2018年12月28日 10:30
ブロックで表現された広大なフィールドで創造と破壊を繰り返し、ストーリーを進めていくブロックメイクRPG「ドラゴンクエストビルダーズ」シリーズ。前作は初代「ドラゴンクエスト」がモチーフだったが、今回は「ドラゴンクエストII 悪霊の神々」がモチーフだ。世界観だけでなく、ありとあらゆるところがファンの期待を上回わり……とまくしたてたいところだが、まずは導入部から少しずつ触れていこう。
なお、本レビューはPS4版の開発バージョンを使用しており、記事中のボタン表記はそれに準じている点をあらかじめご了承願いたい。
丁寧でユーモラスなチュートリアル ~まものたちがめっちゃカワイイ!~
まずは主人公キャラクターの性別、「かみ」「はだ」「め」のカラーリング、命名からスタート。カメラや音量などの設定もここで決定するが、後々オプションから変更可能。ハーゴン&シドーの姿とともに、本作が「ドラゴンクエストII」世界観のもとにあることが簡単に説明されたあと、ハーゴン教団の生き残りのまものたちが操る船からスタート。主人公はメルキドでさらわれたかけだしビルダーで、まものにからかわれながら船底で目覚める。
ここから実質的なチュートリアルが始まるが、これがまぁ親切丁寧に作りこまれていて終始ニヤニヤさせられる。会話や扉などのアクション、ジャンプ、攻撃、アイテム、作業台の使い方などが「これぞ『ドラゴンクエスト』シリーズ!」といった丁寧かつ楽しく覚えられるようになっている。目前のオブジェクトをいちいち壊さずその場でヒョイと抱えて動かせる改良点は、前作をやりこんだ人ほど「おおっ!」となるはずだ。
まものたちとの会話は「これ! これを待っていたんだよ!」と叫びたくなるほど“らしさ”に満ち溢れており、おおきづちに代表される前作の感動が脳裏によみがえる。とある一瞬の演出などは、感動のあまり涙腺が決壊しそうになったが……ネタバレというか野暮の極みにつき具体的には触れないでおく。ゲーム内には、当然ながら開発者が必要と考えたものしか入らない。KPIなどには絶対あらわれない、今やレッドデータブック並に希少な地金が垣間見えるのが「ドラゴンクエストビルダーズ」シリーズの凄いところだ。
色々あってまものたちの船は難破し、主人公はとある島の浜辺に打ち上げられる。ここは“はじまりの 無人島”こと「からっぽ島」。人の声がするほうにいくと、空を眺める少年「シドー」と遭遇。同じ船に乗っていた記憶はないのだが……。「面白いものを見せてやる」というシドーについていくと、その先には主人公同様に打ち上げられた人やまもの(スライム)の哀れな姿が! 全滅かと思われたなか、唯一「ルル」と名乗る少女が息を吹き返す。
ここからのチュートリアルはビルダー実践編。部屋、たき火と料理、ベッドとミッションをクリアした後、まものとの戦闘イベントもここで基本を学ぶことになる。前作プレイした人は、武器が壊れない快適さ、そして何よりも「レベル」という概念の登場に驚かされると同時に、新たなワクワクが止まらなくなるはずだ。
ひと眠りした後、突如出現したあやしいおおきづち「しろじい」に誘われ神殿の修復を終えると、いよいよ本格的なゲームスタート。なんとしろじい、ビルダーを象徴する道具「おおきづち」にくわえて「からっぽ島」を丸々プレゼントしてくれるという。
いにしえのビルダーがその夢を詰め込もうとした島も、いまはすべてが失われた状態。島を開拓すべく、主人公とシドーは船で他島と行き来し、素材や仲間を集めてくることになる。
島で待ち受ける感動 ~住人とまものたち、ステキな出会いの積み重ね~
最初に船で渡る「モンゾーラ島」に住む人々は、ハーゴン教団の教えをいまだに信じていた。主人公とシドーは、島内を探索しつつキーとなるキャラクターたちと出会い、少しずつストーリーを進めていく。
いわゆるクラフト系作品の多くは、出先で資源を持ち帰りホーム強化やエディットパターンを増やすのが目的だったりするが、本作は住人やまものたちとの関わり合い、そこから生じる展開の積み重ねこそ魅惑の真骨頂ではないかと筆者は思っている。ときに王道、ときに奇抜。ちょいちょいユーモラスで、たまにひねくれていて、それでいてどこかじわっと心を揺さぶる「ドラゴンクエスト」らしい機微。まものの襲撃から住人たちと協力して拠点を守るバトルイベントのタイミングや頻度も、前作に引き続き見事というほかない。
「からっぽ島」を反映させるべく「モンゾーラ島」にやってきた主人公とシドー。しろじいとルルは主人公とシドーの帰り、さらにはやってくるであろう新たな仲間たちを待ち焦がれている。でも……しろじいとルルには悪いのだが、ぶっちゃけ出先での冒険生活があまりにも楽しすぎて「からっぽ島」の存在が脳裏から消えていることがある。
クリアして次にいくという意味で「そこまでやらなくてもいいよね?」というくらい拠点を整備したり、飾りつけを徹底したり、畑のレイアウトに凝ったり、〇×を□△したり……ビルドのバリエーションも増えていくし、なにより拠点で生活を共にする住人たちがビルドとビルダーに対してどんどん前向きになっていく過程がたまらない。少女だろうがオッサンだろうがまものだろうが、誰だってきっと心底愛おしくなる。
