「The Last of Us Part II」レビュー

The Last of Us Part II

復讐の先にあるものは? 様々な要素が絡む戦闘、圧倒的な世界描写、心を震わせるストーリー

ジャンル:
  • アクションアドベンチャー
発売元:
  • ソニー・インタラクティブエンタテインメント
開発元:
  • Naughty Dog
プラットフォーム:
  • PS4
価格:
7,590円(税込)
発売日:
2020年6月19日

 プレイし終わった時にコントローラーを持ったまま呆然としてしまった。「The Last of Us Part II」はそれほどまでに魅力的で、そして苦しい悪魔的なゲームだ。

 前作「The Last of Us」は2013年にプレイステーション3専用タイトルとして登場し、世界中から称賛を浴びたタイトルだ。「The Last of Us Part II」はその正統続編で前作の5年後のシーンからゲームが始まる。

 だが正直なところ筆者は本作をプレイする前まで「あれほど完璧に美しく終わった作品の続編を作る必要があるのか」という不安感を持っていた。

 だが「The Last of Us Part II」のプレイを終えた今振り返ると、(異なるであろうことはわかっているが)「実は『The Last of Us』は2への壮大な伏線だったのではないか」と思えるほど、前作を活かして、前作を悠々と超える重厚なストーリー、進化したグラフィックス、遊びの幅が広がったゲームシステム……どの要素を切り出しても圧倒的に前作を上回るクオリティの作品に仕上がっている。

 そのクオリティの高さ故に、ゲームの世界に感情移入し、感情を大きく揺さぶられた結果、冒頭に述べたような境地に到達してしまったというわけだ。

 さて、本稿ではプレビュー記事では触れられなかった部分についても書いていきたい。もちろん最大限ネタバレには考慮しているが、記事の特性上ゲームの内容について触れている部分があるので注意して読んでいただければと思う。

【『The Last of Us Part II』 (日本語版)ストーリートレーラー】
【『The Last of Us Part II』】

様々なテーマを感じる重厚なストーリー

 「The Last of Us」シリーズは謎の寄生菌の爆発的な感染で人口が激減、文明が崩壊していくアメリカが舞台だ。前作となる「The Last of Us」では闇市場での取引を生業とするジョエルが、14歳の少女エリーをある場所に連れていく仕事を引き受けるところから物語が始まる。目的地に向かうまでの旅路に様々な出来事があり、ジョエルとエリーは絆を深めていくのだ。

 そして本作の物語はそこから5年経った未来が舞台。ジョエルとエリーはワイオミング州ジャクソンにあるコミュニティーで暮らしていた。そこである凄まじい出来事が起こりエリーは復讐の旅に出ることになる……というストーリーだ。

 やはり「The Last of Us」シリーズといえばストーリーの素晴らしさだ。

 筆者が前作で一番印象に残っているのはある兄弟と共に旅をするところ。その兄弟の結末は、自分の心がきしむほどに精神的に来るものがあった。人類社会が破滅した後に訪れるさらなる悲劇。むき出しになる人間性……他にも色々人間の性そのものを問う場面はあるが、兄弟としての絆があるからこそ生まれてしまった悲劇、どうしようもない哀しみは強く印象に残った。こういった強く印象に残るエピソードは「II」でもしっかり盛り込まれている。

表情から濃密に感じ取れるキャラクターの感情。筆者は「愛」というメッセージを感じた。それは「人間関係」という表現もできるかもしれない

 今作の始まりはエリーの復讐の旅だが、それは一面にしか過ぎないと感じた。「復讐の旅」や「暴力の連鎖」というワードに収まるような物語ではなく、開発者インタビューで明らかになった「相互理解」というワードもプレイしてみるとメッセージとして強く感じる要素であった。

 個人的に感じたのは「愛」というメッセージだ。人間には様々な愛の形があると思う。恋人としての愛があれば、家族のような愛の形もあるだろうし、仲の良い友人との絆のような愛の形もある。

 そういった登場人物たちが作り出す関係性とそこから起きる出来事を複数の視点、複数の時間軸から描き、物語の裏にある様々な事情や思惑を描いていく。それをドラマや映画にはない、プレーヤーがコントローラー使って物語に介入するというゲームならではの動作を使うことで、重大な出来事や、難しい選択を擬似的にプレーヤーが体感していくことになる。

