インタビュー

「SEGA AGES ワンダーボーイ モンスターランド」インタビュー

移植再現度と面白さをとことんまで追求したこだわりの逸品がここに完成!

【SEGA AGES ワンダーボーイ モンスターランド】

5月30日配信開始

価格:925円(税別)

CEROレーティング:A(全年齢対象)

 セガの名作を“こだわり満載”で復刻する「SEGA AGES」。Nintendo Switch用ソフトとして、シリーズ第9弾「SEGA AGES ワンダーボーイ モンスターランド」(以下、「ワンダーボーイ モンスターランド」)の配信が満を持して開始される。GAME Watchでは発売に先立ち恒例の開発スタッフインタビューを実施してきたのでたっぷりお届けしよう。

 「ワンダーボーイ モンスターランド」は、1987年に登場したアーケード用アクションRPGの金字塔的作品。4方向レバーとジャンプ、(剣を振る)攻撃の2ボタンで主人公の少年ブックを操るというシンプルな操作でありながら、さまざまな攻撃を仕掛けてくる敵の弱点を探して倒したり、マップの随所に隠されたゴールド(お金)を集め、ショップで鎧やブーツなどの装備品を購入して主人公をパワーアップさせていくのがとにかく楽しい。ステージによっては謎解きの要素も盛り込まれ、キャラクターの可愛らしいデザインやBGMも素晴らしいものばかりで、その面白さはお世辞抜きに今なお色あせない。

【ワンダーボーイ モンスターランド】
「ワンダーボーイ モンスターランド」ゲーム画面(Wiiバーチャルコンソール版にて撮影)

 今回のインタビューにご登場いただいたのは、セガゲームスの小玉理恵子リードプロデューサー/ディレクターと、スーパーバイザーの奥成洋輔氏、開発を担当したエムツー代表取締役の堀井直樹氏、高校時代から今も本作を遊び続け、今回はテストプレイを担当したという生粋の“モンスターランドマニア”である、同社広報・プランナーの駒林貴行氏の4名。筆者も本作は大のお気に入りで、ゲームセンターで何度も1コインクリアまで遊んだ経験があるものの、皆様方のお話にちゃんと付いていけるのかどうか、少々不安を感じつつお話を伺った。はたして今回は、いったいどんな濃い話題が飛び出すのだろうか?

今回のインタビューにご参加いただいたみなさん。左から順に、エムツーの駒林貴行氏、堀井直樹氏、セガゲームスの小玉理恵子氏、奥成洋輔氏

開発自体はスムーズに進行するも、身内から思わぬ刺客(?)が出現

――本日もお忙しいところ、お時間をいただきましてありがとうございます。まずはNintendo Switch版「ワンダーボーイ モンスターランド」におきまして、みなさんがご担当された業務内容から教えていただけますか?

エムツー代表取締役の堀井直樹氏
エムツー広報・プランナーの駒林貴行氏

堀井氏: 弊社では今回が4回目の移植となるのですが、私は弊社ディレクターの松岡(毅)から、「人がいない、時間が足りない。セガの小玉さんから怒られる!」と延々聞かされ続けたという役回りです(笑)。「ワンダーボーイ モンスターランド」については、弊社のなかで一番詳しい人間が駒林なのですが、彼は弊社で作った移植版に対して、私に最初に食って掛かってきた男なんですよ。

駒林氏: 僕はエムツーショットトリガーズ(※1)の広報と別案件のディレクターをやっているのですが、本作では「企画」という立場を最大限利用して、来る日も来る日もプレイし倒していました。13年ほど前から、「エムツーの作った『ワンダーボーイ モンスターランド』は、絶対何かが足りないんだよなあ……」と思っていたのですが、今では口を出せる立場になりましたので、「あれを入れて、これを入れて」とケチをつけては、夢を語る係ですね(笑)。

※1……エムツーショットトリガーズ: エムツーのシューティングゲームの復刻・開発プロジェクトのこと。

――13年前ということは、PS2版の「モンスターワールド コンプリートコレクション」(※2)に収録されていたものに不満があったということですか?

堀井氏: PS2のスペックの関係で、どうしてもできなかったことがあったので実現可能な範囲で作ったのですが、そのなかでも見落とした部分がいろいろとあったんですよね……。

※2……「モンスターワールド コンプリートコレクション」: 2007年に発売されたPS2用ソフト。「ワンダーボーイ モンスターランド」をはじめ、シリーズ全6タイトルを収録している。

スーパーバイザーの奥成洋輔氏
セガゲームスのリードプロデューサー/ディレクターの小玉理恵子氏

――では、奥成さんはどういう形でお仕事をされたのでしょうか?

