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【devcom2019】須田剛一氏率いる日伊学生プロジェクト「NFINITO」の成果を披露

「Lullaby」、「Cosmopedia」の2タイトルを東京ゲームショウで展示

【devcom2019】

8月18日~8月19日(現地時間) 開催

会場:Koelnmesse(独ケルン)

 昨夜のNight LIVEに引き続き、いよいよ本日から本格開催されるgamescom。メインイベントの開催に先立って2日に渡り開催されたdevcomの2日目からは、日本のバンタンゲームアカデミーとイタリアのVigamus Academyの学生が共同で取り組む「INFINITO」プロジェクトを紹介するトークの模様をお伝えしたい。

 この国際的な取り組みを指導しているのは、グラスホッパー・マニファクチュアCEOでゲームデザイナーの須田剛一氏だ。須田氏に加え、イタリアのVigamus側からはMarco Accordi Rickards氏、バンタン側からは石川広己氏と、いずれもトップが登壇するという力の入りようで、ヨーロッパのゲーム開発者に両校の取り組みを認知してもらう良い機会となっていた。

トークの登壇者。左から、須田剛一氏、Marco Accordi Rickards氏、石川広己氏

 イタリア語のINFINITO、つまりインフィニティ、無限と命名された本プロジェクトは、プロジェクトに参加する若い力の無限の可能性を願ってのものだ。以前から交流があった両校では、共同での取り組みに対する漠然とした希望が以前からあり、さまざまな可能性を模索していたという。そんななか、以前から特別講師の形でバンタンの学生に教鞭を執っていた須田氏が、本年から週に1回、2時間のコマを担当することになり、本プロジェクトの実現に繋がった。

グラスホッパー・マニファクチュアCEOでゲームデザイナーの須田剛一氏

 プロジェクトはまず、学生全員が企画を立てることから始まる。出来上がった企画書を指導者の須田氏に通すという関門を乗り越えた2つの企画に基づいて、1チームに日伊それぞれ5名のメンバーで編成された2つのチームによって、本年5月からゲーム開発が進められてきた。その2作品を一般にお披露目する場が、このdevcomというわけだ。

 作品のひとつは、ホラーテイストのアドベンチャー「Lullaby」(ララバイ)で、イタリア人学生が立案したものだ。もうひとつは日本の学生が立案したもので、「Cosmopedia」(コスモぺディア)と命名されている。特に「Cosmopedia」は須田氏も太鼓判を押すゲーム内容で、宇宙を旅する列車内で、異星人との異文化コミュニケーションを通じて、宇宙人の少年が無くしたチケットを探してあげる物語を紡いでいく。

 企画を立案するにあたり、須田氏から提示されたお題はたったひとつ。横スクロールゲームにすること、これだけだ。企画の選定にあたった須田氏には、日本とイタリアそれぞれからひとつずつ企画を通すことができればいいな、という想いがあったそうだ。偶然にも、果たしてその通りになって良かったとホッとした裏話をしてくれていた。

 今後、本プロジェクトの2作品は、9月の東京ゲームショウと11月にイタリアのローマで開催されるGameromeと二度に渡ってプレイアブル展示される。最終的に完成したバージョンを配信する予定もあるとのことなので、ショウに参加できなくてもゲームに触れるチャンスはありそうだ。

【Lullaby】

【Cosmopedia】

 ゲームのいったんの完成に際して、須田氏自身の振り返りとして、自分のやりたいことをやりたいようにするための普段のプロジェクトとは異なり、学生自身のやりたいことをやりたいように実現させてあげるための本プロジェクトから自身が学ぶことも多かったというのは興味深い。

 普段ストレートに自分の企画内容を声を大にして熱っぽく他者に語り、時には人々を説得、納得させている開発者が、学生達への助言を最小限に留め、時にはあえて沈黙するというのは、なかなか難しいものだ。須田氏自身が体験したであろう、このあたりのジレンマは想像に難くない。

 トークの締めくくりに学生達に対して「ありがとう」の一言をかけていたのは、素直な感謝の気持ちと、プロジェクトに尽力した学生達へのねぎらいの気持ちが合わさったものだろう。実にほっこりする一幕だ。

LIVEビデオカンファレンスを活用した日伊同時の授業風景

 他方、学生達の方はというと、国際的に共同でゲームを開発していく本プロジェクトの苦労話として、皆が皆、異口同音にコミュニケーションの問題を挙げていた。なるほど、彼らにとって今は眼前にそびえ立つ非常に高い壁に感じたかもしれない。ところが、実のところは時差も言語もさほど大きな問題ではなく、まったく心配はいらない。ことの本質は、物事のバックグラウンドに対する相互の理解があるか、この1点に尽きる。

 心配しなくても人間必要に迫られれば行動を起こすもので、外国人と共同のゲーム開発プロジェクトでは、英語の得手不得手にかかわらず、謎のちゃんぽん語が開発室のあちこちから聞こえてくるものだ。そもそもコミュニケーションは手段であり、最初の取っ掛かり、きっかけに思い切りが必要なだけで、ゲームを完成させるという目的の前には取るに足りない瑣末なことだ。

