなご苦労がいろいろとありましたが、直近に作った数タイトルはトントンと順調にできましたよね。
堀井氏: ええ。いろいろとやらせていただきましたので、もう言い訳の余地はないですから(笑)。
――ちなみに古賀さんは、どのような形でエムツーのお仕事に関わっていらっしゃるんですか?
古賀氏: セガさんとの案件では「SEGA AGES 2500 ギャラクシーフォース II」 で、ネオクラシック用のグラフィックスを高解像度化したのが始めだと思います。その他では、 PS2版「ファンタジーゾーン コンプリートコレクション」の SYSTEM16版「ファンタジーゾーン II」のディレクションを担当し、「セガ 3D 復刻アーカイブス」でもところどころお⼿伝いをさせていただいております。
堀井氏: 「セガ3D復刻アーカイブス」に入っている、スタッフクレジットの凝った演出とか面白い仕掛けは、だいたい弊社の古賀/高橋(直樹)が考えたものです。それから「3D ファンタジーゾーンIIダブル」の時は、背景やキャラクターのほとんどを古賀さんが描いてましたね。
――前回の「SEGA AGES ワンダーボーイ モンスターランド」のインタビューでは、何度も移植した経験があったので、Nintendo Switch版の開発はスムーズにできたとお話されていましたよね? 今回の「スペースハリアー」も、開発は順調に進んだのでしょうか。あるいは、何か困った問題などがあったのでしょうか。
堀井氏: 「ワンダーボーイ モンスターランド」の時は、Xbox360やPS3用のSEGA AGES ONLINE版などからの移植、つまり据置機からの移植でしたが、今回は携帯型のニンテンドー3DS版「3D スペースハリアー」からの移植なんです。3DS版のプログラムは、もうガチガチに3DS用のコードで書いてありましたので、そのコードを引き継げるようにしないと、そこで作ったいいものをNintendo Switch版に持って来ることができないんですよ。ですから、3DSのために書いたコードを、汎用的に使えるように全部書き換えたところが特に苦労しましたね。
古賀氏: 「3D スペースハリアー」に関しては3DSの開発機で直接作っていましたから、Windows上で動作する開発中間版が存在しなかったんです。ですので、まずはWindows上で動く、3DS版相当のものを作るところから開発が始まりました。3DS版を作った本人がもう居ませんので(※1)、初めに解析担当プログラマの方で3DS版のコードを調査して、どういう改造を行なっていたのかという解析が必要でした。その上で、まずはワイド化を行なってみよう、という点を第一目標に据えてみました。
※1……本人がもういませんので: 3DS版のプログラムを担当した、元エムツーの齊藤(彰良)氏(故人)のことを指す。
――なるほど3DS版に特化したコードの解読作業が一番のネックになったわけですね。
堀井氏: 要するに、最初にWindows上のエミュレーターで動く「スペースハリアー」を作って、さらにワイド化したものに書き換えていったわけです。でも、3DS版のコードはあまりにも3DS向けに特化し過ぎていて、初めのうちはそれを見ても意味がよくわかりませんでしたから、それを調べる工程が発生した関係で、セガさんにもいろいろとご心配を掛けることになってしまいました。
――「3D スペースハリアー」の発売後、そのVer.2を収録した「セガ3D復刻アーカイブス」を開発される際にもたいへんなご苦労があったと、過去のインタビューでもお話をされていたと記憶しております。今回も、当時と同じぐらいのご苦労があったということでしょうか?
堀井氏: そうですね。当時は齊藤本人がどちらのコードも見ていたからまだよかったのですが、今回は我々が他人の書いたコードを調べながら作る必要がありましたし、しかも彼は別の人間がコードを見た時のことを全然考慮していなかったので、本当に読みにくくてもうたいへんでした。
古賀氏: 何かの対策をしたコードが入っていること自体はわかるのですが、それをどういう理由で入れたのかがすぐにはわからないんですよ。何かを数値で判定しているけど、じゃあ何を判定しているのかがわからないとか、特別なパッチとかも本来あるべき場所に置いてなかったりしていたので、サウンドのほうでもプログラマーがメチャクチャ悩んでいましたね……。
――本作の開発スタッフは、だいたい何人ぐらいいたのでしょうか?
