【特別企画】

「サイレントヒル」岡本氏が語る「SH2」「SHf」開発話! 竜騎士07氏と考察の相性の良さや「メロ狐」が紹介【CEDEC2026】

グローバル開発の裏話も

【CEDEC2026】
開催期間:7月22日〜7月24日
会場:パシフィコ横浜 ノース/オンライン

 コンピュータエンターテインメント開発者を対象とした、ゲームに関する技術や知識を共有する国内最大級のカンファレンス「CEDEC2026」にて、レギュラーセッション「SILENT HILLのプロデュース術 『推し』の時代に推されるゲームをめざすには? ユーザーの熱量を重視するプロデュース方針と海外開発を軸にしたグローバルゲーム開発進行」が実施された。

 登壇者は、「SILENT HILL」シリーズで知られるコナミデジタルエンタテインメントの統括プロデューサー・岡本基氏と、アシスタントプロデューサー・松尾泰樹氏、プランナー・杉本絢音氏の3名。

 セッションでは、岡本氏によってシリーズ復活のために実施したことや、昨今の考察・推し活ブームを意識した考え方などが語られた。また、「SILENT HILL 2」と「SILENT HILL f」を開発するにあたって海外のゲーム開発会社とのやり取りのポイント、注意点など実務面でのゲーム開発の参考になるエピソードなどが明かされた。

 本稿では、その内容を一部抜粋して紹介していく。なお、「CEDEC2026」での講演はオンライン配信も実施されている。リアルタイムで視聴できなかった人でも、レギュラーパス、オンラインパスで受講登録を済ませている人であればタイムシフト配信を利用可能だ。

 タイムシフト配信はセッション終了の後日に公開され、会期終了後でも8月3日10時まで視聴できるので、本稿で興味を持った方はぜひ利用していただきたい。

□「CEDEC2026」タイムテーブル / セッション一覧のページ
□CEDEC2026「SILENT HILLのプロデュース術 『推し』の時代に推されるゲームをめざすには? ユーザーの熱量を重視するプロデュース方針と海外開発を軸にしたグローバルゲーム開発進行」

【登壇者プロフィール】

岡本基氏 株式会社コナミデジタルエンタテインメント 第1制作部  統括プロデューサー

 2019年に株式会社コナミデジタルエンタテインメントへ入社。
「SILENT HILL」シリーズのプロデューサーを務め、『SILENT HILL: The SILENT HILLort Message』『SILENT HILL 2』『SILENT HILL f』『SILENT HILL townfall』のプロデュースを行っている。

松尾泰樹氏 株式会社コナミデジタルエンタテインメント 第1制作部  アシスタントプロデューサー

 2018年に株式会社コナミデジタルエンタテインメントへ入社。
内製チームにてレベルデザイナーとしてキャリアをスタートし、その後『SILENT HILL: The SILENT HILLort Message』および『SILENT HILL 2』ではプロデューサーアシスタントとして開発・進行管理業務に携わる。

杉本絢音氏 株式会社コナミデジタルエンタテインメント 第1制作部  プランナー

 2022年に株式会社コナミデジタルエンタテインメントへ入社。
『SILENT HILL f』ではプロデューサーアシスタントとして、台湾に拠点を置く開発スタジオとの制作進行や、国内外の協力先とのコミュニケーションに関する実務を担当。

「SILENT HILL」開発陣は世代交代済み。英語ができなくても海外スタジオと共同開発できる

 岡本氏によって最初に語られたのは、シリーズ復活に際してメンバーをゼロから集めたということ。25年もの歴史がある「SILENT HILL」シリーズだが、復活後はチームメンバーの約半数が20代で開発陣がほとんど入れ替わっており、過去に「SILENT HILL」に関わっていたメンバーはゼロだという。

 また、ほぼ全ての開発パートナーが海外のため、アメリカ、欧州、アジアと幅広い地域のパートナーと開発が進められており、コミュニケーションでは英語が使われていた。しかしながらメンバーの80%が英語を喋れないとのこと。

 そのため、ビデオ会議をすると通訳の用意など必要な時間、労力が膨大になってしまうため、機械翻訳を用いてテキストコミュニケーションをベースにやり取りをしていたそうだ。

