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日本eスポーツ連合、「闘会議 2018」でプロライセンス発行の意義を改めて説明

既存の大会や活動は一切“排除せず”。選手とチームを支える団体であることを強調

2月10日開催

 2月1日に発足した、日本史上初の統一eスポーツ団体である日本eスポーツ連合(JeSU)。その概要についてはレポートしたとおりだが、CESAが主導となり、併存する3つの団体を1つにまとめ、「全日本として業界一丸となって日本のeスポーツを盛り上げていく」という素晴らしい理念のもとに生まれた団体だが、乱立する団体を1つにまとめることに力を注ぎ過ぎ、他の部分については後回しにしてしまった側面があり、その存在はともかく、活動方針については既存のeスポーツ関係者からは甚だ不評だ。

 とりわけ、プロライセンス周りについては、業界団体としてのCESAのカラーが前面に出すぎ、本来出してしかるべきものも含めて非公開情報も多く、主役たるeスポーツアスリートやチームに対してほとんど説明がないまま進められたため、「何のためのプロライセンスなのか」、「なぜこの6タイトルなのか」、「単なる利権団体ではないか」、「プロライセンスの名の下に従来のeスポーツを潰すつもりではないか」といった様々な疑念が渦巻いている。

 JeSUとして初の公式イベントとなる「闘会議 2018」では、オープニング直後にJeSU代表理事の岡村秀樹氏、理事の浜村弘一氏によるトークイベント「日本のeスポーツの新たな扉」が開催された。JeSUにとっても初のゲームファンへのお披露目の場となったが、トークイベントではそうした疑念に対して「そうではありません」ということを丁寧に説明する火消しに追われる30分となった。要点をまとめてお届けしたい。

既存の大会やコミュニティ活動は制限せず。スター誕生を支援する団体

 トークイベントは、“疑念の本丸”であるプロライセンスからスタートした。JeSUが発行するプロライセンスは、「ジャパン・eスポーツ・プロライセンス」、「ジャパン・eスポーツ・ジュニアライセンス」、「チームライセンス」の3つに分かれる。3つに分けた理由について浜村氏は、「形式と年齢で細分化したもの」とし、15歳以上に与えられ、高額付き賞金への出場と賞金獲得が認められる「ジャパン・eスポーツ・プロライセンス」を基本に、動体視力が問われるような競技(ゲーム)については、15歳以下から才能が開花するものがあるため、ジュニアライセンスを設ける。ジュニアライセンスでは、賞金は受け取れないものの、アジア大会や世界大会への渡航費といったJeSUの支援は受けられ、親の承認を得ることで、15歳以降はプロライセンスに移行してプロとして活動できる。

 また、チームライセンスは、「4~5人のチームで行なう競技で、場合によっては選手の入れ替えもあるような場合」を想定。具体的なタイトルは挙げなかったが、「PLAYERUNKNOWN'S BATTLEGROUNDS」(最大4人)や、「Counter-Strike: Global Offensive」(5対5)、「World of Tanks」(7対7)といったチームベースのeスポーツタイトルも、IPホルダーがJeSUの趣旨に賛同し、プロライセンス制度を採択するかどうかは別として、JeSUのプロライセンス制度で対応が可能なようだ。

【JeSUのプロライセンス制度】
ジャパン・eスポーツ・プロライセンス、ジャパン・eスポーツ・ジュニアライセンス、チームライセンス

登壇したJeSU代表理事の岡村秀樹氏と理事の浜村弘一氏
丁寧にJeSUの設立趣旨を語った浜村氏
岡村氏は、CESA会長としての視点からeスポーツを見ている
プロライセンス認定タイトル。闘会議ではこれらのタイトルでプロライセンスが発行される

 プロライセンスの概要がわかったところで、司会進行役から「プロライセンス認定を受けた選手が、公認大会以外に出場できなくなるのではないか? 従来のコミュニティでの活動に制約が出るのではないかと心配されている方も多いが、実際はどうでしょうか?」と直球の質問が出された。

 浜村氏は、「それはありえないですね(笑)」と一笑に付し、プロライセンス発行の意義について「ゲームプレーヤーの方に、スターになってもらいたい、活動の場を作って貰いたい、環境整備したい、ということです。当然のことながら、活動の場を増やすために活動していることなので、既存のコミュニティ活動を制限することはありえません」と断言した。

 続けて「では、既存の大会は(JeSU非公認のまま)継続することはできるのですか?」という問いに対しては、「もちろんです。それはそれで頑張っていただいて、(我々は)それとは別の大会も整備して、出場機会を増やすということです」(浜村氏)。あくまで選手達をアシストして活躍の場を広げていくのがプロライセンス制度ということで、「活動を制限することはありえない」と繰り返した。