堀井氏: コアメンバーは古賀さんと、もう1人別のプログラマーの2人ですね。
古賀氏: 3DS版の解析および今回の新規モードの作成を担当したプログラマーのほか、ゲーム部のNintendo Switchへの組み込みを始めUI全般を担当したプログラマー、あとはサウンド担当のスタッフに今回は追加効果?もお願いしています。デザイナーは、私が兼任という形で作りました。
――サウンド制作のご担当は、3DS版でもご活躍をされた元エムツーの並木学さんですか?
堀井氏: いいえ、今回は弊社の春日(達彦)が担当しました。
――Nintendo Switch版が完成するまでに、どのぐらいの時間が掛かったのでしょうか?
古賀氏: だいたい1年ぐらいですね。
小玉氏: 「スペースハリアー」に関しては、プロジェクトがスタートした初期の段階から、「3DS版からの移植と改造が難しく、大変だ」というお話は私のほうにいただいていましたね。
――デバッグ時は、テストプレーヤーとしてハイスコアラーを呼んで調整をしたのでしょうか?
堀井氏: 本作に限っては、前回お話した「ワンダーボーイ モンスターランド」の開発時とは比較にならないぐらい、社内にアーケード版をある程度やり込んだ人間が多かったので、皆に触ってもらったうえで違和感がなければ大丈夫だろうということで調整しました。
小玉氏: 弊社のほうでも、エムツーさんから「ここをチェックして欲しい」という要望をいただいたところで、チェックシームが3DS版との比較検証などをする形で対応しました。
注目の新モードは体当たりでも敵を倒せる、その名も「コマイヌ・バリア・アタック」
――ここからは、Nintendo Switch版ならではのこだわりや、オリジナル機能などについてお尋ねしていきます。私見ですが、3DS版の段階で100円玉がキャッシュボックスに入った時や、筐体が傾いた時の駆動音が鳴るなど、細かい演出面は相当極まったところまで作り込んでいましたので、コード変換の問題さえクリアできれば、あとは3DS版で実装したものをそのまま持ち込むだけでほぼオーケーという印象を受けたのですが、この点についてはいかがでしょうか?
堀井氏: 確かに、3DS版はもうこれ以上やることはないなと思うところまで作りましたので、だからこそ今回は新しいゲームモードを作って入れようということになりました。
古賀氏: 3DS版では3D化という大きな要素がありましたが、Nintendo Switch版では削らざるをえませんので、その代わりとなる要素が必要になるだろうと。たとえば「アウトラン」ではBGMの追加という形になりましたが、スペースハリアーではいったいどういうものが良いだろうか、ととにかく悩みまくりました……。
堀井氏: 3DS版の時は、3D化の実装するとその分だけ開発期間がすごく伸びるのが正直嫌な部分ではあったのですが、遊んでいて楽しいですし、なおかつユーザーの皆さんにとっても飛び道具的に作用するネタになっていたんですよね。
古賀氏: 一番のトリガーになっていた部分がなくなってしまうわけですから、やはり何か補填するものを用意しなければいけないなと。SEGA AGESの開発が始まる時に、ネットワーク ラインランキングはシリーズ共通の要素として用意する事になっていましたので、それにプラスする追加要素については、「このゲームにはこんな要素があればいいなあ」と、全員でブレーンストーミングを行なっています。その時のものがそのまま実現されたタイトルもありますが、開発中にいつの間にか増えていたり、逆に時間が足りなくて泣く泣く要素を削られたタイトルもあります。
堀井氏: 考えたものを全部入れようとしたら開発がなかなか終わらなくなりますし、3DS版の強みだった要素を2DのNintendo Switch版にそのまま入れても、ユーザーの皆さんが楽しめなければ手間を掛けた意味がなくなるだろうと。じゃあ何を入れようかと考えた時に、どうせ作るのであれば手間を掛けた分だけ、ちゃんと皆さんが楽しめるものを作ろう、そこにリソースを割こうと思って開発を進めました。
そんなこともありまして、ハヤオー(※3)が登場するなどの要素は3DS版からそのまま持ってきましたが、3D化やムービング筐体モードは3DS版のような魅力が伝えられないということで省きました。でも、もしセガさんから「これからの世の中はVRですよ! VR対応させましょうよ!」って言われて予算と期間を何倍かいただけたら、もう何の文句もなく3Dを大復活させますけどね(笑)。
(一同爆笑)
※3……ハヤオー: アーケード版には存在しない、特定の条件を満たすと最終ステージに出現するボスキャラクターのこと。初出はセガ・マークIII版の「スペースハリアー」。
――都合で3DS版から省いた仕様もあるんですね。では、ステージセレクトやサウンドモード、オート連射などの機能はそのまま引き継がれているのでしょうか?
