【特別企画】

プロが高校生に“eスポーツマンシップ”をレクチャーする「Beyond the Game Program」がスタート

NASEF JAPANによるeスポーツ教育が新たなステージへ

【Beyond the Game Program】

3月15日開催

会場:朋優学院高等学校

 北米教育eスポーツ連盟日本本部(以下NASEF JAPAN)は2020年に発足した、国内でのeスポーツ教育の普及活動を行う団体だ。当団体はこれまでに高校生向けのeスポーツ大会の開催や、教員向けのeスポーツセミナーを開講するなどして、eスポーツを用いた教育の可能性を開拓してきた。今やNASEFメンバーシップ加盟校は日本全国に存在し、その影響力は日に日に増してきている。

 NASEF JAPANはこの4月から新たに、人気MOBAタイトル「League of Legends」(以下LoL)の高校生大会「NASEF JAPAN MAJOR League of Legends Tournament Spring 2022」の開催を予告しているが、この大会に付随して「Beyond the Game Program」という新しいプログラムの開催も予定している。当プログラムは大会参加生徒に向けた授業形式のオンラインプログラムであり、生徒たちのゲーム内技術向上はもちろんのこと、チームワークやコミュニケーション力など、ゲーム外の学びにもフォーカスしたプログラムとなっている。

 そんな「Beyond the Game Program」のお披露目会が3月15日、都内の私立高校「朋優学院高等学校」で開催された。校内のパソコン室にNASEFからの講師2名とRascalJester所属の現役プロ選手2名が招かれ、当校のeスポーツ部員である6名の生徒に向けて特別授業を行った。本稿では、NASEFが掲げるeスポーツ教育とはどのようなものなのか、そして生徒たちはそれにどのような反応を示したのかをレポートしていく。

【Beyond the Game Program】

ゲームの取り組み方を見つめなおす「スポーツマンシップレッスン」

 まず行われたのが「スポーツマンシップレッスン」と銘打たれた、ゲームに取り組む姿勢に関する講義だ。つい最近プロeスポーツ選手の失言が各メディアに大々的に取り上げられていたことからも分かるように、eスポーツ業界においてスポーツマンシップ教育の推進は急務である。当講義はそんな背景も踏まえたうえで、高校生たちに向けてネット上でのコミュニケーションにまつわるレクチャーを実施した。

 講義のはじめ、講師の岡田勇樹氏はスクリーンに1枚の画像を投影し、「こんな場面に遭遇したことはありませんか?」と生徒たちに呼びかけた。写された画像はLoLのゲーム内チャットのスクリーンショットで、そこには他プレイヤーから送られてきた暴言の数々が並んでいる。何を隠そう、LoLは世界最大のeスポーツタイトルでありながら、オンラインプレイ中には敵や味方から暴言が送られてくることも日常茶飯事であり、所謂トクシシティーの温床としても名高いゲームなのだ。

講師の岡田氏(右奥)と参加生徒たち

 いきなり画像を見せられて、生徒たちの顔には苦笑いが浮かぶも、そのほとんどがゲーム内で同様のシチュエーションに遭遇したことがあると回答していた。中には冗談交じりに「自分は心が弱いので、暴言を送られるといつも泣いています(笑)」と答える生徒もいた。いくら日常的に見られる光景とはいえ、見ず知らずの相手から暴言を吐かれて心地よいはずがない。筆者としても当該の生徒には同情するばかりである。

発言する生徒

 現状、このようなゲーム内の暴言等に対しては、「気にしない」「無視する」といった対策が真っ先に挙げられることが多いようにおもう。しかしそれでは問題の根本的な解決にはつながらないし、反対にこのような環境に慣れてしまっては、先日の某プロプレイヤーのように失言をしてしまう可能性も出てくる。そこで講師の岡田氏は生徒たちに向けて、どのようにしたらゲーム内での暴言を減らすことができるのか、生徒たちにグループワーク形式で考えるよう呼びかけた。

 ディスカッションを終えると生徒たちからは「誰かがミスをしても責めることなく、なぜミスをしてしまったのか共に考える」といった案や、「自分がミスをしてしまった場合はまず謝る」など、実践的な対応策がいくつも挙がった。どれもゲーム内だけでなく、ネット上でのコミュニケーション全般に応用できるような案で、生徒たちが自ら話し合ってこの問題について考えたことは非常に有用であったといえるだろう。

グループで意見を出し合う生徒たち

 次に議題は「チーム内でのコミュニケーションの円滑化」に移った。LoLは5対5で戦うチーム制の戦略ゲームであり、上級者同士の対戦ではプレイヤー間の連携が不可欠である。岡田氏が日頃からLoLをプレイする生徒たちにコミュニケーション上で難しいと感じている点について聞くと、「緊張していると状況報告が疎かになったり雑になったりしてしまう」、「中盤戦でタワーを攻めるかバロンを獲るかなどの戦略的判断を素早く共有するのが難しい」などといった声が挙がった。これらもまたゲーム内のみならず、実生活でも考えられる問題だといえる。