 「II」で強く印象に残るのは表情や仕草といったキャラクター表現の見事さだ。例えばあるキャラクターにエリーが対峙するシーンがあるのだが、目の前のキャラクターに憎しみを抱いており、眉間にシワを寄せ歯を食いしばり葛藤するエリーが生々しく描かれる。そして最後にトドメを刺すのはプレーヤーだ。本作の物語はあまりにも苦しく、プレイしていると息が詰まってしまうほどだ。それは凄惨なシーンであったり、時には強烈な暴力を加える必要もある。そういった苦しさがあるからこそ、このストーリーが輝きを見せるのだ。

 またエリーがむき出しで見せる感情、残酷さに筆者自身の感情が揺さぶられる部分がある。表現の向上は"映画"に良く例えられるが、ゲームはそれを越える"インタラクティブ性"がある。エリーは憎しみをみなぎらせ、相手に迫る。しかし実際に敵に復讐の刃を突き刺すのはプレーヤー自身の"操作"なのだ。エリーは自身に起きた悲劇により、"憎しみ"を暴走させている。彼女自身は本来は照れ屋ではあるが愛すべき人間だが、彼女の憎しみの暴走が、驚くべき残酷な行動にかき立てる。そしてそれは気持いい"復讐の成就"には繋がらない。

 前作のストーリーに思い入れを強く持っているほど、本作のストーリーの輝きは強くなっている。前作で幕が閉じたかと思った物語が、より大きな始まりへ繋がることを知るだろう。そのため本作に興味があるけどプレイしたことがない、という読者の方にはまず前作をプレイすることを強く強くオススメする。

前作でジョエルがエリーに「ギターを教えてあげよう」と話していたシーンから繋がっている
コミュニティに所属し、生きる。新しい秩序も生まれているのだ

前作に新要素を加えさらに遊びの幅が増したゲームシステム

 さて「The Last of Us」の大きな要素としてシビアなサバイバルアクションも挙げられる。

 ゲームシステムは前作をベースに手堅く野心的に進化した印象だ。フィールドを探索するパートがあるのだが、小さな段差を乗り越えられるジャンプや、ガラスを割って建物の中に入るなどの新しい要素が探索をしているという気持ちを感じさせてくれる。

 個人的に面白かった要素がロープやコードを投げるアクションだ。フィールドに落ちているロープを障害物に引っ掛けて上り下りなどのアクションに利用する。パッと見たところ進路が見つからないようなところでも、ロープを使うことで先に進めたりする。ときには「なるほどな」と関心するような部分もあり、本作が進化していることを改めて感じた。

ボートに乗って移動するところも本作の新しい要素である

 戦闘部分ではやはり「回避」アクションは大きな進化ポイントだと感じた。L1ボタンで回避アクションを取れるのだが、ボタンを押すことでキャラクターがバックステップしたり、体を反らせたり前かがみになったりと敵の行動を回避する。その場で回避して敵に反撃を加えることができるというのはテンポ感としても気持ちが良い。回避が必須の敵も登場するので戦闘にアクセントを加える要素になっている。

 サイレンサーなどの新アイテムの追加で戦い方の幅が広がっているし、銃によっては弾を自分でクラフトできる銃もある。そのためどの武器にもどの素材にも活用方法があり、現状持ちうるすべてのリソースと知恵を使って生き延びる、という文字通りのサバイバルが楽しめる。

 進化しているのはプレーヤーだけではない。本作では敵AIの進化を強く感じた。戦闘に入る前のこちらを包囲してくる時の隙の無さは手強いし、敵の死体が見つかったり、こちらの居場所がバレたりして臨戦態勢になった時の敵の動き方は人間味を感じるリアルさがある。

 今回紹介できるところで登場する主な敵勢力は「ワシントン解放戦線(WLF)」、「セラファイト」、「感染者」の大きく3勢力だ。「WFL」と「セラファイト」はシアトルの資源を巡って争っており、そして「感染者」はどちらにも襲いかかってくる。それぞれに戦い方が異なり、そしてそれぞれが非常に手強かった。

 「WLF」は小銃などを使って武装している。ユニークな特徴は彼らが連れている犬だ。ペットとして飼いならされているような温厚な犬ではなく、戦闘のために訓練されている軍犬である。こちらの姿が見えなくても匂いを嗅ぎつけてこちらの位置を探ってきたり、見つかったときは噛み付いて攻撃してきたりもする。

