ニュース

ゲームは遊びか、教育か? ルネサンス高校グループが示す「eスポーツ教育」の成果と未来

【東京ゲームショウ2026】
開催期間:9月17日~9月21日
会場:幕張メッセ/TKP東京ベイ幕張ホール

 現在幕張メッセで開催中の「東京ゲームショウ2026」マウスコンピューターブースにて、ブロードメディアが運営する教育事業であるルネサンス高校グループのeスポーツ活用事例を紹介するトークセッション「ルネサンス高校が証明したeスポーツ教育の力」が行なわれた。配信はマウスコンピューターの公式YouTubeチャンネルでも行なわれており、アーカイブがチェックできるので、セッションの詳細を確認したい場合はご覧頂きたい。

【【TGS2026】G TUNE |NEXTGEARブース <ビジネスデイ Day2> 東京ゲームショウ2026】

 トークセッションにおいて、ルネサンス高校グループの教育事業を運営するブロードメディアの代表取締役社長、橋本太郎氏と、元ルネサンス高校の生徒として活動し、卒業後にブロードメディアに就職し、ルネサンス高校のeスポーツコースの講師としても活動し、現在は博多校を運営する、教育サービス本部の武安克典氏、同様に生徒としてルネサンス高校に通い、現在はブロードメディア社員として名古屋eスポーツアカデミーを担当する、教育サービス本部の加藤大智氏の3人と、マウスコンピューター取締役 法人営業本部 本部長の金子覚氏が登壇した。MCにはeスポーツキャスターの海老江邦敬氏が務めた。

 本稿では、トークセッションで紹介された取り組みなどについて紹介したい。

マウスコンピューターのブース
ステージの外周部には、同社ゲーミングPC「G TUNE」や「NEXTGEAR」が展示されており、自由に試遊が楽しめる作り
「G TUNE」の赤色を見ているとゲーミングPCが脳裏に浮かぶ
MCを務めるのはeスポーツキャスターの海老江邦敬氏

開校当時の生徒は僅か2人……日本初の「eスポーツコース」開設と独自カリキュラムの訴求

 ブロードメディアが2006年に開校したルネサンス高校グループは、小泉内閣の構造改革における「構造改革特別区域(教育特区)制度」を活用し、株式会社が経営する広域通信制高校としてスタートした。その後、2011年にルネサンス豊田高校、2014年にルネサンス大阪高校を開校し、現在では3校合わせて約1万人の生徒が在籍する規模へ成長した。普段の学習はスマートフォンやPCで行なうが、決められた時間に行なう必要がないため、24時間いつでも自分のペースで学習ができる点がポイントだ。

 20年前に開校したルネサンス高校グループだが、初年度の開校初日の生徒はわずかに2人だったと橋本氏は当時を振り返り、「2人のうち、学籍番号1番の生徒は今でもこうして会場に姿を見せてくれているんです」と言うと観覧席の方を指差して手を振ってみせてから、続けて「彼はこうしたトークがあると毎回この役回りをさせられるんです」として、会場の笑いを誘った。

 その後は学校の規模も成長し、2018年には日本の高等学校としては初めてeスポーツコースを開設。ルネサンス高校の生徒たちがeスポーツコースを受講できるようにするキャンパスは現在、全国7カ所に設置されており、こうした規模の拡大を受けて、eスポーツコースを受講する生徒は800名を超えるようになっており、順調に成長を続けている様子を示した。また、現在は中学生向けの私塾として「ルネ中等部」を開設している。

 ルネサンス高校グループのカリキュラムの特徴として、通信制高校としての単位取得授業とは別に、14種類ほどの通学オプションコース(追加カリキュラム)の1つとしてeスポーツコースを提供しているところだ。

 eスポーツコースでは、英語やプログラミングのほか、日本の高校では初めてとなる臨床心理学の専門家によるメンタルトレーニング授業も導入している。授業参観した保護者からも好評であり、リクエストがあったことから、現在は「ルネ中等部」でも実施されているという。

 eスポーツコース独自の学習スタイルとしては「OODAループ学習」がある。これはアメリカ空軍発祥の意思決定フレームワーク「OODA(Observe:観察、Orient:状況判断、Decide:意思決定、Act:行動、見直し)」を活かしたもので、このフレームワークを高速で繰り返し回すことで、主体性と適応力を育てるのだという。