堀井氏: はい。しかも連射スピードは、3DS版よりも速くなっていますよ。実は3DS版の時は、あえて連射のスピードは遅めに調整していました。なぜかと言いますと、処理落ちしないギリギリのところに合わせたからなんですね。でも、手動の連射でもすごく速い方であれば、そのスピードまで自力で出せちゃうのですが。
古賀氏: 連射に関しては3DSのダウンロード配信版から、セガ3D復刻アーカイブス収録バージョンになった時に速度をアップしてあるのですが、今回は速い方で調整してあります。
――3DS版では、タッチ操作にも対応させる面白い機能がありましたが、Nintendo Switch版でも実装されるのでしょうか?
堀井氏: タッチ操作はないですね。3DSは2画面あって、タッチ操作は下の画面だけで対応すればよかったので入れましたが、Nintendo Switchは1画面ですから指で画面が隠れちゃいますし、Joy-Conという良いコントローラーがそろっているので省きました。
――今、ハヤオーのお話も出ましたが、出現条件は3DS版とまったく同じと考えてよろしいですか?
古賀氏: 今回は、3DS版よりも簡単にしました。もうハヤオーが出てくるということは、ユーザーの皆さんもわかっていらっしゃいますので。
小玉氏: 奥成と、「3DS版で、ハヤオーに会えなかった人がいるかもしれないですよね」という話をしていましたので、出現条件はもっと簡単にしてはどうでしょうかと、私のほうからも要望を出しました。3DS版で出せなかったという人も、今回は会えるだろうと思います。もちろん1度出した後はアーケード準拠でカットすることもできます。
――それでは、Nintendo Switch版で初めて導入した新モードはどんなものなのか、ぜひ教えてください。
古賀氏: 「コマイヌ・バリア・アタック」という新ゲームモードになります。最初の企画書を作る段階では、Windows上でワイド化対応とハヤオーの実装作業を行なった後に、どれだけの時間が残るのかがまったくわからない状況でしたので、追加要素の候補を3つ用意しました。ひとつ目はHD振動への対応、次にWiiバーチャルコンソール版と同様にJoy-Conを上下左右に傾けてハリアーを操作する操縦桿モード、そして3つ目がなんらかの新規チャレンジ、もしくはゲームモードです。で、いざプログラマーが作業を始めてみたら、ワイド化とハヤオーの実装までは思ったよりは早めにできちゃったんですね。
堀井氏: えっ、“早め”に!?(笑)
(隣の小玉氏も苦笑)
古賀氏: 早めにとは言っても、あくまでWindows上で単独動作する状態までの話ですし、実際には自分の段取りがスムーズにいかず、プログラマーが改造作業に入るまでの前段階でかなり時間がかかっていますので、確かにそれほど早いほうではなかったかもしれません(苦笑)。プログラマーの方で3DS版要素の対応をしている間に、私のほうで何か新モードを考えましょうと。
当初はいろいろな案があって、例えば「キャラ替え」がその一例ですね。ただこれは過去電波新聞社が発売したX68000版でユーザーがキャラクター定義を書き換えて、いろいろな「スペースハリアー」を作って楽しんでいた経緯がありますので、工数が掛かる割に目新しい要素にはならないんですね。もしもメカに変更するとなると爆発パターンの追加が必要になりますし、ボーナスステージをどうするかという点もありますし、最後のシーンもそのままという訳にもいかなくなります。そのあたりもあって戦闘機やヘリにする案も早目の段階で排除しています。
じゃあ、攻撃方法を変えて違う遊び方ができるようにするのはどうだろうと、ショットの誘導性能が変わったり、パワーアップをする仕様とかも考えたのですが、これは手が掛かる割にはゲーム性があまり変わらないんですよね。あとは堀井さんから以前、何でもなぎ倒せる「ユーライア(※4)モード」というネタも聞いていまして……
※4……ユーライア: ボーナスステージに出現し、ハリアーを背中に乗せてくれる正義のドラゴンのこと。乗っている間は、体当たりで柱などをなぎ倒すことができる。
堀井氏: そうそう。ユーライアに乗りっ放しで、ずっと進めないかなあと考えていましたね。
古賀氏: でも、それではさすがにゲームにするのは難しそうで……。ハリアーも全ステージを通して乗りっぱなしでは辛いでしょうし(笑)。ただ、破壊しまくれるという方向性はすごくいいなと思ったんです。攻撃の変化案と合わせて何かないかと検討していたところ、ウイウイジャンボ(※5)の横にいるコマイヌが居るじゃないか!と。コマイヌが展開するバリアを利用して敵などをバンバン壊しまくれるじゃないか!と思い当たりました。これなら“キャラ替え”とはいかないまでも、オプション扱いでコマイヌがくっついたことでハリアーの見た目を変えることもできますし、ゲームがワイド化されていますので、左右限界位置まで移動してコマイヌが画面から見切れにくい、という利点もあります。