奥成氏: 私はスーパーバイザーということで、ご意見番的な立場から、最初の企画段階でいろいろと意見を言わせていただく形で参加しました。本作の移植は、PS2版の「モンスターワールド コンプリートコレクション」、PS3とXbox360のSEGA AGES ONLINE版、それからWiiのバーチャルコンソール版に続いて、堀井さんが先程お話されたようにエムツー開発では4回目、5ハード目ということになりますね。

――アーケード版において、小玉さんは開発やプロデュースなど、何かお仕事をご担当されたのでしょうか?

小玉氏: 開発したのはウエストンさんでしたので、当時はまったく関わりはありませんでした。今回のNintendo Switch版では、私がセガ側でのプロデュースとディレクターをしています。ウエストンの社長だった西澤(龍一)さんとは、お互いにF1が好きで、ある時にFMOTOR4というニフティの掲示板で出会って、「じゃあ、オフ会をやろう」というお話になったので、そこに行ったら実は西澤さんだったという思い出があります。「あ、この方が『ワンダーボーイ』の西澤さんなんだ」と(笑)。

――第1期として、全19タイトルを配信すると発表したSEGA AGESにおいて、ちょうど折り返し点にあたる第9作目は「ワンダーボーイ モンスターランド」となりました。今、奥成さんが仰ったように、本作はすでに多くのプラットフォームに移植されていますが、Nintendo Switchでも配信しようと決めたきっかけを改めて教えていただけますか。

奥成氏: 弊社の小玉とエムツーさんとで、配信タイトルのラインアップを決める際に、「ワンダーボーイ モンスターランド」の名前が最初から候補として挙がっていました。

小玉氏: 私としても、ずっと親しみのあるタイトルですし、ぜひNintendo Switchでも配信をしたいなと思っていました。

奥成氏: 本作の続編にあたるワンダーボーイシリーズの4作目、日本版のタイトルで言うところの「モンスターワールドII ドラゴンの罠」(※3)が、Nintendo Switch版などで「Wonder Boy: The Dragon's Trap」という名前でリリースされましたが、これが非常に良くできているんです。「モンスターワールドII ドラゴンの罠」は、「ワンダーボーイ モンスターランド」のラスボス戦直前のシーンからスタートするという、ちょっと特殊なゲームなんですね。

 これだけを遊んでももちろん面白いのですが、このゲームの前日譚にあたる「ワンダーボーイ モンスターランド」も、遊びやすい環境で提供できたらいいなあという話もみんなでしていたんです。ただライセンスに関しては、ちょうどウエストンさんのライセンスの移行期間(※4)があったりして、弊社の一存だけでは配信を決められないという、契約上の問題が実は一時期あったんです。

※3……「ワンダーボーイ ドラゴンの罠」: 1989年にセガ・マスターシステム用ソフトとして、海外で発売されたアクションRPG。日本国内では、1992年にゲームギア用ソフトとして「モンスターワールドII ドラゴンの罠」というタイトルで発売された。

※4……ウエストン(ウエストンビットエンタテインメント): 2014年に東京地裁より破産開始決定を受け倒産している。

駒林氏: ディレクターの松岡から、「『モンスターランド』の配信がダメになったよ」と最初に聞かされた時は、「もうやってらんないや。今日は帰ろう……」と思って、本当に帰っちゃいました(笑)。

奥成氏: で、2018年度中に、配信タイトルを全部出すという予定のなかで……、

堀井氏: 予定のなかで! でも……(苦笑いを浮かべつつ)、

奥成: 契約も含めると時間が掛かるし、難しいなということになりまして、一旦リストから外れていたのですが、気が付いたらSEGA AGESの開発が1年以上も延びてしまいました。それならとウエストン作品のライセンスを持つLATさんに相談したところ快諾をいただき、その後はスムーズに開発を進められましたね。

堀井氏: 駒林からは、「僕の夢は、ウエストンのゲームのクレジットに自分の名前が載ることなんです。「ワンダーボーイ モンスターランド」を出す方向で、何とかまとめてください!」と、仕事中にこっそり言われたことがあります。

駒林氏: 「ワンダーボーイ モンスターランド」に名前が出せれば、僕の人生の目標の半分ぐらいはもう終わったことになりますので(笑)。

堀井氏: 出せそうにないという時期は、駒林はもう涙目でしたからね。今日という日を迎えられて本当に良かったなあと思います(笑)。

――駒林さんの“モンスターランド愛”がすごいですね……。では、Nintendo Switch用に本作を移植するにあたり、特に苦労されたことは何かありましたか?

