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Umazing! 「ウマ娘」英語版では方言や口調をいかに再現したか。従来と異なるアプローチのローカライゼーションとは【CEDEC2026】

【CEDEC2026】
開催期間:7月22日〜7月24日
会場:パシフィコ横浜 ノース/オンライン

 7月24日、コンピュータエンターテインメント開発者を対象とした、ゲームに関する技術や知識を共有する国内最大級のカンファレンス「CEDEC2026」にて、英語版ウマ娘のローカライズを担当したCygamesのローカライゼーション部/翻訳者のAllison Cottrell氏及び、コーディネーターの森田竜平氏による講演「『ウマ娘 プリティーダービー』 英語版のキャラクターの方言や口調をローカライズするための創造的アプローチ」が行なわれた。

 本講演は、日本で発売された『ウマ娘 プリティーダービー』の英語版開発時におけるキャラクターの「方言」や「口調」をいかに創造的に再現したかをテーマとしたもの。本稿ではその内容を一部抜粋してご紹介する。

講演を担当したCygamesのAllison Cottrell氏(翻訳者)、森田竜平氏(コーディネーター)

ローカライゼーションの本質は「喋り方のシルエット」

 ローカライゼーションの本質は単なる情報伝達としての「翻訳」ではないと森田氏は語る。具体例として、とある世界的に有名な架空の人物のセリフとして「貴方は優秀です。これは贈り物です」と提示するが、外見が分からない状態で、このセリフだけ聞かされても誰かは分からない。

 その後、意味としては同じながら「ほっほっほ、良い子にしておったな。わしからのプレゼントじゃ!」というセリフを提示することで、具体的な人物像がセリフだけで伝わるという例を示し、キャラクターが持つ「喋り方のシルエット」を再現することが重要であると説明した。なお、この人物の正解は「サンタクロース」だ。

 『ウマ娘 プリティーダービー』は日本語版のヒットもあって、リリース前から海外からの期待の声も多く、世界中のファンの期待に応える必要があったとAllison氏は語る。

 まずは「Recognizability(一目でそのキャラクターと分かること)」の担保の例として方言を挙げる。日本の方言の英語へのローカライズ手法においては、特定地域の方言を使うのが一般的だ。例としては、「タマモクロス」の名を挙げ、その関西弁を英訳する場合は、アメリカ南部訛りの英語を使うのがこれまでの手法だったが、『ウマ娘 プリティーダービー』においては、すでにアメリカ南部出身のウマ娘「タイキシャトル」が存在しており、口調が重複するため、この手法をそのままは使えなかったという。

 そのため、特定の地域の訛りに頼るのではなく、日本語の方言が持つリズムやスピード感を分析し、それを英語の「綴り」で視覚的に再現したほか、日本語方言のリズムやスピードに合わせて英語セリフを声に出すなどで対応したと説明した。

 同様に「ユキノビジン」の岩手出身の素朴で方言が抜けないキャラクター性については、特定の現代方言に当てはめるのではなく、「言葉遣い(Authenticity)」の違いで表現した。具体的には1930年代から60年代の少し古い英語表現やスラングを採用することで、岩手出身の素朴さを再現したと説明した。

キャラクターの個性は見た目だけでなく、その話し方や口調などの「喋り方のシルエット」も重要と説明
一般的な手法では、特定地域の訛りを使うが、ウマ娘の場合、そのまま適用できないことも多い
講演では実際のゲーム映像と音声についても紹介。こちらは「タマモクロス」のゲーム内のセリフの例
例では、英語の綴りや日本語方言のリズムに合わせて英語セリフを発することで対応
「ユキノビジン」のゲーム内でのセリフの例
1930~60年代の古い英語表現を用いることで素朴さを再現

 続いては、特定の文化圏のプレーヤーが不自然さを感じないような口調の「オーセンティシティ(説得力)」を確保するための手法についてだ。

 ここでは「アグネスデジタル」特有の「オタク文化」における言い回しについての例を紹介。単にテンション高く訳すのではなく、英語のオタクコミュニティで興奮している時に実際に使われる表現などを採用したという。

 また、日本の若者言葉(ギャル文化)の言葉を多用する「ダイタクヘリオス」の例としては、現代のSNSを使いこなす「Z世代」として再定義し、「Let her cook(いいよそのままで、続けて)」といった最新のスラングを使用し、他人が一瞬引くような特有の距離感を再現することで、キャラクターの説得力を高めた。

「アグネスデジタル」のゲーム内のセリフ例……これをどう英訳するのか?
実際のオタクコミュニティで使われる表現などを使用することで、キャラクターの口調に説得力を付与。このセリフを再現した時のAllison氏には完全に「デジたん」が憑依していた
「ギャル」という概念が海外では伝わりにくいため、Z世代(GenZ)の言葉を適用させたという
「ダイタクヘリオス」のゲーム内のセリフの例
日本人でも読むのが難解なダイタクヘリオスのギャル語を「イケてる」感じの英語表現に昇華

愛と熱意の担当制。コミュニケーションは「Slack」を活用

 最後は個人の知見をチームの資産に変え、担当が変わっても品質を維持するための仕組みを紹介した。

 今回の例で言うと、アグネスデジタルのセリフについては、オタク用語に精通したメンバーを初動の下訳に起用するなど、キャラクターの「芯」を外さないようにしたそうだ。その上で、コミュニケーションの活性化を図るべく、翻訳チームはコミュニケーションツールの「Slack」で、業務以外の雑談レベルのアイデアも自由に投稿できるチャンネルを設け、自由な発想を促すとともに、どのような話がどのような層に面白がられるのかなど、コミュニケーションを円滑に進めることで、今でもバズっている「Umazing」のような造語など、多くの優れた表現がここから生まれたのだと説明した。

 加えて、「口調ガイドライン」作成についても解説。まずは担当者が注意点をまとめたドラフトを作成し、言語品質管理チーム(品質保証担当者)の校正やチェックを経て完成させ、担当者が変わっても一貫性を保てる体制を整えたとした。

 最後に森田氏は「ローカライゼーションとは、開発の最後にある単なる翻訳工程ではなく、コンテンツの魅力を最大化するための創造的な工程」とローカライゼーションの重要性を説くとともに、今後もキャラクターへの愛を持ち、世界中のトレーナーに感動と熱狂を届けるために、最高級のローカライズを続けていくという展望を語り、講演は締めくくられた。

推しだったり、特定の分野の情報に詳しいメンバーがキャラクターを担当
コミュニケーションツールの「Slack」を活用して、コミュニケーションを円滑に進めるとともに、様々な表現のアイデア出しに使われた。今でもバズっているという「Umazing!」という表現もここから生まれたという
担当者がガイドラインのドラフトを作成し、品質保証担当者のチェックを経てガイドラインが完成
担当者が変わっても一定の品質が担保できるようになった