2018年12月21日 17:00
「√Letter ルートレター Last Answer」(以下、ルートレターLA)は角川ゲームスから12月20日に発売されたプレイステーション 4/PlayStation Vita/Nintendo Switch用ミステリーアドベンチャーだ。2016年6月に発売された前作の「√Letter ルートレター」と大きく違うのは、実写版のドラマモードを採用したことと、後日談として追加のシナリオ4本が用意されたことにある。
正直に言おう。前作はPlayStation Vita版で全ルートを攻略した私は、この話を初めて聞いたときにはイヤな予感しかなかった。よく考えてみてほしい。いろいろなマンガ原作の作品がアニメになるのならまだいい。しかし実写となると、その評価が分かれることがよくある。これと同じことにならないのか? そこが1番気になったところなのだ。そのあたりの結論はとりあえず置いておく。まずは本作の概要についてご紹介しよう。
松江で展開されるミステリー
まだ本作シリーズをプレイされていない方もいると思うので、ストーリーをざっとご紹介していこう。主人公であるプレーヤーが部屋を片付けていると、15年前の高校時代に文通していた同い年の女子高生、文野亜弥からの手紙の束を発見する。懐かしさにふけっていると、その中に1通だけ、封も切られず、消印も押されていない手紙が見つかる。何だろうと思ってその封筒を開けると……。
「私は人を殺してしまいました
罪を償わなければなりません」
という文章が書かれた手紙が入っていた。高校3年生を境にまったく届かなくなってしまった文通相手からのラストレター。なぜこの手紙が書かれたのか。そしてそうなってしまった背景は何なのか。文野亜弥に会うべく、主人公は松江へと旅立っていく。
もうね、ここでおじさんはズキューンなのだ。若い頃にやり取りをした彼女のその後を求めて旅立つ。これが本当によい。ああそういえば、高校の時つきあっていた女の子はいま何をやっているのか、とか、学生時代のあの子は、とか、思い出すことがあるでしょ? あなたも。そんな、昔つきあっていた子から不意に連絡があったら、行ってみたくなるのが男というもの。いつまでも過去を引きずるのが男というものかもしれない。
また、本作のようなテキスト形式の選択肢を選んで進めるアドベンチャーゲームはファミコンの時代から存在したが、それこそ「北海道連鎖殺人 オホーツクに消ゆ」とか、神宮司三郎シリーズとか、やりまくりましたよ。「同級生」や「痕」を初めとした美少女ゲームも、基本的にはこれと同じシステムのものが多かったように思う。
最近では、3Dのキャラクターがぐりぐりと動くリッチコンテンツなゲームが主流なので、20歳台やそれ以下の人の中には、このようなシンプルなゲームを見ると「何これ?」と物足りなく思う人もいるかもしれない。確かにゲームシステムは古いかもしれないが、いろいろな選択肢を考えながら選び、ストーリーを進めていくのは結構楽しいと思うのだ。ちなみに開発陣の目的も、1990年代にあったアドベンチャーゲームを狙ったとのことなので、その狙いはまさに当たったと言える。
それに本作ではただテキストを選択するだけでなく、「マックスモード」という、リング上のグラフィックスが動いて選択肢が示されるゲームシステムも存在するので、動きのあるアドベンチャーゲームに仕上がっている。
特にそういう世代を狙ったわけではないようだが、この手慣れたシステム、アラフォーやアラフィフのおじさん世代にはぴったりだと思う(ちなみに筆者は53歳だ)。若い頃遊んだゲームを思い出し、懐かしさを持ってプレイできることは間違いない。人によって出来、不出来が明らかになってしまうアクションゲームや、とにかくいろいろな場所を右往左往するRPGよりも全然いいではないか。ゲーム内容はいつでもセーブできるので、それこそさくっとプレイしてサクッと終わるプレイスタイルにも馴染む。
それに演じている声優さんが日髙のり子さんに井上喜久子さん、皆口裕子さんだ。筆者世代が10歳台から20歳台にかけて見たアニメでたくさん登場していた方たち。我々のヒロインがここに集結しているのだから。
だから、本作はおじさん世代にこそプレイしてもらいたいゲームなのだ。若者にウケが悪くても関係ないじゃないですか。管理職になって、そんなに昔ほど忙しさを感じなくなった毎日。通勤しては帰り、寝てまた朝起きて通勤。同じことを繰り返す日々なのであれば、そこに一服の清涼剤として、本作を遊んでみてはどうだろうか。
それに何と言っても、本シリーズのキャラクターを描いた箕星太朗さんのイラストが素晴らしい。筆者は「ラブプラス」からのファンだったが、前作発表の時、箕星さんが作画を担当すると聞いた瞬間に小躍りしたことを思い出す。
こうした思い入れを踏まえて、「ルートレターLA」について語っていきたい。
