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【devcom 2017】水口哲也氏が語る「Rez」ワールドの過去と未来
「Rez」進化の鍵を握るのは、次世代VR/ARデバイスの登場か
2017年8月22日 16:06
devcom会期2日目の21日(現地時間)、Enhance Gamesの水口哲也氏は、「Why new technology keeps me coming back to Rez」(新しいテクノロジが登場するたびにRezに向き合い続けるワケ)と題して、同氏のライフワークというべき「Rez」シリーズの変遷を語るセッションを行なった。
本セッションは、「Rez」の技術解説でもなく、また同作のゲームデザインの機微を語ったものでもない。ひとえに水口氏が過去に触れた原体験から「Rez」が誕生し、そして時代の変化に合わせてその姿を変えてきた経緯を語ったものだ。
「水口氏がSynesthesia(共感覚)と定義する音楽と映像、そしてインタラクションとの融合の真髄は、たとえどのようにテクノロジが進化したとしても、普遍的で変わることはない」。そんな同氏のSynesthesiaに賭ける情熱を感じさせる一幕となった。
オリジナルの「Rez」は、スペースチャンネル5の流れを組んで2001年にリリースされたゲームで、コントローラーのトリガーを押して、攻撃と破壊のSEを鳴らす行為が、ゲームBGMのリズム楽器のパートを奏でてリズムを刻むのとイコールになるようにデザインされている。いわゆる一種の“音ゲー”ではあるが、当時すでに一定の飽和状態になっていた同ジャンルに、新風を吹き込んだ作品だ。
GDC 2016で行なわれた講演でも語られていたように、「Rez」の開発に至る原体験は、スイスのチューリッヒで1997年に行なわれたパレードにある。その場に居合わせた水口氏は、スタジアムに詰めかけた10万人の観衆が、音楽のリズムに合わせて一斉に体を動かす姿を見て、音の持つパワーに深く感銘を受けたという。
人が自然に、つい体を動かしてしまう、その何でもない誰にでもできる簡単な行動が、個の中で心地よい体感と一体になる。また、10万人もの異なる個体の人間が、ひとつの音楽によってひとつの個体ともいうべき状態になる、そんなシーンが、後のSynesthesiaというキーワードに結びついている。
「Rez」は聴覚で感じながら、トリガーによるインタラクションによって奏でる音楽というものを、グラフィクスに置き換えて視覚化しているゲームだとも言える。水口氏にとって、目に見えないものの視覚化の原点は、モスクワの街の時間と空間を超越して、すべてを融合させた状態で一枚のキャンバスに描き切ったカンディンスキーの絵画にある。
19世紀半ばの表現の限界が、1枚のキャンバスというテクノロジに対して、ひとつのシーンとして絵筆で絵画を描くという手法で実現されたのだとするならば、20世紀末から21世紀初頭にかけての表現の限界とは何か。その表現の限界に挑戦したのが「Rez」であり、モニタ画面にゲーム機という最先端のテクノロジに対して、視覚と聴覚、そして振動による体感、さらにはトリガーによるインタラクションを融合させる手法で、ひとつのシーンとして結実している。
発売当時、「Rez」は商業的には必ずしも成功とは言えなかったが、その後に評価を高めていく。多くのプレーヤーに支持され、次第に熱狂的なファンを獲得していった。同作が成功に向かう一方で、水口氏自身は、フラストレーションを抱えたままだったという。というのも、水口氏の脳内にある「Rez」のビジョンと、実際に具現化されたゲームとしての「Rez」と隔たりがあまりにも大きかったからだ。
ゲーム機という入力と出力を併せ持つ最新のテクノロジでも脳内ワールドを具現化することはできず、水口氏は新たな挑戦へと向かうことになる。それがVRであり、その最初の挑戦は90年代終わりから2000年代当初で、「Rez」がリリースされるのと、ほとんど同時期に並行して行なわれていたことになる。
当時、日本の大手ゲーム会社はアーケード用の大型体感ゲームを積極的に開発しており、プロトタイプのなかには今まさに実現しているVRのようなものもあった。結局、この最初のVRへの挑戦は、3D処理能力の関係で製品化はできず、早すぎたVRへの挑戦は失敗に終わってしまう。
VR化が不発でも、水口氏のSynesthesiaへの取り組みは終わったわけではない。2004年には、最新のポータブルミュージックプレーヤーでもあるPSPで、日常的に音楽を一緒に持ち出すことをコンセプトに「ルミネス」を開発する。同作がパズルゲームとなったのは、Synesthesia体験を、もっと簡単に誰もが気軽に楽しめるものにしたいという考えからだ。
また、「ルミネス」に続いて、2011年に「Rez」の精神的続編ともいうべき位置付けで開発されたのが、「Child of Eden」だ。同作では、最新テクノロジとして、Microsoft Kinectのジェスチャ入力やPlayStation Moveのハンドセット入力がもたらす新感覚を取り込んでいる。
そしてついに、2016年には、「Rez」リブートの起点となった「Rez Infinite」が発売される。家庭用に製品化されたVR HMDを初めて見た水口氏は、ついにやりたかったことが実現できると、非常に興奮を覚えたという。
「Rez Infinite」で導入されたテクノロジはVR HMDだけではない。26個のアクチュエイター(振動素子)を内蔵して音を体感できるSynesthesiaスーツ、LEDライトを内蔵して周囲の人々にも視覚的な刺激を与える進化版Synesthesiaスーツ2.0、HMDを装着することなくドームスクリーンに投射して多人数で体感する「Rez Infinite 4K」といった「Rez Infinite」から派生した実験的な試みが繰り返されている。
このように、水口氏がやりたかったことを具現化するテクノロジが一気に出揃いつつある。ついに時代が水口氏に追いついてきたといった状況だ。
さて、それでは、今後の「Rez」はどこへ向かうのか。水口氏がひとつのヒントとして挙げていたのは、Youtubeに投稿されているMicrosoft HoloLensにゲーム画面を投影して、現実世界の環境下で「Rez Infinite」をプレイする模様を収めた動画だ。
AR/MRは現実世界と仮想世界の透過的な融合表現であり、次世代の「Rez」が向かう方向性としては妥当なものだと言える。ただし、「Rez」はあくまでイマジネーションの世界が舞台であり、軸足を現実世界においたAR/MRとは、やや性格を異にする。
とはいえ、AR/MRでは、合成により現実空間を広範囲にマスクしたり置き換えたりすることも可能ではあるため、次世代の「Rez」は、むしろ仮想世界に軸足を置きつつ、現実世界からごく一部のリアルタイムな情報を取得してゲーム要素と融合するものとなるに違いない。まだ見ぬ次世代「Rez」が魅せる、虚構と現実が融合するプロセスを想像してしまい、興味は尽きない。
ようやく時代が追いついてきて、水口氏の脳内ワールドを表現するに足るテクノロジが登場して、「Rez Infinite」として具現化したSynesthesia。ただし、この新しい時代の幕開とも言えるVR/AR/MRの流れは、水口氏にとって、まだまだ始まりに過ぎないという。
事実、水口氏の新たなプロジェクトは始動しており、現時点ではまだ具体的なことは言えないとのことが、年内には何らかの形で新しい発表を行ないたい、とのコメントも得られた。水口氏の音楽のSynesthesia表現の探求は終わることがないようだ。