ニュース
【GDC 2019】「テトリス エフェクト」が苦悩した「テトリス」と画面演出の猛反発
「このままでは普通のテトリス」。脱却のヒントは感情の動きにあった
2019年3月21日 16:11
プレイステーション 4とPlayStation VRでプレイできる「テトリス エフェクト」。ゲームデザイナーの水口哲也氏率いるEnhanceから突如として現われた、「テトリス」に光と音楽を融合させた意欲的なタイトルだ。
GDC 2019では、水口哲也氏のほかEnhance VP BizDev and ProductionのMark MacDonald氏、Enhanceのコンセプトデザイナーで「テトリス エフェクト」の開発ディレクターを担当した石原孝士氏より「テトリス エフェクト」がいかにして作られていったかが語られた。
「ゾーン」体験を強化するための新「テトリス」作品
ことの始まりは、水口氏とザ・テトリス・カンパニーのヘンク・ブラウアー・ロジャース氏がかねてからの知り合いだったことによる。ある日、ヘンク氏から水口氏に「『テトリス』と音楽が融合したゲームを作らないか?」と相談があったそうだ。
「テトリス」のプレイ体験には、いわゆる「ゾーン」に入る瞬間がある。そこに水口氏が手がける作品との共通点を感じたヘンク氏が、「テトリス」のゾーン体験をより強化できるのではと考えたわけだ。
そこで水口氏は、石原氏にこの作品作りを任せることになる。「ZEN TETRIS」というコードネームが付けられたプロジェクトは、まずコンセプト作りから始まった。石原氏は「テトリス」のゲーム画面の周りに「想像力を刺激する」ような宇宙空間や水中、またサイケデリックなイメージを置き、これをもとに1つの映像デモを作ることになる。
コンセプトが決まったらいよいよ開発に着手することになるが、当時は「Rez infinite」の仕上げで忙しい時期であり、石原氏が1人、水面下でプロジェクトを進めることになった。
石原氏はもともとアーティストであり、画作りからコンセプトデザイン、ディレクションまで1人でこなせる手腕を持つ。開発でまず取り掛かったのは、テトリミノがどう落ちてどう消滅していくかなどの演出案、そしてステージの構成案だ。
海の中のような場所で、プレーヤーの周りをイルカが泳いでいるようなステージや、プレーヤーを加工用に風車が配置されているようなステージなど、結果として30以上の案を作ることになる。1人で少しずつ作業を進めていたため、2年もの歳月がかかったとした。
次に石原氏は音楽のジャンルを選定。まだゲームを作ってはいない段階だが、ここで音楽とビジュアルの融合を考えておかないと、ゲームプレイを作り出したときに深みが出ないのだとした。
そして2016年末に「Rez Infinite」が完成すると、いよいよ開発に取り掛かることとなる。最初に作ったデモは、空間全体に演出が広がり、「テトリス」の動作に合わせて音と光が交わっていく構成案通りのもの。できる限りリッチに作ったというが、しかしプレイしてみると「気持ちよくない」上、「集中力が続かない」という大問題を抱えていることが判明。そのためプレイしていても疲労感や眠気を感じ、時にはVRヘッドセットを被りながら寝ていたこともあったという。
石原氏にとって誤算だったのは、「テトリス」をプレイしているとその1点に視線が集中するため、せっかくの周りの演出がほぼ見られないこと。テストプレイでは空間に何がいたか覚えていないこともあるほどで、「このままだと普通のテトリスだ」と危機感を覚えたという。
これを解決するために演出をより派手にすることも試してみたが、演出を派手にすれば「テトリス」の邪魔になり、「テトリス」を前面に出せば演出が目に入らなくなり、ジレンマの連続になってしまった。
感情の変化に演出を合わせる
石原氏は悩み続け、「2カ月間、頭の中にテトリミノがずっとある状態」だったそうだが、そこで「『テトリス』をわかった気になっていたのかも」と原点に立ち返ることに。つまり、通常の「テトリス」をひたすらプレイすることにしたのだ。
ここで石原氏が注目したのが、「テトリス」プレイ中の感情の変化について。よくよくプレーヤーとして感情の動きを分析してみると、いつもは集中していても、ふと安心して気持ちに余裕が出る瞬間があることに気づいたという。
「これはちょうど車のドライビングに似ている」と石原氏。ドライビングでは、いつもは1点に集中して運転しているが、渋滞から抜けた瞬間、曲がり角を曲がった瞬間など、ふと安心するときが訪れる。そこで気持ちに余裕が生まれ、周りの景色を見たり、同乗者に話しかけたり、音楽をかけ始めたりする。
この着想をもとに、石原氏は再び「テトリス」の再構築に取り掛かる。「テトリス」のプレイで気持ちが落ち着く瞬間に光と音の演出を入れ、配置場所は無理なく目を動かせる範囲ギリギリの、プレイエリアの近くにした。すると、プレイ中も周りの状況を把握できるようになり、「テトリス」と周囲の演出が馴染むようになった。石原氏は、「プレイする人の感情の動きをしっかり掴むこと」が何より大事だったと話した。
演出の方向性が見えたら、Enhanceが信条としている「プレイの気持ちよさ」の創出に取り掛かる。Enhanceが決めているのは、ゲームプレイとサウンドとビジュアルの量を1:1:1にすること。バランスを整えることで各要素が結びつき、全体の気持ちよさに繋がるという。「テトリス」はゲームプレイが強いゲームのため、サウンドとビジュアルを強化する必要があった。
そのためEnhanceの独自ゲームエンジン「シナスタジア・エンジン」を強化する必要があったという。このとき強化されたのは「Physics(物理)」と「Morphing(変形)」。「Physics」では演出の動きに緩急が付くようになり、空気感や音の印象も変えられる。また「Morphing」では画面を舞うパーティクル(粒子)がイルカになり、マンタになりと演出にストーリー性を持たせることができる。
インパクトとナラティブ的要素を演出に加えたことによって1:1:1の方程式が整い、ようやく「テトリス エフェクト」の完成が見えてきたとした。
また本作の特徴である「ゾーンモード」については、新たな特徴的要素を考えているときにメインプログラマーが話した「テトリミノが消えなかったら面白いのでは?」という意見がもとになっているという。
実際に作ってみると、4段以上のラインを消せるチャンスにもなり、当初のコンセプトの「ゾーン体験を強化する」という方向性ともあっている。そのため名前もそのまま「ゾーンモード」と名付けることにしたそうだ。
ちなみにゲームの正式名については、コードネーム通りの「ZEN TETRIS」にすることも一時は考えたそうだが、「ZEN」は人によってはリラックスするだけのイメージがあることから見送ったという。
「テトリス エフェクト」という名前は、そのネーミングを考える際、「『テトリス』は○○に影響(effect)するよね」という会話が頻発したことから付けられたそうだ。
石原氏はこのほかにも、心地よいVR空間を作るために様々な表現の調整が必要だったというが、そうした苦労はすべてプラスだったと考えているという。プレーヤーをVR空間へ誘うコツや、VRだからこそ味わえる感動など、VRの可能性をさらに大きく感じたとした。
石原氏の話を受けた水口氏は、「リラックスする瞬間と、興奮する瞬間。これを交互に繰り返すことが『ゾーン』と呼ばれるもののキーではないか。本作では、それが上手く表現できた」と述べた。さらに「『テトリス』のように完璧に思えるゲームも、何かを付け足すことはできるはず。特にVRは、未知の空間を作る技術。だから今は、新しい時代なのです。新しい空間で、新しい体験を作っていきましょう」と会場に呼びかけた。