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【devcom2019】往年の名作「モンスターワールド」が海外リブートで復活

レトロゲームを振り返る人気セッションに「インディ・ジョーンズ」も登場

【devcom2019】

8月18日~8月19日(現地時間) 開催

会場:Koelnmesse(独ケルン)

 昨年、一昨年に引き続き、本年も独ケルンではヨーロッパ最大のゲームショウgamescomの開催に先立って、18日より開発者イベント「devcom」が始まっている。GDC EuropeとRespawnの両開発者イベントの後継的な位置付けで、3年前に装いも新たに始まったdevcomだが、同様のエキシビジョン併催イベントでも、若い開発者のパワーを感じるアジアのイベントと比較して、どうしても小粒感が否めないのが実情だ。インディにフォーカスしているというイベントコンセプトも相まって、メジャータイトルの話題に乏しい。

 そんななかdevcomで人気となっているのが、レトロゲームの振り返りを取り扱ったセッションだ。レトロゲームの振り返りは、GDCでも注目を集めるセッションで、幅広い世代の開発者に支持されている。一昨年のdevcom 2017からは、Richard Garriott氏水口哲也氏のセッションをお伝えしている。

 本年のレトロゲームセッションには、1989年に発売されたLucasfilm Games(現LucasArts)のアドベンチャーゲーム「Indiana Jones and the Last Crusade: The Graphic Adventure」(邦題はインディ・ジョーンズ/最後の聖戦)の開発者、David Fox氏とNoah Falstein氏が登壇した。若かりし頃を知るわけではないが、両氏共にすっかりお爺ちゃんだ。セッションの内容は、ゲームそのものの振り返りというより、当時まだまだ牧歌的だったLucasfilmのゲーム開発部門の開発風景を懐古するといった趣向だった。

 また、続いてのセッションでは、「ワンダーボーイ」、「モンスターワールド」シリーズの海外リブート作品「Monster Boy and the Cursed Kingdom」について、同シリーズの生みの親である西澤龍一氏を招いて、フリートーク形式でリブート開発にまつわる、よもやま話を伝えていた。

 同じレトロゲームくくりといっても、両セッションのテーマや着地点はまったく異なるものだが、いずれもどこかノスタルジックで、最新ゲームとは異なる、ある種独特のゆるさが漂うセッションとなっていた。devcom初日のレポートとして、両セッションの雰囲気をお伝えしたい。

かつてのLucasfilm Gamesに在籍したDavid Fox氏とNoah Falstein氏
「Monster Boy and the Cursed Kingdom」セッション壇上風景

業界の重鎮が「インディジョーンズ」でゲーム黎明期を語る

 発足当初、ルーカスフィルムのゲーム部門は、物理的にも製作者の交流といった意味でも、映画製作を行なう本体とかなり近い位置にあった。David Fox氏とNoah Falstein氏のオフィスも農場を模したSkywalker Ranchの一角、馬小屋風の建物にあったという。

 両氏とも、Skywalker Ranchという閉じた架空の農場世界を大変懐かしんでおり、ルーカスがオリジナルの消防署と消防車が登場したときに大変興奮して喜んでいた逸話や、美しい自然、施設内のライブラリ、自分のオフィスで開発に使っていたサン・マイクロシステムズのSPARCワークステーションといった話題をとりとめなく披露していった。

登壇したかつてのゲームデザイナー、Noah Falstein氏
同じくかつてのゲームデザイナー、David Fox氏

 ゲームデザイナーであったFalstein氏は、仕事の面で、「Koronis Rift」の開発を共にしたプログラマ、Ron Gilbert氏やAric Wilmunder氏との交流が深かった。とりわけ、以後もLua言語に取って代わられるまで、社内でバージョンアップを重ねながら使用し続けられた簡易スクリプト言語SCUMMに対する思い入れは深いようで、Falstein氏からはSCUMMを生み出したプログラマの両氏に対する敬意が感じられた。

 実際、当時とのゲーム開発としては先進的なSCUMMには驚かされる。ワークステーションの世界では、1980年代にはすでにいくつものプログラミング言語が存在しており、それらの言語を参考にゲーム開発用スクリプト言語を開発することも可能ではあったと思う。ただし、当時は高級なスクリプト言語でゲームの流れを組み立てたり、オブジェクトの挙動を定義したりする、恵まれた環境はごく一部ではなかっただろうか。