堀井氏: 今回の移植に関しては、ひととおり我々が作ったものを動かすところまではすんなりとできました。もしこれが、「ニンテンドー3DSの立体視に対応させてくれ」という話になっていたら、もうそれこそ血反吐を吐くところでしたが(笑)。ただ、駒林のほうから「すんなりじゃないですよ。ここはこう直してくれ、ああ直してくれ」と、いろいろと言われまして……。

奥成氏: アーケード版の「ワンダーボーイ モンスターランド」は、セガのSYSTEM IIという、家庭用のセガ・マークIIIに割と近い、SYSTEM Iをパワーアップさせた基板を使っていたんです。SYSTEM IIは、SYSTEM16とほぼ同時期に出たハードで、どちらかと言うとコストダウン版で、8ビットのセガのシステム基板としてはこなれているという部分があったので、エムツーさんでも早い時期から移植に関しては、PS2の頃からそれほど問題はなく、「スペースハリアー」や「ギャラクシーフォースII」に比べると非常にスムーズにできていました。

 PS2の「モンスターワールド コンプリートコレクション」には、海外バージョンも含めると十数タイトル分のバージョンを移植していましたが、8ビット時代のタイトルが中心でしたので、ある程度は力技でやれた部分があったんですね。

――毎回SEGA AGESのインタビューでは、開発時の大変なご苦労話が出てくる印象があるのですが、今回のところは移植慣れしたタイトルということもあり、スムーズに開発ができたということですね。

奥成氏: で、PS2時代のお話なのですが、東京ゲームショウにSEGA AGESの「バーチャロン」や「テトリス」を出展した時に、私はプロデューサーをしていたのですが、試遊台の対応係も兼任していて、会場でお客様のプレイする様子をずっと近くで見ていたんです。そうしたら、1人だけ変わった高校生のお客様が来ていたんですよ。

 その方はNOMADという、アメリカでしか発売されなかったGENESIS(メガドライブ)を携帯できるハードを、「ワンダーボーイV モンスターワールドIII」のソフトと一緒に持参して、その場でPS2の移植版とつぶさに見比べてチェックをし始めたんです。移植の出来栄えには自信がありましたので、私のほうから近づいていって「どうですか?」と聞いてみたら、「何だかおかしくないですかねコレ?」などと言われてしまいまして……。

駒林氏: その話もした覚えがありますが、あの時は、クラーケンが弾を吐いた時に、下にいた際の処理落ちの仕方が違うとかって話をしてたかと思います。

――つまり、NOMADをわざわざTGSの会場に持ち込んだ高校生のお客様が、今ここにいらっしゃる駒林さんだったわけですね。

奥成氏: はい。ほかにも、「『ドラゴンの罠』の主人公であるブック少年が、髪の毛が緑色なのはなぜか知っていますか? 僕がウエストンさんに、『前作では黄色なのに、なぜ緑色なのか?』とメールで聞いたら、『ダンジョンの中が暗いから緑色なんだよ』って言ってました」とか、その場でいろいろなお話をされたので、こちらのほうも「いやあ、そうですかねえ……」みたいな受け答えをしていたんですね。

駒林氏: そんなこと言いましたっけ? 後で直接お聞きしたら、「ああ、あれはパレットの都合だよ」って仰ってました。いやあ、ホントにすごい嫌な客ですよね。

(一同爆笑)

奥成氏: こちらがへこむようなことをいろいろと言われちゃったので、「これはまだ開発中なので、最終版ではもっと良くなりますよ」って確か答えたと思いますが、そうしたら発売後に今度はハガキを書いて送ってきたんです。

駒林氏: ソフトを3本買って、アンケートハガキも3通書いて送りました。ちょうどそれと前後して、「出来が悪いじゃないか!」って、今まさに私の右にいる人(筆者注:堀井氏のこと)に向かってメールでキレたら、「予算がなかったんだよ、あきらめろ」みたいなことを言われて、「だったら、ちゃんとエムツーに予算を出してあげて完全移植版を作ってくださいよ!」って、ハガキ3通に全部同じことを書いて投函しました。