 「セラファイト」は狂信者集団であり、フードのついた上着を着ているのが特徴。手足などに入れ墨をしている。彼らは弓のような消音武器を使うキャラクターが多いのが特徴だが、普通のハンドガンを使うキャラクターや、近接武器で殴りかかってくるキャラクターもいる。

新たに登場する敵NPC達はどいつもこいつも手強い

 前作からの引き続きの登場となる「感染者」もさらに手強くなっている印象だ。進化したAIも要因の1つだが、何よりも新たに登場した感染者が手強い。

 「シャンブラー」という有毒のガスを吐き出す感染者がいるのだが、全身が固い皮膚に覆われておりダメージがなかなか通らない上に、ガスを受けるとこちらのキャラクターが立ち止まってしまい他の感染者からの攻撃を受ける、とコンボ的にダメージを受けてしまうことがあった。火炎瓶や火炎放射器を持っていれば対処も用意なのだが、こちらの装備が貧弱なときはかなり苦戦させられた。

 また未公開の感染者も道中に出現する。この感染者はシャンブラーの上位互換のような存在で、ガスを吐き出す上に通常のシャンブラーよりも遥かに打たれ強い特徴を持っていた。戦ったときは建物の中だったので、廊下の端に体を寄せて銃のリロードをしたりアイテムのクラフトをしながら、敵が近づいてきたら攻撃し、終わったら反対側の廊下にダッシュというのを繰り返した。

 だがジリジリと減っていく弾薬や各種素材にはヒヤヒヤしたし、戦い方が安定するまではかなりの回数リトライさせられた。かなり骨太な相手になっているので普段からしっかりと探索をして銃弾や素材アイテムなどを集めておく必要性を痛感したものだ。

感染者達も進化し種類が増えている

PS4世代ではトップクラスのグラフィックス表現力!

 そしてグラフィックスの進化も圧倒的である。個人的にはPS4世代のゲームの中ではトップクラスに美麗で繊細な表現力を感じた。例えば登場するキャラクター過去の戦いで負った傷跡は痛々しく、文字通りにキャラクターが生きているように感じたし、青々とした木々は生き生きしているし、実写と言われても違和感がないほど写実的な表現をされている。

 フィールドによって天候も時間帯も異なるので、雨がしんしんと降る落ち着いた都市部を見ることもあれば、薄暗い時間に鬱蒼とした林の中を走り抜けることもある。どの時間帯、どの天候、どの場所を取ってみても美しく、魅力的なフィールドになっていた。

 また、本作のゲームの舞台はバラエティに富んでいる。郊外や街の中心地、病院や高層ビルの建物の中など様々なロケーションがあり、それぞれのグラフィックスの作り込みは前作を軽く上回る。特に暗い建物の中にいる閉塞感は圧倒的で、そんな状況に感染者のうめき声が聞こえてきたときには首筋がゾクゾクするほどの恐怖を覚えた。

PS4史上トップクラスの美麗なグラフィックスはぜひ実機でも見てみて欲しい。このグラフィックスで画面が動くのだ

 大きく「ストーリー」、「ゲームシステム」、「グラフィックス」の3点から本作の魅力を語っていった。

 本作の最も大きな要素はやはり「ストーリー」だ。前作をプレイしたプレーヤーは確実に本作のストーリーを楽しめるし、逆に前作をプレイしていて今作をプレイしないのはゲーマーとして損をしていると言い切っても良い。それほどまでに密接な関係であり、進化したストーリーになっている。

 何が明らかになるかはまだ明かせない。しかし今作ではより広い視野、異なる視点でこの世界を見ることができる。前作のラストでは人類がこのまま滅ぶような気持ちになったプレーヤーも少なくないと思う。しかしエリーは生き抜き、未来へ希望を抱き、奪われた。それでも物語は終わらないのだ。「The Last of Us Part(私達の最後)」と名付けられた作品の続編が出る意味、物語が続いている意味をプレーヤーは噛みしめることとなる。本当にクリアした人と色々なことを語りたくなる作品だ。そのことも含めて発売日が待ち遠しい。

 もちろん「ゲームシステム」や「グラフィックス」に関しても申し分のない高クオリティな作品になっていて、どの要素を切り出しても圧巻の一言につきる。間違いなくプレイして損はないゲームだと感じた。ぜひプレイしてみて欲しい。

【スクリーンショット】