【特別企画】

AIでゲームを面白くする。ホロライブ実況で人気「ミメシス」開発スタジオが掲げる“AI活用の信念”とは?【講演レポート】

AIネイティブだからこそこだわる「プレーヤーにとって面白いかどうか」

 「Mimesis(ミメシス)」というゲームをご存知だろうか? ボイスチャットをしながら、4人で協力してマップの探索、アイテム回収を目指すSteam用のアクションアドベンチャーゲームだ。

 日本ではホロライブなどを中心に実況配信が盛り上がったことでも知られており、世界で売上200万本を突破している。実況が盛り上がる大きな要因となっているのが、本作のプレイ中にプレーヤーの“ニセモノ”が紛れ込むことだ。ニセモノの接近を許すと、プレーヤーは倒されてしまう。

【【ミメシス】声と行動を真似するニセモノに騙されないように生き残る!!ぺこ!【ホロライブ/兎田ぺこら】】

 プレーヤーの見た目は統一されているので、見ただけではニセモノか本物かどうかはわからない。さらにニセモノは行動を真似るだけでなく、ボイスチャットの声までをも模倣する。マップ探索中に仲間と遭遇したとしても、それが本物かニセモノか疑心暗鬼になるし、本物だと心を許した瞬間に殺される、といった事態も発生する。

 「Mimesis」を開発したReLU Gamesは、AIネイティブを掲げる韓国のゲーム開発スタジオだ。プレーヤーを巧みに模倣するニセモノのシステムにも、ディープラーニング型のAIが活かされている。今回、この「Mimesis」について、開発スタジオのReLU Gamesの講演を聴くことができた。

AI活用で“プロトタイプの種”を高速回転

 ReLU Gamesが掲げるAI活用の信念は、「AIでゲームを面白くすること」だ。ReLU Gamesは2023年のスタジオ設立からAIを活用したゲーム開発に取り組んでいるが、あくまでAIはツールであり、AIをどう扱うかは人間次第、との考えがある。

 ReLU GamesにはAIエージェントのスペシャリストが複数在籍しており、1人で「Seed」と呼ばれるプロトタイプの種をつくることがゲーム開発のベースとなっている。というのも、「どうやったらAIでゲームが面白くなるのか」のノウハウはまだないため、とにかく試行錯誤を繰り返すことが命題だからだ。

ReLU Games AI Creative Team Leaderのイ・ギムン氏
Seedがプレイできる企画書として機能するなど、AIによって地盤から効率化されている

 ReLU Gamesの制作体制が特徴的なのは、この先。社内には「Nolan」という自動デプロイ・テストツールがあり、誰かがローカル環境でつくったプロトタイプをZipファイルでアップロードすると、Nolanが自動的に誰でもプレイできる状態にしてくれる。

 さらにNolanからは、ソースコードを誰でもダウンロードでき、自由に改変可能(もちろんAI活用可能)。改変したものは元のデータと紐づく形で履歴に記録され、ロールバックなどもすぐにできるようになっている。

Nolanによって提案も改善もすべてプロトタイプベースになり、高速化する

 こうして1つのSeedからあらゆる方向性での改善案がプレイ可能な状態で提案されていき、さらにそのいくつかが実際に販売されるゲームとして開発が本格化する。もし世に出ないSeedになったとしても、発案者などにインタビューをじっくり行なって、未来のために少なくはないドキュメントをレポートとして残すようにしているそうだ。

Nolanのような社内ツールについては、スタッフがAIエージェントを活用して自主的に開発したものばかり。このGPMはプロジェクト運営管理のシステムで、たとえば不具合レポートが上がってきた場合、翻訳や中身の解析、Githubチケットの発行、その不具合の最適な担当者の割り当てまで行なう、というもの
こちらの「MAGI」は、企画書のレビューツール。プレーヤー視点での面白さを評価する「コアファン」、ゲーム制作の方向性を見る「ディレクター」、Steamにおけるタイトルの優位性を判断する「Steam専門家」の3人のAIエージェントで評価されるもので、より正確でフェアな内容が期待できる。ネーミングから察する通り、元ネタは「新世紀エヴァンゲリオン」のMAGI
AI活用が過ぎるあまり、「ゲームに勝利するとオフィスのエアコンの温度を操作できる」というゲーム「エアコン争奪戦」なるものも登場した。AIにエアコンのAPIを直接操作させる仕組みを入れており、こちらもNolanを通じてデプロイされたものという

「人間らしさ」をどうつくるか。開発中断を経て飛躍した“模倣”のゲーム

 「ミメシス」も、ひとつのSeedから生まれたタイトルである。もともとは「プロジェクト・ドッペルゲンガー」という仮タイトルで、人間のプレーヤーの戦闘スタイルをAIが模倣する対戦型のアクションゲームだった。

