【特別企画】
残暑はアニメ三昧で乗り切る! 夏休みに観たい“夏っぽいアニメ”3選
2023年8月14日 00:00
- 【“夏っぽいアニメ”3選】
- 「劇場編集版 かくしごと -ひめごとはなんですか-」
- 「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」
- 「ニニンがシノブ伝」
史上最も暑い7月を乗り越え、ふと気付けば夏休みもあと僅かという学生さんや、夏休みを持て余す社会人の皆さん、いずれも酷暑で外出する気にならない方も少なくないことと思う。
しかし「ネットサーフィンでふと気付けば夜」を繰り返していては、何となく損をした気分になる。そこでアニヲタ歴半世紀を超える筆者が、配信で手軽に鑑賞できて、家に居ながらに充実した夏休みを過ごせるアニメを3作品選んでみた。
夏休みを有意義に過ごす参考にしていただければと思う。
希代のギャグ漫画家による父娘の絆の物語「劇場編集版 かくしごと -ひめごとはなんですか-」
「劇場編集版 かくしごと ―ひめごとはなんですか―」は、久米田康治氏が月刊少年マガジンで2016年1月号~2020年8月号まで連載していたコミック「かくしごと」が原作。2020年4月~6月に放送されたTVアニメ版「かくしごと」の劇場公開編集版となっている。「久米田康治画業30周年記念作品」として2021年7月に公開された。
下ネタが得意なギャグ漫画家と娘によるストーリー&キャラクター紹介
原作の「かくしごと」は、下ネタが得意なギャグ漫画家、後藤可久士(ごとうかくし)が主人公の、いわゆる「漫画家漫画」となっている。
後藤可久士には10歳になる愛娘の後藤姫がいるのだが、その作風ゆえ、娘に対して自らの職業を隠す二重生活を選ぶ。タイトルの「かくしごと」は、「描く仕事」と「隠しごと」のダブルミーニングとなっている。
そして後藤可久士の得意な漫画家漫画としての物語と平行して、18歳になった後藤姫が父のかくしごとを知っていくという状況が進行していく。
後藤可久士の二重生活で生じるドタバタ喜劇の一方で、どうして後藤姫は父のかくしごとを知ったのか、後藤可久士は今どこにいるのか?というミステリーの側面も合わせ持つのが、「かくしごと」のストーリーの大きな特徴だ。
主人公・後藤可久士は、同作者・久米田康治氏原作のTVアニメ「さよなら絶望先生」の主人公・糸色望に続いて、神谷浩史さんが声優を務めた。
ネガティブな発想や思い込みが激しい点など、糸色望と後藤可久士には共通した部分も多い。また、下ネタが得意な作風の一方で漫画に対する非常に真摯に取り組む姿勢や熱い漫画愛など、原作者久米田康治氏の姿が色濃く投影されているように感じる。
後藤姫は、18歳と10歳のいずれも高橋李依さんが声優を担当。10歳の時には、児童らしい発想と大人びた言動をみせるリアルな少女を巧みに演じている。また、18歳になった時には成長し落ち着きのある一方、父への変わらぬ深い信頼と愛情が感じられるため、高い演技力を感じた。
夏に観たい理由と本作の魅力
原作と同時期に終了という日程で製作されたTVアニメ版は、後藤姫10歳の春から翌春、そして8年後を舞台にストーリーが展開する。TVアニメ版の翌年2021年の7月に公開された本作は、夏が舞台ではないが、原稿を隠していた別邸が鎌倉にあり、涼しげな画面が一服の清涼剤を感じさせる。また、海とその青さが作品のストーリーに大きな関わりを持っていて、やはり公開当時と同じく夏に観たいアニメと言えるだろう。
そして本作最大の魅力は、後藤可久士が必死に隠してきた、描く仕事と生い立ちに関わる謎を、18歳の後藤姫が解き明かしていくミステリー要素である。原作とTVアニメ版では後藤可久士の行動と、久米田康治氏にしか描けない、80%実話という漫画やアニメに関するギャグが大きな魅力となっている。しかし78分に凝縮して再編集された劇場版では、8年前のドタバタはダイジェストで短くまとめられている。そして後藤姫の視点で、父の職業や生い立ちといった、「かくしごと」を掘り下げることで、より父娘の深い繋がりが強調されている。
久米田康治氏はこれまでのギャグ作品でも、ミステリー仕立てのエピソードを度々描き、ストーリーテラーとしての才能を垣間見せてきた。
本作は久米田氏の漫画家人生で初めての、ギャグ漫画でありながら「最終回を描く必要がある作品」で、その才能が遺憾なく発揮されている。劇場公開版では濃縮されたその物語性を堪能できるのだ。
また、本作で名前が明かされた、後藤可久士の妻に対する愛情も、TVアニメ版では描かれなかった部分だ。TVアニメ最終回は、雑誌での連載が終わるのと時期を同じくしての放送に向けて製作されたため、久米田康治氏のプロットが元になっている。その為TVアニメ版は、原作の終盤で描かれたものとはやや異なる展開となっている。
そこで1年後の劇場公開にあたって新作カットが付け足され、再編集されたのが本作となる。TVアニメ版ではOPのflumpoolによる「ちいさな日々」で物語が締めくくられたが、劇場版ではTVアニメ版EDの大滝詠一氏による「君は天然色」が改めてエンドロールに使われている。
「君は天然色」は作詞を担当した松本隆氏が、最愛の妹との別れを乗り越えて書き上げたという逸話がある。そして歌詞の内容も本作とシンクロする内容となっていて、改めてアニメ版を締めくくるのに相応しいエンディングとなった。
マンガ「かくしごと」は、原作連載版に行本でカラーの書き下ろしとして後藤姫18歳の視点でのエピソードが挿入されるという得意な構成で発売。作品の発表媒体によって物語の見え方が変わるという、漫画が大好きな漫画家、久米田康治氏ならではの構造の妙に唸らされる。
また、単行本で加えられた「描く仕事の本当のところを書く仕事」という文章を読むことで、何故18歳の後藤姫の8年前が作品で描かれたのかが推察できるようにもなっている。
劇場公開版で初めて「かくしごと」に触れた方には、是非TVアニメ版と原作を合わせて見て読む事を強く推奨する。唯一無二のギャグの面白さは無論のこと、漫画と漫画家、アニメ製作の真実を深く知ることができるようになるからだ。「かくしごと」を制覇して夏休みを過ごせば、有意義な芸術の秋を迎えられると思う。