インタビュー

「007 First Light」Switch2版は“妥協しない移植”へ。IO Interactiveに最適化を聞く【TGS2026】

Steam DeckやROG Allyでの経験も活用。携帯モードのUI・視認性にも配慮

【東京ゲームショウ2026】
開催期間:9月17日~9月21日
会場:幕張メッセ/TKP東京ベイ幕張ホール

 IO Interactiveは、同社が開発するアクションアドベンチャー「007 First Light」のNintendo Switch2版を「東京ゲームショウ2026(以下、『TGS2026』)」に出展している。会場では、現在開発中となるSwitch2版を実際に試遊することができた。

 「007 First Light」は今年の5月にプレイステーション 5/Xbox Series X|S/PC向けにリリースされており、発売から3カ月で累計販売本数400万本を突破。Switch2版については2027年3月にリリース予定となっている。

 今回は、出展にあわせてIO Interactiveで本作のグローバルブランドマネージャーを務めるLaurine Deschamps氏と、ゲームエンジン「Glacier(グレイシャー)」のエグゼクティブプロデューサーを務めるCristina Vega氏にインタビューを実施。Switch2版の開発状況をはじめ、同ハード向けに行なわれている最適化などについて話を伺った。

左:Cristina Vega氏 右:Laurine Deschamps氏

Switch2版はすでに最後までプレイ可能。“削る”のではなく技術で残す「007 First Light」の最適化

――まず、おふたりの自己紹介と「007 First Light」で担当されている役割について教えてください。

Laurine氏:「007 First Light」のグローバルブランドマネージャーを務めています。アセット制作やトレーラー、パートナーシップ、ライセンサーとの連携など、マーケティングに関わるあらゆる業務を担当しており、マーケティング戦略全体の策定と実行にも携わっています。

Cristina氏:私はテクノロジー部門に所属しており、「007 First Light」を動かしているゲームエンジン「Glacier」のエグゼクティブプロデューサーを務めています。また、本作については約2年間にわたってゲーム制作そのものも率いてきたため、技術とゲームプロダクションの中間のような立場でもありました。

――Nintendo Switch2版は他機種版より後発となりますが、先行して発売されたプラットフォームで得られたプレイヤーのフィードバックやプレイデータの中で、Switch2版の開発に反映されたものはあるのでしょうか?

Cristina氏:私たちはプレイヤーやコミュニティの声を非常に重視していて、普段から頻繁に確認しています。たとえば最近はパストレーシングをリリースしましたが、それと同時にゲームに存在していたさまざまな問題の修正も行いました。

 大規模なパッチだけでなく、ホットフィックスも継続的に配信しています。プレイヤーの声を聞きながらゲームを改善していくことは、IO Interactiveにとって継続的な取り組みなんです。

 Switch2版を他機種版と同時に発売しなかったのは、その時点でリリースしてしまうと、私たち自身が誇れるような移植にはならなかったからです。Switch2版をきちんと大切に扱いたいと考えました。任天堂のプレイヤーは、長い間ボンド(主人公のジェームズ・ボンド)のゲームを待っていたと思います。だからこそ、その期待に敬意を払い、時間をかけてしっかりと作ることを選びました。

 できるだけ妥協をしないため、新しい技術も開発しています。そのひとつが、レンダリングに関する「Meshlets(メッシュレット)」です。ゲームをより効率的に動かすための技術で、Switch2版のパフォーマンス向上にもつながります。

 そして、この技術はSwitch2版だけではなく、ほかのプラットフォームにも導入する予定です。Switch2版を開発する過程でゲーム全体が改善され、それぞれのプラットフォームでもより良い体験につながっていくと考えています。

※画像はSteam版

――本作では潜入や銃撃戦、近接戦闘やシネマティックな場面など、シーンによってはハードウェアへの負荷も大きく変化するのではないかと思いました。携帯ゲーム機でもあるSwitch2で長時間安定して動作させるために意識した部分があればお聞かせください。

Cristina氏:「007 First Light」は発売時点で主に8つのプラットフォームに対応しました。同じくIO Interactiveの「HITMAN」シリーズについては14か15ほどのプラットフォームで動いていると思います。そのため、私たちはさまざまなハードウェアにゲームを適応させる作業を頻繁に行っているんです。