 橋本氏は「ビジネスの意思決定でよく用いられるPDCAサイクルがあるが、あれをそのままeスポーツに割り当てようとすると時間が噛み合わない」としており、PDCAサイクルとの違いとして、計画には時間をかけず、試行錯誤しながら即座に学び方を修正する点がeスポーツとの相性がいいとした。

 eスポーツコースを開設するにあたっての苦労について聞かれると、橋本氏は教職員の中からゲーム好きな人材を探して声をかけたほか、ゲームタイトルの許諾取得に最も時間を費やしたという。ブロードメディアは映像制作等も手がけている都合上、著作権遵守の観点からメーカーとの正規の許諾取得を徹底したと、開設時の苦労を振り返った。

ルネサンス高校グループの運営を担う、ブロードメディアの代表取締役社長、橋本太郎氏、元ルネサンス高校の生徒であり、現在は同社教育サービス本部所属の武安克典氏、同様に生徒としてルネサンス高校に通い、現在は教育サービス本部の加藤大智氏の3人がステージに登壇した
ブロードメディア代表取締役社長、橋本太郎氏
ルネサンス高校グループの歩みが紹介された
ルネサンス高校グループのカリキュラムの特徴
ルネサンス高校グループの活動紹介

授業での学びが現在も活きた!eスポーツコース卒業生たちの思い出

 続いては、ルネサンス高校に入学、卒業した武安克典氏と加藤大智氏に当時の学生生活について語ってもらった。武安氏は、eスポーツコースの通学が当時は週2回に設定されていたが、この2回の通学が本当に楽しみにしながら過ごすような学生生活だったと当時を振り返る。実際に通学することから、やはり通常の通信制よりも友達が多くできたので、帰宅後も友達とオンラインで繋がって会話しながら勉強したり、ゲームをしたりとそんな学校生活を過ごしたと語った。

 eスポーツコースの授業は4時間制になっており、そのうち3時間は自分で選択したゲームタイトルの練習で、残る1時間はプログラミングや英語、メンタルトレーニングの講義に当てられていたと当時の時間割を披露。当時を振り返って武安氏は「なんで4時間全部ゲームできないんだ」と思っていたが、実を言うと、この1時間の枠で学んだプログラミングがきっかけになって自身の視野が広がり、その後、情報系の大学に進学する道に繋がったと、卒業後の進路を語り、「視野が広がるきっかけとして4時間目の授業は重要だった」とした。

 学生時代の思い出を聞かれると、やはりゲームの学生大会に参加したことを挙げ、当時プレイしていた「League of Legends」のチームリーダーとして学生大会に出場し、決勝大会に進出が決まった瞬間は今でも非常に思い出深いと振り返った。

 また、武安氏はブロードメディア就職後、教員として生徒たちを指導していた期間もあったことから、そのあたりを振り返ってもらい、指導する側から見たeスポーツコースについて、現在受講している生徒たちに学んでほしいことを聞かれると、「ちゃんと講義を受けて視野を広げてほしいですね。でもまぁルネサンス高校は自由なところが魅力なので、講義を聞くか聞かないかは個人の自由だとは個人的には思っています。ただし、講義の時に、自分にとって必要だと感じたものに対してはしっかり受けて、視野を広げてほしいです」と語り、生徒たちへの熱い思いを語った。ちなみに、武安氏は現在、博多キャンパスの運営を担当しているため、生徒たちの指導はここ数年はしていないとコメントしており、筆者個人としては、すごくいい先生の雰囲気があるので、もったいないと思った。

eスポーツコースの教員としても活動していたという、元ルネサンス高校の武安克典氏

 続いては加藤大智氏の入学経緯や高校生活について語ってもらった。加藤氏は中学一年生の夏休み頃から不登校になってしまったという。その理由として「全員が同じペースで同じものを勉強する学校教育に納得がいかなかった」と中学時代を振り返る。

