ゲーミングマウス「Pro IntelliMouse」レビュー
Microsoft Pro IntelliMouse
20年前のゲームシーンを彷彿とさせる伝説のゲーミングマウスと最新光学センサーが生み出した遊び心のある1台
- ジャンル:
- ゲーミングマウス
- 発売元:
- 日本マイクロソフト
- 開発元:
- 日本マイクロソフト
- プラットフォーム:
- Windows PC
- 価格:
- 6,600円(税別)
- 発売日:
- 2019年8月2日
2019年8月2日 00:00
「IntelliMouse」といえば、往年のPCゲーマーにとって神秘的な磁力を帯びたゲーミングマウスとして強く記憶されている名品中の名品だといっていい。
誕生はPCゲームが全盛期を迎えた1997年。持ちやすいナス型のボディと、Webブラウジングが飛躍的に楽になるセンターホイールを備えた画期的なマウスとして、ゲーマーを含むあらゆる層に受け入れられた。PCゲーマー御用達になったのは、1999年に誕生したIntelliMouse Explorerだ。現在まで復刻され続ける優美さを増した不朽のナス型デザイン、左サイドに追加された2つのボタン、そしてなんといっても光学センサー「IntelliEye」が初採用された。デザイン、性能、先進性、そのすべてを兼ね備えた存在として、PCゲーマーなら誰でも持っている、あるいは使いたいマウスの筆頭だった。
その後も、有線と無線に枝分かれし、バージョンアップを繰り返しながら、不朽の名作として記憶されるに至った。当時はまだゲーミングマウスというカテゴリは一般的ではなかったが、筆者のようにゲーミングマウス第1世代といえば、IntelliMouse Explorerを挙げるゲームファンは多いと思う。IntelliMouseの歴史については、姉妹誌PC Watchのレビューが、当時の記事と共に振り返るというなかなかの荒技で丁寧に紹介しているのでぜひ参照いただきたい。
そして今回発売される「Pro IntelliMouse」は、IntelliMouse Explorerを最先端のゲーミングマウスとして復活させたらどうなるかというIFを叶えたゲーミングマウスだ。GAME Watchでは到着初日にフォトレポートをお伝えした(参考記事)が、あれから2週間ほどべったり触ってみたので、インプレッションをお届けしたい。
“最新のトラッキングセンサーでIntelliMouse Explorerを使う”というIFを堪能するためのマウス
「Pro IntelliMouse」は、2018年1月に発売されたIntelliMouse Explorerの復刻版「Classic IntelliMouse」をベースに、トラッキングセンサーをはじめ、各所に改良を施し、ゲーミンググレードとして再定義したゲーミングマウスだ。
まずトラッキングセンサーはPixArtのPAW 3389 Pro-MSを採用。これは「Pro IntelliMouse」のみで採用されているカスタムセンサーだが、性能的にはPixArt PMW 3389と同一。16,000DPIの解像度、12,000FPSのリフレッシュレート、400IPSのトラッキングスピード、50Gの最大加速など、現行のミドル~ハイエンドグレードで採用されているゲーミングマウスと同等の性能を備えている。
もっとも、多くのPCゲーマーはご存じの通り、光学センサーの性能は、常人が使うにはもはや完全にオーバースペックになっており、たとえば前身のClassic IntelliMouseに採用されている3,200DPIのBlueTrackセンサーと比較してPAW 3389 Pro-MSが、“通常の5倍の性能”を持つのかというと、まったくそう言う話ではない。解像度については、設定できるDPIのレンジが広く、ローセンシ、ハイセンシ、幅広いゲーマーニーズに応えられるという話であって、必ずしも性能や精度を意味する数字ではない点に注意が必要だ。
