インタビュー

「ROBOT魂 Gファイター」クリエイター・野口勉氏インタビュー

シリーズの幅を提示。ファンを驚かせ続けるシリーズ展開を目指す

 野口氏は「ROBOT魂 Gファイター」に関して情報公開を行なった時からのユーザーの反応に手応えを感じているという。このGファイターは野口氏が「ROBOT魂 ver. A.N.I.M.E.」シリーズを立ち上げるためにラインナップを3年分提出した時、1年目の“マイルストーン”として設定したものだという。

シリーズ立ち上げ時にまず3年、そして今はその後の展開も考えているという野口氏
野口氏こだわりのディスプレイ。「アニメ放映時から『ガンダム』が好きな方へのサービス」だという
2月発売の「ROBOT魂 FA-78-1 フルアーマーガンダム ver. A.N.I.M.E.」。MSVを扱ったシリーズでの一般販売第1号だ
魂ウェブでの受注販売された「ROBOT魂 YMS-09 プロトタイプ・ドム ver. A.N.I.M.E.」。立体化されることの少ない機体をあえて商品化。本シリーズの懐の深さがわかる。これからも楽しみだ
5月発売予定の「ROBOT魂 MSM-07 量産型ズゴック ver. A.N.I.M.E.」。ファンならばGファイターとの対決シーンを再現したいところだ

 「『ROBOT魂 ガンダム』の設計はスケジュール的に厳しかったところがありましたが、それでも『ROBOT魂 Gファイター』そしてさらなる発展を考え設計しました。ビームサーベルが内側にたためたり、腰部分での分割、足首の可動などはGアーマーへの収納を視野に入れての設計です。ちなみに設定通りシールドも2枚重ねにできます。『ROBOT魂 Gファイター』についているシールドが、『ROBOT魂 ガンダム』に付属しているシールドと重なるのもあらかじめ計画していました」と野口氏は語った。

 これは「シリーズを継続して買って貰おう」という野口氏の考え方によるものだ。「ROBOT魂 Gファイター ver. A.N.I.M.E.」にはガンダムは同梱されていない。「ROBOT魂 ガンダム」を持っているユーザーがさらに楽しめる。また、再販が行なわれ「ROBOT魂 ガンダム」や「ROBOT魂 MS-06S シャア専用ザク ver. A.N.I.M.E.」などは、“定番商品”として比較的入手しやすい環境になっているところも戦略として持っているという。

 野口氏は「ROBOT魂 Gファイター」の大きな魅力は“プレイバリュー”だと語った。7つの形態に組変えられるだけでなく、そのしっかりした構造、各形態でのフォルムの追求はアクションフィギュア、「完成品」としての構造の強さがあるからだ。また、コスト計算はかなり考えており、コクピットでの塗り分けなど手間をかけつつも、素材そのままの成型色や、塗装部分、部品の分割構造など野口氏のこれまでの経験を活かして厳密に計算し、販売価格をできるだけ抑えている。

 昨今の商品は精密に、ハイクオリティに仕上げるため価格が高騰しがちだが、「ROBOT魂 ver. A.N.I.M.E.」はシリーズを揃えやすく、価格帯にも気を配っているという。確かに、これだけのギミック、豊富なジョイントパーツに加え、ガンダムを固定するアームや、エフェクトパーツまで同梱されてこの価格は昨今ではかなりお得と言えるだろう。

 「ROBOT魂 Gファイター」にはさらに「ビーム・ジャベリン」と「スーパーナパーム」も付属する。どちらも立体化が比較的少ない商品と言える。そして野口氏のこだわりポイントが、「ハイパー・バズーカのジョイントパーツ」だ。これを使用するとガンダムの右肩にハイパー・バズーカを接続できるのだ。これはどういう意味を持つのか、筆者は最初わからなかった。

 Gファイターの上にガンダムを立たせ、左右両方にシールドをくっつけ、肩にハイパー・バズーカ、そして腕にジャベリンを持った姿……劇中のガンダムにこんな姿はあっただろうか? 野口氏は笑みを浮かべて「この姿は当時発売されていたガンダム玩具へのリスペクトです」と語った。そう言われると強く納得するものがある。そう、「ガンダム」が放映されていた時に子供だった人ならば見覚えがある玩具のパッケージでの姿だ。とても豪華な、全部をセットにした事をアピールした姿なのである!

 “当時”を知らない人にあえて解説するが、この“玩具”とは、クローバーという今はない玩具メーカーの「機動戦士ガンダム DX合体セット」という商品だ。合金を使った豪華な玩具で、アニメにはなかったオリジナルデザインのハイパー・バズーカを肩に接続でき、中世の斧槍のような形の“ビーム・ジャベリン”が同梱されていた。豪華な商品だが、お約束の「ロケットパンチ」も装備した“おもちゃ”としての魅力が前面に出ており、「ガンプラ」に夢中になっていた子供にとっては、“古くさく”感じてしまう商品だった。現在では逆にその独特の方向性が評価され、ホビーファンの大事な“お宝コレクション”となっているのも面白いところだ。

