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Amazon EchoとAlexaが実現する“ボイスファーストゲーム”とは?
エコーボタンで広がるボイスゲーミングの可能性
2018年3月21日 14:45
ショッピングにおいて日々の生活に欠かせない存在になりつつあるAmazon。ゲーム開発を包括的にサポートしてくれるAWS(Amazon Web Service)をはじめ、ゲームエンジンAmazon Lumberyard、マルチプレーヤータイトルのゲームサーバー周りの管理運営をサポートするAmazon GameLift、そして先日正式発表されたクロスプラットフォーム対応の開発環境を提供するAmazon GameOn、さらには世界最大のゲーム配信サービスTwitchを傘下に収めるなど、気付けばゲーム界においても大きな存在になりつつある。
Amazonが次に狙っているのが人工知能を使ったAIアシスタント「Alexa(アレクサ)」をゲームプラットフォームにすることだ。Alexaは、日本でも2017年11月より日本語認識に対応する形で正式ローンチしたため、ご存じの方も多いだろう。スマートスピーカーAmazon Echoを介してAIアシスタントAlexaに話しかけ、音声でAmazon Echo本体のみならず、ネットワークに接続されたIoTを操ることができる。Amazonは、これをゲームプラットフォームとして見立て、ゲームメーカーにSDKを提供し、新たな収益機会を提供しようと目論んでいるのだ。その一端がGDCのAmazonのスポンサーセッション「An Introduction to Building Voice-First Games on Alexa」で明らかになったのでご紹介しておきたい。
まず、Amazonが想定しているAlexaを使ったゲームスタイルは大別して2種類が挙げられる。1つはコンパニオンタイプで、これはすでに「Destiny 2」をはじめ、様々なゲームで実現している。これはゲームの一部機能をAlexa側に持たせ、音声認識によってコマンドを与えられるようにするというものだ。Alexaではアプリのことを「スキル」と呼んでいるが、このスキルをAmazon AppstoreからダウンロードしてAlexaデバイスにインストールしてゲームと連携させてプレイする。
発想としてはXboxがかつてスマートフォンと連携して行なっていたSmartGlassに近いもので、タッチパネルの代わりにボイスを使う形となる。現在配信されている大型タイトルのスキルは、日本語による音声認識には対応していないようだが、Alexa側はすでに日本語に対応しているため、今後、日本語対応のタイトルも増えてきそうだ。
ただ、コンパニオンタイプは、あくまでコンパニオンでありゲームそのものとは言えない。もうひとつが本題となるボイスゲームとなるものだ。スピーカーを務めたAmazon AlexaのソフトウェアエンジニアのChris Subagio氏は、これを「Gracious Host(礼儀正しいホスト)」と呼ぶ。
それはAlexa本来のAIアシスタントとしての機能を拡張し、ゲームの司会進行役を務める。Alexaがクラウドサーバーから用意したクイズを出し、プレーヤーはその質問に答え、Alexaが正誤を判定する。これが複数人になれば、クイズ大会となり、規定の質問数が終わった段階で誰が1位かを判定し、優勝者を読み上げて表彰する。TVのバラエティショーのようなクイズ大会が自宅で手軽に楽しめるわけだ。
このAlexaのゲームプラットフォーム化の流れを加速したのが、米国で2017年12月から発売を開始したAlexa専用デバイス「Echo Buttons」だ。2個1組で19.99ドルで販売され、2個なら2人、4個なら4人で遊べる、見ての通り、早押しボタンそのものであり、先ほどのクイズゲームの例で言えば、解答権を得るために押すわけだ。
セッションでは、Echo Buttonsを採用した代表的なタイトル「Trivial Pursuit Tap」が紹介され、セッションの受講者から希望者3人を選んで、デモが行なわれた。「Alexaが最初に発売された地域はどこか?」とAlexaがボイスで質問を出し、ひとりがボタンを押して「USA」と答える。定番の正解音、チープなBGMも合わさって、クイズ番組そのものだ。会場は広く、参加者の声が聞き取りにくかったが、いきなり参加したにも関わらず、しっかり音声認識していたようで、ファミリーゲームとして非常に高いクオリティを実現している。
気になるのはマネタイズの部分だが、通常のゲームプラットフォームと同じように、スキルそのものを販売したり、アイテム課金や、利用数に応じたリワードプログラム、ゲームに適したデバイスの販売などが用意され、すでに22カ国のデベロッパーに100万ドル(約1億数百万円)を支払っているという。
ボイスゲーミングの学びとしては、既存のゲームを置き換えるものではないが、イテレーションやA/Bテスト、ログの解析、モニタリング、そしてセキュリティ対策など、既存のゲーム開発のノウハウを活かすことができるため、ゲームデベロッパーは、良いボイスゲームを作れる絶好の位置にいることになる。
デモを見ていて良いなと感じたのは、ボイスとボタンのみで完結するため、プレイする体勢や状況が自由であることだ。たとえば、寝る前に少しプレイして、そのままボイスでレジュームし、起きた後にボイスで再開するという遊び方も可能で、Alexaはゲームの可能性を広げてくれるサービスと言える。
課題としては、フリーダムな人間たちに対して、Alexaをどこまで対応させるのか。人間はどういう答え方をするのか予測が付かない。たとえば、ボタンを押さずに答えたり、切れ目なく長く喋り続けたり、独り言をしていたり、それでもクイズゲームとして成立させるためには、それらを踏まえたテスティングが必要不可欠で、そこについては多くのゲーム開発者にとって未踏の領域が広がっている。また、米国ではAlexaは盲目の方にも利用されており、Echo Buttonは、Alexaの魅力をスポイルするデバイスとして存在に批判的な声もあり、全体としてどのようにデザインすべきなのかもまだ検討の余地があるとした。
まだまだ初期段階のボイスゲームだが、ボイスだけ、もしくはボタンと組み合わせて遊ぶという自然なインターフェイスが魅力的で、スマートスピーカーの普及に合わせて、どのようにボイスゲームが浸透していくのか注目されるところだ。