 筆者が所属していた開発チームでは、スーパーファミコン世代までのタイトルでは、プログラム側から参照するデータ列を変換表を見ながら直接バイトコードで記述していた。後のプロジェクトでは、SCUMMと似たようなスクリプトで記述して、コンバータでデータ列のみを格納したバイナリに変換したり、データ列を直接C言語の文法で記述してプログラマのソースコードに取り込んでもらったりといった開発の流れに変わっていったが、プログラマはゲームそのもののコードを書く作業で余力がなく、ゲームデザイナーが使用する環境はどうしても二の次といった状況だったように思う。

 このあたりは、会社やプロジェクトの体力、開発者のバックグラウンドに大きく依存する部分ではあるが、SCUMMの設計思想やそれぞれの機能を見るに、パソコン用ゲームの開発プロジェクトらしいなと感じる。

【SCUMMスクリプト】

 ルーカスフィルムがゲームに進出した当初は、ゲームオリジナルのIPや他社のIPをベースにしたゲームタイトルが続くが、映画「インディ・ジョーンズ」を題材にしたゲームで、ついに本格的に自社のオリジナルIPを活用したゲームを確立することになる。

 この際のゲーム化に対するジレンマは非常によくわかるもので、ゲーム開発者としては究極の選択だ。ひとつは、ゲームの購買層の多くは映画のファンだから、映画のストーリーラインに忠実に従うことだ。とはいえ、ゲームらしいインタラクティブな部分も無視はできないから、多少のパズル性を持たせる。オリジナルゲームを開発してきたゲーム開発者としては、どうにも興が削がれるアプローチだが、ファンが求めるものを創ることに合理性があることはうなずける。

 もうひとつは、極端な話、メジャーな「インディ・ジョーンズ」のネームバリューと映画の世界観だけ拝借して、オリジナルのゲームを創ってしまうことだ。ただし、その場合、映画のファンと決別するという厳しい選択をすることになってしまう。最終的な決断は、前者ということになるわけだが、このあたりのジレンマはキャラクターゲームには常につきまとう。後者のアプローチで成功したゲームも存在するが、すでにゲームデザインが確立しているものに、より大きい商業的な成功を目的に、後付けでIPとのタイアップが決まった、という経緯のものが多いように思う。たいていの場合、強力なIPに対してオリジナルストーリーで勝負すると、名前負けしてしまう。

 「インディ・ジョーンズ」が、「スター・ウォーズ」より先行したのは、原作監督の関心の度合いも影響しているようだ。新しいものに対する好奇心が旺盛なスピルバーグは、映画同様にゲームに対しても強い関心を持っていた。対して、ルーカスの方は、どちらかというと映画は映画、ゲームはゲームといった考えで、ゲームに対する関心はそれほど高くなかったようだ。ともあれ、ルーカスフィルムがゲームでも自社のIPを最大限活用して、成功を収めるようになる礎を築いたのは、本作によるところが大きい。

【ジレンマの末に誕生したゲーム】

 あともうひとつ興味深い話題は、ゲームの“ドイツ対策”だ。devcomがドイツ開催ということで、昨年「Wolfenstein」のセッションでも話題のひとつになっていたが、この時代の、しかもPC用ゲームであっても無視できないというのは驚きだ。我々日本人にとっては、デザインのひとつにすぎないと軽視してしまいがちだが、ナチスを想起させる表現に対する厳格な対応はヨーロッパでは絶対事項だ。

 ただし、本作の対策は、かつてのゲームによくありがちな鉤十字のグラフィックを塗りつぶしてしまう、といったものだ。それらを置き換えるための新たなデザインを起こしたりといった対応はなされていない。この程度で許容された時代といったところだろう。テキストもドイツ語にローカライズされているが、このあたりも特段に難しいものではない。テキスト中の「Fuhrer」という名称はそのままでいいのかと思わなくもないが、それだけ鉤十字という視覚表現が忌避されているということが、改めて確認できた。

【ドイツ対策】

 いつものレポートでは、モダンなゲーム製作においてもレトロゲームのこういった部分は通じるものがある、とお伝えしているところだが、本セッションの内容にはその手の話題はあまりない。とはいえ、当時のビッグネームの開発風景、しかも日本のゲーム開発とは、また趣の異なった環境を知るいい機会になった。

