インタビュー
「ポケットの中の戦争」を「ver. A.N.I.M.E.」に! 野口勉氏インタビュー
異なる作品のMSをきちんと並び立たせる一貫した統一規格とは?
2017年12月25日 00:00
「ROBOT魂 ガンダム ver. A.N.I.M.E.」シリーズが新たな局面を迎える。4月に発売される「ROBOT魂 RX-78NT-1 ガンダムNT-1 ver. A.N.I.M.E.」を皮切りに、「ROBOT魂 MS-06FZ ザクII改 ver. A.N.I.M.E.」と、OVA作品「機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争」のMSを題材にしていくのだという。
「ポケットの中の戦争」は、1989年、劇場作品「機動戦士ガンダム 逆襲のシャア」の後に作られた、初めての富野監督以外の1年戦争を扱った映像作品である。TV作品「機動戦士ガンダム」の放映から10年たち、「逆襲のシャア」でその後の世界を提示していた「ガンダム」シリーズが、今一度1年戦争を描く。「ポケットの中の戦争」はその後の映像作品に大きな“幅”を提示し、その後の他の監督が手がける「アナザーガンダム」への道を切り開いたシリーズだ。
ファンにとっては、「機動戦士ガンダム」と、「ポケットの中の戦争」に登場するMSは明確な違いがある。「機動戦士ガンダム」のMS達は今の価値観で見ると線が少なく、太く、関節や可動、フォルムなども前時代的な印象がある。「ガンダム」以降の作品は独特の“リアル感”を求めて進化してきた。「ポケットの中の戦争」では出渕裕氏がメカデザイナーを務め、複雑なパネルライン、メカがギッシリ詰まった説得力のある関節構造、宇宙での活動を意識したスラスターなど、現在にも通じる繊細で説得力のあるデザインとなっている。
バンダイコレクターズ事業部の野口勉氏は、「ROBOT魂 ガンダム ver. A.N.I.M.E.」シリーズにおいて、1年戦争のMSをアニメの中の雰囲気を持たせたまま、最新の技術を活用しすることで非常に自由度の高い可動を実現させた。さらに各種武器やエフェクトパーツを盛り込むことで高いプレイバリューと共に、劇中の様々なシーンを立体物で再現することを可能にした。その野口氏が提示した方向性はファンに歓迎され、ついにゲルググまでのほとんどのMSを網羅するところまでシリーズが継続、そして新たな展開を見せるようになったのである。
「機動戦士ガンダム」のMSと、「ポケットの中の戦争」のMS。両作品では、ジムやドム、ザクにガンダムと、名前は同じものであっても、ディテールや質感が大きく異なる。野口氏はそのデザインを「一緒に並べても違和感のない、1つの商品シリーズ」とし、そしてコレまでのプレイバリューをきちんと受け継ぎさらなる世界を提示するという。今回のインタビューでは新シリーズの商品の魅力や、野口氏の想いを伝えていきたい。
「1st」と「ポケ戦」のMSが違和感なく並び立つ! 新たな局面を迎える「ver. A.N.I.M.E.」
「『ver. A.N.I.M.E.』は、これまで1年戦争で使用されたMSを扱っていました。このシリーズが最終的に目指すところは、“宇宙世紀の登場メカそのものを一連で見通せる”というところなのです。『ver. A.N.I.M.E.』というフォーマットで、宇宙世紀を描いていきたい。そういう理念の上で、今回、“1st”と呼ばれる初代「機動戦士ガンダム」以外の作品に登場するMSを『ver. A.N.I.M.E.』でできるのか、と言うのが今回のチャレンジです」。
インタビュー冒頭、野口氏はこう語った。「ver. A.N.I.M.E.」は、その名が提示するようにアニメ「機動戦士ガンダム」のMSを、アニメの雰囲気をきちんと実現しながら最先端のアクションフィギュアとして表現するのではなく、一貫した「ver. A.N.I.M.E.」規格/フォーマットで、MSを表現していくシリーズだというのだ。
「ver. A.N.I.M.E.」は、「記憶から創造へ……アニメシーンや世界観を最新の可動で再現、再びあの感動が蘇る」というキャッチフレーズを意味する「Action/New/Imagination/Memory/Emotion」の頭文字から取られた商品コンセプトである。
