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複雑な自然の情景を、組み合わせとパラメータで表現。「シャドウ・オブ・ウォー」のテクスチャを作り出すツール「Substance Designer」

3月19日~23日開催

会場:San Francisco Moscone Convention Center

 GDCでは様々な講演が行なわれる。物語をどう作るか、ゲームのメカニクス、場面の作り方、モバイルならではの方法など「ゲームの作り方」だけでなく、実際にテーマに合わせたプログラミングや、メーカーのスポンサードによるハードやプログラム、ツールの使い方、さらにはビジネスモデルなど、改めて「ゲーム作り」というのは多彩な要素が盛り込まれていると感じさせられる。

 その中でも圧倒させられるのは専門的な講義である。今回取り上げるのは「THE SUBSTANCE OF 'シャドウ・オブ・ウォー'」。Allegorithmicが開発したゲーム開発者向けテクスチャーツール「Substance Designer」を活用し、Red Storm EntertainmentのJosh Lynch氏が「シャドウ・オブ・ウォー」で使用するテクスチャーをいかに製作したかが語られた。

Red Storm EntertainmentのJosh Lynch氏
「シャドウ・オブ・ウォー」で求められる風景の要素をアイコンで抜き出し、テーマを決めていく

【オークによる解説トレーラー「シャドウ・オブ・ウォー」】

 「シャドウ・オブ・ウォー」は不毛の地「モルドール」を駆け抜けるゲームである。主人公・タリオンはオーク達が支配するモルドールで戦いながらオーク達を支配し、この地の真の支配者である冥王サウロンを倒す軍勢を作り上げていく。

 「シャドウ・オブ・ウォー」に求められるテクスチャーは「リアルさ」だとLynch氏は語った。モルドールは広大であり、様々な地形がある。そして求められるグラフィックスは現実にありそうな写実的な風景だ。テクスチャーに求められるのは、その風景から立ち上る「物語性」であり、統一された世界観である。モルドールならではの情景、現実にモルドールがあったら見える風景をユーザーに提示し、ユーザー自身がモルドールにいるような気持ちにさせる風景を作り上げることが、目標なのだ。

 まず最初にLynch氏が提示したのはミナス・イシルの街の風景。この街は今後闇の軍勢に支配され、ミナス・モルグルという忌むべき名で呼ばれることとなる。その運命を象徴するかのように落日の日に輝く街は非常に沢山のテクスチャーが使われていることがわかる。街の窓枠、壁、石畳、崩れたがれき、レンガを突き破り生えてくる植物……この風景を作る作業量だけでも気が遠くなってしまいそうだ。

 Lynch氏は同じカラーパレットを使っても、配置パターンで大きく印象を変えられることを提示した。しっかりした石畳から、崩れ掛けのものまで、ここにカラーパターンを盛り込むことで全く雰囲気の違う石畳が作れる。さらに崩れたり、削れたり、植物が生えていたり、その植物を増やすことで、似たカラーパターンから様々な建物の表面を作り出すことができる。講演では実際に全く違うパターンの表現を見ることができた。

多彩な要素が盛り込まれているミナス・イリスの街。石畳はパラメーターを調整することで全く違う場所や状態を作り出すことができる

 この石畳のパターンの活用は、自然石の地形にも応用できる。Lynch氏はまず現実の風景を提示した。川や雨の流れで砂が被さり、ごつごつした岩の間を砂が流れて道が作り出される。乾燥して乾ききった地形や、水が残りどろどろにぬかるんだ場所、さらに溶岩が冷え固まった禍々しさを感じさせる風景など、自然が見せる土の状態は非常に多彩だ。Substance Designerはこの複雑な自然の情景もパラメーターを設定し、要素を組み合わせることで表現できるのである。

 地形に関しては、ごつごつした岩があり地形が移動不可な場所、中間地点が岩がまばらで、歩けるところが砂など段階も踏める。岩の色を変えたり、植物を生やすことで場所の雰囲気も変えられる。自然世界では岩の成分が異なれば風景が全く変わる。

自然の地形をどう表現するか?
配置と組み合わせで表現、さらにパラメーター調整で、地域の差も出せる

 このための様々な岩のパターンを作ったパレットなども用意できる。そしてこれに風化や、こけを生やすなどの処理を重ねることも可能だ。ゲームの中でも各要素を組み合わせることで、自然の風景に雰囲気を近づけることができるのだ。

 ここからLynch氏は実際にSubstance Designerを使ったテクスチャーの作成を実演してみた。各パターンはラインで繋ぐことで前の要素を引き継ぎ、さらに大きな変化を加えることができる。石畳というブロックパターンはそのまま、石の質感を変えることができる。そしてそれにとどまらず、溝の状態を変えるパターンや、風化させるパターンなどをラインで結合させることで組み合わせられる。

 そして各系統のスライダーを調整する事で石畳の傷みをより大きく表現できたり、溝を全体に黒く、濃くしたり、溝の間に植物が生えたような効果を付け足すことも可能だ。各パターンをラインで繋ぎ、パターンをいじる事で繋がっている系統樹全体が影響を受けるように設定することもできる。「こういう情景が作りたい」とデザイナーが思えば、それらの要素を並べ、つなぎ、各要素の強弱をつけることで多彩な状況を作り出せる。

実作業のデモンストレーション。各要素をブロックでつくっていき、組み合わせ、経路のパラメーターを強化していくことで状態を大きく変化させる。パターンや、色合い、質感など、それぞれのブロックが影響し合い、変化の道筋も把握できるので、作業を戻したり、要素を付け加えたり、消したり、直感的に多彩な変化をつけることが可能だ

 加えて、パターンを応用することで、石畳が崩れたパターンを、砂の中から顔を出す石の並びに応用し、砂と石の混ざった様子すら作れる。石畳という人工物で使っていたパターンを自然の情景にすら活用できるのだ。Lynch氏のツールの実演は、クリエイター達のセンスをツールに活かすことで、1つ1つ情景を模写するのではない、新しい自然の風景作成を提示していた。

 もちろんここまでの豊かな描写は、観察力や、実際の絵のセンス、さらには風景ができたその背景を細かく分析できる能力が求められるだろう。センスがあり、このツールの特性を理解した上で、実際にいくつもの風景を表現した人が、こういった見事な作業をこなすのだ、というのはわかる。それでも最新の開発現場を知ることができ、クリエイターや技術者が、これから何をしていくかを垣間見ることができるのは面白い。ゲームは今、このような作り方も取り入れられているのだ。