 JeSUにとって、今何よりも欲しいのはeスポーツコミュニティからの支持だろう。岡村氏はここで初めてマイクを握り、「(eスポーツの)コミュニティで活躍されている方、メンターの方を基本的にはリスペクトしていきたい」と語り、続けて「IPホルダーから許諾を受けて活動をしている方を認めた上で、団体としてeスポーツ全体の盛り上がりをサポートしていく。規制のための団体ではなく、支援のための団体」と、あくまで規制団体ではなく支援団体であることを強調した。

 岡村氏は、「コミュニティの皆さんとの連携も図っていきたい。コミュニケーションも取っていきたい。こちらからお声がけもするし、ご相談もいただけると、JeSUとしてできることがあるかもしれません。そういうコミュニケーションはぜひ大事にしていきたい」と、2月1日の発表会とは打って変わって、eスポーツコミュニティに寄り添う発言を繰り返した。

 気になるプロライセンス認定タイトルについては、「どんどん増える。色んなジャンルが増える。説明会には、海外メーカー含めて30~40社も来ていただいた」(浜村氏)と自信たっぷりに語り、岡村氏も「なぜ今回(他のタイトルの認定が)間に合わなかったのかというと、タイミングの問題で、どんどん増えていきます」と追認したが、具体的なタイトルについては言及を避けた。

 浜村氏は、それだけでは不十分と感じたのか、少し沈思した後語り出した。「皆さんが何故こういうタイトルがないのかなというものは今後追加されると思いますし、プロライセンスを発行して認知度が上がってくると思います。そしてこのチャンスに、一からeスポーツタイトルを作るという動きも出てくるのではないか」と、議論を新たな方向に誘導。実際に浜村氏のもとには、人気のキャラクターやシリーズでのeスポーツ展開について相談も来ているという。「昔人気があったけど、今は出てない対戦ものを、『出さない?』と働きかけているところ(笑)。そういうものも今後出てくるんじゃないかな」(浜村氏)とも語った。

 おそらくこのあたりが、浜村氏のeスポーツにおけるビジョンの中核なのだと思う。つまり、日本固有のIP、日本のゲームキャラクターが躍動する“日本発のeスポーツタイトル”を、5年先、10年先の、eスポーツがオリンピック競技化する望むべき未来に向けて、今から業界一丸となって取り組んで行く。統一団体でしか描けない壮大なビジョンといえる。

 ただ、それが、現時点では、今のeスポーツの諸課題の解決より前に来ている印象が強いため、既存のeスポーツコミュニティからの支持が広がらないのだと思う。日本のeスポーツコミュニティと、JeSUが描くビジョンには、この後に紹介するオリンピック周りの話も含めて、極めて大きな隔たりがあり、ここの摺り合わせは、日本のeスポーツの健全な発展を考える上で必要不可欠だと思う。まずは、既存コミュニティとのディープなコミュニケーションはぜひ行なって貰いたいところだ。

まずはJOCへの加盟。2018年のジャカルタのアジア競技大会への出場を目指す

トークイベント後半のオリンピックについては、まさに岡村氏の独壇場となった
早ければ年内にも、日本のeスポーツアスリートが日本代表ユニフォームを着けて世界で戦う日が来るようだ

 トークイベントの後半は、JeSUが宿願として掲げる“オリンピック”について、JeSUとしてのビジョンが語られた。

 司会者は「気になっているのはオリンピックだと思う」と唐突に切り出し、「2018年のアジア競技大会ではeスポーツのデモンストレーション、2020年のアジア競技大会ではメダル競技として採用されることが発表された。今後、eスポーツがオリンピックの正式種目になるかどうかを伺いたい」と質問を繰り出した。JeSUとしても、しっかりプッシュしておきたい要素だ。

 岡村氏は苦笑しながら「それはIOCのバッハさん(IOC会長)に聞くのが1番早いと思う」とあしらいながら、「ジャカルタのアジア競技大会は間近に迫っていて、これまでは代表を送る素地がなかったが、今後はそこにチャレンジしていきたい。詳細は届いてないが、日本は有力なアジアのメンバー国なのでそこに向けて努力していきたいと思っている。アジア競技大会に限らず、すべてのスポーツは歴史の積み重ねで、競技種目になっている。いきなりポコんとなることはなくて、アジア大会やエキシビションに採用されて、競技実績が整ってくると、環境的にIOCの競技種目のチョイスの際に大きな材料になるのではないかと思っている。世界各国には我々と同じような団体があって、国際オリンピック委員会に働きかけを行なっている。日本ではそういう働きかけを組織的にすることができなかったわけだが、そういうものがもし今回これで整っていくなら、そこに向けて頑張っていく。東京オリンピックは難しいと思うが、その先の未来は、eスポーツがオリンピックの正式種目になっていることは十分考えられる」と、eスポーツ正式種目化への意欲を語った。