 しかも幸運なことに、ゲーム開発に関心を寄せる多くの外国人は、日本のマンガ、アニメ、ゲームが大好きで、本当によく知っている。その知識のほどは相当なもので、大抵の場合かなりディープなマニアクラスだ。話すネタは十分にある。

 にもかかわらず、登壇したイタリア人学生は日本人学生のことを指して仕事の同僚を意味するcolleague(イタリア語ではcollega)と呼び、普通に友人を意味するamicoやcompagnoではなく、また具体的な名前でも呼ばない距離感というのには、少々違和感があった。人懐っこいイタリア人が、チームメイトを指してcolleagueというのは自然なこととは思えないから、プロジェクトメンバー同士で、日本のサブカルに関する無駄話をもっともっとたくさんする必要があるだろう。

 実際に直接顔を合わせた今回のイベントを契機に、互いのSNSアカウントなんかを交換して、授業のコマの時間以外にも、たとえ短い時間でも気軽にコミュニケーションを取る関係ができれば、本プロジェクトのみならず、将来に長く続くゲーム開発者としてのキャリアのなかで、いつか力になってくれる友人ができるかもしれない。

Slackなどのリニアなタイムラインを主体にしたメッセージングツールは、今だけ必要な情報を共有するのに便利な反面、中長期的に情報をまとめていったり、もっと気軽な数人での雑談には向かない。このあたりは個々のメンバーがSNS等を活用して、それぞれ能動的にコミュニケーションの輪を広げていく必要があるだろう

 学習を目的とした取り組みでは、まずはやってみること、そして就学者のみならず、関与する全員がそれぞれの立ち位置で、自分なりの知見を体得することが、何よりも重要だ。そういった意味では、本プロジェクトの終着点がどのようなものでれ、一定の成果を挙げつつあると言えるだろう。

 同世代の学生誰しもが得られる訳ではないこうした共同作業は、非常に素晴らしいものだ。石川氏が、ゆっくりと自身の言葉を咀嚼しながら、カリキュラムの一環として継続的に取り組んでいきたいと今後の抱負を述べていたとおり、是非とも続けていってほしいものだ。

バンタン代表取締役の石川広己氏

 ひとつ課題を挙げるなら、ブースにアテンドしている日本人学生がいなかったということになるだろう。トーク終了から1時間ほどして筆者がブースを訪れたとき、そこにはイタリア人学生が3人しかおらず、日本人学生はひとりもいなかった。どうしたわけかと聞いてみると「日本からの長旅で疲れているので~」と思いやりをみせていたが、共同プロジェクトの運営方針として違和感を感じざるを得ない。

 言葉ができないことはアテンドさせない大きな理由にならないだろう。というのも、ブースにいたイタリア人学生にしても、決して英語が得意というわけではなく、日本語もドイツ語も話せるわけではなかった。言葉が通じない相手に自分達の作ったゲームをアピールすることも、外国人のゲームプレイを観察することからフィードバックを得ることも十分可能で、これもまた学びだと思うが、どういうわけかdevcomでは重視されていないうことになる。

 gamescomにもブースを出展するとのことで、こちらの方は事情が違うかもしれない。うまくことが運ぶかどうかはともかく、何事も共同で取り組むということは相互の信頼関係を構築する上での礎になるのは間違いない。

【ゲーム作品ブース展示】

 もっとも、この課題は、おおむねdevcom参加に対する仕切りの問題で、参加している学生が悪いわけではない。当人達は海外のゲームショウに臨んでの高揚感もあり、好奇心から興味が多方に向いていることだろう。最近の若い人は指示に対して素直だし、予定されているきまりごとを超えて、自らブース担当を志願することがなくても、特段に不思議はない。

 おそらくは、仕切りの担い手が、自分達が出展するゲームそのものに執われるあまり、出展者としての自分達がどう見られるか、自分達に対して周囲が期待するものは何なのか、こういったことを事前に想定しておく心のゆとりに欠けてしまったのだろう。イベント参加を取り仕切る体制づくりに関しては、一考も二考もする必要がありそうだ。

イタリア、Vigamus AcademyのExecutive Director、Marco Accordi Rickards氏

 今回の出展が初めてということもあり、学生のカリキュラムの一環ということもあって、あまり難しいことを言っても仕方がないとは思うが、トークの持ち時間のみならず、イベントに関する一切合切を含めた体験全体が学習だと思う。“遠足はおうちに帰るまでが遠足”なので、ドイツ滞在中のあらゆる機会を最大限に活かしきってほしいものだ。

 また、本日以降も、イタリア側の学生との交流や、gamescom会場、そしてドイツを見て回るスケジュールが組まれていることだろう。何事にも尻込みしないで、ぜひとも貪欲に見聞を広め、将来のゲーム開発に役立ててもらいたい。