素晴らしきかな魂アイテム

【魂インタビュー】いよいよ「0083」へ! 「ROBOT魂 <SIDE MS> RX-78GP01 ガンダム試作1号機 ver. A.N.I.M.E.」、野口勉氏インタビュー

題字:浅野雅世
【第35回 魂アイテム】
「ROBOT魂 <SIDE MS> RX-78GP01 ガンダム試作1号機 ver. A.N.I.M.E」、「ROBOT魂 <SIDE MS> RX-78GP02A ガンダム試作2号機 ver. A.N.I.M.E.」。1号機が7月発売予定で6,480円(税込)。2号機が8月発売予定で7,992円(税込)となる。「ROBOT魂 ver. A.N.I.M.E.」シリーズが、アニメ「機動戦士ガンダム0083」をモチーフとしたシリーズがスタートする。そんな新シリーズ立ち上げというタイミングで、2つの商品へのこだわりを取材した
【話を聞いたクリエイター】
「ROBOT魂 ver. A.N.I.M.E.」シリーズ企画担当であるBANDAI SPIRITS コレクターズ事業部の野口勉氏。新しい局面を迎えるシリーズはどのように発展していくのだろうか。

 いよいよ「ROBOT魂 ver. A.N.I.M.E.」シリーズが、アニメ「機動戦士ガンダム0083」に到達した。本シリーズはアニメ「機動戦士ガンダム」の全MSを立体化することを目標に2016年2月にスタートし、昨年新たにアニメ「機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争」のMSへとラインナップを拡大した。

 そして2019年は「機動戦士ガンダム0083」のMSがシリーズに加わる。第1弾は「ガンダム試作1号機(以下、GP01)」、そして第2弾が「ガンダム試作2号機(以下、GP02)」である。この2体は「マクロス」シリーズを手がけるメカデザイナー・河森正治氏が手がけ、独特の魅力を持っている。このMSを「ROBOT魂 ver. A.N.I.M.E.」シリーズで発売するにあたり、どのように立体化させていくのか、ファンとしては強く興味を惹かれるところである。

 今回は弊誌でもおなじみの本シリーズの担当者であるBANDAI SPIRITSコレクターズ事業部の野口勉氏に話を聞いた。


河森正治氏の個性溢れるGP01、GP02を立体化、これまでの技術をどう活かすか?

 今回「ROBOT魂 ver. A.N.I.M.E.」のフォーマットで立体化されるGP01とGP02は、河森正治氏がデザインしたガンダムである。GP01はシルエットやビームサーベルの位置などは初代ガンダムを踏襲しているものの、コアファイターをそのままバックパックとして活用する機構や、全身のセンサーなど細かい所からは河森氏のこだわりが見て取れる。

「試作1号機 ver. A.N.I.M.E.」。一見スタンダードなガンダムの姿をしているが、随所に河森氏ならではのこだわりが見える

 一方、GP02はこれまでのガンダム像からかけ離れたデザインだ。ジオン系開発者が手掛けたMSという設定で、そのマッシブなシルエットはドムやゲルググを思わせる。この設計思想は後にリック・ディアスに繋がったともいわれている。戦術核兵器を使用できるMSとして設計されており、肩部の大型スラスターによるスピードを活かして目標に接近、核攻撃を行なう。特にコクピットブロックの装甲は強固になっており、アトミック・バズーカの砲身を収納する盾は冷却剤を噴出することで機体を至近距離の核爆発から守るようになっている。得意なコンセプトをそのまま形にしたような、“異形”のガンダムと言えるだろう。

「試作2号機 ver. A.N.I.M.E.」。ジオン系技術者が開発したというガンダム。核攻撃を主目的とするかなり冒険的なデザインだ

 今回は各ギミックを検証する“トライ品”と、彩色を検討する“デコマス”の2つの試作品を触ってみた。「ROBOT魂 <SIDE MS> RX-78GP01 ガンダム試作1号機 ver. A.N.I.M.E(以下、「試作1号機 ver. A.N.I.M.E.」)」は、やはりその可動が楽しい。各ブロックが動き、手足胴体それぞれが深く曲げられる。特に膝は膝アーマーが独立してスライドし、脛部分との距離を調整できるようになっており、細かい表情付けができる。肩や手足もぐりぐりと動き、可動範囲は非常に広い。

 肩は引き出し関節ではなく、胸ユニットの背面部分が開くことで可動域を広げている。これは開発チームのこだわりだそうだ。引き出し関節は自在なポーズがとれるがシルエットが不自然になりがちである。しかし「ver.A.N.I.M.E.」ではそれを回避するために、武器の両手持ちなど肩の自由度を広げるためにどうすれば良いかを考えぬかれた機構になっている。