今回のインタビューで実は筆者は最初、野口氏が提示する「『ver. A.N.I.M.E.』という規格で全てのMSを表現する」という大きなビジョンと意気込みがわからず、商品としての進化の系統といった文脈で質問をしていたのだが、徐々に野口氏の考えがわかってきて、圧倒された。
「ガンダム文化」の中で生まれた、様々なデザイナー、アニメーターが作り上げてきた膨大なMSを、統一感を意識した「ver. A.N.I.M.E.」という規格で表現する。それは非常に壮大で、ワクワクせずにはいられない野心的な構想である。その想いを実現するためにも、「ポケットの中の戦争」のMSを「ver. A.N.I.M.E.」できちんと表現できるか、というのは大きな挑戦となる。
今回の「ポケットの中の戦争」に関して野口氏は、「この時期に登場するMSは1年戦争末期のものです。『ver. A.N.I.M.E.』ではこれまでのMSとの統一感を持たせつつ、出渕氏の元のデザインもきちんと特徴が活きるようなものを作る。これはシリーズを立ち上げた初期の段階から実は考えていたのです。そして統一感を実現できるかが、大きな課題でした。今回の『NT-1』に関しては、1年近く前から検証を重ねていたのです」と語った。
この“バランス”を実現させるため、開発チームは“ver. A.N.I.M.E.としてのNT-1”から“出渕氏のNT-1”を両極端に設定し、バランスを変えたデザイン画を複数用意し、多くの人にヒアリングを重ねながら商品としてのバランスを模索したという。
重要視したのは“「ver. A.N.I.M.E.」シリーズの1つ”ということだ。このためデザインや商品原型を作るにあたり、ガンダムNT-1(以下、NT-1)、ザクII改の隣に「ROBOT魂 ガンダム ver. A.N.I.M.E.」と、「ROBOT魂 ザクII ver. A.N.I.M.E.」を常に横に置き開発を進めていった。同一のシリーズであることを強く意識して開発を進めていったという。
今回見ることができた「ROBOT魂 ガンダムNT-1 ver. A.N.I.M.E.」は、ぱっと見るところデザイン画よりは線が少ないように見える。これはプラモデルのディテールアップなどで行なわれる“スミ入れ塗装”を行なっていないためだ。デザインとしては初代のガンダムに比べ線は多くなっている。改めて各部をチェックすると、特にスラスターの数が多いのがわかる。「宇宙空間で自由に移動するためにはこのくらいは必要ではないか」というデザイン画の思想がわかるような要素だ。
筆者の中には「ROBOT魂 RX-78NT-1 ガンダムNT-1 ver. A.N.I.M.E.」が発表された頃から1つ疑問があった。個人的にはNT-1は追加装甲であるチョバムアーマーとのセットというイメージがあった。劇中NT-1はチョバムアーマーをまとって出現し、敵の攻撃を受けた際、装甲板を脱ぎ捨て、ガンダムとしての姿を現わす。筆者にとって、初めて姿を現わすNT-1の印象はチョバムアーマーをまとった姿なのだ。しかし商品では劇中使用されなかったシールドとビームライフル、さらにバズーカをセットした内容になっている。
それはこれまでの「ver. A.N.I.M.E.」でくり返し描いていた「劇中のシーンを立体物でそのまま再現する」というところの“答え”から逆算した結果だと野口氏は答えた。NT-1とザクII改、両者はクライマックスのシーンで、壮絶な相討ちとなる。それは物語の主人公の少年・アルにとって、最大の悲劇のシーンであり、おそらく彼の目に焼き付いて消えない映像であるだろう。
野口氏にとって「ポケットの中の戦争」を象徴するのがそのシーンであり、主役MSはザクII改だという。このため、できるだけ早くザクII改を商品化したかった。そのラストシーンを再現する商品内容を考えていく上で、「ROBOT魂 RX-78NT-1 ガンダムNT-1 ver. A.N.I.M.E.」は現在の内容になったとのことだ。