前作を忠実に再現した「ドラマモード」
先ほども述べたように、「ルートレターLA」が前作と1番違うのは、登場人物がすべて実写で表現されていることだ。ただし、本作の制作総指揮であり、角川ゲームスの代表取締役社長である安田善巳氏が「原作の忠実度は100%」と語るように、前作の表現を忠実になぞり、カット割りやキャラクターの表情まで、細かいところまでそのままに再現されている。
ただし実写で演じている俳優さんが声を当てるのではなく、ボイス部分は前作と同じ声優さんが担当する。このためか前作をプレイしていたとしても、違和感なくその世界に入っていけるだろう。
本作をドラマモードで全ルートをプレイしてみたが、確かにその通りで、再現度はまずまず。キャラクターが驚いたり、起こったり、いぶかしがったりという表情もしっかりと演じられている。
中でも好きだったのがメガネ(田中耕平)を演じた山﨑快さん。当時のクラスメイトたちを追及していくのに、トップバッターとなったこともあるのかもしれないが、その百面相には笑ってしまった。特に面白かったのが追及パート。ここでは主人公の追及に心がさまざまと揺れ動くわけだが、驚いたり、切れてみたり、泣きわめいたりといった表情がすごくうまく演じ分けられており、ああこれなら実写もありなのかな、と思ったほどだ。
あと「どうするのかな?」と思っていたのがデブ(大森準)。太った人が痩せて出演するのはさすがに無理があったのだろう。高校生時代と大人時代では違う役者さんが割り当てられている。あとはみんな、大人と高校生とを演じ分けている。しかし、サル(渡辺将也)の丸刈りはいいとしても、メガネのハゲは合成、ですよねえ……?。
女優陣だが、原作のイメージそのままではないものの、どの方々もかわいくてとても好感を持てる。文野亜弥を演じた山本あこさん、吉岡栞を演じた吉崎綾さん、石原由香里を演じた月野もあさん、佐々木理子を演じた能登有沙さん、村上美咲を演じた宮本彩希さん……ももちろんいいのだが、筆者のお気に入りは仲居の坂田智子を演じた桑澤菜月さん。物語は主人公が定宿とする松江荘から始まるので、章が始まる時にはよく目にするキャラクターということもあってか、毎回彼女と会うのが楽しみになってきた。前作のイメージを上回るかわいいキャラクターを演じてもらって、とてもありがたい。
あと、ストーリーに関わる人物を挙げるとしたら、個人的には吉岡栞を演じた吉崎綾さんかも。ストーリーを攻略してようやく会えるキャラクターということもあってか思い入れがあるし、「ルートレターLA」で新たに用意された「後日談」で最後に見せた表情がなんとも印象的でいとおしかった。
なお「ルートレターLA」では、オプション画面で、イラスト版の「オリジナルモード」か、実写版の「ドラマモード」を選ぶことができるようになっているが、これはセーブした途中での切り替えも可能で、「あ、ここはオリジナルで見たいかな」というときには「スマホ」からセーブしていったんタイトルに戻り、オプションからモードを変更して、そのあと保存したセーブデータから再開すればモードが切り替わるようになっているのがうれしい。それは本作で加わった解明編も同様で、オリジナルモード、ドラマモードの2種類が用意されている。ここはぜひとも両方でプレイしてほしいところだ。
1度は聖地巡礼で行きたい街、松江
ドラマモードの実写版で特に表現がよくなっているのが、松江の各観光地を訪れるシーンだろうか。松江城、宍道湖、出雲日御碕灯台のほか、山陰中央新報社、山陰中央テレビ、島根県立美術館などなど、実際にその名前で存在したり、モデルとなった場所はすべて実写のため、リアルさが増している。神在庵のモデルとなった「神代そば(かみよそば)」は有名なので、訪ねたことがある人もいるのではないだろうか。
筆者も10年ほど前に出雲へ旅行に行ったことがあり、その時には一畑電車に乗り、松江しんじ湖温泉駅まで行き、宍道湖畔まで足を伸ばしたのでとても懐かしかった。ただし松江周辺を散策せずに帰ってきてしまったので、今度訪れるときは聖地巡礼をしてみたいものだ。
前作をプレイした人も「解明編」をぜひ見てほしい
と、ここまで「ルートレターLA」についてご紹介してきたわけだが、実写化についてはそれなりに納得のいく出来栄えだったと思う。前作をプレイしていない人はもちろんだが、プレイした人も、解明編を見るためにもう1度「√letter ルートレター」の世界に戻ってきてほしい。解明編では「あのルートの結末はこうだったのか!」と思わせるシナリオが用意されている。
さて、ここまで出た次は「√Letter 2(仮称)」だ。今度はどの舞台でのミステリーを展開していくのか、興味深く追いかけていきたいと思う。
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