――そこまで「ワンダーボーイ モンスターランド」を愛していらっしゃるとはすごいですね。もう絶句です……。

奥成氏: 私のほうでもハガキは全部チェックしていましたので、ああ、これを書いたのは多分あの人だろうなあと思いましたね。その後、GAME ON(※5)のプレオープンのパーティーに参加したときに、出展協力をしていたBEEP(※6)の社長さんから、「うちの社員です」と言われて紹介された方としばらく話していたら、あの時の高校生である駒林さんだったということがわかりました(笑)。

※5……GAME ON: 2016年3月に東京・台場の日本科学未来館で開催されたゲームの展示イベント「GAME ON~ゲームってなんでおもしろい?」のこと。奥成氏も出演した、「セガハードの歴史を語り尽くす」というトークイベントも行われていた。
※6……BEEP: クラシックゲームファンなら知らない人はいない有名ゲームショップ。東京・秋葉原に実店舗がある。

駒林氏: いやあ、ホントに人間って成長しないんだなあと(笑)。

堀井氏: 以前に駒林がTwitterに書いた、13年前にエムツー製の「ワンダーボーイ モンスターランド」にケチをつけたツイートに、何とBGMの作曲者である坂本(慎一)さんが「いいね」を押すというすさまじい状況になってましたけど、今回はもうそういうことにはならないと思いますよ(笑)。

【貴重なアーケード版コレクション】
アーケード版のインストラクションカード(エムツー提供)
チラシ(エムツー提供)
POP(エムツー提供)

【エムツーさん持参のお宝たち】

過去の移植版に搭載した便利機能に加え、新モードや粋な演出も多数追加

――Nintendo Switch版では、アレンジモードなどの新機能が追加されているのでしょうか?

奥成氏: はい。今回の「ワンダーボーイ モンスターランド」は、過去のSEGA AGES ONLINE版プラスアルファ、もしくはSEGA AGESミックスという仕様になっています。通常のアーケード版の移植に加え、毎回おなじみのレバガチャボタン(※7)もボタン操作のひとつとして入れたり、SEGA AGES ONLINE版の時に、ネットワーク対応のものをやりたいなということで作った、「ファイヤーボールチャレンジ」なども遊べるようになっています。

 「ファイヤーボールチャレンジ」は、剣が使えない代わりにファイヤーボールの魔法が無限に撃てるシューティングゲームになっていて、ライフがハート0.5個分しかありませんので、敵の攻撃を一発受けるだけでミスになってしまいます。最初のうちは楽勝かと思いきや、途中で砂時計がひっくり返ったらもうおしまいになりますから(笑)(※8)、後半に進むと意外と難易度が高くなります。

 ですから、クリアするためにはすごいスピードで先に進む必要がありますので、まったく違うプレイ感覚で遊べるんですね。当時は絶対に盛り上がると思っていたのですが、イマイチ反応がなかったので、今回もまたリベンジということで収録しました。それから「スフィンクスチャレンジ」という、普通にクリアを目指してプレイする場合はまず戦わない、スフィンクスとガチで対戦して遊ぶモードと、最終面の「タイムアタック」も遊べます。

※7……レバガチャボタン: 本作は、隠しコインを出現させる際にレバーを左右に連続で素早く振ることで、より多くのゴールドを獲得できる裏技があり、これを成功しやすくするために導入した便利機能。

※8……砂時計がひっくり返ったらもうおしまい: 本作は、一定時間が経過すると画面内に表示された砂時計がひっくり返り、主人公のライフが1個減るようになっている。

 これらの3モードは、全世界でのネットワークランキングに対応していますが、そのまま移植するだけでは物足りないだろうということで、今回エムツーさんからのアイデアで「マネーハングリーモード」というものを新しく作りました。これはどんなモードかと言いますと、要は“レバガチャ封印モード”なんですね。元のアーケード版では、レバガチャを使ってゴールドを集めるのが普通の遊び方になっていましたが、もともと本作はそれをやったうえで攻略するというゲームバランスでは作っていなかったハズなんですよ。つまり、ウエストンさんが当初に想定していたゲームバランス上でガチ対戦をしてもらいたいということですね。

 確かに、レバガチャも本作の面白味のひとつにはなっていて、それによってゲームバランスが緩くなったことで大ヒットにつながったとは思いますが、あえて原点回帰をして遊んでほしいなあと。今までにいろいろなモードを遊んできた人にとっても、一周回って逆に新鮮に映るのではないかと思います。

