【特別企画】
ドラマの中の“名探偵”になれる。「春ゆきてレトロチカ」ファーストインプレッション
手がかりを並べ、仮説を作り上げ、謎を解く本格推理アドベンチャー
2022年4月29日 12:00
- 【春ゆきてレトロチカ】
- 5月12日 発売予定
- (Steam版:5月13日 発売予定)
- 価格:7,480円(税込)
- CEROレーティング:B(12歳以上対象)
- プレイ人数:1人
スクウェア・エニックスは、プレイステーション 5/プレイステーション 4/Nintendo Switch/Steam用ミステリアドベンチャーゲーム「春ゆきてレトロチカ」を5月12日に発売する。
「春ゆきてレトロチカ」はかなりユニークな切り口のゲームだ。映像は実写ドラマ。プレーヤーは展開するドラマを見ながら手がかりを得る。そして主人公の"脳内"での推理パートにて手がかりを組み上げ仮説を作り上げ、その仮説を提示することで事件に隠された真犯人を見つけ出すのだ。
推理ものの実写映画やTVドラマのような凝った雰囲気と、時代と舞台を超え、同じ役者達が様々な役割を演じる面白い設定、そこから自分で謎を解き、意外な真相を探し出す楽しさ。ミステリー小説や、ドラマが好きな人にオススメである。
さらに鍵となるのが「不老長寿」をもたらす伝説、というところも、"いかにも"である。今回、発売に先がけ本作に触れることができた。その感触と、ゲームの基本システムを紹介したい。
推理を巡らし犯人を見つける、本格推理アドベンチャー
本作の主人公はミステリ小説家の「河々見はるか(桜庭ななみ)」。彼女は科学者であり、彼女の小説の監修を行なっている「四十間(しじま)永司(平岡祐太)」に頼まれ、取材という名目で編集者の「山瀬明里(松本若菜)」と共に、富士山麓にある永司の実家、四十間邸を訪れる。
四十間家は100年に1度の「代替わりの行事」を行なう。四十間家は代々医者の家系だったが、永司は若い頃に家を出て家とは関係なく"細胞周期"を研究する学者となった。しかし四十間家で白骨死体が見つかったのと、四十間家に伝わる不老の果実「トキジクの実」の秘密を探るためにはるかに協力を依頼したのだ。
四十間邸では永司の父・了永(榎木孝明)や、後妻の蓉子(横山めぐみ)など様々な人物がはるかを出迎える。白骨死体は四十間家に伝わる桜の巨木の下で発見された。その死体はおよそ100年も前のものだったという。
編集者の明里は発見された白骨死体は四十間家の先祖であり、推理小説家であった「四十間佳乃」のミステリー小説にヒントがあるのではないか? と100年近く前の雑誌をはるかに手渡す。しかしその雑誌は虫食いがひどく読みにくい。はるかは「作中の登場人物を出会った人々に当てはめ、想像力を駆使して物語を補完する」というやり方でその小説を読み込んでいく。そして彼女はこれから起きる"四十間家の事件"にも深く関わっていくこととなるのだ……。
「春ゆきてレトロチカ」は、四十間家に伝わる謎めいた事件をプレーヤーが推理でひもといていくアドベンチャーゲームだ。ユニークなのが核となるのが「実写ドラマ」というところ。プレーヤーは展開する実写ドラマを見ながら人物関係や起こる事件、手がかりなどを把握していく。
そして「推理」だ。「事件の動機は?」、「何が起きたか?」、「この人物の行動の意味は?」様々な疑問に得られた手がかりを当てはめ、「仮説」を組み上げていくのだ。この仮説を元に皆に質問することで事件の謎を解き明かす。
「名探偵、皆を集めて『さて』と言い」というのは筆者が推理小説で読んだフレーズだが、「春ゆきてレトロチカ」はまさにこの「さて」をいうまでの探偵役の思考を追えるゲームだ。推理小説には、あえて書いてある真実を読む前に、自分で様々な仮説を考え解答を出した上で、その正解を問うような楽しみ方ができるものがある。それは読者の性格と共に、作者の挑戦心がなくてはできない楽しみ方だが、「春ゆきてレトロチカ」はゲームのインターフェースでそのやり方を可能としている。
「そんな複雑そうなことできないよ」と思う人も少なくないだろう。筆者自身、ミステリーものは名探偵が見事な推理をするのを、観客として楽しむ姿勢で小説やドラマを楽しんでいる。しかし本作の場合、疑問にピースをはめ込むというゲームらしいアプローチで真実に向かうことができる。疑問もまたある程度用意されているので、実に丁寧に思考を深め、推理する、「名探偵の見事な推理を疑似体験できる」というユニークなゲームシステムとなっているのだ。