「ポケットの中の戦争」は全6話のOVAであり、話が短い分、再現したい映像によりフォーカスできた部分もあるとのことだ。早い段階でNT-1とザクII改を出し、相討ちのシーンを提示することで、ユーザーに「ver. A.N.I.M.E.」での「ポケットの中の戦争」を提示したかったのだと野口氏は語った。
また、シールドや武器、エフェクトパーツのセットというのはこれまでの「ver. A.N.I.M.E.」、特に「ROBOT魂 ガンダム ver. A.N.I.M.E.」を彷彿とさせる内容である。これはこの様々な武器とエフェクトパーツのセットによるプレイバリューこそが「ver. A.N.I.M.E.」の規格であるからだと野口氏は語った。本体のデザインバランスだけでなく、セットの内容でもシリーズの1つだということを語っているのだ。
「ROBOT魂 RX-78NT-1 ガンダムNT-1 ver. A.N.I.M.E.」はギミックでもシリーズを継承している。胸部は「ROBOT魂 ガンダム ver. A.N.I.M.E.」同様、中央パーツを前に倒すことで、肩パーツを内側に折りたため、武器の両手持ちなどができるようにしている。ふくらはぎの装甲が内側にめり込むので、膝を深く曲げられる。可動ギミックで、これまでの「ver. A.N.I.M.E.」を引き継いでいるのがちゃんとわかる。
さらに「ROBOT魂 RX-78NT-1 ガンダムNT-1 ver. A.N.I.M.E.」ならではのギミックとして、腰の可動がある。これまでのシリーズ同様腰を深く曲げられるのだが、装甲板パーツがあり、曲がった関節が不自然にならないように工夫されている。このようにノウハウを蓄積し、進化している部分もあるという。
野口氏にとっての主役機ザクII改。アニメの名場面を再現させるためのギミック
「ROBOT魂 MS-06FZ ザクII改 ver. A.N.I.M.E.」はザクIIとは大きく違った印象を受ける。デザインやパーツの構成は似ているのに、バランスが大きく異なる。また、頭部のモノアイの黒い部分は大きくつり上がっており、印象が大きく変わる。かなり悪人顔になっているところも面白いところだ。
「ROBOT魂 MS-06FZ ザクII改 ver. A.N.I.M.E.」で、良いなあと思わせられるのは「ミリタリーの雰囲気」だ。装甲の丸みや、全身に描かれたリベットや、メンテナンス用と思われるくぼみ、胸の上部には弾をはじくような装甲のラインが入っていたりいかにも“らしい”のである。「ポケットの中の戦争」の発売当時は、「今のセンスで1年戦争のMSを描いたらこう見える」という想いも盛り込まれてデザインされたという。
このデザインが大きく変わったところがザクII改の面白さだが、この理由は劇中では「統合整備計画」という名前で設定されている。統合整備計画はジオン軍内で部品や装備、コクピットの操縦系に統一規格を提示することで、整備の効率化、パイロットの機種転換のしやすさなどを目指す計画だ。ザクII改がこれまでのザクIIと大きく外見を変えているのは、この計画の元で作られた規格によるものだから、という見方ができるという。
ザクII改は、野口氏にとって「ポケットの中の戦争」の主役機だ。それは何故かと言えば「ポケットの中の戦争」がOVAとして発売されたとき、野口氏は子供であるアルとほぼ同じ年齢だった。野口氏はアルに感情移入して、自分に重ねて物語を見ていた。
アルにとって偶然出会ったバーニィと、彼の乗るザクII改は特別な機体であり、野口氏にとっても思い入れが深い機体になったという。「それまでは僕にとって、ザクって『悪い人が乗っているロボット』だったんです。でもこの作品では親近感のわくお兄さんがザクに乗る。そういうところも思い入れがあります」。
今回商品撮影で野口氏自身が驚いた「うまく撮れた写真」があるという。写真や風景とフィギュアの写真を組み合わせ、加工する「デジラマ(デジタルジオラマ)」で撮影した1枚で、アルが墜落したバーニィのザクを発見するシーンだ。森の中に墜落し座り込んでいるザクは、まるでアニメの1シーンのように見える。