セガさんのほうからも、画面をぱっと見ただけで、明らかに何かが変わったことがわかるようにというオーダーがあったんですよ。これなら明らかに違うものだとわかりますし、いけそうだなということで、勝手に作ったものを、セガさんにお願いしてテストをしていただきました。
※5……ウイウイジャンボ: ステージ17に出現するボスキャラクターとのこと。同時に2体のコマイヌも出現する
――先程、私も遊ばせていただいたのですが、同じ「スペースハリアー」なのに遊び方がガラッと変わった印象を受けました。バリアを利用した体当たりで敵を倒せるのは新鮮でしたし、激突死のリスクが減ったことでより簡単になった感もあります。
小玉氏: 私は最初にアーケード版を遊んでから、まだ一度も最後までクリアしたことがなかったのですが、「コマイヌ・バリア・アタック」モードで遊んだら初めてクリアできましたね。
古賀氏: ウイウイジャンボと一緒に出てくるコマイヌをそのまま使うと、サイズがかなり大きいんですよ。そこで、ふた回りほどサイズを小さくしました。それから、バリアがあると前方の様子が見にくくなるのが問題になるかもしれないとも思ったのですが、試してみたら意外と見やすいことがわかったので、これなら大丈夫だろうということで作り始めました。
――すさまじい威力のバリアですが、どうやら敵弾だけは防げないみたいですね。
古賀氏: はい、そうです。敵弾も防げると無敵モードになってしまいますので(笑)。鉄の柱やビンズビーン(※6)などは体当たりで破壊できます。ただしコマイヌが被弾すると、スタン状態になってバリアが一定時間消えるようになっています。
※6……ビンズビーン: 4面などに出現する、正二十面体の敵キャラクターのこと。ショットでは破壊できない。
堀井氏: 要するに、ユーライアほど派手ではないですが、ボーナスステージと同様に壊して遊べるということですね。
古賀氏: ステージ9のボスは無敵状態の時でも破壊可能です。それから開発中に、ステージ16のスタンレイ(※7)の座標が、実は思ったよりもハリアーの近くだったことが判明したんですよ。「コマイヌ・バリア・アタック」用のバリアの当たり判定の位置を調整した結果、スタンレイに当たると一撃で壊れて、しかも消えた後もバレルが空中から次々と降りてくる異様な状態になってしまいました。さすがにこれはまずいだろうということで、プログラマーに頼んでスタンレイにはバリアがヒットしないような特別な処理を入れてもらいました。
※7……スタンレイ:ステージ16の最終地点で上空に出現し、敵キャラクターのバレルを次々と投下させてくる母艦のような存在。ショットでは破壊できない。
――開発スタッフの人数をお尋ねした際に、効果音の追加があったとお話をされていましたが、これは新モードで使用するために作ったものでしょうか?
古賀氏: はい。バリアで倒した敵の爆発音と、コマイヌが被弾した時に叫ぶボイスの2種類ですね。実は、マスターアップのギリギリのタイミングまで、サウンド担当の春日の声で仮で入れた「バーン!」とか「コマーッ!」と叫ぶボイスが鳴ってまして、セガさんにはとても心配をおかけしたと思います(笑)。
小玉氏: そうそう。マスターアップの2日前なのに、「コマーッ!」ってすごい声で叫ぶ仮音源のままだったので、奥成が「これは何だ!」って怒ったりしまして。いくらなんでも、2日前まではさすがに引っ張り過ぎですよ。待つほうにも、限界というものはちゃんと存在しますからね(笑)。
※8……奥成が「これは何だ!」: ご存じ「SEGA AGES」スーパーバイザー奥成洋輔氏。今回のインタビューでは奥成氏が海外出張のため欠席となった
堀井氏: 「まったく、お前らナメてるのかよ!」と言いたくなるような叫び声でしたよねあれは。ギリギリまで直さないというのは本当にひどいことなのですが、ただ横で見ているだけだとこれがメチャクチャ面白いんですよね(苦笑)。
古賀氏: 仮のボイスは、最終版に差し替わりますよと示すために、わざとそのように作ったものではあるんですけどね。
堀井氏: しかも、仮で作ったものに対して、「もっとこうしたほうがいいですよ」とか、意見を出したりする人もいたんですよ。「何だよそれ、もうわけがわからんぞ」と(笑)。
――それから、体当たりで敵を倒すとスコアが1点単位で加算されるようですが、これには何か意味があるのでしょうか?