 「『ROBOT魂 ver. A.N.I.M.E.』は『ガンダム』に夢中になった子供達が感じた『楽しかったね』という気持ちを思い出してもらう、というのが商品コンセプトです。もちろんアニメの姿を再現することが重要ですが、私達の記憶はアニメだけじゃない。当時発売されていた玩具の記憶もしっかりある。Gファイターとガンダムをこの姿にすることで、その記憶も思い出して欲しいと思うんです。シリーズではこういう“周り”の記憶も刺激していきたいと思っているんです」と野口氏は語った。“お客さんの想像も超えていきたい”という想いで追加した仕様なのだという。

 それは1年を迎えた「ROBOT魂 ver. A.N.I.M.E.」シリーズだからこそあえてやりたかったことだと野口氏はコメントした。しかしそれでも「ROBOT魂 Gファイター」は目標の1つであって、“目的”ではない。ユーザーにシリーズの幅を提示し、さらに期待感を持ってもらうため、“「ROBOT魂 ver. A.N.I.M.E.」はここまでのことができるんだ”ということを提示するアイテムとして、この商品を実現できたという達成感を感じているとのことだ。

 シリーズのマイルストーンとしてもう1つ大きいのが2月に発売される「ROBOT魂 FA-78-1 フルアーマーガンダム ver. A.N.I.M.E.」だ。当時の雑誌/模型企画であったMSV(モビルスーツバリエーション)をアニメのMSと平行して展開していくという「ROBOT魂 ver. A.N.I.M.E.」の展開は驚きを持って迎えられている。

 野口氏は「ROBOT魂 フルアーマーガンダム」の発売と、「ROBOT魂 ガンダム 」にさらなるプレイバリューを与える「ROBOT魂 Gファイター」の受注時期を近くすることで、ユーザーに“「ROBOT魂 ver. A.N.I.M.E.」は今年1年もさらにすごいことになりそうだぞ”と期待してもらいたくて、戦略的にこの2月という時期を捉えているという。

 「ROBOT魂 フルアーマーガンダム」はもう1つ大きな意味がある。MSVはこれまで「魂ウェブ商店(プレミアムバンダイ)」での通販だったのだが、こちらは一般販売商品なのだ。店頭でもMSVの「ROBOT魂 ver. A.N.I.M.E.」シリーズが展開できるか、人気のモチーフを販売することで今後の戦略、そしてユーザーの期待がこれからに影響を見ていくという。

 MSVの展開そのものもとてもユニークだ。MSVでも人気の高い機体はあるが、商品は必ずしもそれを優先しているわけではない。これまで発売された商品の中には「グフ試作実験機」、「プロトタイプ・ドム」といった立体化されることの少ないモチーフも選ばれている。これは、シリーズの“幅”を提示することで、ユーザーの予測を超えた商品展開への期待感を高めるためだという。

 そして2月にはもう1つ“大きなアドバルーン”が用意されているという。それが「ROBOT魂 MS-06K ザク・キャノンver. A.N.I.M.E.」だ。人気の高いMSVの1つ、ザクキャノンを商品化することで、さらにユーザーにシリーズへのめり込ませる、こちらは今後商品化の発表が行なわれるとのことで、期待したいところだ。

 「同じようなものを発売していくと、どうしてもラインナップとしての期待感は小さくなる。そうさせないために、定期的にお客さんに驚いてもらう、その情報のタイミングは考えています」と野口氏は語った。しかもさらに「ROBOT魂 Gファイター」が楽しめる仕掛けも企画しているとのことで、本当にこのシリーズがどうなっていくのか、想像もつかない。これは「ガンダム」という題材、そして3年を見越したシリーズを考えたからこそできる戦略であり、野口氏自身はそれを越え、4年、5年続くものを現在考えているとのことだ。

 それでも野口氏は「まだこのシリーズを知らないガンダムファンの方は多いと思う」と語る。特にアクションフィギュアは“遊んでもらう”ことでその魅力を100%伝えることができる。もっと知ってもらい、もっと触ってもらうにはどうすれば良いか、そこが野口氏の今後の課題だという。ユーザーへのメッセージに関しては、「もう色々語っちゃったから、『これからもがんばります』というところですかね(笑)」とのことで、「ROBOT魂 ver. A.N.I.M.E.」の今後はこれから期待していきたい。

 筆者としてもこの1年、このシリーズのニュースを読者に提供していく中で、アニメ「機動戦士ガンダム」のユーザーを魅了する力に何度も驚かされた。ニュースとして商品情報を取り上げると、読者の反応が段違いなのだ。最新のMSや、リファインされていくアニメ作品とその商品も大きな魅力だが、当時夢中になった「ガンダム」……子供の頃の記憶や思い入れは、多くの人にかけがえのない強い記憶、人生の根幹となっているのだと感じた。「ROBOT魂 ver. A.N.I.M.E.」はガンダムファンの根幹にある何かを刺激するシリーズとなっているのだと思う。

 そして野口氏はその思い出を現在の技術で“再現”するために、関節機構やスタイリングだけでなく、商品展開のプランニングまで行なっている。もちろんバンダイという優れた技術集団を多数抱えるメーカーと、「ガンダム」という超大型IPだからこそできることでもあるが、改めてすごいプラン、時代に立ち会っているということが今回わかった。今後にも強い興味を持って注目していきたい。