 岡本氏はこのグローバルな開発環境について出るであろう「難しくないのか?」「抵抗感がないのか?」という問いに対して「新卒の頃からグローバル化が当たり前の環境なので慣れていける。英語が喋れなくても問題ない。大切なのはいいゲームが作れるかだ」と語っていた。

「SILENT HILL」とは? 感情や心象風景が具現化した世界を描くサイコロジカルホラー

 次に語られたのは「『サイコロジカルホラー』とは何なのか」ということ。岡本氏は「感情や心象風景が具現化した世界を描くものがサイコロジカルホラーである」としたうえで、ゾンビなどのクリーチャーが出てくる「フィジカルホラー」ではなく、人によってクリーチャーの見え方が変わる世界観をシリーズの根幹として捉えているそうだ。

 そして、シリーズ復活に際しては、「SILENT HILL」からインスパイアされたホラーゲームが乱立する昨今の状況を鑑みて「サイコロジカルホラー」というアイデンティティを明確にすることで差別化したという。

 そのため、復活作のひとつ目にシリーズ2作目であり「サイコロジカルホラー」のスタンダードを確立したタイトルとして「SILENT HILL 2」が抜擢された。「SILENT HILL 2」では主人公が自身の苦悩やトラウマに向き合い答えを探す物語だ。ゲーム内の事物やクリーチャーは主人公の心理・トラウマが投影されたメタファーであり、世界を彷徨う物語全体が心理的なプロセスとして描かれている。

 そのため、復活したシリーズでは「どういった要素が『SILENT HILL』に求められているのか」についてユーザー調査を実施し、ガイドラインなどの資料をまとめて整理したとのことだ。そのため、グローバルな開発でも軸を定めて開発できたという。

 さらに、シリーズ復活について岡本氏はゲームの内容以外にも、展開の仕方も紹介。岡本氏は、「昨今あるリメイクでシリーズの人気を図る“様子見リメイク”ではなく『本気で復活させる』という思いを感じてほしかった。そのためにリメイクだけでなく新作も絶対に同時発表したかった」と語っていた。

 シリーズ展開については「冷笑されないようにゲーム2本+映画で本気度を示す」「ユーザーの期待をいい意味で裏切ってワクワクさせる」としており、復活1作目の「SILENT HILL 2」の予算提案書の時点で3タイトルのロードマップを提示し、社内承認を得ていたという。

文化は異なってもゲームを作る仲間。「SILENT HILL 2」グローバル開発

 続いては、「SILENT HILL 2」にてプロデューサーアシスタントとして開発・進行管理業務に携わった松尾泰樹氏が、グローバルなゲーム開発の裏側を語った。

 松尾氏によれば、グローバルにゲーム開発の標準化が進んでいるため各段階が世界的に共通化されており、国が異なるスタジオとの開発文化との差に戸惑ったことがないとしていた。そのため、1つの海外スタジオとの開発経験が他の国のスタジオとの開発でも役立つそうだ。

 また、「SILENT HILL」シリーズの売り上げは90%以上が海外であることにも触れており、魅力が多言語化されていることで、シリーズのコアとなる部分を共有できること、国家間の認識の齟齬が生まれにくいことなどが挙げられている。

 一方で、一部の認識は日本と海外とで差があるとして、「アクセシビリティ」と「リリース時点での考え方」の差も挙げられた。「アクセシビリティ」については松尾氏曰く「日本国内では工数がかかることから断念されがちだが海外では品質と捉える」として、ディスレクシア(※)を持つ人に向けたフォントとして「Bold」以外に「Dyslexic」フォントを実装したことなども明かされた。

※ディスレクシア:学習障害のひとつのタイプとされ、全体的な発達には遅れはないのに文字の読み書きに限定した困難があり、そのことによって学業不振が現れたり、二次的な学校不適応などが生じる疾患国立研究開発法人 国立生育医療研究センターより引用

 また、「リリース時点での考え方」については、KONAMI側の「マスタ(製品版)提出段階で最大限の品質を担保」に対して、海外スタジオ側の「早期にマスタ提出を行ないDay 1 Patchでの改善対応」と差があったという。今回の場合は開発終盤にこの考え方の差が露呈したとしており、今後は開発初期段階でこういった考え方のすり合わせが必要だと感じたそうだ。

