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「グランツーリスモ」がこだわった“見えない10,000nits”。ポリフォニーとソニーの超高輝度HDRへの挑戦【CEDEC2026】

RGB LEDの超高輝度ディスプレイを試作。「触れそうな実在感」を表現

【CEDEC2026】
開催期間:7月22日〜24日
開催場所:パシフィコ横浜ノース/オンライン
ポリフォニー・デジタルでエンジニアリングマネージャーを務める鈴木健太郎氏

 本日7月22日より開幕したゲーム開発者向けカンファレンス「CEDEC2026」。本稿では、ポリフォニー・デジタルの鈴木健太郎氏、内村 創氏、安冨健一郎氏、ソニーの廣田洋一氏、菅井千尋氏によるセッション「Beyond HDR -きらめきも質感も、見たままに届ける。映像体験への実験的挑戦-」の一部をお届けしていく。

 セッションでは、ゲームにおける「ハイダイナミックレンジ(HDR)」の変遷、レースゲーム「グランツーリスモ」シリーズのHDRへの取り組み、ソニーが試作した超高輝度ディスプレイを紹介。ソニーグループだからできる超高輝度HDRへの挑戦が語られた。

ポリフォニー・デジタルの「HDRの理想像を見てみたい」という欲求

 まずはポリフォニー・デジタルより内村 創氏が“HDR対応ゲーム”の変遷を紹介した。HDRは、2016年前後にゲーム機・テレビ・映像規格がほぼ同時に動きはじめ、コンソール機ではPS4/Xbox One世代の中盤から使われるようになり、既にHDR対応ゲームは10年近い実運用の歴史がある。

 だが、映画と違ってゲームはインタラクティブなコンテンツであり、2016年当時はHDR対応ゲームであってもユーザー体験が常に良好とは限らなかった。明部や暗部の見え方が変わると演出やゲームプレイに影響を与えてしまうため、表示デバイス(テレビやモニターなど)ごとのHDR出力の差をゲーム体験上の問題として扱う必要があったのだ。

 そこでゲーム業界とTV/ディスプレイ業界の有志企業によるグループ「HDR Gaming Interest Group(HGiG)」が発足し、HDRゲームの制作・配信に関するガイドラインを2018年に公開。表示デバイスごとに性能差があることを前提として、ベストプラクティスを示した。

ポリフォニー・デジタルで画像処理エンジニアを務める内村 創氏

 そして2026年現在、多くのゲームがHDR出力をサポートしており、モバイル分野でも普及が進んだことで「気付かないうちにHDRでゲームをプレイできる時代」になった。一方で表示デバイスの性能差はまだまだ大きいだけでなく、ディスプレイの技術進化が速いことも相まって、プレーヤー側が高性能なHDR対応ディスプレイを持っていることもあるという。

 依然としてHDR対応ゲームを巡る状況は複雑だが、コンテンツへの没入度を高めるHDRは「グランツーリスモ」と親和性があり、ポリフォニー・デジタルは「HDRの理想像を見てみたい」という強い欲求を持つようになった。

 そんな中、同じ時期に「ソニーが超高輝度ディスプレイを試作した」という情報があり相談したところ、ソニー側も「新しいデバイスの性能を活かすコンテンツを探していた」と需要が合致したことで、今回のコラボレーションに至った。

ソニーが試作したRGB LEDによる「超高輝度ディスプレイ」

 続いてソニーの廣田洋一氏がHDRの効果や規格例を紹介。従来のSDR(0.02〜100nits)はブラウン管の制約を反映している一方で、HDR(0.0001〜10,000nits)は人の視覚範囲を全てカバーしている。明暗差による表現の自由度が圧倒的に広がったことで、いくらでも派手な画を作ることはできるが、重要なのは「現実の明るさのまま、忠実に再現できること」と語った。

 だが、HDR規格の最大輝度は10,000nitsとなっている一方で、一般的なHDR対応ディスプレイの最大輝度は1,000nits程度であり、大きなギャップが存在していた。そのため「10,000nitsのコンテンツ」を1,000nitsのディスプレイで見ると白飛びしてしまい、逆に「1,000nitsのコンテンツ」を4,000nitsのディスプレイで見ると暗く見えてしまう。コンテンツとディスプレイが揃って成り立つのがHDRであり、規格物の宿命として高いハードルがあったのだ。