 ただし、勉強はしていたので、一度は全日制高校に入学したが、やはり週に6回の通学に適応できず、中退することになった際、ルネサンス高校が日本初のeスポーツコースを開設すると知り、入学を決意したという。

 MCの海老江氏が当時は得体のしれないコースに感じたのではという疑問を投げかけると、加藤氏は「確かに不安はあったが、不安よりはもう期待感とかワクワクがすごい勝っていた」と語った。そんな期待感は入学後にどう変化したかを聞かれると、加藤氏は「大会での成績については、最初の高校生大会は1回戦敗退という散々な結果だったが、2年、3年と続けるうちに成績を残せるようになるなど、期待感は充実感に変わっていった」と、充実した学生生活を過ごした思い出を振り返った。

 そのほかの思い出としては、フランスのパリで開催された「Japan Expo」にルネサンス高校グループがブースを出展した時のスタッフとして参加したエピソードを披露。当時は格闘ゲーム「ストリートファイターV」の試遊ブースを手伝っていたが、ステージイベントを担当した際に、地元の学生と試合するという話だったので、向こうも生徒なら同じくらいの実力かと思っていたら、現地のプロ選手が相手で「ちょっと話と違うと思いながら対戦して、ちゃんとボコボコにされるっていうのは結構いい思い出です」と、当時のユニークな思い出を語った。

 ほかにもeスポーツコースで受講したメンタルトレーニングの授業で学んだ、大会に向けたモチベーション維持や緊張への対処法は、現在も日常や仕事で活用しているとeスポーツコースのカリキュラムを評価した。

同じく、ルネサンス高校に通っていた加藤大智氏も学生時代の思い出を振り返る

初心者から全国大会覇者へ、そして「教える側」へ回る生徒たちの成長循環

 ルネサンス高校は、全国高校eスポーツ大会「STAGE:0」の「Valorant」部門で優勝、準優勝、3位を独占するなど、毎年優れた実績を残している。橋本氏は「800人近いeスポーツコースの生徒たちの多くが、入学後に初めてそのゲームタイトルに触れているため、初心者から強い選手に育成できている点が強い」と評価。強くなる生徒たちはキャンパス間でのオンライン交流戦や自主的な練習を通じて強豪選手へと成長を遂げる。橋本氏は「大会でよい成績を残すと、あの学校は強い子供しか取らないといったネガティブキャンペーンをやられてしまうが、800人も強い子が入ってくれば左うちわですよ」と笑い飛ばす。

 そして同校において、橋本氏が評価したいのは大会で優勝したり実績を残すこと以上に、教える立場に立つことだという。「高校生の間に、中学生を教える立場に立てること。この立場に立てる子がうちの学校ではチャンピオンです」と語り、高い技術だけでなく中学生に指導できる優れた人格の生徒育成が橋本氏の誇りだ。

 実際に今回登壇している武安氏は、大学在学中の4年間はルネサンス高校のコーチを勤めてから就職して教員になったと経緯を紹介。武安氏も当時指導していた生徒たちが大会で優勝した時は、自分のこと以上にうれしかったとコメントしており、「自分でプレイしていた時も、もちろん楽しかったんですが、教えた生徒たちが育つのはそれ以上に楽しいんです」とした。

 同様に加藤氏も高校3年生の時に声をかけられ、「ルネ中等部」で講師をしていたことがあるという。中学生には成功体験や興味を持たせる指導、高校生には自分で考え解決する「自走力」を身につけさせる指導を意識していると語った。

全国高校eスポーツ大会「STAGE:0(ステージゼロ)」のルネサンス高校グループの実績

不登校の生徒たちが自発的に通いたくなる「学校の多様性」

 そして、橋本氏が2006年の開校当初から掲げたテーマの1つが「多様性」だ。従来の学校教育が「毎日学校へ通うこと」の一択であり、通えない生徒が教育現場から存在ごと消えてしまう構造であったのに対し、自身の生活リズムで学び、主体的に自身の時間(プライムタイム)を活用できる環境を提供することこそが多様性の第一歩と語る。