【アレンジモードも搭載】
SEGA AGES ONLINE版で登場した「ファイヤーボールチャレンジ」「スフィンクスチェンジ」に加え、原点回帰の新モード、「マネーハングリーモード」も収録されている

駒林氏: これだけのモードが遊べますし、これはもう「ワンダーボーイ モンスターランド」の決定版ですよ! それから、僕のほうからはサウンドを2音半下げた状態でも聞けるようにしてくれというリクエストも実はしていました。

堀井氏: そうすると、「ビックリマンワールド」(※9)のサウンドと同じになるからですね。

※9……「ビックリマンワールド」: 1987年に発売された、「ワンダーボーイ モンスターランド」の移植版にあたるPCエンジン用ソフト。一部のキャラクターが、アニメ「ビックリマン」のキャラクターに差し替えられている。

――確かに「ビックリマンワールド」のBGMはアーケード版より少し音程が低いですよね。

駒林氏: でも、それはウエストンさんに失礼ではないかと言われて実現できませんでした。システムも曲も、それこそみんながビックリするようなものにしてほしいなあと思ったんですけど……。

――サウンドにも、駒林さんは並々ならぬこだわりをお持ちなんですね。

駒林氏: 一番最初にチェックした時に、何だか音が違うなあと思ったんですよ。7面の「南の島ポロロ」で鳴る笛の音の通りが、アーケードの基板の音と何回比べても違っていたので、「ここがおかしいから直してくれ」と僕のほうからお願いをしました。調べてみたら、基板に載っている2個の音源の音量バランスが違っていたことがわかったので、そこを調整した結果、今までで間違いなく実機に一番近い音が鳴るようになりました。

奥成氏: 実は弊社にも、サウンドにはうるさい西村という者がいて、「サウンドに何か違和感があったら教えて」と言っておいたのですが、このゲームに関しては一度も指摘がなかったですね。もうエムツーさんのなかに、西村の代わりになった方がいましたので(笑)。SYSTEM II基板は、ほぼ同じ時期に出たSYSTEM16ではFM音源が載っているのに対して、ひとつ前の時代の音源であるPSG音源が2個載っているんです。でも、音源が2個載っていることが面白さになっていたんですね。

 作曲者の坂本さんが、以前にジャレコのゲームサウンドを作っていた時はFM音源を使っていたのに、ウエストンに入ったらPSGに戻ってしまったので、どうやって音の厚みなどを出そうかと考えた時に、「2個の音源で同じ音を鳴らすことで厚みを出した」というお話をされていましたね。コインが飛び出すときのSE(効果音)についてもそうですが、FM音源を使用したアーケードゲームが出始めていた時代にあっても、「ワンダーボーイ モンスターランド」のサウンドはすごく店内に響くので、ゲームをより目立たせる効果があったんですよね。

【ゲームセンター内に大きく響き渡る笛の音】
7面で、主人公ブックが笛を持った状態で写真の位置に立つと笛を吹く。笛の音は非常に甲高く、ゲームセンター内に大きく響き渡る印象がある(Wiiバーチャルコンソール版にて撮影)

――確かに、コインの出現音とかも店内によく響く音だったなあという印象があります。

奥成氏: エムツーさんが当時移植版を開発するにあたっては、まず第一にプレイ感覚、第二に見た目を重視するというなかで、サウンドに関してはハード性能の限界でリソースを割けないといいますか、サウンドにもこだわり過ぎたせいでプレイ感覚のほうが犠牲になってはいけないという、一貫した方針が昔からずっとあるんですね。

堀井氏: PS2版では、とにかく遅延する部分を可能な限りつぶしていました。サウンドはPS2のCPUでは鳴らしていなくて、初代PSとの互換機能側のほうで処理していたんです。

奥成氏: PS2の時代は、ちょうどエミュレーターによる移植が始まった時期で、80年代に登場したいろいろなゲームがPS2にも移植されるようになったんですね。でも、まだその当時は見た目は同じでも、プレイ感覚が何となくもっさりしているなあと私は感じていたんです。当時は液晶のテレビがまだそれほど普及していなかったのですが、ブラウン管のテレビでプレイしていても何だか違うなあと思ったゲームが多かったですね。ですからエムツーさんでは、まずはどうやって遅延をなくして、オリジナル版と変わらない操作感覚を再現するかという部分にリソースを割いていたんですね。