 私たちは、ハードウェアごとの違いを単純な「制限」として捉えるのではなく、それぞれが持つ「スーパーパワー」のようなものだと考えています。

 たとえばPCでは非常に高い負荷をかけることができます。開発で使用しているPCも、いわばモンスター級のマシンです。しかし、実際に遊ぶプレイヤーのPC環境には膨大なパーツの組み合わせがありますよね。最新のグラフィックスカードと非常に高性能なCPUを使っている一方で、ものすごく古いマザーボードを使っている、といったこともあります。

 そうした環境でも正常にゲームを動作させるため、PC版ではさまざまな構成を想定しなければなりません。余裕を持たせたり、安全策を用意したりする必要があるわけです。

 ですが、コンソール版はハードウェアが固定されています。Switch2がどのようなハードウェアで、どう振る舞うのかを正確に把握できるのです。つまり、得意な処理と、そうでない処理が分かる。ですから、移植を始める前に技術チームで話し合い、「使用できるメモリはどれくらいなのか」といった大枠を決めます。レンダリングについては、この解像度までは必要ない、この要素については軽量化できる、といった判断も行います。LOD(Level of Detail)についても調整します。

 私たちのコードは、そうした部分を個別に変更しやすいよう整理されています。ある部分だけを変更し、別の部分には手を加えない、といったことが大きな混乱を起こさずにできるようになっています。

 確かにハードウェアに応じた妥協は存在します。ただし、それによって他機種版とは違うゲーム体験にならないよう私たちは重視しています。

※画像はSteam版

――携帯モードではテレビでプレイする場合と比べて画面サイズが小さくなります。表示される情報や字幕などについて、Switch2向けにUIや視認性を調整した部分はあるでしょうか?

Cristina氏:大きく分けると、ふたつの側面があります。

 ひとつは“ゲームの世界そのものに表示される情報”です。たとえば出口を示す「EXIT」というサインだったり、どこかに書かれた文字だったり、ゲームを進行するためにプレイヤーが認識する必要のある情報ですね。

 画面が小さくなった場合でもそれらがきちんと読めるかどうかは、QAチームが非常に細かく確認しています。

 ただ、私たちはすでにSteam DeckやROG Allyでもゲームを遊べるようにリリースしています。そのため、同程度の画面サイズでも情報をきちんと読めるようにするための対応は、すでにある程度行われていました。Switch2でも問題なく読めることを改めて確認しています。

※画像はPS5 Pro版

 Cristina氏:もうひとつは“メニューやナビゲーション”です。各プラットフォームには認証に必要な要件があります。

 たとえば非常に長い単語があったとして、文字を小さくしすぎれば読めなくなりますし、2行にすれば今度はボタンのレイアウトがおかしくなる可能性があります。そういった部分は非常に注意深く調整しました。そうしなければSwitch2の認証も通りませんからね。

 Switch2にも独自のメニューや要件がありますが、Steam DeckやROG Allyで似た画面サイズに対応した経験がすでにあったため、この部分については比較的スムーズに対応できています。

※画像はPS5 Pro版

――Switch2版では他機種版と同じゲーム体験を目指していると説明されています。その条件を守るために、「ここだけは大きく作り直す必要があった」というシステムや処理はあったのでしょうか?

Cristina氏:LODについては変更しています。

 もちろん、メインキャストの品質について妥協することはありません。ただ、たとえばかなり遠くの、5列目ぐらいにいるNPCについては、大きな画面でプレイした場合ほど鮮明には見えないかもしれません。

 ゲーム体験に影響を与えない部分については、そのような調整を行っています。言ってみれば、コンテンツの見せ方を調整しているわけですね。他のハードウェアでは遠くにあるものまで一定の品質で描画できますが、Switch2版ではそういった部分を調整しました。

 そして、先ほど話した「Meshlets」という新しいレンダリング技術も開発しています。これによって処理を大幅に効率化できます。ゲームの要素を単純に切り落としていくのではなく、新しい技術を導入することによって、本来なら削らなければならなかったかもしれないものを、できるだけゲーム内に残すことを選びました。

※画像はSteam版

――Switch2への移植では、単純に既存の「Glacier Engine」を軽量化するだけではなく、新しい技術やワークフローも導入されていると思います。今回Switch2版のために得られた知見の中で、今後のGlacierやIO Interactiveの別作品にも活かせそうなものはありますか?