 さらに、松尾氏はコミュニケーションについての文化の差にも触れており、日本では「配慮や関係性を重視した遠回しな表現」が好まれるものの、グローバルコミュニケーションでは「明確で簡潔な直接的な表現」が不可欠だとしている。文化の差はあれどゲームを作る仲間としてリスペクトを大切にしながら、初期段階からクオリティラインやスケジュールなどを明文化することの重要性が語られた。

「サイレントヒル」という現象として広げたい。「SILENT HILL f」開発話

 次は岡本氏より「SILENT HILL f」のグローバル開発について紹介された。岡本氏は過去シリーズについて「舞台が同じだから飽きられてしまったのでは」と分析し、「舞台を『サイレントヒル』から外に拡張したい」と考え、「『サイレントヒル』という現象」としてシリーズを展開しようと考えたそうだ。その中で、「アジア展開が面白そう→KONAMIは日本の会社→日本でしょ」というような流れで日本を舞台にしたという。

 シナリオを担当した竜騎士07氏については「作品の傾向的に『サイレントヒル』が好きそう」「ホラー作品の経験が多い」「岡本氏自身もファン」という理由で依頼したという。その中で、「作家に発注するなら、全著作物の少なくとも過半数は読んでから発注すべき」とする考えを述べていた。「そもそものリスペクトとして当然なだけでなく、どんな作家にも長短があり、作家性や癖を含めて把握するためでもある」としている。

 そのため、「チームでは少なくともシナリオ担当者は年間100~200冊は読むべしという圧をかけ合っていた」としており、インプットの大切さも語っていた。

 また、実際の開発においては開発初期段階でコンセプトをしっかりと固め、シナリオプロット、コンセプトアート、ゲームデザインをまとめることで、方向性を定めたそうだ。岡本氏曰く「売れるホラゲーはストレスと解放のバランスが良い」として、「SILENT HILL f」では恐怖だけで飽きられることがないよう、アクションに踏み出すことで怖いながらもストレスを解放できるようにしたという。

目指したのは「日本っぽい」ではなく「1960年の日本」

 次に「SILENT HILL f」の開発話として、同作でプロデューサーアシスタントとして国内外の協力先とのコミュニケーションに関する実務を担当していた杉本絢音氏から当時の開発における裏話が紹介された。

 杉本氏によれば、日本の昭和っぽい家を再現するために実際の配置や雰囲気をKONAMIが細かくチェックしたという。そこで目指していたのは「日本っぽい」ではなく「1960年の日本」。海外スタジオが熱心に勉強しても伝わりにくい素材や形、配置などを当時の資料も参考にディレクションしたそうだ。

 さらに、開発中には同作のモデルとなった岐阜県下呂市を実際に訪れ、ロケハンや音声収録なども行なったという。また、下呂市・下呂市金山町観光協会長にも挨拶しゲーム内容を説明。協力を得ていたそうだ。

考察と推し活がブーム。「メロ狐」こと狐面の男が人気に

 最後に岡本氏は、講演の題にもある「考察と推し活」についても紹介した。昨今、考察動画や考察ドラマに加え、推し活がブームになっていることもあり、シリーズを通して多数の考察が続けられてきた「SILENT HILL」と、キャスティング時点から「ひぐらし」などの竜騎士07氏作品の考察の相性の良さを意識していたという。

 岡本氏によれば、「事実はしっかり存在しているものの、すべてが明かされておらず、物語に曖昧さがあることで考察を楽しめる余地がある」としている。加えて、「細部に至るまで作り込まれているからこそ説得力があり、計算して隠されている部分もある」として意識的に考察を楽しめるようにしていたようだ。

 また、推し活(ファンダム)については、狐面の男「メロ狐」が女性から人気だとして紹介。同人誌が何冊も作られ、これまでのシリーズファンとは明らかに異なる層にリーチできたという。ファンダムについては、キャラクターの誕生日など何かの記念に合わせて公式からイラストを投稿することで燃料を投下、共に成長していけるように意識しているそうだ。