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【特別企画】空前絶後の超重戦車「マウス」に会いにロシアのクビンカ戦車博物館に行ってきた

念願のマウスとご対面。それは想像を遙かに上回る鋼鉄の要塞だった!

マウスは、独伊車輌を集めた6号館にある
各倉庫の中は思ったよりも広い
マウスは奥にあるというが、カール自走臼砲しかない
と思ったら、その影に隠れていた!

 本題であるマウスだが、クビンカ戦車博物館の6号館の最奥、カール自走臼砲の裏に隠れる格好でひっそり展示されていた。なぜそんなに隠すように展示しているのかと思ったが、実際に見てみてわかった。カールとマウスはデカすぎて、動かすに動かせないのだ。

 最初に見たときの印象は、「目の前に存在しているのが信じられないほどデカい戦車」というものだ。「World of Tanks」では意図的に人の姿を描かず、3人称視点でその全貌を収めながらプレイするため、プレーヤーは例外なく戦車のサイズを実寸より小さく理解している。このため、実際に戦車を目の当たりにするとその大きさに衝撃を受けるのだ。

 ただ、マウスはそれをさらに超越して、次元の異なる巨大さにCGか何かを見ている気持ちにさせられる。目の前に立つと前面の傾斜装甲が視界に入りきらず、真上を見上げるとヤークトティーガーと同サイズの12.8cm主砲が延びている。主砲の左側にある副砲は37mm程度に見えるが、実際には75mmもある。IV号戦車の主砲が副砲として使われているのだ。

 そもそも車体が筆者の身長(176cm)より遙かに高い。側面は高さ2メートルを超える鋼鉄の壁が10メートルにわたって続き、後部にも排気管や、搭乗員の出入り口などは一切なく、まるで沿岸要塞のようだ。砲塔後部の銃眼と、巨大な履帯がなければ戦車とはとても思えない。得体の知れないものを見た興奮がゾクゾク湧いてくる。興奮が抑えきれず、マウスの周囲を何周も回ってしまったが、どうみても出来の悪いSF戦車にしか見えず、これが実在した戦車とはとても信じられない。

 マウスがこのような箱型のデザインを採用したのは2つの理由があるとされている。ひとつは200mmに達する重装甲を車体全面に張りめぐらせるため、もうひとつは180トンというマンガのような重量から渡橋を断念し、直接川を渡るために防水仕様にしたためだ。しかし、この戦車、見れば見るほど謎が多すぎる。そもそもどこから入るのかわからないし、排気管がないし、12.8mm砲の空薬莢を捨てるハッチすらない。

 まず搭乗員は、砲塔の上部と車体前方のハッチから入る、らしいのだが、クビンカの狭苦しい倉庫に4メートルの展望台があるわけではなく、実際に確認するすべはなかった。排気は、車体上部やや前方の左右2カ所からの排気管から排気するようになっている。それは「World of Tanks」ではお馴染みの姿で、マウスの特徴のひとつとなっているが、実物にはその排気機構は確認できなかった。

 そして砲弾の出し入れは、砲塔後部の銃丸がパカりと開くようになっており、そこから行なうようだ。この銃丸は、マウスの明確な弱点のひとつで、「WoT」でも銃丸部分が弱点として設定されている。ちなみに底面には、脱出用ハッチがあり、開きっぱなしになっていた。そういえば「ガールズ&パンツァー 劇場版」でも、T-28(T95)でも底辺が弱点として描かれていたが、マウスも同様に弱点になっているようだ。

 前面に戻ると、前面を覆う傾斜装甲には、よく見るといくつもの貫通痕が確認できる。ソ連は鹵獲戦車の性能を知るために必ず射撃テストを行なったというが、マウスの場合、1台しか存在しなかったため、結果として射撃テストが行なわれた状態で後世に残される結果となった。7つある弾痕のうち、履帯を覆う200mm厚の垂直装甲に撃ち込まれた2発はすべて貫通していたが、傾斜装甲部分については未貫通で、奇しくもマウスの重装甲っぷりを後世に伝えている。

 冒頭でも触れたように、マウスは「WoT」では最強の重戦車として描かれているが、兵器としてはとんでもない失敗作だった。クビンカのマウスは、試作一号機と二号機を組み合わせたものだが一号機はそもそも未完成で、二号機は戦場に向かう途中で機関の故障で行動不能となり、まったく戦闘に参加することなくソ連軍に接収されている。

 クビンカ戦車博物館の入り口には、戦後にベルリンで行なわれた戦勝パレードで公開され、西側諸国に衝撃を与えたというIS-3が屋外展示されているが、避弾径始に優れたお椀型の砲塔やその代名詞であるくさび形の傾斜装甲など現代でも通用する優美なデザインには何度見ても驚かされる。

 一方、マウスを生み出したドイツも、戦後レオパルド1とレオパルド2という傑作戦車を生み出したが、どういう意味においてもマウスをまったく踏襲しておらず、戦艦大和同様に完全にロストテクノロジー化している。

 「競合国がIS-3やセンチュリオンを開発していた時期にポルシェ博士は一体何をやっていたんだ」とツッコミを入れたくなるところだが、ポルシェ博士の超重戦車の夢は、現代において「WoT」の中で見事に結実したと言えるかもしれない。

【VIII号戦車マウス】
マウスの全景
正面から見るとこのような風景になる
後部、砲塔中央にある銃丸から砲弾の出し入れを行なう
側面はまさに鋼鉄の壁だ
前面の傾斜装甲にはいくつもの貫通痕がある
避弾径始の効果がわかる貫通痕
主砲はクルップ・ラインメタル製55口径12.8mm
副砲は36.5口径7.5cm
凄まじい厚さを誇る防楯
主砲はどの時点が不明だが損傷している
マウスの装甲は、厚さ200mmの装甲板を溶接している
履帯周りも厚い装甲で覆われている
巨大な履帯
履帯を守る装甲板も200mmの厚さがある
ソ連に接収された際に刻印された鎌と槌のマーク
底面にある脱出用ハッチ