駒林氏: 遅延は、もうそれこそ親の仇みたいなものですからね。

奥成氏: エムツーのみなさんは、どんなゲームにも万遍なく詳しくて、ほかのどの会社よりもうるさ型の方がいるのですが、今ではSEGA AGESなどのゲームを作ったエムツーさんの仕事ぶりを見て会社に入って来た、言わばエムツーさんの第2世代にあたる方がいるんです。例えば、前回の「バーチャレーシング」のインタビューに出ていただいた久保田(和樹)さんがそうでしたし、今回来ていただいた駒林さんもそうですよね。

 すごくこだわりのある人たちがもともと集まっていた会社に、その方針に賛同して「自分もそのこだわりに参加したい!」と思って、ただならぬこだわりを持った人が一般の企業からゲーム業界に転職したりした結果、移植のクオリティがさらに上がりました。「ワンダーボーイ モンスターランド」も、そのなかのひとつではないかと思います。

――今回のNintendo Switch版も、SEGA AGES ONLINE版などと同様に海外バージョンも遊べるようになっているのでしょうか?

奥成氏: はい。今回のSEGA AGESに収録されているのは「ワンダーボーイ モンスターランド」1タイトルだけですが、国内と海外バージョンとが切り替えられるようになっています。

駒林氏: 海外では2種類のコピー基板が出回っていて、それぞれ英訳が違うのは知っていたのですが、本物の海外バージョンはそのどちらとも違っていて、「えっ、こんなのがあったんだ!」と僕もびっくりしました。

奥成氏: 実は今回移植した海外バージョンのROMは、PS2版を作った時には見付からなかったんですよ。ウエストンさんからは、「海外バージョンも作った記憶があるんだけど、うちでは持っていないんだよね……」という話をお聞きしていたんですけどね。でも、SEGA AGES ONLINE版を出す頃には社内の捜索範囲も広がっていましたので、弊社の基板の修理をする工場が千葉県にあるんですけど、そこに行ってみたところ保管されていました。

堀井氏: 「何だこれ?」と思って早速起動してみたら、今まで見たことがない「ワンダーボーイ モンスターランド」のロゴが表示されたのでびっくりしましたね。

【海外バージョンも収録】
今回も海外バージョンを収録

駒林氏: それから、今回のSEGA AGESオリジナルとして、一度手に入れた武器を継続して使えるヘルパーモードとして、「パワーアップニューゲーム」という機能も用意しています。

堀井氏: 「パワーアップニューゲーム」は、昔はクリアできずにめげてしまった人にも、最後まで遊んでほしいなと思って作りました。

【パワーアップニューゲーム】
ゲームオーバー後も入手した装備品を持ち越せる「パワーアップニューゲーム」機能を新たに搭載している

――PS2版では、数千ゴールドを集めて全ステージをクリアした、ハイスコアラーによるプレイ動画が収録されていましたよね? 今回も同じ動画が収録されているのでしょうか?

奥成氏: Switchで展開してからはその必要はなくなりました。オンライン対応で、最新のプレイがいつでも見られるのがSEGA AGESの特長でもありますので。

堀井氏: ネット上のランキングで、トッププレーヤーのプレイ動画がダウンロードできますから、現在の最新のスーパープレイが見られます。

――ナルホド、PS2版の頃はオンラインに対応はしていませんでしたが、今回はダウンロード販売でもありますし、普通にオンライン対応しているからそこまでする必要はないんですね。

奥成氏: 家庭用ゲームのハードが代替わりしても、ずっと現役で遊べるようにしたいんですよね。特に「ワンダーボーイ モンスターランド」は、毎回現代に残したい名作ゲームとして選ばれるべき一本なのではないかと思っています。実は、3DSの「セガ3D復刻プロジェクト」のシリーズを開発する時にも、「ワンダーボーイ モンスターランド」を移植したいねという話は出ていたんです。

堀井氏: でも、昔の8ビットのゲームはスクロールできる面を1面しか持っていないので……。

奥成氏: 背景から何から全部手付けで立体視を付けるのはものすごく膨大な仕事になってしまうんですよ。しかもステージも多いゲームなのに、全部流用の利かない背景なので。その影響で、3DSの時は結果的に昔のゲームほど復刻するのがかえって難しくなっちゃったんですよね。『ファンタシースター』なんかも3Dダンジョンの立体視が作業量的に不可能で断念したので、Switchで出せて良かったです。。

――そして、すべての仕様が盛り込まれたところで、最後のデバッグ・テストプレイの場面では駒林さんがご活躍をされたということですね?

