2018年12月28日 12:00
名越稔洋氏率いる「龍が如くスタジオ」の最新作「JUDGE EYES:死神の遺言」が12月13日に発売された。本作は9月10日に開催されたPlayStation LineUp Tourで突然発表され、さらに木村拓哉さんを主演に起用するといったまさにサプライズ尽くしのタイトルだった。
「龍が如く」スタジオは野心的なタイトルを多く送り出しているスタジオだ。毎作新たなチャレンジ、新たなメッセージを込めた「龍が如く」シリーズはもちろん、ぶっ飛んだ設定が印象的な「龍が如く」のスピンオフシリーズや、「北斗の拳」とのまさかのコラボレーションタイトル「北斗が如く」、ガラッとカラーを変えた「クロヒョウ」シリーズや、サードパーソンシューティングの「バイナリー ドメイン」。さらに今年は初のスマートフォンでもプレイできる「龍が如くオンライン」をローンチするなど、そのチャレンジは多岐に渡る。
そんな「龍が如くスタジオ」の新作が「JUDGE EYES:死神の遺言」だ。「龍が如く」シリーズと同じく架空の歓楽街「神室町」を舞台にしたアクションアドベンチャー(公式にはリーガル・サスペンス)なのだが、主人公を変え、物語を変え、新システムを盛り込んだ本作は同スタジオの挑戦作であり、傑作だった。
「龍が如く」シリーズの、「龍が如くスタジオ」のファンとして筆者が感じた魅力を語っていきたい。
主人公は元弁護士、現探偵。革ジャンとジーンズが似合うイケメン
本作の注目のポイントの1つはストーリーとキャラクターだ。ストーリーのクオリティに定評がある「龍が如くスタジオ」、今作のストーリーもファンの期待を裏切らない傑作である。本作のストーリーについて簡単に紹介していこう。
主人公の八神隆之は神室町で探偵を生業としているが、かつては駆け出しの弁護士であった。彼は殺人事件の被告人の弁護を請け負い、有罪率99.9%という日本の刑事裁判で無罪を勝ち取り、一躍名を上げた。だが釈放された被告は同棲していた彼女を殺害、住んでいたアパートに火をつけて現行犯逮捕される。結果的に殺人犯を世に解き放ってしまったと世間から見られる八神は弁護士を辞め、探偵として生きていくことになる。
その頃神室町では関西から進出してきた極道達が殺害され、目を抉り取られるという事件が発生していた。この犯人として逮捕・起訴された被告を弁護するにあたり証拠集めを依頼された主人公は被告が冤罪である証拠を集め 真実を追い求めるために独自に調査を進めていくというストーリーだ。
この衝撃的で謎多きストーリーの導入部はプレーヤーをグイグイとひきつけていく。また豪華な俳優陣が演じるキャラクターたちも個性的で、これだけでも地上波で放映されるサスペンスドラマと言っても良いほどの圧倒的なクオリティだ。
逆に「龍が如く」シリーズファンには、主人公の八神は“カタギ”であることが大きなポイントになる。「龍が如く」シリーズのメインの主人公「桐生一馬」は“元極道”なので、考え方や行動パターン、細かな台詞回しなどが似ているようでまったく異なる。例えばちょっとした敵を倒したあとのセリフでも、本作は軽い感じで「しばらく寝てろっての」というセリフが、桐生一馬の場合はドスの効いた声で「しばらく寝てろ」という発言になる。このセリフの違いが与える印象はかなり大きい。舞台は同じ神室町、ストーリーも同じく極道絡みであるものの、キャラクターの属性を変え、ルックスを変えることでまったく新しいストーリー展開になっているのは面白く興味深いポイントだ。
探偵ならではの凝った新システムの数々でゲームが立体的に!