では、Classic IntelliMouseと比較して何が優れているのかというと、トラッキングセンサーの世代が新しいことだ。Classic IntelliMouseは、Microsoftが開発したBlueTrackセンサーで十年以上前のテクノロジーだ。当時は光学センサーとレーザーセンサーの良さを兼ね合わせ、弱点を克服した画期的なセンサーだったが、トラッキングセンサーの世代で言えば何世代も古い。しかも、当時「Microsoft Sidewinder X」シリーズ向けに設計されたゲーミングモデルも存在したが、Classic IntelliMouseに搭載されているのは価格を抑えるためか、3200DPIの汎用マウス用のセンサーだ。
マウスのトラッキングセンサーの世代は大雑把にいって、ボール式、光学式、レーザー式、その両方の方式をミックスさせたBluetrackと来て、現在、再び新世代の光学センサーの天下となっているが、PAW 3389 Pro-MSは、その最新世代の光学センサーを採用している。その上で、不朽の名モデルIntelliMouse Explorerのデザインを丸ごと踏襲し、“最新のトラッキングセンサーでIntelliMouse Explorerを使う”という往年のIntelliMouseファンならニヤリとさせられるようなIFを楽しむことができる。
最新のゲーミンググレードの光学センサーを搭載して6,600円(税別)という価格設定は、有線モデルとはいえかなり割安感がある。雑な言い方をしてしまうと、これらの事実をもってニヤリと出来るIntelliMouseファンなら、以下の記述は全部無視して今すぐ買ってしまっても十分元が取れると思う。
この記事の読者は、今はもうゲームをほとんどやっていないような、“往年のPCゲーマー”も数多く含まれていると思うが、「今のマウスってこんなに快適に動くのか」と驚くはずだ。初代IntelliMouse Explorerからカウントすれば20年分、Classic IntelliMouseからカウントしても10年分のセンサーの進化が詰め込まれているからそれは当然と言える。
「IntelliMouseって何?」層は、世代の違いを感じる大ぶりなボディをどう評価するかがポイント
さて、往年のPCゲーマーは上記の説明で全部片が付いたが、「正直、IntelliMouseって何?」という若手のゲーマーは、このマウスにどう向き合うべきだろうか。筆者がオススメしたいのは、話題性に惑わされて慌ててポチらずに、まずは店舗でたっぷり触ってみた方が良いということだ。
というのは、ゲーミングマウスの性能を決めるのは、トラッキングセンサーだけではないからだ。マウスのデザイン、持ちやすさ、質感、重量感、ソフトウェアの機能、それら個々の相性が、総体としてのマウスの性能を決める。20年前と違って、現在はお店に並んでいるだけで何十種類、オンラインで手に入るものも含めれば何百種類、累計では何千種類ものデザインのマウスが存在する。左右非対象マウスの多くはIntelliMouse Explorerをデザインの祖としており、今あるものは言わばIntelliMouse Explorerの進化形だ。有り体に言えば、今の製品の方がより良い可能性が高いのだ。
また、有線のゲーミングマウス自体が、もはやゲーミングマウスの主戦場ではなくなっており、かつ採用しているトラッキングセンサーの性能もどれも大差ない。だからこそ、「Pro IntelliMouse」は、その中でベストなのかどうかは、しっかり触り比べて十分に吟味する必要があると思う。
そこで筆者は7月16日に編集部に到着してから2週間ほど使い倒してみた。会社ではデスクトップPC、出先や出張先ではノートPCにそれぞれドライバを入れて接続し、ゲームのみならずあらゆるシーンで使ってみた。
先述したようにトラッキング性能は極めて優秀だ。デザインは大ぶりだが、相変わらず持ちやすく、操作しやすい。装着されているソールも質が高く、ゲームのみならずあらゆる用途で快適に使えると思う。デザインのシンプルさも好印象だ。現行のゲーミングマウス、特に上位モデルは、他社や他のモデルと差別化を図るために、左右や背面にもボタンが付いていたりするが、「Pro IntelliMouse」は左サイドの2つのボタンと、ホイールボタンのみと最小限だ。シンプルさを好む向きにはそれだけで高得点を与えられるだろう。