「からっぽ島」の発展も仲間の力が不可欠
発売前から「今すぐにでも『からっぽ島』を自由に作り変えたい!」欲求に駆られている人も少なくなさそうだが、それは「モンゾーラ島」の問題が解決してからの話。要素のアンロックという意味で、凝り性あるいはこだわり派の本格的なクラフト着手はゲームクリア後ということになるだろう。
「からっぽ島」の発展は「ご自由にどうぞ」といきなり放り出されるのではなく、「『ドラゴンクエスト』シリーズが好きだから遊んでみたいけど、クラフト系は苦手」という人でもつまづかないよう、「かいたくレシピ」と呼ばれる目標設定のもと手順などが実践形式で提示されていく。
クラフト系が得意なコアユーザーは「わかったから好きにやらせてくれよ!」ともどかしさを覚えるかもしれないが、こうした幅広いユーザー層を踏まえた“親切丁寧”こそ「ドラゴンクエスト」シリーズの良さでもあるよなあと再認識させられる。
一般的なクラフト系で要求されることを「からっぽ島」に集約させた点は、地味ながら大きな進化だ。前作は章立ての各拠点がそうした存在だったが、当然章が進むと刷新というか「次の拠点」に移行してしまうし、なによりオンライン用ホームは別モードとして存在していた。クラフト系に不慣れな人はもちろん、やりこみ派にとってもホームはひとつのほうがわかりやすく、クラフトのしがいも増すはずだ。
帰島直後は実質第2のチュートリアルみたいなものだが、何をどうしたほうがベターなのか。楽しんでもらえるのか。プレイしていると、そうした開発側の“練り込み”が幾重にも感じられ、止め時がみつからない状態になる。ごくごく一部を表現するなら……かつて“おおみみず”に対してここまで感情移入できたことはない。「2」の仲間たちは、ストーリー中はもちろん「からっぽ島」でも最高だ。
前作ユーザーはいわずもがな、クラフト系が苦手でも「ドラゴンクエスト」ファンなら遊ばないのはもったいない!
まだ隅々までプレイしたわけではないが、武器耐久力と敵接触ダメージの廃止、ダッシュ、ファストトラベル、FPS視点の追加などなど、前作ファンから挙がっていた要望はおおむね叶えられている印象。ビルド関連はバリエーションから加工まで大幅にパワーアップしており、特に高さ制限の緩和はうれしい限り。へっぽこな筆者はいわゆる豆腐建築が関の山だが、前作でならした凄腕ビルダーならサグラダ・ファミリア級の芸術表現も可能だろう。
行動を共にするシドーについては「余計なことをされないか」といった杞憂もなくはなかったが、敵との戦いから素材集めまで、すべてが「やりすぎない」絶妙なサポート具合に感心することしきり。戦闘ではスペックこそ主人公を上回るが「シドーが勝手に片づけちゃう」なんてことはなく、主体はあくまでもプレーヤーの操作にある。ストーリーを進めるにつれ深まっていく信頼感も、バディの王道といった感じでつい頬が緩んでしまう。
東京ゲームショウのステージなどで触れられているとおり、今回は“仲間”が大きなテーマのひとつ。仲間といっても一般的なゲームでは何から何までプレーヤーが設定またはコントロールするのが常だが、本作は違う。人数分のテーブルと食器と椅子を設置しても朝食で席につくために行列を作る様子は御愛嬌だが、畑を作れば耕して水をまき、お風呂やトイレを設置すればきちんと利用する一部始終は、ときに抱きしめたくなるほど健気。「AI時代に何を」といわれそうだが、ゲーム内の表現のツボはそういった次元で優劣がつくものではない。
前作を上回る展開とボリュームゆえか、ひねくれたプレイをするとフラグ管理の都合的なメッセージに出くわすケースもなくはないが、全体としては「よくぞここまで!」といいたくなる仕上がり。前作で筆者が感動に打ち震えたテキストはより機知に富み、従来が「1byteの節約に命をかけていた8bit期の再現」なら、今回は「表現を優先しはじめた16bit期」といった感がある。
これはあくまでも筆者の私見と強調しておくが「ビルダーズ」は近年発売されたどの「ドラゴンクエスト」シリーズ作品よりも“らしさ”にあふれており、それは「2」でさらに強くなったように感じられる。長い歴史を誇るシリーズゆえ色々な作風があるのは当然で、クラフト系の本作も実際そのように展開されてきたラインのひとつ。極端にいえば“らしさ”が希薄でも怒られない立ち位置だが、本シリーズは最初から頭抜けていた。
そもそも“らしさ”なんて漠然としたものだが、それを全体から細部まで包み込むように表現し続ける「ドラゴンクエストビルダーズ」開発チームのセンスと力量は目を見張るものがあり、2作続けて、しかもさらなるクオリティとボリュームアップで迫ってこられたらもはや感謝しかない。
念のため触れておくと、世界観のモチーフ「ドラゴンクエストII 悪霊の神々」をまったく知らない人でも隅々まで楽しめるよう配慮されている。“らしさ”にあふれ、それでいて新規にも優しい……あまりほめ過ぎるのもいやらしいか。少々先になってしまうが、ビルドの幅を広げてくれるDLCも楽しみ。年末年始どころか当面本作だけで充実したゲームライフが過ごせそうだ。
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