駒林氏: 最初は別件のほうでずっと忙しかったので、みんなが気を使ってくれて「デバッグやってよ」と言いにくい空気になっていた気がしましたので、僕のほうから「チェックさせてください」と頭を下げてやらせてもらいました。「直したからやってみて」と言われながら、おそらく10回以上はチェックしていると思いますが、最初からサウンド以外の遅延とか操作感覚とかに関しては、ほぼ文句つける部分はなかったですね。

 でも本当は、スノーコングが2体出て来て氷を投げた時ですとか、ドラゴン城でデーモンが出てくる所の処理落ちするタイミングですとか、多分実機と同じだろうなと思いつつも、基板でプレイした動画と比べながらチェックをしたかったのですが、そこまでやるとほかが疎かになって各所から怒られてしまうので(苦笑)……。

堀井氏: 駒林がチェックする時は、確かジョイスティックをつないで遊んでいたのかな?

駒林氏: はい。リアルアーケードProを一度つないでやりましたね。

堀井氏: それで、職場内にまるでモーターがうなっているような、すごい音がしたので何かと思ったら、レバガチャでゴールドを増やしていたんですね。その音が私の席まで聞こえてきたので、最初は何をしているのかがわからなかったのですが、ああ、また駒林が遊んでいるんだなって(笑)。

駒林氏: 遊んでいたんじゃないですよ! ちゃんと仕事としてチェックをしていたんですよ!!

(一同爆笑)

駒林氏: それから、壁紙を1枚変えてほしいというリクエストも僕のほうから出しました。ここまでアーケードに近いものができたんですから、ガワのほうももっとアーケードに近付けましょうということですね。

奥成氏: そうでしたね。もしかしたら、前に発表してたときの壁紙の方が良かったという方には残念なお知らせかもしれませんが、そこはこだわりで変えましょうということで新しくしました。T-13という、「ワンダーボーイ モンスターランド」が出た当時にあった、セガの標準的なテーブル筐体で遊んでいることを想定した画面になっています。でも、再現度を上げた結果インストカードが見切れるようになって読めなかったりするのですが(笑)……。本当に今回の「ワンダーボーイ モンスターランド」は、今までのエムツーさんが手掛けたもののなかでも、かなり極まっているのではないかと思いますよ。テーブルとブラウン管の間の黒いフレームとか、ブラウン管の表示のない黒いパーツが少し見えてるところまで再現していますからね。

駒林氏: 僕のなかでは、セガの純正テーブル筐体で遊んでいる気分になれる、この壁紙が一番のお気に入りですね。弊社で私の隣の席にいる松下(佳靖)という者に、「ブラウン管で、18インチモニターのテーブル筐体のデザインにして」とお願いして作ってもらいました。

――ブラウン管表示のフィルターを入れた際の再現度も素晴らしいですね。

駒林氏: 画面上部に表示される「HIGH」の文字の上の部分が、少し切れているところも忠実に再現しています。

堀井氏: 3DSの時は、マシンスペックが十分になかったので実現できませんでした。Nintendo Switchは3DSのような立体視はありませんが、スペックはものすごく上がりましたので、ブラウン管の縁の微妙なカーブを付けられるようになったんですね。

奥成氏: 色の落とし方や渋みとかは、本当に極まったように思いますね。PCエンジンで、「ビックリマンワールド」を14インチのテレビとかで遊んでいた人にとっても、すごく懐かしく感じられるのではないでしょうか。ゲームの面白さ自体については、「もうPS2版を持ってるから大丈夫」と言われてしまえば、それはそれで自信作ですので、「ええ、そうですよね!」と自信を持ってお返事できるのですが、「最新のハードで、久しぶりに遊びたい」というご要望にお答えする形で、そのハードに見合った再現度で、さらに進化したものを提供できていると思っています。

堀井氏: さらに、ここに立体視も入っていたら完璧だったんですけどね(笑)。でも、その時々での面白さを提供できていると思っていますし、今回はNintendo Switchですから、何より持ち運びができるのが大きいですよね。

【細かいこだわり】
左右に注目。テーブル筐体で遊んだ時の視点を再現した壁紙
ブラウン管モニターの画面表示を再現した演出

――ちなみに、初代「ワンダーボーイ」など、Nintendo Switchでは未配信のシリーズ作品を今後出す予定はありますか?

