素晴らしきかな魂アイテム
【魂インタビュー】これまでの「ROBOT魂 ver. A.N.I.M.E.」は“ガンダム文化”に何をもたらし、そして発展させていくのか!? 野口勉氏と共に振り返る
2019年3月5日 07:00
「機動戦士ガンダム0083」に到達した「ROBOT魂 ver. A.N.I.M.E.」。野口氏のインタビューでは、「ROBOT魂 <SIDE MS> RX-78GP01 ガンダム試作1号機 ver. A.N.I.M.E.」からさらに話しは膨らみ、これまでのシリーズを振り返り、印象に残ったギミックや、挑戦したエピソードなどを聞き、改めてシリーズとしての挑戦の歴史を聞くことができた。
そこであえてインタビューを2つにわけ、今回は“後編”としてGP01、GP02以外の、過去の商品の思いも語ってもらった。「ROBOT魂 ver. A.N.I.M.E.」は現在でも店頭で手にできる商品も多い。今回のインタビューで興味を惹かれ、手に取っていただければ幸いだ。全てのMSを「ROBOT魂 ver. A.N.I.M.E.」の規格にしようという壮大なプロジェクトは進行中である。この機会に、ぜひ「ROBOT魂 ver. A.N.I.M.E.」に触れて欲しい。
なお、「ROBOT魂 ver. A.N.I.M.E.」スペシャルページでは、3月4日16時よりホビーライターヤマザキ軍曹による「youtube動画0083の商品レビュー第2弾」を掲載している。本インタビューと合わせて楽しんで欲しい。
「このMSにはこの動きは不可欠!」、強い思い入れを込め、常に新しい挑戦を
「もっとこうすればいいのに、こういう機構は使えないのだろうか?」……これまで様々なガンダムの商品が出てくる中でそういった想いを開発者達は常に抱え続けてきた。誰しもが自分の中でガンダムの立体物に対する理想がある。モデラーはその理想を作品に込めて実現するが、一方で、「ROBOT魂 ver. A.N.I.M.E.」は原型チームにとっても、その夢を叶えてくれる場となった。これまで数十年抱えていた想いを解放できる仕事は非常にやりがいがあるという。野口氏の想いを受けながら、原型チームは自らの夢もこのシリーズに託している。
「完成品だからこそ可動のギミックが素直に楽しめます。もちろんプラモデルはギミックのイメージや、内部機構も自分で組み立てることで、メカそのものを自分で作っているような楽しさはあります。一方で、アクションフィギュアは遊んでいても関節がヘタれづらく、パーツも取れづらいため、可動させることで様々なポーズや、アニメの場面が再現できます。その方向性と、エフェクトパーツも含めた遊ばせ方は、お客様にしっかりと認知して頂けているという実感があります」と野口氏は語った。
「ROBOT魂 ver. A.N.I.M.E.」はまさにそのアクション性に“勝機”があると野口氏は語った。ガンダム商品はプラモデルを始め、たくさんの立体物が販売されている。そんな中で今、1/144スケールの「機動戦士ガンダム」のフィギュアを出す、という野口氏の打診に、原型チームも不思議がったという。「これだけガンダム商品が溢れている今、“ガンダムのフィギュア”でどう勝負するのだろうか?」と。
プラモデルとアクションフィギュアの違いは、「組み立てる楽しさ」という部分だ。アクションフィギュアは、箱を開けてアクションをさせる。ことで初めて楽しさが生まれる。人によっては組み立てるという大きな楽しみがスポイルされていると感じる場合もあるだろう。だからこそこそアクションフィギュアにとってアクション性の豊富さが肝なのである。
動かして、ポーズが取らせて遊べる、プラモデルでもできるこの要素をプラモデルや他の商品以上に、徹底的に追求する、そうすることで他の商品以上に魅力のあるガンダムフィギュアが作れるのではないか、それが野口氏の考え方だ。他のどんな商品よりも動き、ポーズがとれる商品を作ろう、という思いの下に生まれたのが「ROBOT魂 ver. A.N.I.M.E.」なのだ。
今回「0083」シリーズにたどり着くまでに、「ROBOT魂 ver. A.N.I.M.E.」の開発には様々な挑戦や試行錯誤があった。今回野口氏はそんな挑戦の具体例をいくつか挙げていった。「ROBOT魂 ver. A.N.I.M.E.」の発展における数々の挑戦を深掘りしていこう。
まず野口氏は「ROBOT魂 ver. A.N.I.M.E.」において、が挑戦したこれまでにはなかったチャレンジの例として、「ROBOT魂 <SIDE MS> MS-07B グフ ver. A.N.I.M.E.」のヒートロッドを挙げた。この商品のグフが持つヒートロッドは、鉄芯をPVCで覆うことでぐねぐねと曲がるギミックを実現している。実はこういった機構と自由度を持つ、ガンキャノンの足に巻き付けられるほどのフレキシブルさを持つヒートロッドはそれまで存在していなかった。従来の鉄芯の周りに成形樹脂をかぶせる方法はある程度の太さが必要になっていて、ヒートロッドほど細くできなかった。