【Skywalker Ranchの開発環境】

苦節4年「モンスターワールド」の海外リブートついに完遂

 続いての時間に行なわれたセッションには、期せずして日本人の登壇者が招かれていた。アーケードや、かつてのセガのコンシューマハードなどで人気を博した往年の名作「ワンダーボーイ」、そして「モンスターワールド」シリーズの開発者、西澤龍一氏だ。

 昨年12月に、Switch、PS4、Xbox Oneの各コンソール向けに、本年7月にはWindows PC向けに、同シリーズのリブート作「Monster Boy and the Cursed Kingdom」がリリースされたことを受けたもので、パブリッシングを担当したFDG EntertainmentのPhilippe Doeschl氏、開発を担当したGame AtelierのFabien Demeulenaere氏と共に元気な姿を見せてくれた。

モンスターワールドシリーズの開発者、西澤龍一氏
リブート作開発者のFabien Demeulenaere氏

 Vivendi GamesやKonamiでの開発経験を持ち、本プロジェクトでの開発をリードしたDemeulenaere氏の古き良き横スクロールアクションに対する愛情は相当なもので、加えて日本のゲームミュージックに対する思い入れも深い。当初、2010年リリースのGame Atelierのタイトル「Flying Hamster」の続編、「Flying Hamster II: Knight of the Golden Seed」の開発のために、キックスターターで資金を集めていたDemeulenaere氏は、山根ミチル氏、桜庭統氏、そして古代祐三氏といった錚々たる顔ぶれに、次々と直接コンタクトをとって口説き落としている。

 西澤氏との交流もそうした流れの中で生まれたもので、西澤氏からの当初のコラボレーションの提案も、「Flying Hamster II: Knight of the Golden Seed」にキャラクターを登場させませんか、といったものだった。

 「Flying Hamster II: Knight of the Golden Seed」のプロジェクト自体は、2015年1月の段階で開発中止が告げられると同時に、プロジェクトが「モンスターワールド」シリーズのリブート作「Monster Boy」に移行することが発表されている。この段階で、FDG Entertainmentとの協業も発表されており、本プロジェクトに関与する役者が揃う形となった。

 その時点から起算しても、リリースまで4年、原作の「モンスターワールド」シリーズが大好きだからキックスターターでお金を集め、家族との日常生活を犠牲にして、5年もかけて創っちゃいました、というのだから本当に頭が下がる。

【リブート作ゲーム画面】

 Doeschl氏によると、本作のコンソール版のセールスが、リリースから1週間で5万本だというから、プロジェクトは大成功といえるだろう。ただし、Demeulenaere氏によると開発にはトータルで300万ユーロ費やしているというから、まだまだ開発費を回収できていない状況といったことが推測される。

 ここまで開発費が膨らんだ要因は、クラウドソーシングの多用によるクオリティコントロールの難しさや、好きならばこその採算面を度外視した度重なるやり直しによると思われるが、果たしてゲームを具現化させたのだから、海外インディディベロッパーの行動力には目を見張るものがある。Windows版ともども今後もセールスを重ねて、順調に回収していってくれることを祈るばかりだ。

 子供のころの原体験をベースに、本作のようなゲームに熱狂的なエールを送ってくれるコアなファンがいることは間違いなく、会場で質問をしていたゲーム開発者からもその熱量は大いに伝わってきた。

 西澤氏の方も、本作の完成、そして「モンスターワールド」シリーズをいまだ多数のゲーマーが愛してくれていることに大いに喜んでいるようで、今後もこうしたコラボレーションに前向きであるように感じられた。

 筆者が知る限りでも、西澤氏以外にも、かつての名作で名を馳せた日本のクリエイターのなかには、海外で評価され、作品が愛され続けていることに好意的で、開発に協力的な人物は多いように感じる。外国人のストレートな感情表現のなせる技といったところだろうが、誰の手によるものであろうと、こうして新作がリリースされ続けることで、日本の名作ゲームが過去のものになってしまわないことは素直に喜ばしい。

【リブート作ゲーム画面】

 最後にサプライズとして、西澤龍一氏自身からも、本作とは別に「モンスターワールド」シリーズの新作を仕込んでいることが告知された。単なる移植やリメイクに留まらないリブート作品とのことで、相次ぐ海外でのリメイクやリブートの動きに、原作者の方が触発されたのかもしれない。このひと月の間にも続報がでるとのこと。シリーズのファンには期待大だ。