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【前編】「スプラトゥーン」はなぜ「イカ」でなくてはならなかったのか?

ゲームデザインと密接に結び付いたアートが“説得力”を持たせる

3月19日~24日開催

会場:Moscone Center

イカ研究所の研究員です! とそれっぽい恰好で登場した野上 恒氏

 GDCの3日目にあたる3月21日(現地時間)、今回のGDCで初となる任天堂のセッションが行なわれた。

 セッションのタイトルは「"Splatoon"and"Splatoon 2":How to invent a stylish Franchise with Global Appeal」。「スプラトゥーン」、そして「スプラトゥーン2」がどのようなプロセスを経て生まれたのかということが、「スプラトゥーン」シリーズのプロデューサー野上 恒氏より語られた。本稿では前編として、「スプラトゥーン」の誕生秘話からご紹介していきたい。

「スプラトゥーン」の操作キャラクターはなぜ「イカ」なのか?

 まず、「スプラトゥーン」の開発にあたり野上氏を含む10人のメンバーが集められた。新たな遊びを提供できるゲームを作る、ということを目的に毎日のようにディスカッションを行ない、半年間で70以上のアイデアや数点の試作品を作っていった。

 最初にできた試作品は平面的なマップで直方体のキャラクターを操作し、白黒のインクを吹き出すというもの。この段階でもすでに複数台のWii Uを用いた「チーム戦」や、「地面を塗った面積で勝敗を決定する」といったスプラトゥーンの根幹をなすデザインが完成していたほか、「直接撃って相手を倒す」という要素も盛り込まれていた。

 なかでも、勝つために地面を塗ると相手に自分の位置を悟られてしまう、というジレンマを内包したゲームデザインに、野上氏は面白さを見出したのだと語る。このモデルにWii Uの持つジャイロ機能なども盛り込んでいきつつ、遊びの骨格を作り出していった。

 ゲームにとっては見た目も重要だ。野上氏は「ゲームにとって見た目とは、遊びに説得力を持たせ、その楽しみを増幅するものではなくてはならない」と語る。「スプラトゥーン」のメインキャラクターはもちろん「イカ」たちだが、イカに決まるまでには様々な紆余曲折があったようだ。

 キャラクターを設定する段階では既存のIPを使う案などもあったが、「新しいもの」を生み出そうという思いからキャラクターは新たに設定することに。はじめは白や黒といった種類があり、縄張り意識が強い「ウサギ」が候補となった。しかし、「チーム戦」というコンセプトには合致するものの、「なぜウサギがインクを撃てるのか?」、「なぜインクに潜ることができるのか?」といった説得力には欠けていた。

 「これはキャラクター選びが間違っているのではなく、ゲームデザインそのものの練りこみが足りないのではないか」と野上氏は思い直す。そこで、一旦原点に立ち返ってプレーヤーキャラクターの性能について整理したのだという。これにより、インクの外にいるときは攻撃ができ、インクの中にいるときは攻撃はできないが、回復できる上に高速で移動ができるという、それぞれメリット/デメリットを持つ2形態に切り分けることができたのだという。

 実はャラクターの候補の中にはイカも挙がっていたのだが、これまではイカを選ぶ決定的な理由に欠けていた。しかし、「インクの中を高速で移動する」というのを「泳ぐ」と捉えることで、イカを選ぶ強い理由が生まれることになった。そして2つの状態を明確に区別するため、インクの外ではより“ヒト”らしい姿に変身させることにしたのだという。こうしてヒトの姿に変身するイカのキャラクターが誕生した。あわせて、“ヒト”と“イカ”の2形態を切り替えながら戦うという「スプラトゥーン」のもう1つの遊びの軸が生まれることになった。

「コンテンツを膨らませていく手法」により、厚みを増す世界観

 主人公はイカで、舞台は現代に近い、ちょっと変わった世界。ここまでの設定は開発のなかでも限られたメンバーで決定したとのことだが、そこから先は個々の開発スタッフが「スプラトゥーン」の世界に似合うものや面白そうなもののアイディアを出していき、世界を作っていったのだという。

 武器のデザインやファッション、街中のグラフィティやBGMなどもそうした流れの中で完成していった。特にBGMなどは「若者たちの間で流行っている曲」という設定のもと、架空のバンドを作り、それぞれのバンドでテイストを変えて作曲していったというこだわりようだ。

 こういったゲームの根幹には直接かかわらない部分に関してもこだわっていくことで世界観を練りこみ、世界に説得力を持たせていった。

 野上氏はこれを「最初にしっかりと大きな器を作り、みんなでボールを放りこむようにコンテンツを膨らませていくような作り方」と表現しており、任天堂がこれまでのタイトルで用いてきた手法のひとつだとした。