今回見ることができた「試作1号機 ver. A.N.I.M.E.」のデコマス
膝の深い可動、背中部分が開くことで腕を前の方に寄せられるなどこれまでのシリーズの関節構造を継承、発展させている

 「『ROBOT魂 ver. A.N.I.M.E.』は、これまで様々な開発者達が挑んできた“歴史”の延長上にあります。ロボットにどんな関節を組み込めばアニメのような動きが表現できるか、これまでも様々な試行錯誤があり、方法論が生まれています。それらの技術を参考にした上で、各MSにはどのような関節が最適なのかを考えています」と野口氏は語った。

 野口氏と原型チームが「ROBOT魂 ver. A.N.I.M.E.」シリーズで特にこだわっているのが「軸足の微調整」だという。ほんの1ミリ、数ミクロン単位で角度をつけたり、中心線からずらしたところに軸を置くことでアニメの設定画に近いスタイリングや、関節の可動に変化がもたらされるとのことだ。それは全てのMSの関節で違う。それを1つ1つ詰めていく、膨大な検証と試行錯誤の中で「ROBOT魂 ver. A.N.I.M.E.」シリーズの関節構造と、それによるスタイリングは決められているとのことだ。

 実際、「試作1号機 ver. A.N.I.M.E.」の足首の軸はほんの少し中心線からずれている。このズレが足に説得力のある接地感を生み出すのだ。地面をしっかり踏みしめて立つ感じ、地面を蹴りつけてジャンプする姿などなど陸戦型MSであるGP01がどう戦うかをイメージしながら角度の調整が行なわれているとのことだ。

足の受け軸が中心よりずれている。こういった調整が随所に行なわれている

 「ROBOT魂 ver. A.N.I.M.E.」のフィギュアには“とらせたいポーズ”がある。それはアニメの設定画だったり、アニメ劇中の印象的なシーン、プラモデルのボックスアートやグッズのイラストなど各MSごとにメジャーなポーズがある。それらをとらせるにはどうすれば良いか、そこを考えて関節設計が行なわれている。あのポーズをとらせるために今よりほんの少し深く曲げたい。足をもっとひねりたい。そういったこだわりを実現させるために関節構造をさらに練り込みながら、企画者は各商品に落とし込んでいる。

 そしてスタイリング。河森氏の設定画は足が長く、アオリ気味のカメラアングルとなっている。この設定画のバランスのまま作るとアニメのポーズをとらせようとした際、少しバランスが崩れてしまう。関節の入れ方、プロポーションのバランスなどは、まさに「ROBOT魂 ver. A.N.I.M.E.」で技術として積み重ねられており、その独特のフォーマットから、ほんの少しの調整を加えることで、印象を大きく変えることができるようになっているという。このバランスにより設定画で感じた足の長いGP01に近い雰囲気を、フィギュアに与えることが出来るそうだ。

 また制作において“手首の大きさ”には特に気を使ったと野口氏は語った。なぜなら初代ガンダムは大きいが、出渕裕氏がデザインしたガンダムNT-1はそれに比べると手首が小さく、GP01はNT-1ほどではないけどやはり小さめであるため、そのバランス調整が難しいのだという。そこでまず手首の大きさを統一し、そこで違和感が生まれるかどうかを検証した。そこで違和感が生まれるならば新規パーツで造形するが、生まれなければ設計を共通させる。こうした様々な検証を行ばいながら「ROBOT魂 ver. A.N.I.M.E.」としての統一感を工夫しているのだという。

 「ROBOT魂 <SIDE MS> RX-78NT-1 ガンダムNT-1 ver. A.N.I.M.E.」は、商品のバランスをどう落とし込むか、原画に近いものから、1年戦争のMS風なものなど4体ものテストモデルを作りバランスを調整した。この経験が今回の「試作1号機 ver. A.N.I.M.E.」の開発に大いに役立ったと野口氏は語った。そのバランスが見えていた分、可動などにブラッシュアップを重ねることができているとのことだ。

 今回の今回の商品制作において、野口氏には「もう1度、河森氏の設定画に戻ったGP01の商品を作りたい」という思いもあったという。というのもGP-01は立体化されることの多いMSであり、その中で現代の商品ではリファインされたデザインのものが多く、河森氏が描いた設定画に近い雰囲気のGP01の立体物は少ないと常々感じていたからだそうだ。

