レビュー

「春ゆきてレトロチカ」レビュー

誰もができる「犯人はあなたです!」。“ドラマ感”も魅力の本格推理アドベンチャー

【春ゆきてレトロチカ】

5月12日 発売予定

(Steam版:5月13日 発売予定)

価格:7,480円(税込)

CEROレーティング:B(12歳以上対象)

プレイ人数:1人

 ついに5月12日に発売される「春ゆきてレトロチカ」。実写ドラマで展開する本格推理アドベンチャーだ。本作では100年にわたる殺人事件に歴史を持つ“家”の因縁、「不老をもたらす果実」の伝説が関わるという、ミステリー小説そのままの物語が楽しめる。

 展開するドラマでは、登場人物達の行動、会話、そのときの立ち位置など様々なところにヒントが隠されており、プレーヤーはそれらをつなぎ合わせ“仮説”を作りだし、その仮説を提示し犯人を言い当てていく。推理が得意な人はもちろん、そうでない人でも「名探偵」になった気分に浸れるゲームである。

 弊誌ではファーストインプレッションで序盤の展開や基本システムに触れている。今回はレビューとして改めて物語の展開、システムの感触、本作ならではの面白さなどを紹介していきたい。

【「春ゆきてレトロチカ」発売直前トレーラー】

不老の伝説を持つ旧家に関わる100年の殺人事件に、ミステリー作家が挑む!

 「春ゆきてレトロチカ」は、複数の殺人事件が伝統を持つ“四十間(しじま)家”の秘密へ繋がっていく。主人公はミステリ小説家の「河々見はるか(桜庭ななみ)」。彼女は小説の監修を行なう科学者の「四十間(しじま)永司(平岡祐太)」に同行を依頼され、富士山麓にある永司の実家、四十間邸を訪れる。

 四十間家は医療関係に就く家系。永司は家出同然に家を出たが、「細胞周期学者」となる。細胞の老化の研究をしていた。四十間家では100年ぶりに代替わりの儀式である「桜参り」が行なわれる。永司はこの儀式への同行をはるかと、編集者である「山瀬明里(松本若菜)」に依頼してきたのだ。

主人公はミステリ小説家の「河々見はるか」、演じるのは桜庭ななみさんだ。本作は出演俳優も見所
四十間家に伝わる代替わりの儀式である「桜参り」。100年ぶりに行なわれるという

 この桜参りの儀式には秘密がある。四十間家には「トキジクの実」という秘密の果実があり、これを食べることで人は「不老」になる。代替わりの儀式ではこれを与えられた人が不老になるという。永司は今でもこの果実があるならば、万人に不老をもたらす薬として研究したいと思っていた。もう1つ、儀式を行なう桜の木の根元から白骨死体が現われたのだ。その骨はおよそ100年前のもの。この謎を解くために、はるか達に四十間家に来て欲しいというのである。

 はるかはこの依頼を受ける。そして四十間家の秘密に深く関わっていくこととなる。最初は編集者である明里が持ってきた昔の探偵小説雑誌。ここには永司達四十間家の先祖である「四十間佳乃」が書いた1つの事件があった。はるかは明里の助言に従って、自分や四十間家で出会った人々を登場人物に当てはめ、小説を読み進めていく。この小説はフィクションなのか、それとも本当の物語なのだろうか……。

 「春ゆきてレトロチカ」の一番の面白さは「探偵ドラマ」と「推理ゲーム」が融合しているところだ。探偵もののアドベンチャーゲームは過去にも複数存在していたし、実写を取り入れたゲームもあった。今作は実写映像とゲーム性の融合を狙った最新のゲームとなっている。

はるかの脳内空間で展開する「推理」。イメージの永司を相棒に謎を検討していく

 ドラマでは役者達が様々な場面を演じる。「春ゆきてレトロチカ」では現代、1922年、1972年と演じる時代が変わり、登場人物も変わるが、例えば河々見はるか役の桜庭ななみさんが1922年では四十間佳乃を演じる。現代編では真面目そうな庭師の「草刈孟彦」を演じる池内万作さんが、1992年ではちょっとうさんくさい「後藤銀作」を演じるといった時代によって役者が同じで全く違う役を演じるところに独特の面白さがある。

 「春ゆきてレトロチカ」のユニークなところは役者と時代の役がなんとなく繋がって見えるところ。池内万作さんというリアルな役者さんがその役を演じ分けているという感覚よりも、「現代編の真面目な草刈さんが、今回は気弱ながら偉そうな銀作を演じている」というように、現代編の役柄がベースに、他の時代の役が重ねられていく。「この時代ではこの人はこの役なのか」というような、キャラクターに独特の“厚み”が加わっていくのが面白い。