 Seedがよく陥る失敗例として、「新しいAI技術が導入されたのはわかるが、ゲーム自体が面白くない」「ゲームは面白いが、この面白さはAIがなくてもつくれそう」というものがある。「プロジェクト・ドッペルゲンガー」は、後者に分類されるタイプの失敗作であったそう。どうやったら面白くなるかを試行錯誤したものの、一旦開発は中断することになる。

登壇した「ミメシス」ディレクターのアン・ジェホン氏
ほかのAI活用ゲームでもよくありがちな失敗例。スタジオ全体には、「AIによって新しい面白さを生み出さなければならない」という強い意志があるという

 しかし2024年8月になると、新たな可能性が見つかる。VG Insightsから「2023年にSteamでリリースされたタイトルのうち、Co-opゲームはわずか6%だった一方で販売本数の36%を占め、すべての販売本数帯で非Co-opゲームを上回る実績を記録」という報告をもとに、「ホラー×Co-op×コメディ」というジャンルに可能性があることを知る。

 そこで「プロジェクト・ドッペルゲンガー」のテーマとなっていた「戦闘の模倣」を、「仲間の模倣」へと転換してはどうかと思いつく。協力プレイにおいて、仲間の動きや声を模倣したら面白いのではないか、というアイデアだ。

 「ミメシス」ディレクターのアン・ジェホン氏は、そのアイデアを確かめるため、さっそくプロトタイプの開発を進める。最初のプロトタイプは模倣の練度が低いため、人を騙せても約2秒くらいの代物だったそう。しかしその2秒間の模倣が、その後のプレーヤーの長い疑念を生み続けるきっかけになったそうで、ここで「模倣する存在自体がゲームに面白さを生む」と確認できた。「ミメシス」はそこから、現在のアーリーアクセス版をリリースするために開発が本格化していく。

プロトタイプでは模倣の練度を割り切ってつくりあげた

 まず「ミメシス」は、ユーザー検証を進めるためにSteam Nextフェス(2025年6月開催)へのデモ版出展を決める。その時点で残り3ヶ月だったが、ゲームのコアを楽しんでもらえるよう専用のバランスで調整。今度はニセモノにAI技術を入れ込んで、声や動作によって7秒間は騙せるようになった。テストでは、「疑って笑えるゲームになっているか」「ストリーマーによる動画が拡散し、視聴者のプレイにつながるか」の2点をチェック。これも、想定通りに概ね成功したという。

ゲームのコア部分を詰め込んだデモ版

 続いて、残り3ヶ月でアーリーアクセス版のリリースを目指す。デモ版では短いプレイ時間でより強烈な印象を残せるように調整していたが、今度は繰り返しのプレイでも楽しめるよう、ニセモノに様々な行動パターンを搭載することが目標となった。

 アン・ジェホン氏は、「ここが苦労したポイントだった」と振り返る。ニセモノが人を騙すには「人間らしい行動」を取るべきだが、この「人間らしさ」の構築が難しかったという。

 最初は敵(本作にはモンスターも登場する)と会ったとき、「逃げるか攻撃するかの二択」だと考えて訓練させてみたが、人間らしくないというフィードバックばかりだったという。ディープラーニングの専門家にも意見を聞くなどした結果、「その状況に合う行動を取るかどうか」が大切だとわかった。

 そこでAIには一定の行動を指示するのではなく、状況に合わせて様々な行動の可能性を与えた上で、違和感のある行動をひとつずつ潰していったという。最後は人力というところがとても面白いが、そうして「ミメシス」のニセモノAIはつくられていった。

「人間らしさ」を生み出すために、最後は人力

 なお仲間の声の模倣については、小規模言語モデル(SLM)やリアルタイム音声生成は使っておらず、「プレイ中の音声を記録して、状況に合わせて最適なタイミングで再生する」という手法が取られている。状況の判断と言葉のチョイスに、AIが使われているというものだ。

 そのため合言葉をプレイ中に言い合っていた場合、プレーヤーの合言葉に反応して誰かが発した合言葉の音声が出ることもある。同じ仲間でプレイすればするほどニセモノの精度が上がっていくそうなので、ぜひご自身で確かめてみてほしい。

最先端の技術ではなく、「ミメシス」に合っている技術、プレーヤーが面白いと感じる技術を選択した

 そうしてアーリーアクセス版がリリースされると、口コミで人気が高まっていくこととなる。特に日本ではホロライブなどを中心にストリーミングが活発になり、売上としては日本が最も販売本数が多いそう。「CEDEC 2026」のCEDEC AWARDではゲームデザイン部門の優秀賞にもノミネートされており、開発者からも評価されるタイトルとなった。

□CEDEC AWARD 2026ノミネーションリスト(優秀賞)

 一定の成功を得た「ミメシス」は今後、AIのさらなる進化や「不信の拡張」を考えているという。アン・ジェホン氏は本作の開発方針として、常に「それはプレーヤーにとって面白いものか」を自問し、判断していったという。また、会場では「『ミメシス』はAI×ゲームのひとつの可能性です」とも語られた。ReLU Gamesが模索するさらなるゲームの可能性に、ぜひ期待したいところだ。