そこで市販の皮膜してあるリード線を活用することにして、ヒートロッドの節を、熱によるプレス成形で凹凸感の表現ができないかと工場に打診することで、成立した技術であった。これにより従来にはないフレキシブルさと、きちんと凹凸のあるヒートロッドができたという。“従来以上に動かして楽しく、さらに劇中再現ができるアクションフィギュアを作る”という想いの元、様々な試行錯誤と新たな挑戦を行なうことで、「ROBOT魂 ver. A.N.I.M.E.」は進化し続けている。
さらに野口氏がもう1つ思い出深いものとして挙げたのがズゴックの股間の装甲である。可動域を重視しすぎると細くなりすぎるし、太くすると膝立ちができず。シャアがズゴックで現われた膝立ちのポーズがとれなくなってしまう。かといってザクなどのように装甲を分割させて動かすと、かっこ悪くなってしまう。スタッフで話し合って到達したのが、装甲が内側にスライドする機構を造ることだった。しかもこの可動装甲はスプリングによって支えられており、足が干渉しなければ装甲が展開した状態で決まるようにした。こうすることで自然な股間の処理ができるようになったという。
このスプリングを使う手法は、ジム・キャノンやガンダムNT-1などの膝裏の装甲にも使われている。膝を深く折り曲げるとき、ふくらはぎの装甲が干渉するデザインの場合、足を伸ばしたときは装甲を元の位置に戻さねばならない。この時にスプリングは有効とのことだ。野口氏はホビー事業部に所属していたこともあり、生産コストに精通した企画者であるとのことで、「ROBOT魂 ver. A.N.I.M.E.」もファンに手に取ってもらうために、価格はできるだけ抑えられるように様々な工夫を凝らしているという。コストを抑え、かつ非常に新しい技術、手法をどれだけ取り入れていくか、そのバランスがとても大事だという。
「アッガイは最初の想定だとコストがかかりすぎたんですよね、胴体を全ブロック別パーツで可動させようとしてしまって……途中から正気に戻ってある程度抑えました(笑)」。こういった様々な試行錯誤と、コスト管理を行ないながら、新しい挑戦を行なっているそうだ。
今後のラインナップに話を戻すと、GP01、GP02といけば、今後発売が予想されるラインナップとしてGP03ステイメンがある。こちらはカトキハジメ氏のデザインであり、デザイナーそのものが違う。しかし設定画を見ると、カトキ氏は意図的にGP03をGP01にデザインを寄せているように見える。ザクに関しても0080のMS-06FZをかなり意識していることが伝わってくる。そういったデザインでのこだわりを拾いつつ、「ROBOT魂 ver. A.N.I.M.E.」シリーズで表現したいと野口氏は語った。
「MSはザクやドムなど発展の系譜がある。MSの設定画は各アニメで大きく変わってるような印象もあるが、実はデザイナー自身も各作品を意識して以前のものを継承していたり、発展の解釈などの“繋がり”もちゃんと考えて作画している。だからこそ『ROBOT魂 ver. A.N.I.M.E.』できちんとその繋がりを表現したい。並べてみて、繋がりを感じてもらいたいと思っています」と野口氏は語った。
そしてもう1つの挑戦となったのが、「ROBOT魂 <SIDE MS> FF-X7-Bst コア・ブースター ver. A.N.I.M.E.」だ。戦闘機の立体化のため、アクションフィギュアとして“動かせる”ポイントが少ないのだ。コア・ファイターの変形ギミック、差し替えでのランディングギアはあるが、基本的に本体は動かない。アクションフィギュアのラインナップにおいて、「ROBOT魂 ver. A.N.I.M.E.」の規格でコアブースターを出す、そこにどれだけユーザーが価値を見出してくれるか、そこもしっかり見ていきたかったとのことだ。
「ジオングの好評があり、今回コアブースターの商品化となりました。コアブースターは大きなチャレンジです。エフェクトパーツでシリーズとしてのバリューは持たせていますが、動く部分は少ない。一方でキャラクターとしての魅力、これまでのシリーズを持っているお客様にとって、並べたり一緒に飾る楽しさは大きい。これだけシリーズが続けられたからこその商品化です。他の商品もこういった戦略でラインナップを広げていきたいと考えています。
“ガンダム文化”があるからこそ生まれた「ROBOT魂 ver. A.N.I.M.E.」
0083のメカとして気になるのは超大型装備である「デンドロビウム」である。GP03ステイメンと巨大アームドベース「オーキス」が合体して生まれるMA(モビルアーマー)といえるデンドロビウムは設定で砲身を含むと140m、含まなくても73mという巨大さで、縮尺を大きくした立体物がほとんどである。1/144のプラモデルは、高額商品として話題を集めた。「ROBOT魂 ver. A.N.I.M.E.」の登場はあるのだろうか?