 アニメは制作時期が大きく違い、デザイナーも違うため、同じMSでも解釈や世界観も異なる。しかし「ROBOT魂 ver. A.N.I.M.E.」のフォーマットで発売する場合、開発の経緯しだいで統一感が出せる。つまりシリーズオリジナルの“MS(商品)開発史”とも言うべき流れを作ることができるということだ。40年の歴史を持つ「機動戦士ガンダム」に、自分達なりの“MSフォーマット”とも言える企画を作れていることは、とてもやりがいがあると野口氏は語った。


名シーン、人気立体物、イラスト……全てを参考に生み出される「ver. A.N.I.M.E.」

 そしてGP02。今回、「ROBOT魂 <SIDE MS> RX-78GP02 ガンダム試作2号機 ver. A.N.I.M.E.(以下、「試作2号機 ver. A.N.I.M.E.」)」の設計資料の一部を見せて貰ったのだが、その分厚さに驚かされた。スタイリングに対する細かい注意書き、側面や正面のデータチェック、可動ポイントなどが書き込まれている。これらの修正点を提示した上で3Dデータを修正し、試作品を出力してから立体物としてチェックをしていくという。GP02は特に開発期間が長めとのこと。

迫力たっぷりな「試作2号機 ver. A.N.I.M.E.」

 GP02はアニメ放映時と最近とでは公式の設定画にも違いがある。最近の資料はカラー画稿に合わせて影が書き込まれていて、微妙に色の見え方が変わっているそうだ。そのため設定画だけでなく、劇中の印象的なシーンを抜き出して並べたり、過去のファンに評価が高い立体物やイラスト、パッケージアートなどとも並べ、今回の商品の色味や細部のデザインを煮詰めていく。商品ごとにこれらを行なっているという事実を聞き、その作業量に圧倒させられた。

足の付け根、首を大きく上に向けられるなど可動範囲は広い

 「試作2号機 ver. A.N.I.M.E.」で力を入れているのはアトミック・バズーカ発射シークエンスである。シールド裏にある銃身を外し、バックパックの砲身を倒して接続、肩のバーニアがついたバインダーを持ちあげて射撃を行なう。商品ではこのポーズをさらにブラッシュアップすべく現在もなお改良を重ねているとのこと。GP02はまさにその核兵器を使うために作られたガンダムであり、その射撃シーン、ギミックは最大の見せ場だ。そのためこのポーズに関しては特にこだわりを持って開発しているという。

 改めてチェックすると肩のバインダーの設計はとても大変そうだ。肩のバインダーは先端のバーニア部分を動かすと、バインダーの中からもう1基のバーニアが連動し飛び出してくる。バインダーだけでも大きなパーツなのにこのギミックまで内蔵しているためかなりの重さになるが、バインダーの基部は小さく、しかも自由に動かせるように可動箇所も多い。バインダーをしっかり支えるための強度もかなり重要だと感じた。商品ではどのようになってるか、今から楽しみだ。しかもこのバーニアにはエフェクトパーツを取り付けることもできる。

バーニアの可動や、シールドにアトミック・バズーカーを入れられるなどGP02ならではのギミックも

 また「試作2号機 ver. A.N.I.M.E.」の肘の構造にもこだわりがある。アニメの設定画、特に大河原邦男氏の手がける設定画の肘部分には独特のクセがあり、本来肘関節が曲がる方向とは違うところで前腕が曲げられることがある。「試作2号機 ver. A.N.I.M.E.」はこの曲げ方を再現させるため前腕の付け根にもう1つ関節を持たせ、設定画風に曲げられる様になっているのだ。このようなマニアックなこだわりを市販品で、固定ポーズのフィギュアでなく、アクションフィギュアでやってしまうところも「ROBOT魂 ver. A.N.I.M.E.」の面白さだろう。

最大の見せ場と言えるアトミックバズーカ発射ポーズ

 今回の商品では画期的なエフェクトパーツのアイディアが盛り込まれている。「試作1号機 ver. A.N.I.M.E.」にはビーム・サーベルを切り結ぶエフェクトパーツが同梱されている。こちらは組み立てた後サーベルエフェクトを差し込むことで交差するビームサーベルとそれにより飛び散るエネルギーを表現しているのだが、交差する角度がパーツを回転させることで変わるのだ。これによりビーム刃が交差する形が大きく変わり、至近距離で切り結ぶ様子も再現可能になる。

画期的なエフェクトパーツ。回転させ組み合わせることで、交差する角度が変わる。

 「機動戦士ガンダム」の全てのメカを、1つの「ROBOT魂 ver. A.N.I.M.E.」というフォーマットで立体化する、という壮大なプランは、4年目となり、さらにそのコンセプト、そして“野望”が見えてきたと思う。本シリーズだからできるMS開発の系譜、関連性、そういった者を検証し、語り合うファンも出てきて欲しいと思う。シリーズの発展を期待していきたい。