ソニーで技術開発研究所 コンテンツ技術研究開発部門 空間映像技術開発部 シニアビジュアルエンジニアを務める廣田洋一氏

 そこでソニーは「10,000nitsを超える超高輝度ディスプレイ」を試作。ベースとなったのは、独立したRGBのLED素子がダイレクトに発光する「LEDディスプレイ」であり、一般的にはサイネージなどで使われているのだが、通常のモニターサイズにまで小型化した。

 出来上がった超高輝度ディスプレイは、10,000nitsを超える全白輝度を実現し、黒潰れを抑える階調表現技術によって暗部も滑らかに再現。白飛びと黒潰れがなくなり、これまで見えなかったものが見えるようになったことで「純粋に感動した」と振り返った。

遂に「グランツーリスモ」と「超高輝度ディスプレイ」が出会う

 ここからはポリフォニー・デジタルの安冨健一郎氏が、これまでの映像表現とHDRの恩恵、画作りの変化を語った。「グランツーリスモ」シリーズがHDR対応を始めたのは、2017年に発売された「グランツーリスモSPORT」の開発時からだったが、最初に届いたHDRテレビの最大輝度は1,000nitsにすら届かなかった。

 これはHDRが未来志向の規格だったためだが、当時のHDRテレビでは表現の差がとても小さく、開発者すらHDRとSDRを見間違えることがあったという。だが将来に向けて、ポリフォニー・デジタルは「見えない10,000nits」にこだわり、スケーラブルな開発を続けた。

ポリフォニー・デジタルでテクニカルアーティスト/チームリードを務める安冨健一郎氏

 そして、見えない10,000nitsにこだわってきた「グランツーリスモ」と10,000nitsを実現した「超高輝度ディスプレイ」が出会う。これまで作ってきた「グランツーリスモ」のHDRのポテンシャルを、10年越しに完全な姿で見た時は「ようやく現実が追いついた」と振り返り、感無量だったと明かした。

 実感したこととして「超高輝度ディスプレイ」の解像度はフルHDだが、体感解像度はそれ以上に高いことを挙げた。これはコントラストが高くなったことで、輪郭を捉えやすくなったためだ。そして質感の説得力も高くなり「触れそうな実在感」を持っていると語った。

 また、SDR環境は低輝度なため画面全体の情報を一度に視認できるが、超高輝度HDR環境ではコントラストが高すぎるため明部と暗部を同時に視認できない。現実の視界に近いビジョンで「生っぽいリアリティに繋がっている」とした。

 そして、SDR想定の画作りは「超高輝度ディスプレイ」のHDR環境下では極端な効果としてネガティブになり、自動露出補正やコントラスト補正、ポストエフェクトが不要になるという予想が実証されたことも明かした。

 一方で体感の強度はすごいが、刺激が強いため長時間視聴は疲れやすく、SDRは負荷が低くて見やすいことも改めて感じたという。これについて、安冨氏は「HDRにはHDRの調整作法があるはず」とし、こうした知見が蓄積され今後のHDRコンテンツ制作で役立つと前向きに語った。

8月3日10時までタイムシフト視聴を実施中。現地では超高輝度HDRを実際に体験可能!

 ここまで、CEDEC2026「Beyond HDR -きらめきも質感も、見たままに届ける。映像体験への実験的挑戦-」の模様をお届けしてきた。本稿で紹介した以外にも、セッションではHDRの規格例、コンテンツの映像表現、視覚の輝度レンジをほぼカバーするHDRカメラの試作など、超高輝度HDRへの挑戦が紹介されている。

 「CEDEC2026」はオンラインパスを購入すると、8月3日10時までタイムシフト視聴が可能なため、気になる方はぜひご覧いただきたい。また、会場のパシフィコ横浜では今回の超高輝度ディスプレイによる「グランツーリスモ」の展示が行なわれているため、現地参加の方は体験してみてほしい。