 続けて岡村氏は、その前提材料として「eスポーツというジャンルがきちんと整備された形で、日本の中で、eスポーツをやらない人からみても、極めて透明で公正な形で競技が行なわれていることが重要。そういうことをIOC、JOCが見た上で判断していくのではないか。我々は当事者として、正式種目として採用されるように、各国と連携して取り組んでいきたい。大変だが、まずはジャカルタのアジア大会を日本代表を派遣したいと思っている」と、今年のアジア競技大会に日本からeスポーツ選手を送り込む計画を明らかにした。岡村氏は「本気でやるとなると本当に忙しい、いや本気でやりたいと思っていますが」と笑顔で語り、今年の注力事業のひとつにする方針を明確にした。

 これを受けて浜村氏は、「まだ種目が明確ではない。7つか8つのゲームが選ばれると漏れ聞いているが、それに日本選手を送り出していきたい」と抱負を語ると、岡村氏は「日本に適合するタイトルが選ばれればいいなと思っている。チョイスされるタイトルは日本のタイトルとは限らない。ポイントが2つあって、1つは、海外タイトルをプロライセンス認定をした上で、選手登録をして、日本代表として送り出すのも重要だが、国際大会の競技種目に、他国の意義をはさまれることなく、日本のタイトルが選ばれるのが重要。日本にもいいタイトルがたくさんある。eスポーツで競争しているのはアスリートだけではなく、ゲーム業界が作っているものも世界と競り合っている。日本はゲーム大国と言われているが、そういうところで採用されて初めて『ゲーム大国だよね』と名実共に言えるのではないか。日本は極めて有力なゲーム大国だが、そこは気を許せない世界」と、ほとんどCESA会長としての立場で語りきり、eスポーツの水面下では、競技タイトルの競争もあり、JeSUとしてそこの競争力も付けていかなければならないことをアピールした。

 浜村氏は、「日本の開発力は凄くて、RPGは日本の方が素晴らしい。eスポーツは日本ではまだ大きな市場ができてないが、プロライセンスを発行する団体ができたことで、新たなeスポーツタイトルが生まれ、6年後10年後に、世界のeスポーツ界を日本のゲームが席巻するということもあると思う」と、先ほどの自身の主張を繰り返す形で、eスポーツにおける別の意味での国際的な競争力の強化の必要性を語った。

 トークショウのまとめとして、JeSUの今後の目標について問われると、岡村氏は、「JOCへの加盟」、「ゲームの社会的なステータスの向上」、「ジャカルタのアジア競技大会への選手団派遣」、「しっかりとした情報発信も含めた公認大会の開催」の4点を挙げた。岡村氏の宿願は、あくまでCESA会長の視点から、eスポーツをテコにしたゲーム産業の国際競争力の強化。非常に明快だ。

 これに対して浜村氏は、「選手が活躍しないことには、産業としてのeスポーツは大きくならないので、そこをサポートする団体になりたい。どんなにゲームが出ても、輝く選手、スター選手が出てこないことにはダメで、それを助ける団体になりたい。ひょっとしたら、今活躍している方、すでに海外に渡航して、賞金を稼いで食べていけている方にとっては、我々は必要ないかもしれないが、その下の世代の人たち、若い世代の人たちにとっては、活躍の場が広がり、チャンスになると思っています。自分を輝かせる場として、我々の団体を、利用して、使って貰いたい。僕らは団体を作りましたが、選手との交流がしっかりできていると思っていない。選手を世界に送り出す準備もするし、IPホルダーと相談して開発して欲しいとお願いもしますし、この先どうして欲しいかを選手に聞きたい。選手の皆さんには今まで通り活躍して欲しいし、我々がどうすればもっと活躍できるようになるのかを知りたい。みんなに意見を聞いて、利用して貰う場にして欲しい」と、まさにトークセッションで語り足りないと感じた部分を一気呵成に語った。

 最後に岡村氏は、「JeSUはできたばかりの団体です。日本のeスポーツをしっかり確立させていくために、ぜひ皆さんのご支援とご理解、力を結集してやらせてもらいたい。この団体の特色は、世界に例を見ない、IPホルダーのほとんどの賛同を頂いた上で、eスポーツを推進してきた皆さんと大同団結をした組織だということです。そこをアスリートの皆さんにご理解いただいた上で、我々として新しい世代の選手を育成していく、ぜひその趣旨をご理解いただき、力を貸して頂きたいと思います」とまとめた。ゲームメディアとしてはその言葉を信じ、実行に移される日を待ちたいところだ。