ゲームプレイについては、日頃からプレイしている「PLAYERUNKNOWN'S BATTLEGROUNDS」や「ファイナルファンタジーXIV」、「ハースストーン」などで使ってみたが、センサーが優れていることもあって当然のことだが普通に使える。ぐいぐい使える。
標準ソフトウェアの「Microsoftマウスキーボードセンター」も、DPIをはじめ、リフトオフディスタンス、レポートレート、キーカスタマイズなどゲーミングマウスに必要な主要な機能は網羅しており、致命的な不備は見当たらない。
ゲーミングマウスとしての基本性能は十分及第に達しており、昔取った杵柄でこの「Pro IntelliMouse」でPCゲーマーに復帰するのも悪くないし、トップブランドのゲーミングマウスというと、1万円超えは当たり前、2万円近くするものも珍しくない中、6,600円という価格設定はなかなかコスパが高いため、ゲーミングマウス最初の1台としても適していると思う。
そのベースの評価の上で、2週間近く使ってみて感じたことをいくつか拾っておこう。まず、「やっぱりちょっとデカい」。初代Xboxのコントローラーが代表的だと思うが、初期のMicrosoftのプロダクトは欧米サイズで、日本人の手からするとちょっと余る感じがある。
ちょっとデカいため、せっかく押しやすいように改良された左サイドのボタンについて、奥のボタンが普通に使っていて手に届かない。最初は滑り止めのグリップが着いてて押しやすいと思ったが、筆者自身がつかみ持ち派であるためか、使っているうちに、少しずつ手の位置が後ろにずれてきて、押したいときに親指が届かないということが何度かあった。
「IntelliMouse Explorer」は、当時その大きさから、かぶせ持ちが主流だったように記憶しているが、今の価値観からすると、かぶせでも少々大きすぎる。ましてや、つかみ持ち、つまみ持ち派にはまったく適さないため、かなり使い手を選ぶと思う。
第2に、表面の素材が昔のままであるため、汗ばんでくるとマウスがペタペタして、使い心地が若干下がる傾向がある。「それは筆者が汗っかきなだけだろ」といわれればそれまでだが、現行のゲーミングマウスは、汗をかいてもべたつきにくい工夫が凝らされていることが多いため、ちょっとマイナスポイントかなと感じた。
3点目は、有線マウスであるというところだ。先述したように、ゲーミングマウスの主戦場は有線ではなく、数年前から無線に移っている。これはロジクール(Logitech)のワイヤレステクノロジー「LIGHTSPEED」によるところが大きく、コンペティターもそれに追従する形で現在に至っているが、そのロジクール自体は2018年より、長年協業関係にあったPixArtのセンサーの採用を辞めて、独自開発のHEROセンサーに移行しつつある。
HEROセンサーは、パフォーマンスはロジクールが長年採用してきたPixArt PMW3366や、今回「Pro IntelliMouse」に採用されているPAW 3389 Pro-MSとほぼ同等の性能を備えつつ、かつ使用時も性能をまったく落とさずに、10倍以上の電力効率を実現している。つまり、ゲーミングマウスに求められるスペックがここ数年で少しずつ変わりつつあるのだ。
「IntelliMouse」シリーズがゲーミンググレードで本気で勝負するつもりがあるのであれば、ワイヤレスモデルの投入は必要不可欠で、個人的にはゲーミンググレードの「Wireless IntelliMouse Explorer」のリリースを期待している。「Wireless IntelliMouse Explorer」もまた、優れたデザインのマウスが多かったため、このあたりのバリエーションが揃ってくれば、ゲーミングマウスの分野ももっともおもしろくなってくるだろう。
元IntelliMouseユーザーのゲーミングマウス担当として多少小うるさいことを書いてしまったが、ともあれ「Pro IntelliMouse」は、エントリーからミドルレンジをターゲットにしたコストパフォーマンスに優れたゲーミングマウスとして、伝説のデザインをそのまま再現した上で、なおかつそこに最上級のトラッキングセンサーを搭載した、遊び心のある1台と言える。通常のプレイイングはもちろんのこと、LANパーティーやeスポーツ大会まで、幅広いシーンで使える1台だ。是非店頭で手に取って自分に合うかどうか確かめてから購入するといいだろう。