古賀氏: バリアを使った体当たりで敵などを倒すと70,001点が入るようになっています。つまり、ショットで倒した時よりも高得点になるわけですね。ただし、本モードではハリアーの10点単位の進行点(筆者注:地面を走っている間に加算される得点のこと。10点単位でカウントされる)は入らないようになっています。
堀井氏: 「スペースハリアー」の得点の最低単位は、進行点以外を除くとボーナスステージで木や柱を壊したときの5,000点ですから、下4ケタの数字を見れば、何回体当たりで破壊したのかがわかるようになっています。
――「コマイヌ・バリア・アタック」モードも、ネットワークランキングに対応しているのでしょうか?
古賀氏: はい、対応しています。
――それから本モードでは、各ステージの開始時に英語でメッセージが表示されるようになっていましたが、具体的にどんなことが書いてあるのでしょうか?
古賀氏: 当初はエンディング画面にショートメッセージだけを出す予定でしたが、せっかく新しいモードを作ったことですし、各ステージでも出そうということで、私のほうから無理にお願いして入れていただきました。メッセージには、特にストーリーのようなものはなくて、コマイヌがハリアーに向かってアドバイスなどを話しているという設定になっています。後半のステージに進むと、何か不穏なことを話すようにもなりますので、ぜひ注目してください。
堀井氏: 弊社で開発をさせていただいたセガさんのタイトルですと、例えばSYSYTEM16版の「ファンタジーゾーンII」(※9)では、オープニングで英語のメッセージが出ますし、「3D アフターバーナーII」でもオリジナルの隠しメッセージに準拠して新たなメッセージを出すようにしましたから、その第3弾みたいなものですね。
※9……SYSYTEM16版の「ファンタジーゾーンII」: エムツーが開発し、PS2用ソフト「ファンタジーゾーンコンプリートコレクション」に収録されたタイトルのひとつ。元々はSYSTEM E基板で開発された「ファンタジーゾーンII」を、初代「ファンタジーゾーン」と同じSYSTEM16基板でリメイクしたらどうなるかというコンセプトで開発され、古賀氏も開発に参加している。
――先程、HD振動のお話がありましたが、製品版に実装されたのでしょうか?
古賀氏: はい。先行リリースされるタイトルのどこかで対応されていると予想して、バーンと仕様に入れておいたのですが、今回、ついに入れることができました。
堀井氏: いやあ、やっと入りましたよ(笑)! 私のほうでも、もうとっくに入っていたと思っていたのですが、実はできていなかったんですよね。Nintendo Switch用の社内ライブラリでHD振動に対応しないことには、「スペースハリアー」にもほかのSEGA AGESのタイトルにも実装できませんので、Nintendo Switch用ソフトの開発を担当している部署に、「HD振動を早く入れてくれ!」とずっと言っていました。セガさんだけでなく、他社さんからの案件でもHD振動のお話がいっぱいありましたので。
古賀氏: 私自身も、HD振動の威力は痛感していましたので、なんとか実現したいと思っていました。オブジェクトを破壊した時は当然として、ボスにダメージを与えた時にもトクンと振動するようになっていますので、ショットが通ってダメージが入ったかどうかが格段に判り易くなっています。地上物につまずいたりやられたり時、クレジットを投入した時も振動するようになっています。
画面左右の端にハリアーが来ると、ポコポコと揺れるようにもしました。ワイド画面でプレイすると、ワイドのギリギリの所まで移動ができませんから、もうここまでしか動けません、これ以上は端に寄れませんよと教えるためですね。つまり、HD振動に対応させることで、より遊びやすくなっているのが大きなポイントです。最初は地面を走行中も振動するようにしていたのですが、これだとさすがにうっとうしいなと思ったのでやめました。
――操縦桿モードも実装されたのでしょうか?