次章では具体的なシステムの説明として、あえてチュートリアル場面を飛ばして、プレーヤーが挑戦する最初の事件「売買会事件」を例にとって紹介していきたい。
動き出したミイラ……。100年前の事件を推理する
「売買会事件」は、永司の先祖である「四十間佳乃」の小説で起きた事件だ。しかし編集者山瀬明里はこの事件は実際に起きたものだという。主人公・河々見はるかは書き手であり事件の関係者となった四十間佳乃に自身を重ねてこの事件を追体験していき、謎を解いていくこととなる。
四十間佳乃は「後藤銀作」という男が主催する秘密の売買会に参加しようとしていた。この売買会では「不老長寿に関する品」が取引されるという。佳乃は偶然知り合った「久坂如水」の助けを得て売買会に潜り込むことに成功する。
しかしそこで惨劇が起こる。1人の参加者が「ミイラ」に殺されてしまうのだ。遺体を包帯に包み死後の復活を願ったミイラが動き出し参加者を斬り殺してしまった。そんなことがあるのか? 佳乃は推理を進めていく。
「春ゆきてレトロチカ」の推理システムは疑問に対し手がかりというピースを当てはめ、「仮説」に結びつけていく。探偵の思考空間ではこれまでの事柄が横軸のタイムラインで現わされ、縦軸の「思考」に組み合わせていくことで様々な仮説を組み立てていく。
「ミイラの正体は?」という疑問には「ミイラに巻かれていた布」という手がかりが1つの仮説を生み出す。動き出したミイラ。しかし現在のミイラはただの物体だ。佳乃が見たミイラは何だったのだ? ミイラは体に包帯を巻き付け、仮面をつけていた。つまり誰かが体に布を巻き付け、仮面をかぶればミイラに化けることが可能なのだ。
この仮説が「では誰がミイラだったのか?」という新しい疑問を生み出す。ここに手がかりをはめ込めばまた新たな思考が生まれていく……。このように、プレーヤーは思考に手がかりをはめ込め、仮説を作り上げていく。一見複雑に感じるが、思考のスロットに当てはまる手がかりは決まっているので総当たりでやってもゲームは進んでいく。また仮説を作り上げることで「ひらめき」というヒントポイントも得られるので、これらを活用すれば推理がそれほど得意でない人もゲームを進めていけるだろう。
そして仮説が出そろったらいよいよ「解決」だ。皆を前にしてどのような仮説を取りだし、犯人を追い詰めていくか、そこが楽しい瞬間となる。しかし実際のプレイで筆者はこの解決に行くまで、「これでいいのかな?」という想いが残った。仮説は出せた者の、決定的なピースがはまっていない気がしたのだ。一応手がかりはほとんど使い、仮説はかなり出たのだが……。
そういう疑問は解決編で杞憂となった。仮説を素に展開していく佳乃の推理がもやもやしていた「明かされていない事例」を明確にしていくのだ。まさに推理小説を読んでいる気分で、手がかりと仮説が組み合わさっていく楽しさを実感できた。
「春ゆきてレトロチカ」において、「売買会事件」は序章に過ぎない。四十間家に伝わる伝説や、数々の謎、過去と現代が結びつく驚き……。すべてはこれからである。事件やシステムはさらに複雑になり、プレーヤーは複雑な事件に巻き込まれていく。とてもワクワクさせる作品だ。
そしてやはり本作は「雰囲気」こそが大きな魅力だ。「トキジクの実」を巡る様々な時代の事件が本作では描かれるが、「春ゆきてレトロチカ」では異なる時代の登場人物を共通の役者が演じているのが面白い。主役の探偵・河々見はるかが、100年前の「売買会事件」では四十間佳乃を演じるように、各役者が様々な人物を演じドラマを繰り広げていく。「劇空間」とも言うべき独特の空気が、味をもたらしている。
ミステリードラマならではの空気、大正ロマンというようなレトロな感じ、舞台や物語は限定されているものの、いくつもの時代や事件が複雑に絡み合うストーリーを「同じ役者が演じる」事で、より因縁を深く描写しているところもある。
しかもただドラマを見るのではなく、ゲームとしてインタラクティブ性があり、物語の大きなテーマである「推理」を自分で組み立て、「犯人は、あなたです」という推理もので一番おいしい楽しさを、自分が導き出せるのだ。ユニークなゲームを遊んでみたい人、推理ものが好きな人には特にオススメである。もちろん興味を持った人ならば誰でも大いに楽しめる作品だ。
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