Cristina氏:私たちは約25年間、同じゲームエンジンを発展させ続けています。そのため、非常に優れたツールがありますし、コードもきちんと整理されていて、さまざまな部分を変更しやすくなっています。

 特に「007 First Light」で大きかったのは、ロード画面をなくしたことです。

 プレイヤーにシネマティックな体験を提供したかったため、チェックポイントに到達するたびに停止してロードしたり、ドアを開けたりレベルを移動したりするたびにロードが発生したりするような作りにはしていません。一度ロードすれば、その後は何時間も続けてプレイできます。

 これまで私たちのツールやシステムは、基本的に「レベル」と「ロード画面」を前提としていました。そのため、本作ではそれを変えるために非常に大きな作業が必要になりました。

 新しいストリーミングシステムに合わせたツールについては、正直なところ現在も仕上げを続けています。そうしたツールの多くは、最適化やパフォーマンス、そこから得られる情報にも関係しています。本編の開発が最終段階まで進んだことで、そうしたツールもかなり整ってきました。ですので、現在では、Switch2版への対応そのものは、本編を完成させるまでの作業に比べれば進めやすくなっています。

――Switch2版の開発やQAを進める中で、開発チームが当初想定していなかった問題はありましたか?

Cristina氏:Switch2特有のものという意味では、特になかったと思います。

 通常、まずSDKとエンジンの移植から始めます。当然ですが、最初に動かしたときはひどい見た目になります(笑)。これは多くのシステムをいったん無効にする必要があるからです。

 そこから移植作業を進めて、システムをひとつずつ有効化していくんです。最近、技術講演を行った際に、Switch2で初めてゲーム映像を表示できたときの動画を探してみたんです。その動画と「TGS2026」で展示しているデモを並べて比較しました。……本当に長い道のりでしたね。ものすごく改善されたことが分かります(笑)。

――実際にブースでSwitch2版をプレイさせていただきました。非常にスムーズに動いていましたし、試遊向けのビルドであってもあの映像美で動かせることに完成度の高さを感じました。現在、Switch2版の開発はどの程度まで進んでいるのでしょうか?

Cristina氏:実は現在の状態でも、ゲームは最初から最後まで通してプレイすることは可能なんです。メニューなどもすべて実装されています。

 一方で、特定のロケーションにおいてはまだ最適化が必要だと感じました。たとえば、スロバキアに到着して窓の外を見たとき、非常に多くのNPCがいます。それに加えて大量の光源も同時に存在します。特に大勢の人々が集まっている場面など、一気にシステムの負荷がかかるようなポイントでは、現在も最適化が必要だと感じており、改善に取り組んでいます。

 ただ、これはいつものことでもあります。「HITMAN」を移植するときも、基本的な部分は問題なく動いていましたが、最後にはいくつかの複雑な場所が残るのです。群衆の処理は複雑ですし、大量の光源を扱うのも複雑です。負荷が高い場所ではフレームレートが落ちることがあるため、現在はそういった場所の改善を進めています。

 また、意図していない描画上の乱れも発生しますので、グラフィックスチームとテクニカルアーティストが協力して修正にあたっています。爆発の表現についても同様ですね。それ以外の部分についてはすでにプレイ可能な状況です。

※画像はPS5 Pro版

――最後に、Nintendo Switch 2版の「007 First Light」を楽しみに待っている日本のユーザーへメッセージをお願いします。

Laurine氏:ゲームの発売以降、コミュニティやプレイヤーの皆さんからいただいた愛情やポジティブな反応は、本当に素晴らしいものでした。

 チームがどれだけ長い時間をかけ、懸命にこの作品を作ってきたかを知っているので、それを見ることができて本当に嬉しく思っています。

 そして、つい先ほど累計販売本数が400万本を突破したことも発表しました。これは、どれほど多くのプレイヤーがこのゲームを愛してくださっているかを示すものだと思います。

 もちろん、私たちは“任天堂と「007」の間にある歴史”についても理解しています。任天堂のプレイヤー、そして日本のプレイヤーの皆さんが、この移植版を長い間待ってくださっていることも分かっています。ですが、クリスがお話ししたように、開発は非常に順調に進んでいます。

 辛抱強く待ってくださって、本当にありがとうございます。日本の皆さんにこのゲームを楽しんでいただける日を、私たちも心待ちにしています。

※画像はSteam版