古賀氏: はい。なのでJoy-ConのLとRボタンにはデフォルトで連射ボタンも割り当ててあります。操縦桿モードとHD振動、そして「コマイヌ・バリア・アタック」モードが、本作の三本柱というわけですね。
――それから、どうでもいいネタで恐縮ですが、アーケード版には開発スタッフ間での伝言みたいなメッセージ(※10)が、ごくまれに表示されるバグがあったと記憶しているのですが、これもNintendo Switch版で再現されているのでしょうか? マニアックな質問でたいへん申し訳ないなのですが……。
堀井氏: ええ、ちゃんと入っています。これはバグではなく、仕様として入っているものですので、アーケード版と同じ頻度で出現しますよ。あれは作り手からのメッセージでもありますので、もし見ることができたら、その人はとてもラッキーですよね……って、私がこんなことを言ってもいいのかどうか、本当はよくわからないのですが(笑)。
※10……伝言みたいなメッセージ: 本作の生みの親である鈴木裕氏が、スタッフの三船敏氏に向けて「キャラクターのパレットを使い過ぎだよ」などと書いたメッセージが、なぜかプレイ中に出現することがある。正確な出現条件は不明。
小玉氏: 弊社としてもオリジナル版のいいところは、スポイルしない範囲でちゃんと出すようにしたいと思っています。でも、これっていいことなんでしょうかね……(笑)。
――では、もしメッセージが表示されたプレイ動画がネットワークランキングを介してアップロードされたら、全世界の人にそれが見えちゃうわけですね?
堀井氏: はい。もちろんそうなりますね。もしアップされたら、それは記念に取っておいたほうがいいかもしれませんよ。
――毎度のことですが、こんな細かいところにまでこだわって再現するとは脱帽です。過去に何度も移植を経験されているタイトルでもありますし、移植再現度の高さは今回が過去最高になったという解釈でよろしいですか?
堀井氏: そうですね。「龍が如く」シリーズで遊べる「スペースハリアー」も含めると、もう10回以上も移植版を作りましたので、もしギネスに同じゲームの移植をした回数の記録を申請したら、世界記録として認定されるレベルだと思いますよ!
(一同爆笑)
――それでは最後に、GAME Watchの読者に向けてメッセージをおひとりずつお願いします。
古賀氏: 「コマイヌ・バリア・アタック」モード、頑張って作りましたので、オリジナルモードは当然として、こちらも遊んでいただければと思います。主に頑張ったのはプログラマーですが(笑)。コマイヌとバリアの判定は出来るだけゲームが易しくなる方向で調整していて超イージーモードという側面も兼ねていますので、気軽に全ステージクリアを?指してもいいですし、もちろんモード名でもあるコマイヌのバリアのアタックで、スコアランキングにもチャレンジしていただければ。今回ついに対応したHD振動とも併せて楽しんでもらえれば、と思います。
堀井氏: PS2版の「SEGA AGES 2500シリーズ Vol.20 スペースハリアーII ~スペースハリアーコンプリートコレクション~」から始めた移植の回数は、もう2ケタを超えましたし、これだけの数を作ったということは、その昔「スペースハリアー」の筐体にさんざん吸い込まれた、なけなしのお小遣いの金額分の元はもう取っただろうと。当時の100円と言ったら、もう大金でしたからね!
皆さんと同じく、私もまだ遊び手のひとりでもありますし、「いったい『スペースハリアー』を何回遊んでるんだよ!」と思いつつ、皆さんは今でもきっと遊ぶ日々が続いていると思いますが、それは私も同じですから気にするなと(笑)。これからも我々と一緒に、「スペースハリアー」をずっと楽しんでいきましょう!
小玉氏: アーケード版の開発中は、私の席から反対側の開発室の一番奥に、ムービング筐体の試作機が置かれていたのをよく覚えています。当時でも大型筐体はまだ珍しかったので、物珍しく見ていた記憶があります。私が入社したばかりの頃に出たゲームを、今こうして復刻するお仕事に関われて、今でも皆さんに楽しんでいただけるのはすごくうれしいですね。(鈴木)裕さんをはじめ、オリジナルを手がけた先輩方にも、喜んでいただけるのではないかと思います。
――ありがとうございました。
(C)SEGA