そんな筆者の質問に対して野口氏は「デンドロビウムに関しては、大きな課題、という捉え方はしていません。本当にお客様が望んでいるのか、そこを1番に考えたいと思っています」と答えた。現時点ではまず『機動戦士ガンダム0083』に登場するMSを商品化し、ユーザーの需要を満たしていくことが最大の課題であり、その上で「『ROBOT魂 ver. A.N.I.M.E.』でデンドロビウムが欲しい」というファンの声が大きくなるのかどうか、ファンの皆様の反応を見ていきたいと野口氏は語った。。
大型のアイテムの実現、という意味では、「ROBOT魂 <SIDE MS> MSN-02 ジオング ver. A.N.I.M.E.」は野口氏にとっても挑戦だったという。それはファンが「ROBOT魂 ver. A.N.I.M.E.」でジオングが欲しいという声が高まったときだと、野口氏をはじめとしたBANDAI SPIRITSコレクターズ事業部のスタッフが判断したからだ。「機動戦士ガンダム0083」は現時点ではまず、ファンがどのくらいシリーズを楽しんでもらえるか、ファンの数を増やし、より多くの人に楽しんでもらう環境を作ることこそ大事だと考えているという。
製作側の想いとしても「ファンの方が商品に価値を見いだせるか」というのは大きな課題だ。大型商品はそれだけで高額商品となる。その価格に見合う商品を作ることができるか? 「ROBOT魂 ver. A.N.I.M.E.」はアクションフィギュアとしての遊びごたえを最大のセールスポイントにしている。高額になってしまわざるを得ない商品で、本当にその価値に見合うアクションフィギュアを作ることができるか、商品を作るに当たって、常に課題である。
「コストの問題もありますが、やはりお客様の需要をちゃんと考えていきたい。高額だけどアクションフィギュアとしてそれだけの価値が見いだせない、ラインナップを埋めるだけの商品は、お客様に迷惑を掛けてしまう。やはりお客様の声を聞きながら今後も商品展開をやっていきたい、というのが一番の思いです。もちろん『ROBOT魂 ver. A.N.I.M.E.』の理想はとしては全てのガンダムメカ、大全集に載るようなメカを全て立体化したいと思っています。だからこそそれが実現できるように、お客様に喜んでいただき、シリーズが続く環境を作り続けていきたいと思っています」と野口氏は語った。
野口氏は改めて、「ROBOT魂 ver. A.N.I.M.E.」は、これまでのガンダムの立体物の歴史と、多くのクリエイターやファンが試行錯誤していく中で生まれたシリーズだと強調した。多くの商品が出て、ユーザー自身も手を加え、結果様々な立体物が生まれたからこそ、本シリーズのようなユニークなアプローチも可能となった。いくつものガンダム作品のメカを同じフォーマット、ある意味同じ世界観で並べることができる「ROBOT魂 ver. A.N.I.M.E.」は、数多く存在するガンダム玩具界において、ガンダムの新しい世界観を提示できる唯一無二の商品である。「機動戦士ガンダム0083」でさらにそのコンセプトを強く提示できるようになる。
野口氏にとって、「ROBOT魂 ver. A.N.I.M.E.」は、3年前に予想をしていた計画にほぼ沿った形で商品展開ができている。これは以前のインタビューでも触れている部分だが、そのペースがきちんと守れているのは、ユーザーからの大きな応援があるからだ。開発側が良いと考えている商品を、きちんとユーザーに評価してもらっているこの現状には、野口氏自身もかなり手応えを感じているという。だからこそ新しい感動、新しい面白さを届けていきたいと語った。
今回改めて、1つの商品が生まれるのはどれだけ多くの人の想いを受けて生み出されているかを考えさせられた。「機動戦士ガンダム」は多くの開発者とユーザーの想いを受け、40年という歴史の中でとても背骨の太いコンテンツとして成長した。その中で強い想いを持っているユーザーにきちんと受け止められている「ROBOT魂 ver. A.N.I.M.E.」は、やはりすごいシリーズであり、開発者が革新性を追求したからこそ生まれた成功だというのことを実感できた。
(C)創通・サンライズ
※写真は試作品であり、フラッシュで撮影を行なっているため、各部の彩色などが実際の商品と異なります。