奥成氏: 今は予定はありません。まずは先日発表した、「SEGA AGES」の第1期にあたる19タイトルを、今回が9タイトル目ですから、残りの10タイトルの移植に全力をつくします。そのうえで、もし第2期もやろうということになった場合は、第1期で人気があったタイトルの続編を選ぶかどうか、その際に検討することになるのではないかと思います。

――楽しいお話が尽きませんが、そろそろお時間が迫ってまいりました。それでは、最後におひとりずつ、読者に向けてメッセージをいただけますでしょうか。

堀井氏: すみません、先に質問とは関係ないお話をちょっとだけさせてください。今回で4回目の移植ということで、私も随分と長いこと移植をやってきたなあと改めて思いました。以前は自分たちのお客さんだった人が、今では自分の職場にいて、大声で「このゲームはこうすべきだ!」って熱弁を振るっている姿を見られるようになりましたので、これで次の世代にバトンが渡せるんだなあって思いましたね。

――文字どおり、「AGES」が継承される流れが出来上がったわけですね(笑)。

堀井氏: はい。まさにそれが「ワンダーボーイ モンスターランド」ということで、本当に感慨深いものがあります。駒林などと一緒に開発ができて、本当によかったなあと。以前にあれだけ完璧に移植ができたと思っていたものに対して、私に向かってすごい啖呵を切った男がきっちりとチェックをしていますので、間違いなくいいものができたと思いますよ。

駒林氏: 「ワンダーボーイ モンスターランド」は、世界で一番面白い、一生遊べるアクションゲームだと僕は思っています。こんなに面白いゲームが、Nintendo Switchに移植されたことでいつでもどこでも遊べるようになったのは、本当にうれしいことですよね。それから、素晴らしい続編も出ていますので、この機会にぜひ両方買って遊んでいただきたいですね。僕は今から、配信日の0時まで待機して、時間になったら即ダウンロードする気満々です!(笑)

堀井氏: 度々すみません、ひとつ言い忘れました! もしできましたら、駒林に対して「この移植は完璧じゃない!」と言ってくれる、駒林よりも12歳ぐらい年下の方を募集しますので、ぜひよろしくお願いします(笑)。

――たいへん失礼ですが、駒林さんは今おいくつですか?

駒林氏: ギリギリ二十代です。求む、若い人(笑)!

奥成氏: 1987年に出たゲームで、それを求めるというのは厳しい気もしますが(笑)。

――つまり、アーケード版の発売当時は、まだお生まれになっていなかったんですね。それにもかかわらず、本当にゲームにお詳しいのでビックリです……。では、奥成さんと小玉さんからも、読者へのメッセージをお願いします。

奥成氏: 1980年代の半ばから後半は、ちょうどファミコンやPCも含めたRPGのブームだった時期なので、当時のアーケードゲームを開発していた人たちは、当然RPGも遊んでいたわけです。それで、自分たちなりにRPGの面白さをアーケードへどうやって取り入れようかと考えたなかから生まれたのが、「ファンタジーゾーン」であり「ワンダーボーイ モンスターランド」なんですね。

 初代「ワンダーボーイ」は、ひたすら右に進むだけのアクションゲームでしたが、そこに新しい要素を加えたら見違えるような別のゲームになったという、当時の開発スタッフの天才的な発想ですとか、そんな時代だったということを思い出しつつ、遊んでいただけると面白いのではないかと思います。短時間で遊ばせなくてはいけないアーケードゲームでありながら、RPGという長時間遊ばせるジャンルとのバランスが奇跡的に絶妙に取れていますし、Nintendo Switchでちょっと遊んでみようかなあと、気軽な楽しみ方もできるゲームだと思いますので、ぜひよろしくお願いいたします。

小玉氏: 私も発売当時にゲームセンターで遊びましたが、RPGの面白さに日本人が一番ときめいていた時代に出た作品ですよね。1987年に出たゲームの面白さを、今もこうして伝えてくれる人がいるというのは、私だけではなくてオリジナル版のスタッフの方々も嬉しく思ってもえらえるのではないでしょうか。当時、私は「ファンタシースター」をガッツリ作っていた時期でしたが、駒林さんがまだ生まれる前だったと聞いて驚きました(笑)。「ワンダーボーイ モンスターランド」は、アクションとRPG要素のミックス具合がとてもよくて感じていて見習ったタイトルですし、楽しく遊ばせてもらった記憶があります。是非、多くの方々にNintendo Switchで遊んでいただけるとうれしいです。

――ありがとうございました。