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【devcom 2017】Richard Garriott氏がゲーム開発者を鼓舞!!

「Ultima」シリーズ後継作は間もなくリリースか!?

8月20日~8月24日開催

会場:Koelnmesse(独ケルン)

Richard Garriott氏

 devcomの会期も残すところ後2日となった23日(現地時間)、コンピュータRPGの始祖Richard Garriott氏は、「The Golden Age of Computer Gaming is NOW!」(コンピュータゲームの黄金期は今だ!)と題して、ゲーム開発者、そして自身の開発を鼓舞する講演を行なった。

 Destination GamesがNC Softの傘下に収まり、MMORPG「Tabula Rasa」をリリースするも、同作が商業的には失敗とされた後、長らく消息を聞くことはなかったが、キックスターターで3億ドルの資金を調達し、2013年春頃から「Ultima」シリーズの精神的続編「Shroud of the Avatar: Forsaken Virtues」を開発している。2014年晩秋には、同作のアーリーアクセス版がリリースされたが、同作のステータスは2017年の今でもそのままだ。

 そんなGarriott氏が、久々にヨーロッパの開発者の前に元気な姿を見せてくれた。会場には、伝説の開発者から知見を得ようと、多くの若い開発者が集まっていた。他の著名な開発者の2倍近い聴衆が集まったと思われ、同氏の知名度の高さが伺える講演となっていた。

 講演は、オールドゲームファンにとって、ノスタルジックな魅力溢れる昔話から始まる。宇宙飛行士の父親、アーティストの母親、本人の少年、青年時代の冒険譚に続き、2008年にロシアのソユーズで遂に宇宙へと冒険旅行に出かけた話を披露した。ISS国際宇宙ステーションからは、当時サービスを開示していた「Tabula Rasa」のゲーム内言語で、地球で待つファンに向けてメッセージを送った逸話も、今となっては懐かしさだけが残る。

Garriott氏13歳のころの開発環境。テレタイプという端末からミニコンを操作する。ディスプレイは存在せず、入出力装置共に紙テープであるため、フレームレートはわずか1フレーム/30秒

 続いて、Garriott氏は、自身のゲーム開発史に大きく3つの革新的な出来事があるとし、順を追って紹介していった。

 ひとつ目の革新は、シングルプレイゲームでのもので、具体的な要素は実に多岐に渡る。「Ultima」の原型「Akalabeth: World of Doom」に始まり、パターンを増やしながら「Ultima VIII」まで受け継がれたタイルベースのフィールド、「Ultima VIII」で採用されたマウス入力によるアクション性といったゲームルールのアイディアに加えて、「Ultima IV」以降の3つの原理と8つの徳の概念、独自の文字や歴史の設定、アイテムリソース消費型の魔法とった設定的な部分に、Garriott氏らしいゲームデザインを感じとることができる。

【シングルプレイゲーム史】

 2つ目の革新は、MMOゲームの時代で、世界初のMMORPG「Ultima Online」と「Tabula Rasa」がこれにあたる。「Ultima Online」は、必ずしも戦闘に向かない職業も多数用意されており、仮想世界での生活に厚みを持たせるゲームデザインがなされている。「Tabula Rasa」は、アクション性の高いコンバットが特徴的で、Garriott氏こだわりの世界設定の領域では、「Ultima」の表音文字に対して、本作では表意文字の創作に挑戦した。

 3つ目の革新は、現在進行形の選択型マルチプレーヤーオンラインゲーム「Shroud of the Avatar: Forsaken Virtues 」だ。本作では、プレーヤーは任意にマルチプレイの度合いを切り替えて、自由に選択することができる。シングルオフライン、シングルオンライン、フレンドオンライン、オープンオンラインの4つのモードが選択可能で、すべてのプレーヤーが同一のサーバーで管理されている。

 また、Garriott氏こだわりのリアルな天体や天文学がゲーム世界に存在するほか、「Ultima」の流れをくむ3原理8徳の概念、アンク、小デックス、ルーンといったシンボル、独自の言語や歴史もしっかりと設定されているのも特徴的だ。

 本作は、冒頭でも触れたとおり、2014年秋頃からアーリーアクセスが続いているが、少なくとも年内に正式リリースを迎えるという話もあり、遅れるとしてもあと1年も2年もかかる話ではないと考えられる。

 あまりにも「Ultima」の世界観が形成されていく昔話が懐かしく、また、ついに宇宙へと飛び立ったGarriott氏の冒険譚が興味深いせいで、ついつい忘れがちになってしまうが、本講演のテーマについてのGarriott氏の回答は、次のふたつに集約されるだろう。

 ひとつは、ハードウェア性能の進化が極まっていることだ。昨今は、ムーアの法則が頭打ちになりつつあるが、それは裏を返せば、将来のハードウェアの進化を期待して、新規ゲーム開発プロジェクトの開始を躊躇したり、開発中のプロジェクトを鈍化させたりする必要がないということを意味する。

 また、資金調達方法や外部委託方法にも、クラウドファンディングや、クラウドソーシングといった新しい形態のものが登場している。クラウドファンディングによる資金調達の方は、Garriott氏ほどのネームバリューがあって、はじめて実現可能なプロジェクトの規模のものもあるだろうが、ゲームエンジンの導入や既存アセットの最大活用といった小規模でも採用可能な方法論が、いくつか確立している。

 一方のクラウドソーシングのほうは、委託代金を同作への開発支援金にする、という選択肢が用意されているのが新しい。これは一種の労務出資ということができ、お金はなくても技能があれば、本作のような人気プロジェクトを汗をかいてバックして、特典を受け取ることもできるということだ。

 ふたつをまとめると、プロジェクトに対する開発費の入り口を増やして、出口を狭めるといことになり、場合によっては集まった金額の2倍近い実バリューを生み出す可能性もあるだろう。

 Garriott氏に“そそのかされ”て、新ゲーム開発に乗り出すかどうかは、個々の開発者次第だが、ここはひとつ同氏の甘言に惑わされるくらいで良いのかもしれない。そう感じさせられる“魔力”に富んだGarriott氏のトークであった。