【特別企画】

映画「君たちはどう生きるか」レビュー

さすがの躍動感に驚かされる。宮崎駿監督が生み出す新たな幻想世界

【映画「君たちはどう生きるか」】

7月14日 公開

 宮崎駿監督の最新作「君たちはどう生きるか」が、本日7月14日に全国で公開された。

 本作は宮崎監督の12本目となる劇場用長編映画であり、約10年ぶりの作品。2013年に公開された「風立ちぬ」を最後に長編からの引退を発表していた宮崎駿監督が、引退を撤回してまで創り上げたのがこの作品だ。

 作画インから数えて7年という長い制作期間を経て誕生した本作は、予告映像や情報を極秘に保持する異例の宣伝スタイルで話題を集めた。そのため、本日初めて映画館で観る観客にとっては、秘密のヴェールが解かれる瞬間となった。

 筆者は今日の朝一番の回で映画を鑑賞してきたので、謎に包まれていた全貌の一端をお届けしたい。なお、映画の内容を一部紹介するため、情報のないまま映画を鑑賞したい方は、この先を読むのは控えてほしい。

まさにスタジオジブリが描く「冒険活劇ファンタジー」

 物語の舞台は第二次世界大戦下の日本。母親を火事で亡くした主人公の牧眞人(まきまひと)は再婚した父親に連れられて田舎の屋敷へと移り住む。そこには母親と瓜二つな父親の再婚相手、母の妹ナツコと屋敷に仕える老人達が住んでいた。屋敷の近くを探索していた眞人は、失踪した大叔父が建てた廃墟同然の塔を見つける。その日から、眞人は不可思議な経験をするようになる。そんなある日、ナツコが行方不明になってしまう。森に入るナツコを見かけた眞人は、ナツコを追って塔へと入る。塔の中で眞人は人の言葉をしゃべるアオサギに導かれ、不思議な世界へと誘われる……。

 この時点でお気づきの方もいるかもしれないが、この喋るアオサギこそがポスターのビジュアルになっている生き物だ。このアオサギをはじめ、眞人が旅する世界には映画「千と千尋の神隠し」を彷彿させるコミカルで不気味なキャラクターたちが数多く登場する。「ワラワラ」と呼ばれるかわいらしい生物から、人を食う人型のインコなど、まるで不思議の国に迷い込んだアリスのように、眞人は多くの出会いと経験を積み重ねていく。このかわいいと不気味さが絶妙に融合した世界とキャラクター表現、そして躍動感溢れる動きと表情にはさすが宮崎監督だと驚かされる。他のファンタジー物とは違う、まさにスタジオジブリが描く「冒険活劇ファンタジー」を体験できる作品だ。

 余談ではあるが、作中で眞人の父親がサイパン陥落について話していたことから、1944年頃ではないかと思われる。一瞬ではあるが陸軍の戦車や、父親の工場で生産している航空機の風防らしきものが映るシーンもあるので、形状からそれが何か考察してみるのも楽しいかもしれない。こういった細かな描写から考察していくのもジブリ映画の醍醐味ともいえる。ちなみに本作でもジブリ飯は健在。ジャムたっぷりのトーストなど、食べてみたくなるおいしそうな食べ物がしっかり登場する。

 映画のエンドロールでは今まで秘密にされていたキャストを確認することができた。エンドロールで確認できたキャストは以下の通りで、山時聡真さん、菅田将暉さん、柴咲コウさん、あいみょんさん、木村佳乃さん、竹下景子さん、風吹ジュンさん、阿川佐和子さん、滝沢カレンさん、大竹しのぶさん、國村隼さん、小林薫さん、火野正平さん、そして特別出演として木村拓哉さんが名を連ねた。主題歌は米津玄師さんが作詞・作曲・歌を担った新曲「地球儀」。作画監督は「ヱヴァンゲリヲン新劇場版」シリーズなどで知られる本田雄氏。音楽は数々の名作の楽曲で知られる作曲家の久石譲氏。特別出演の木村拓哉さんは眞人の父親役となっているなど、かなり豪華なメンバーとなっている。

 今回、映画の情報が一切公開されなかったこともあり、視聴するまでは何を観せられるのこあと不安な気持ちがあった。だが、いざ観たら実に楽しめる映画だった。タイトルの意味、何故アオサギがポスターのビジュアルなのか、気になることは多いと思われるが、全てにしっかりと意味がある。観た後も「アレはこういう意味なのかな」と考察し、確認のためもう一度観たくなってしまった。本作について語りたい事は多いのだが、何を書いても物語のネタバレに繋がってしまうのが口惜しい。

 「君たちはどう生きるか」では上映劇場についても初の試みが行われている。通常の劇場に加えてIMAX、ドルビーシネマ、ドルビーアトモス、DTS:Xスクリーンの劇場で上映されている。IMAXでの上映はジブリ映画では初となる。簡単にではあるが、それぞれの特徴を説明したい。

IMAX:

一般シアターよりも大きなスクリーンでIMAXレーザーによる使用美麗な映像と高音質サウンドを楽しむことができる

ドルビーシネマ:

ドルビー規格で作られたシネマ。高いコントラストと立体的な音響により高い没入感を得ることができる

ドルビーアトモス:

通常の劇場に複数台のスピーカーを設置し、立体的でクオリティの高い音響を楽しめるようにした劇場

DTS:Xスクリーン:

サウンドオブジェクトを適切なスピーカー位置に動かすことでシーンに合わせた立体的なサウンドを再現できる技術「dtsX」を採用した劇場

筆者はグランドシネマサンシャイン 池袋のIMAXで観覧した
こちらはドルビーシネマがある新宿バルト9のポスター

 大画面で観たい方はIMAX、辺りが真っ暗になるほどの専用環境で映画に集中したい方はドルビーシネマ、と覚えるとわかりやすいかもしれない。筆者は今回IMAXで視聴したのだが、スクリーンの大きさと映像美、そして音で高い没入感を得ることができた。これから映画を観る方は是非とも参考にしてみてほしい。

 ひとつだけ確かなのは、映画「君たちはどう生きるか」は子供から大人まで楽しめるスタジオジブリ印の作品だということだ。ぜひこの週末、観てみてはどうだろうか。