 橋本氏は「世間では、ゲームばかりやっていたから不登校になったと誤解されがちだが、学校に行かなくなって暇で暇でしょうがないからゲームをやっていたらめちゃめちゃ上手くなっちゃったというのが実際の順番」と指摘する。

 ここで橋本氏は2022年のクリスマスに大阪の教室を訪れた時のエピソードを語ってくれた。教室では橋本氏に対して、十数人の男子生徒が集まってくれた。そこで代表の生徒が「僕、生まれてから初めて学校に行くのが本当に楽しくて楽しくてたまらないんです。今日集まったみんなも同じ気持ちです」と感謝を伝えられたという。橋本氏は、同校のeスポーツコースを単なる避難場所としての「居場所」ではなく、「そこに行きたいと思って来る子たちが集まる場所」と定義している。これまで送り出した3万2,000人以上の卒業生のうち約7~8割ほどが不登校を経験した生徒であり、目的や仲間を得て自発的に学校へ戻ってきた彼らを再び社会へと送り出すことこそが、同校の真の成果であり重要な社会的使命とまとめた。

ルネサンス高校グループのeスポーツコースやルネ中等部を利用した生徒や両親からのコメントも紹介

現場のダウンタイムゼロを目指す手厚いサポート体制

 その後は、現場でのプレイ環境を支えるゲーミングPCやサポート体制についても話し合われた。マウスコンピューターでは、「STAGE:0」への協賛や機材提供を行なっているが、これらについて金子氏は、今回登壇してくれた武安氏と加藤氏ら2人の卒業生たちの熱量について触れ「子供が夢中になって熱中して熱狂して自分をなんとか高めようとする行動・行為に対しては、これはもう大人がサポートするしかないですよね!」と語り、今後も若い世代のeスポーツ活動を全面的に支えていく姿勢を示した。

 武安氏は、eスポーツにおいてハイスペックなPCは、対等に戦うために必須の土台であると強調。橋本氏は、全国7拠点で800人以上の生徒が毎日稼働させるため、安定した品質と使い勝手を重視した結果、ほぼ「G Tune」一択になっている点を明かした。

 これに対して金子氏は、学校現場でダウンタイム(機器の停止時間)を発生させないため、西日本エリアの修理迅速化を目的とした広島修理拠点の設置や、24時間365日の法人専門サポート体制を整えていることを説明。ゲームタイトルの更新に伴う要求スペックの変化や、メモリ、SSD等のパーツ価格変動に対して、学校側の予算スケジュールに合わせた柔軟な提案・調整を行なっていると、同社の姿勢を示した。

マウスコンピューターの取締役 法人営業本部 本部長の金子覚氏
eスポーツ教育環境への同社ゲーミングPC「G TUNE」導入機材実績も紹介された

 トークセッションの最後にメッセージを求められた橋本氏は、20年の学校経営と8年のeスポーツコースの広がりを振り返り、質の高い教育を維持しながら全国津々浦々にeスポーツ環境を提供していきたいという展望を語った。武安氏は、東京ゲームショウ会場内のルネサンス高校ブースにて、生徒が着用する新ユニフォームの投票企画を実施していることを告知し、来場へ感謝を述べた。

 加藤氏は「上の世代の人たちには、今でもゲームはお遊びと捉えられがちだが、本セッションを通して少しでもeスポーツ教育への認識が変わってくれれば嬉しいと呼びかけた。この言葉を受けて、金子氏は「私自身も当初は半信半疑で、正にゲームはお遊びなのでは、と考えていたが実際の教室などを見学させてもらってから、考えが180度変わった」と自身の体験を語り、来場者に向けてeスポーツの持つ素晴らしさを周りへ広めてほしいと話した。

 最後はMCの海老江氏から「8年前に教わっていた生徒たちが、現在は教える側に立っているという事実にルネサンス高校の歴史と教育的成果が凝縮されている」と感想が語られ、ステージは締めくくられた。