 これらの問題点に対しては、現役プロのShirotama選手がプロ目線から回答を行った。Shirotama選手曰く、コミュニケーションを円滑に進める上で重要なのは、ひとりひとりがプレイ中に声を出し合うこと、そして試合中に起こりうる状況を事前に想定しチームでシミュレーションを行うことだという。

コミュニケーションについて語るShirotama選手

 まず声出しはそれぞれのプレイヤーが置かれている状況と持っている情報を共有する上で非常に重要であり、声出しが徹底されるとチームの視野が格段に広くなる、とShirotama選手は説明した。Shirotama選手自身も最初は声出しが苦手であったが、一人でプレイする時から意識的に自分の状況を声に出して説明するという練習をし、今では自然と声出しができるようになったと、実体験を交えながら語った。

 加えてShirotama選手は、試合中に起こり得るシチュエーションを事前に想定しておくことも重要だと語った。全てをアドリブでこなすのではなく、コミュニケーションのパターンをいくつか用意しておくことで、互いに伝えなくてはならない情報が絞られ、コミュニケーションの簡素化、円滑化に繋がるという。プロ選手ならではのテクニカルな回答に、生徒たちからは感心の声が上がった。

講義に聞き入る生徒たち

 コミュニケーションについて考えることもまた、ゲーム内のみならず実生活においても役立つことである。eスポーツを通じてコミュニケーション力やチームワークを学ぶ、NASEFはこうした学習過程を「社会的感情学習」と呼んでいて、こうして実生活にも活用できる学びを得ることがNASEFのeスポーツ教育の一番の狙いとなっているのだ。

 講義を終えた生徒たちからは「日頃自分たちがLoLをプレイしていて抱えていた問題点や課題を言語化でき良い経験になった」といった意見や「プロ選手のゲームに対する取り組み方を知れて良い勉強になった」といった感想が聞かれた。短い講義ではあったが、LoLという話題を通じて生徒同士でコミュニケーションについて話し合ったり、プロ選手の話を聞いたりできたのは、彼らにとって貴重な体験となったことだろう。

プロ選手から直接戦略指導を受ける「テクニカルレッスン」

 続いて行われたのは、LoLゲーム内の技術向上を図る「テクニカルレッスン」だ。高度な戦略ゲームであるLoLでは、マップや各チャンピオンに対する理解度、そしてチームの作戦などが勝敗に大きく関わってくるため、座学を通じてゲームを学ぶことも上達には不可欠である。実際の「Beyond the Game Program」では、ブロンズ、シルバー、ゴールドの3レベルに分けて開講される予定だが、今回は日頃からLoLをプレイする朋優学院の生徒に向けた中上級レッスンだ。

 レッスンではスクリーンにLoLの戦場となる「サモナーズリフト」を上空から写したマップ画像が投影され、プロ選手がそこに書き込みを加えながら戦略面の講義を展開した。学校で受ける授業と同じような形式でLoLについて学ぶことに、初めは生徒たちも戸惑っていたようだったが、すぐにプロ選手たちに向けて様々な質問が投げかけられるようになった

 生徒たちから挙がった質問はどれも実戦的なものばかりで、「視野を確保とるためのワードはどのように配置したらいいか」といったものや「オブジェクトをめぐる集団戦はどのように戦えばよいのか」といった質問が挙がり、プロ選手2名がそれらに対して丁寧に答えている様が印象的だった。

講師を務めたShakespeare選手

 LoLはその戦略性の高さから、プロのチームには必ずコーチがつき、プレイヤーを第三者目線から指導している。しかし現状、多くの高校のeスポーツ部はコーチ不在で活動しており、また顧問の先生もゲームに対する知識が乏しい場合が多い。そのため、日頃から抱いていた戦略面での疑問を解消できるこのような場は非常に貴重であり、生徒たちの技術とモチベーションの向上に非常に有効であるといえよう。

 講義を終えた生徒たちからは「プロの方々から指導してもらえて非常に勉強になった、今度チームで教えてもらったことを試したい」という声が聞かれた。また講師を務めたプロ2名は「生徒の皆さんにはたくさん伸びしろを感じるので今後も頑張ってもらいたい。自分たちが高校生のときにもこのようにLoLの講義を聞ける環境があればよかったと思う、非常にうらやましい」と感想を語った。

当プログラムは現在も参加校を募集中

 講義を終え、NASEFのトーナメントプロデューサー岡田勇樹氏に感想を伺ったところ、この日のプログラムについて「今までNASEF JAPANの取り組みは大会が主で、勝ち負けばかりが重視されてしまうことにもどかしさを感じていたが、今後は今日のような講義を通じて、積極的にeスポーツと学びを結びつける取り組みを増やしていきたい」と語った。NASEFとして、今後はこのように生徒たちに向けた教育プログラムを拡充していくとのことで、eスポーツ教育の更なる発展に期待したい。

 3月下旬から本格的に始動する「Beyond the Game Program」では、今回のようにRascal Jesterのプロ選手を招き、1回2時間のオンライン授業を計18回程度行う予定だ。全日程に参加できる必要はないとのことで、現在も参加校を鋭意募集中だ。全国のeスポーツ部保有校は、是非この機会当プログラムに参加し、部のレベル向上、そして生徒たちの学習の場として活用していただきたい。

「Beyond the Game Program」日程表