そして「ver. A.N.I.M.E.」ならではのバランスを追求するというのは、これまでの設定やデザインとかけ離れたものを作るわけではない、というのは野口氏が強調していた部分だ。設定されたものや、デザインはできる限り盛り込んでいく。
その上で、「ポケットの中の戦争」のアニメには独特の描写がある。野口氏は開発チームと意見を話し合っていく中で出渕氏のデザイン、そして「ポケットの中の戦争」でのMSの描かれ方で、“パース感”というキーワードを見つけ出したという。
画面に極端なパースがかかり、機体のバランスなどが変わって見えているのではないか。これは相討ちシーンで顕著なのだが、“ある角度から見ることでアニメの劇中の場面そのままを再現できる”というアイディアにたどり着いたという。こうすることで1年戦争のMSと並べても違和感がなく、かつ場面と同じ組み方、視点を設定することで劇中そのままの姿が再現できるようになる。これは「ジオラマ用の改造」に近い、モデラー寄りの発想かもしれない。
モデラー的なこだわりとしてはエフェクトパーツがある。本商品が実現したかった相討ちシーン用の「ビーム・サーベルに貫かれた姿」を再現するために。腹と胸パーツの一部を差し替えることで実現している。プラモデルなど従来の商品でこのシーンを再現するには、大規模な改造が必要になるし、NT-1とザクII改のデザインテイストの違いなどもあるかもしれない。「ver. A.N.I.M.E.」は無改造で、しかも統一された雰囲気で、名シーンを再現できるのだ。
ある角度ではアニメの中のMSに、そして並べてみると初代「ガンダム」の雰囲気を色濃く持つこれまでのシリーズと違和感が少なく並べて遊ぶことができるそのバランスは野口氏の話を聞きながら見てみることで改めて驚かされる。そして細部を見ると出渕氏のデザインがきちんと活かされているのだ。
何より動かすことで今回のNT-1と、ザクII改が「ver. A.N.I.M.E.」の商品の1つであることがわかる。腕を内側に寄せられる機構、装甲分割と股関節の処理、足を深く曲げられる機構……これまでのシリーズの機構を受け継ぎ、進化も感じさせる。改めて「ver. A.N.I.M.E.」のシリーズはスゴイと思わせる。
「『ver. A.N.I.M.E.』は、アニメに近く、最新の可動を盛り込み、そして異なる作品のMSが並んでも違和感のない、今までにない価値観というものをどう作り上げていくか、と言うのが最大のチャレンジとなります。今回の2つの商品はその延長線上にあるものなのです。1つ1つの商品ではなく、全ての商品で“新しい価値観”を提示していく、その繋がりこそが『ver. A.N.I.M.E.』なのです」。
「今回、NT-1とザク改により『機動戦士ガンダム』という枠を超えて、『ポケットの中の戦争』と2つの物語のMSを並べることが可能になった。『ver. A.N.I.M.E.』ならば2つの違う作品に登場するMSが、同じ世界観で並び立つことができるのです。それはその後の、『機動戦士ガンダム0083』などこれ以降のシリーズも、同じように取り込んで行ければと思っています」野口氏は2つの商品を前にしてこう語った。
本商品は「ポケットの中の戦争」という新しい作品へのチャレンジだけでなく、「0083」などその後の作品も「ver. A.N.I.M.E.」で表現しよう、1年戦争のMSを全て内包し、並べられる「ver. A.N.I.M.E.」というシリーズにしていこうという挑戦への1歩なのだ。非常に興味をそそられる、ワクワクさせられる野口氏の宣言である。
冷静になって考えると、野口氏はスゴイ宣言をしている。「機動戦士ガンダム」から始まる「ガンダム」作品のメカを、全て「ver. A.N.I.M.E.」で再現するという構想を持っているのだ。単純な夢ではなく、野口氏はすでに「機動戦士ガンダム」の多くのMSを網羅し、次に繋げている。
実はインタビューではこの後野口氏の今までの活動と、その後の構想まで聞くことができた。その壮大なプロジェクトは、後日「特別企画:「ガンダム」へ挑戦、全てのMSを一貫した「ver. A.N.I.M.E.」規格で!」でお伝えしたい。お楽しみに。
(C)創通・サンライズ
※写真は試作品のため、実際の商品とは異なります