主人公が“探偵”であることで新しいゲームシステムを盛り込み、新しいゲームフィールも大きく変化している。最も特徴的なのは「調査アクション」と呼ばれる一連のシステムだ。尾行、変装、聞き込み、証拠写真の撮影、ドローンを使った偵察などいかにも探偵っぽい新たなゲームシステムが盛り込まれている。
例えば敵の本拠地に踏み込むときも少しユニークな方法で入っていく。ゲーム序盤のあるエピソードでは、まずドローンで建物の周囲を下見し、正面からの突破は不可能と判断する。そこでピッキングで鍵のかかったドアを開け、エアコンの室外機を破壊し、修理業者に変装し敵の本拠地に侵入していく。その後は警備室に忍び込み部屋の中をくまなく探索、建物内の鍵を入手し侵入していくなど、まさに探偵“っぽい”アクションで進んでいくのだ。一方で隠密一辺倒ではなく、不可抗力で戦闘が始まってしまったりしたりと緩急をつけるのが非常に上手い。
また尾行システムではターゲットを見失わないようにする必要がある一方、警戒されてもいけない。看板の影に隠れたり携帯をいじっているふりをしたり……このなんとも言えない緊張感がユニークで面白い。
新システムで1番面白かったのは証拠写真の撮影だ。浮気の調査を依頼された主人公は気付かれないようにターゲットを尾行していく。そしてターゲットが浮気相手と合流しホテルに入っていくところでターゲットに警戒されないようにしつつ、ベストなアングル・ベストな瞬間を狙って証拠写真を撮影するのだ。この要素がかなり細かく、ターゲットや浮気相手の顔がわかることや、ホテルの看板の情報なども必要になってくる。
戦闘パートでもこれまでの作品のノウハウが生かされている。□ボタンと△ボタンを組み合わせるという、操作はシンプルながらも爽快感がある戦闘が楽しめる部分は継承されている。また複数の敵と対峙したときに有効な「円舞スタイル」と1:1に向いた「一閃スタイル」を切り替えることでコンボのバリエーションや戦い方が変わったり、壁を使った三角跳びからの攻撃が追加されるなど全体的にスタイリッシュな作りになっており、戦闘部分でマンネリを感じることはなかった。もちろん周囲のオブジェクトを掴んで振り回したり投げつけたりする良い意味でハチャメチャな部分も継承されており、こちらもしっかり楽しめる。
「神室町」という広大な歓楽街オープンワールドは相変わらず楽しい!
もう1つ外せないのが「神室町」というオープンワールドの魅力だ。架空の歓楽街「神室町」はどのシリーズ作品で何度プレイしても魅力的な街である。人々の欲望が渦巻く歓楽街、オトナ向けの店から何気ないコンビニ、ゲームセンターやネットカフェまで、夜の街の魅力をぎゅっと凝縮した世界だ。またそんな神室町でプレイできる偏執的なまでのこだわりを感じる多数のミニゲームもさすがである。
メインストーリーとは直接の関係がないサブストーリー的な存在である「SIDE CASE」も面白い。メインストーリーとは違った主人公の一面を見れるのは面白さの1つである。また今作から加わった町の住人との交流も面白い。主人公が神室町の住人に受け入れられて雑談をすることができたり、新しい仕事の受注につながったりする要素はまさに“神室町の住人”になった気分が味わえる。
またこれまでの作品で神室町を歩いてきたファンにはも印象的で、「あの作品ではこの建物にトラックが突っ込んだんだよな」とか「この猫カフェには最初は猫がいなかったんだよな」などなど、印象的な場所がある。この神室町をまた歩けるだけでも幸福の極みだ。
本作で初めて神室町に降り立つプレーヤーには刺激的で夜の魅力が溢れる歓楽街だし、シリーズファンにとってはここがホームと言える場所で安心感がある。
というわけで本作はまったく新しい挑戦でありつつも、故郷のような安心感を感じられる絶妙なバランスでできている傑作だ。「龍が如くスタジオ」の作品をプレイしたことがないという方も豪華な俳優陣をきっかけにプレイするのも良いし、シリーズファンも楽しめるのは間違いない。
またメインストーリーを追うだけでもかなりのゲームボリュームだし、「SIDE CASE」やミニゲームに手を出したり、街の評判を上げるために神室町を探索すると、どこまでもやりこめるようなかなりのボリュームとなっている。じっくりと腰を据えて神室町の住人として生活するようにプレイしたい作品だ。