 こういった形だからこそ各キャラクターの演技は少し芝居がかっていていて、本作の骨子をなす「トリックのある殺人」がピタリとはまる。各時代で殺人事件が起きるのだが、そこにはトリックが仕掛けられている。そのトリックは何か、犯人はどういう意図を持ってその人物を殺し、そしてそのことを隠蔽しているのか? プレーヤーは“探偵”として「手がかり」から「仮説」を構成し、そしてその仮説を提示することで犯人を暴いていくのである。

100年前の「売買会事件」。「現代編」で出演した役者が、全く異なる役割を演じる。プレーヤーにとっては役者と言うよりも、「現代編の○○が、今回はこんな役割に!?」という役柄が混じり合うとても奇妙な味わいが感じられる

名探偵の推理の筋道を追体験できるゲームシステム

 「春ゆきてレトロチカ」ならではの推理システムを紹介していこう。起きてしまった殺人事件。その犯人を突きとめるためのヒントはこれまで見た映像の中に隠されている。プレーヤーは「思考空間」で様々な「手がかり」を「謎」に当てはめていく。

 プレーヤーが最初に挑む1922年の「売買会」事件では動かないはずの木乃伊(ミイラ)が動き、売買会に参加した1人を殺してしまうという事件が起きる。この事件を解決するために解かなくてはいけない謎と、まず最初に提示される「木乃伊の正体は?」という謎に、時間軸を前後しながら手がかりを当てはめ、「仮説」を作り出していく。

謎に手がかりを当てはめ、仮説を作っていく推理空間

 「木乃伊がなぜ動いたか?」という謎には「木乃伊は誰かの変装では?」という仮説ができた時点で「何者かが木乃伊に変装していた?」、「変装するために使われたものは?」という新たな謎が生じる。ここにさらに手がかりを結びつけ仮説を作り上げていくのだ。

 具体的に謎と手がかりを説明しよう。死体が倒れていた宝物の保管室。「保管室で何が起きた?」という謎に対し「荒らされていた保管室」という手がかりを結びつけることができる。これによって生まれる仮説は2つ。1つは「犯人は証拠を隠すために保管室を荒らした」、もう1つが「犯人と被害者が激しく争った」というもの。さらに被害者がこの保管室の鍵を持っていたという手がかりを当てはめると、「実は被害者が保管室で宝物をあさっているときに殺されたのではないか?」という仮説も生じる。

 このように仮説には事件の正解でないものも生まれる。「被害者はどこで殺されたか?」という謎には「通路の血痕」、「部屋の中の血」という2つの手がかりがそれぞれ当てはまり、「通路で殺された後、部屋まで運び込んだ」、「部屋の中でで殺された」という2つの仮説が完成する。どちらの仮説が正しいかはプレーヤーが考える必要がある。

被害者が倒れていた保管室は荒らされていた。それは被害者が荒らしたのか、それとも犯人だろうか? 仮説は相反するものも

 一見難しそうなシステムだが、謎のスロットに入る手がかりは1つだけなので、当てはめる謎の数そのものはどんどん減っていき後半の仮説を作るのは容易になる。また「ひらめき」というヒント機能がある。これを使うと謎のスロットに対応する手がかりがハイライトされる。ひらめきは6つの仮説を作ると1回使えるようになり、最初から3回程度は使えるので推理が苦手な人もゲームを進められる。手間はかかるが総当たりでもゲームは進行できるのだ。

 謎に対しある程度仮説ができると「真相は」というスロットが出てくる。ここに「見えた」というピースをはめ込むことで「解決編」へと進んでいく。仮説を元に犯人を追い詰めていく。ここでは間違った仮説を選ぶと即ゲームオーバーになってしまうが、選択をやり直すことでゲームが進む。

「ひらめき」を使うとスロットに当てはまる手がかりがハイライトされる。ゲーム中盤からは謎も多くなる。うまくひらめきを使っていこう

 筆者自身はあまり推理は得意ではないタイプだが、「春ゆきてレトロチカ」のこのゲームシステムは「名探偵の気分になれる」システムだと感じた。謎に手がかり当てはめていくと仮説ができる。筆者が予想もしてなかった謎が次の謎に繋がっていく。

 そして解決編ではその仮説を使うことで意外な真相が明らかになる。「そういえば彼はあのときこんなことを言っていた」、「あのとき彼女は確かにその場所にいなかった」という感じでゲームの進行で気づくことが多かった。これは「推理小説」を読み進める感覚に近い。

 自分で推理を進めるタイプのプレーヤーならばより能動的に本作を楽しめるし、筆者のように受け身に近いスタンスの人でも意外な謎が明らかになり、真相が見えてくる興奮を感じることができる。推理小説もまた自分で推理する読者もいれば、名探偵が事件を明らかにするその過程を観客のように楽しむことができる。「春ゆきてレトロチカ」の推理システムは、推理が苦手な人でも謎が解けるその面白さを追体験できるのだ。